2018年03月09日

前歯部歯冠破折とCR修復


kerr_harmonize.jpg
「カメレオンエフェクトのあるCR」のイメージイラストと思われるが、充填されたCRが色調を変えるわけがない。本来の意味からすると間違った用語であると思う。


「歯が折れた!」
外傷で前歯の歯冠が破折した時に、まず診断するべきは脱臼の有無である。その次に、根管治療を必要とするかどうか見極めを行う。

脱臼もなく、露髄もなさそうで歯髄の保存が期待できるならこれは超ラッキー、歯冠修復を考えることになる。コンポジットレジン修復か、補綴処置かを選ぶことになるだろう。

外傷の場合に怖いのは、受傷直後は生活反応を示していたものの、後々になって歯髄が失活してくることである。歯髄のバイタリティが旺盛な幼若永久歯でも往々にして起こりうるので、まことに油断ならないのである。


補綴か修復か
前歯部の補綴は、コンポジットレジンの物性やテクニックが進んだ現在に当たっては、根管治療後に選択されることが多くなっている(と思う)。一方、接着歯学の台頭と発展によって、歯にレジンを接着させる修復技法の信頼性および審美性はひところに比べ格段に向上している。

ひとまず、外傷による歯冠破折で歯髄の保存が可能であるなら、まずはコンポジットレジン修復(以下、CR修復)を選択すべきであるように思う。

これは、

1.即日処置による審美性の回復(歯の喪失感からの救済)
2.不幸にして歯髄が失活した場合の歯牙の変色を確認しやすいこと
3.根管治療必要になった際のエントリーの面で有利であること
4.冠補綴よりは明らかに歯質を切削しなくて済むこと

の考慮が挙げられるからである。



卑近な例
切端と歯冠の修復_01.jpg
露髄なし、打診痛なし、電気歯髄診でバイタル反応あり。
昨日、転んで折れた。この歯のみの処置を早急に希望された急患アポなし来院。

というわけで、こういう場合に私はCR修復を選択するわけである。

最近、私の中でホットな(死語)『ハーモナイズ(kerr)』を使用して、主訴の解決を図ってみた次第。コンポジットレジンの扱いは苦手だが、いつまでも逃げ回るわけにはいかない。そんなわけで、本症例は「私がやりたいから、やった」的要素があることを否定しない。

さて、前歯部のような審美性を求められるCR修復では、エナメル質にベベルを付与することが重要である。


ベベルは、どれぐらい付与するのか?
私が学生時代に大学で習ったときは、マージン周囲に1mm幅ぐらいのラウンドベベルだったかに思う。

そんな今、Youtubeで海外のエステティックな実例(ダイレクトボンディング)を参照すると「え、そんなにつけるんですか」というほど豪快なベベル付与があったりして隔世の玉ヒュン感である。ベベルをリッチに確保することにより、シェードの移行による接着界面の隠蔽と肝心の接着力の確保が約束される。怖くてそんなベベルをつけられない私はノミの心臓なのである。これを乗り越えた逸材こそが、ダイレクトボンディングを得意とするエステシャン・デンティストなのであろう。

患歯にベベルを付与するということは、機械的切削を伴ってエナメル質の新鮮面を露出させることである。愚劣な私は、術前のオリエンテーションで患歯にベベルを付与することを説明していなかったため、バットジョイントで対応するハメになってしまった。これは真似をしてはいけない。旧態依然としていようが幅が狭かろうが、やはりベベルは付与すべきだからである。

即日修復するとなると、ワックスアップモデルを用意してシリコンパテで充填用コアを作成することもままならない。畢竟、マトリクスやストリップスを駆使して隣接から歯冠までを含めた形態回復を図らねばならぬ。隣接とバックウォールを確保すれば窩洞は単純化され、作業は途端に楽になるから、この工程は極めて重要である。

エナメル質のみリン酸エッチングした後に、ワンステップボンド(3Mのスコッチボンドユニバーサルアドヒーシブでボンディングし、ストリップスを指で押さえながらハーモナイズエナメルのA2で隣接面とバックウォールを構築。その後、ハーモナイズデンチンA3と切縁部にハーモナイズクリアを部分的に使用して透過性の差異を考慮した充填操作を行う。その後、ハーモナイズエナメルのA2で仕上げる。

