歯の漂白は、私はオフィスホワイトニングから臨床経験を積み始めた。
私が研修医だった当時は、歯の漂白といえばWalking-Bleachingを指したし、それを超えたところにある術式としてのオフィスホワイトニングはといえば松風ハイライトが唯一存在していた頃だった。ホームホワイトニングは、メジャーではなかったはずだ(記憶にない)。
その松風ハイライトは、歯牙表面を脱灰させて白くしているだけで歯質へダメージを与えているだけだ(それに、思ったより白くならない)という臨床評価が定まっていた。Walking-Bleachingは安定した漂白効果を示すが、オフィスホワイトニングは結果が不安定なのだ。だから、人気がなかった。結果が出にくい処置を自費診療で行うのは心理的にストレスが大きく楽しくないものだ。
保存科に在籍していたこともあって、歯の漂白は周囲の人たちから確かなニーズがあったし、個人的な関心もあった。なんとか歯を白くしたい。そういう気持ちがあった。しかし、どうすればいいのか。ホワイトコートとかいう、歯塗る白いマニキュアみたいなアプローチはとりたくなかった。
その後、ピレーネという商品がモリタから発売されていた記憶がある。こちらは歯質ダメージを抑えつつ歯を漂白させる設計を謳っていた。欣喜雀躍、大期待のマインドで使ってみたが、全く漂白効果は得られなかった。私は胃が痛くなった。俺は臨床センスがないのではないか?
オフィスホワイトニングには、メーカーが指示する手順の中に、なにか臨床的なヒントが隠されており、それ見つけないと結果をだせないのではないか。私はそういう仮説をたてて、自身や同僚を被験者にしてオフィスホワイトニングを繰り返して施術経験を積むことにした。
ピレーネ10分x3回を1セットとして3日に分けて3セット行うと、歯はわずかに明度を上昇させる漂白効果(第三者の目見て白くなったことが分かる)を見せた。しかし、漂白効果の範囲は上下3-3に限られるし、なにより労力の割にこれではコストパフォーマンスが悪すぎる気がした。それもこれは、普通の光照射器ではなく、波長を紫外線領域に近づけた特注の光照射を用いての結果であった。得られた結論は、光照射の波長は紫外線領域に近づけた方が結果が出るということであった。ただし、皮膚にあたると日焼け効果がでるリスクがあったので取り扱いは慎重になる。
その後、漂白ジェルに触媒の二酸化チタンを加えたり、化学反応を増強させるために温度を上げる工夫をしてみたりしたものの、目立った改善効果の手応えがなく、落胆してしまった。
海外の歯科材サイトを利用して、高い効果が期待できるオフィスホワイトニング用材料(ブライトスマイルとかオパールエッセンス・エクストラブーストとか)を取り寄せる手もあったが、使用材料を海外製に変えて有意な改善を期待する熱意もなくなっていた。というか、オフィスホワイトニングに飽きてしまった。
そして、当時は入金しても商品が届かない悪質な詐欺サイトが横行していたので購入にはリスクが伴った。実際、私は数万円をフイにしてしまった経験がある。爾来、海外の歯科材料を買うのは信頼のおけるスマイルUSしか利用していない。
現在のところ私にとってオフィスホワイトニングは、ホームホワイトニング前の「助走」として用いるものになった。これは、短時間での歯の漂白を特に期待するものではない。漂白対象とする歯牙に過酸化水素の漂白効果を与えることで、ホームホワイトニングの効果発現を少しでも早くするためのものである。幸いして、これは効果がある。