切端と歯冠の修復_02.jpg
光重合後にエアーを吹きかけるとこのような感じになる。研磨の工程をなるべく短くしたい(充填でほとんど全てが仕上がっているようにしたい)のだが、やっぱりそうもいかない。

ソフレックスの研磨ディスクで隅角と唇面の隆線や面溝を再現するように形態修正と研磨を行う。充填操作がラフだと気泡の存在を発見して萎えることになる。研磨のステップで歯の本来の解剖学的特徴が見えてきたり再現できたりする瞬間ほど気持ちの良いものはない。しかし私はセンスがないのでそうもいかない。口の中で作業しているときは良さげに見えていても、写真にして改めて観察すると医院を飛び出して路端のガードレールに頭をぶつけて自殺したくなるほど酷いことがある。

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充填箇所は、エアで唾液や水分を飛ばすと本来の姿が見えてくる。濡れていると意外に「誤魔化しが利く」感じでマシに見えるのが救いか。形態がチグハグやねん。



その他
保険のCRでクリアが使える製品はこのハーモナイズだけ! …多分。

これは意外に重要なのでは。

クリア使うぐらいの充填なんぞ自費やろ、という真っ当なツッコミは当然なのですが、切縁部をCRするときは使ってみたくなりますよね。
 
posted by ぎゅんた at 18:24| Comment(2) | 根治以外の臨床 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年02月05日

こ、これは……ターナーの歯?


エナメル質形成不全.jpg

6歳の男の子の下顎中切歯唇面にこんな所見が!

当然、保護者に説明を求められる。さて、これはなんだ。

学生時代に得た拙い知識を絞り出すと、「ターナー歯(Turner's tooth)」かなと候補が出る。

とはいえ、これは下顎中切歯である。

ターナー歯は、乳歯に生じた急性根尖性歯周炎が、後続永久歯歯胚に炎症性の障害作用を及ぼすことで歯の形成不全を起こしたものである。

ということは、その好発部位は、齲蝕に離患しやすい乳臼歯の後続永久歯である小臼歯ということになる。実際に、学校歯科検診で小臼歯のターナー歯と思しきエナメル質の形成不全を目にする機会は、多いはずだ。

下顎前歯は、乳歯であれど、最もう蝕になりにくい部位のはず。それをして著しいう蝕と急性根尖性歯周炎でターナー歯を発生させることがあるとすれば、口腔内は「お前それ よっぽどやぞ」みたいな事態のはず。

ターナー歯は炎症による後続永久歯のエナメル質形成不全であるが、外傷によってもエナメル質形成不全は生じうる。記事冒頭の写真は、下顎乳中切歯の外傷に起因したエナメル質形成不全ではなかろうか。母親に訊いたところ「記憶にない」とのことであったから、想像するしかないが。


まとめ
永久歯にエナメル質形成不全が存在した場合、ターナーの歯を疑うあまりに乳歯に虫歯があったハズだと疑う姿勢でいると、保護者を不愉快にさせてしまうことが生じうる。

DMF指数が高い口腔内で小臼歯にエナメル質形成不全があるような場合ならターナー歯である可能性が高くなるが、それでも「お子さん、幼い頃に歯を強く打つことはありませんでした?」と訊く方が良いだろう。
 
posted by ぎゅんた at 12:34| Comment(0) | 根治以外の臨床 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年01月16日

歯科医が望まない日常光景シリーズAあ、穴が開いている……!


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穴を広げてオートセーフリムーバーを引っ掛けて除去しようとしたが上手くいかず、スリットを掘ってわずかに抉って緩めて除去。見栄えは悪いが仮歯としては使用できる


4年前にセットしたジルコニア冠の咬合面に磨耗原因と思われる穴が空いていました。対合歯にはインレーが入っていますが、咬合接触は舌側咬頭の歯質なので、単純に支台歯形成時の咬合面のクリアランス不足が絶対的原因です。おいこらー


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これはセットして半年後の口腔内写真


ブツは和田精密の『ジルライトクラウン』になります。

『ジルライトクラウン』はコストを優先して審美性を犠牲にした、要するに「とりあえず金属じゃなければOK」な人向きのエントリーグレード・ジルコニア冠であります。

このジルコニア冠は、当時、和田精密が取り扱いを開始したばかりだったはずで、営業マンが「ジルコニアはとても硬いですから破折も磨耗もしませんよ」なんてことを言っていた覚えがある。もっともそれは誇大広告というもので、現実にそんなわけがない。真に受けた歯科医師はいないのであります。むしろ硬すぎて、対合天然歯の磨耗を懸念する声が大きかったと記憶しております。

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根充直後の写真


当時のカルテを見ると「ネゴシエーション後にMtwoファイルで形成」とあり、ラバー下でエンドシーラーを用いたラテラル根充を行なっている。 なんとなく直線的な気がするし、今の自分から見るとずいぶんと根尖を攻めてる印象を受ける。

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除冠後の写真。幸いにも根尖病変は否定できそうで安堵


その一方、黒柳徹子さんに「随分と縁上のマージンなのね」とか言われそうな支台歯が気にかかる。こんな写真をSJCDの症例発表プレゼンで提示したら消火器などの鈍器が飛んできそうです。ジルコニア冠の支台歯形成にビビっていた術者の心理がエックス線写真で分かってしまうというもの。


さてジルコニアは物性的に硬くて頼りになりますけれども、支台歯のクリアランスが不足していれば普通に穴が開きます。なに当たり前のこと言ってんだこの豚野郎と罵られても、現実にそうなのだから述べざるを得ない。

材料の物性に過度に依存するのは厳禁で、支台歯形成は、その原理原則から逸脱せぬように達成しなくてはなりません。脱離をきたさず長持ちさせられる形成かそうでないかは、支台歯形成いかんで瞭然と分かれます。

とりあえず「かたち」にはなるだろう、と適当な支台歯形成でヘボな作業用模型になったとしても、技工士さんが黙々と上手な冠を作ってくれているからこそなんとかなっている冠がどれほど多いのだろうと自省する日々です。そんな冠がセットされたとして、どれだけ口腔内で機能し続けてくれるだろうか?

根管治療で保存と延命が叶った歯を、破折や脱離をきたすことなく長期的に機能させ続けられる確かな腕が欲しいものです。
 
posted by ぎゅんた at 17:27| Comment(0) | 根治以外の臨床 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年01月11日

支台歯とクリアランスと技工士さん


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ペーペーの医局員時代に師匠に教えてもらった『ビジュアル・セミナー臨床咬合学入門』から。内容はちょっと古くて時代を感じます。


クリアランスの形成の不備が原因でセット時の咬合調整で穴を開けてしまうのは、新人歯科医師が必ずや経験するお約束であります(違ったらスマヌ)。下顎臼歯の咬合面で生じやすいものです。そしてまた、支台歯形成の手引書には、必ずや「咬合面中央は削除不足に陥りやすいので注意すること」と記載があるものです。

支台歯形成時のクリアランスの確認およびバイト材の厚みの確認不足が原因でありましょうが、支台歯形成時のクリアランス確認を目で行うと誤認しがちなことも見逃せません。それを予防するためのツールが存在するほどです(⇒ナビゲージ)。

そんなかんだで、支台歯形成に慣れないうちや苦手とする先生では、クリアランスが不足しがちになる傾向にあります。正直なところ、私も、その傾向があります。

補綴物の製作を依頼される立場である技工士さんは、おしなべて優しいですから、いくら歯科医師の支台歯形成(や印象)に不備があっても、黙して補綴物を仕上げてくれます。畢竟、セット時の咬合調整で冠が極度に菲薄化するか穴が開く事態に陥ります。この時、歯科医師は自身の力量のなさやクリアランスを誤認した現実に突きつけられます。こうしたとき、「技工士が悪い」と開き直る先生もいると仄聞しますが、それは天に唾する行為に他なりません。技工士さんもミスしないわけではないでしょうが、まず疑うべきは己の形成であり、印象であり、石膏模型でしょう。

少なからず自分でワックアップや鋳造などをしてきた先生は、決して技工士さんを責めません。まず、己のステップ内容のミスを疑い、原因を追求します。技工操作は、確かなステップの積み重ねであることを理解しているものだからです。

そういう意味では、歯科医師、とくに若手の先生は己で技工作業を(全てではないにせよ)行うべきですし、自分の形成から技工操作にいたるまでを技工士さんにチェックしてもらい、忌憚のない意見をもらうべきです。耳の痛い意見をズバズバもらうものですが、このときの有り難みは後になるほど生きてきますし、なにより若いうちにしか得られないものだからです。

臨床経験が長く慣ればなるほど、歯科医師は技工から遠ざかってしまうのはやむを得ない側面が多いのですが、技工士さんに丸投げする姿勢は色々な意味で勿体無いことだと思います。技工士さん不足も相まって、これからは歯科医師が技工士さんを奪い合う時代になりそうですし、技工士さんも歯科医師を選んで仕事をすることになりそうです。偉そうなのは旧態依然として歯科医師の思い上がりがのみ……と陰口を叩かれる悲劇は終わりにしたいものです。

posted by ぎゅんた at 12:06| Comment(0) | 根治以外の臨床 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年12月20日

歯科医が望まない日常光景シリーズ@


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アハーン...


やるせないけど抜歯せざるを得ないのが歯根破折歯であります。

歯根が破折すると、生体は手のひらを返すように異物扱いを始めるようで、直ぐに炎症反応起こすのが常です。畢竟、「歯がグラグラすると思ったら歯茎が腫れてきて……」と頰を抑えながら来院される患者さんが気の毒なことに生まれてしまうのであります。目下、この治療は抜歯しかありません(抜歯して口腔外で清掃して接着性レジンで復位させて再殖する手法もあると聞くが、そのテクニックが開業医に根付かないあたり、予後が悪いのだろう)。歯根破折に伴う抜歯→インプラントの流れが主流なのでないか。


歯根破折に至る原因は様々であるが、概ね失活歯で生じるものである。いうまでもなく、天然歯に比べ脆弱だからである。

1.ブラキシズム等による過度な咬合圧の存在
2.早期接触・バランシングコンタクトの存在
3.歯根象牙質と弾性係数の異なる異物の存在(主に銀合金メタルコア)
4.根管治療に伴う拡大形成により、根管の更なる脆弱化
5.根面う蝕の進行

とりあえず思いつくだけを挙げたが、これらが複合的に歯牙に作用して結果として歯根破折に至ると考えている。皆さんも、なんとなく、思い当たるだろう。

歯科医になって、よもやこれほど歯根破折に悩まされることになろうとは誰も思っていなかったであろうし、歯学生諸氏も想像していないに違いない。いかにして歯根破折を防いでいくかは、保存に努める市井の開業医に課せられた考究課題である。



卑近な臨床例
「昨日ぐらいから急に歯がグラグラして」と来院された患者さん。

#37の歯冠に、薪割りじゃあるまいし近遠心方向に走る亀裂が存在し、特に頬側歯冠に動揺を触れる。歯根に至る破折は疑いようがなく、デンタル写真を撮影。亀裂の程度にもよるが、抜歯になる可能性が極めて高いことを告げる。頬側歯頚部根面う蝕(充填物の脱落後放置とおもわれる)の進行による歯髄感染とから歯髄歯に至り、失活歯となり、亀裂に至ったのであろう。

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シールみたいなのは、表面麻酔用のリドカインテープである


炎症はさして重篤ではなく、キシロカイン1.8mlで無痛的に抜歯が狙えるので伝達麻酔は施さず。

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うーんこれはやっぱり……

果たして、スーパーボンドで破折を接着復位して再殖で保存できるのだろうか?
たとえ生着しても、その後、咬合させることを考えるとまた破折してしまうのでは……

posted by ぎゅんた at 12:17| Comment(5) | 根治以外の臨床 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする