2017年05月20日

ガルバニー電流

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子どもの頃、アルミホイルを奥歯で噛む遊びが流行った。噛むと「ヴぃヴヴ」と変な味がするという。試してみたが、私はならなかった。あれはなんだったのだろう?それは歯学生になって、歯科理工学で「ガルバニー電流」を習うことで氷解した。当時の子どもたちの臼歯にはアマルガムやインレー修復がなされていたのである。幸いなことに私の奥歯には金属修復物がなかったのでなにも感じなかったのである。


ガルバニー電流
組成の異なる金属が接触すると電流が派生する。アルミホイルを噛んだときに金パラや銀合金が接触すると唾液の存在もあって接触部に電流がほとばしるのでそれが分かる。ジョークアイテムで、ノックしたときに微弱電流が流れてビックリさせるボールペンもどきがあるが、ああいう電流が口の中で発生するのである。

我々は金属を食べないからさして気にもとめないが、組成の異なる金属が咬合する関係にあった場合、咬合のたびに微弱電流を発生することになる。「電気が発生しても、なにも感じないならそれでいいじゃないか」と竹を割ったような解釈はしにくい。ただでさえ電磁波まみれの現代社会に生きる我々の口の中に、電気が発生する仕組みまで設けることはあるまい。

銀合金コアと金パラ冠が合着されることになる現行の保険診療の補綴は歯科医師を不安な気持ちにさせてくれる。昨今のメタルフリーへの転換への機運は、口腔内へのこうしたパッシブな悪影響を排除させたい気持ちが含まれているのである。


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除去冠を観察すると見られるススのような着色や鯖のような青い模様がみられるものだが、これこそがガルバニー電流による焦げ付きである(松本勝利先生に教わりました)。見つけようと思えば、結構、発見できるのである。

実際に実物を前にすると、金属冠なんて口の中に入れたくねえなあ(しかし、いままで数限りなく俺は入れてきた…)と暗澹たる気持ちになるのである。私の愛する金合金もガルバニックからは逃れられない。やっぱ天然歯が一番やで。

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2017年04月27日

HJC慕情


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#14にHJC試適時。シェードはA4 ヘボマージン


昨今の小臼歯の補綴は、CAD/CAM冠が導入されたことで金パラ冠の呪いから逸脱の流れができているようで嬉しい限り。「おかげで自費冠が減ったじゃねーか!」との怨嗟の声も一部に聞かるものの、削り出しのハイブリッドレジン冠ですから、金パラFMC同様にプラークの吸着を招く面でイマイチなのは「所詮、保険クオリティ」と言わざるを得ません。私の愛するゴールド冠も、プラークの付着の面では金パラ冠と同様にイマイチなようです。無念。


さてそんなCAD/CAM冠、ブロックから削り出しての歯冠色補綴といいながら、どうにも単色で生気のない無表情な外観が気にかかる。使用するブロックにも拠りましょうが、最安値グレードなジルコニア冠同様、どうにもプロビジョナル然としている。小臼歯は案外にシェードグラデーションが目立ちますから、咬頭〜歯頚部にかけてシェードの濃淡がないと人工物感が強くでます。そして、歯面の細かな隆線などまったく考慮されないノッペラボウであるところが無表情さに直結します。

「とりあえず金属でない白い冠を保険で」なら許容されるレベルでありましょうが、セットする立場からだと「白い冠が入ってよかったね」と手放しで患者と喜べないところがあります。


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#24にミルドクラウン(和田精密)試適時 シェードはA3.5


同じ保険で選べる「金属でない白い冠」であれば、HJCが存在します。総点数的に不利なのですが、私はこちらを選択することが多いです。

HJCを選択すると保険点数の面で大きな差が生じますが、なに、CAD/CAM冠を作ってもらう諸経費は意外に大きい(注:技工所による)ですから、HJCを選択してもさしたる差はないのであります。なによりHJCは「手作り」で、シェードグラデーションや歯面の流線を天然歯に似せて作ってくださることから技工士さんの顔が見えるのが嬉しいのです。タコな形成と印象・ヘボ模型だと、如実にセット時の術者にストレスとして跳ね返ってくるあたりも実に正直でよろしい。

プロの手にかかって仕上げれたHJCは、少なくともセット時の見た目はE-MAX冠とそれほど遜色がなかったりする(よく見ればもちろん違いますが、傍目からすれば)わけで、こうしちたとき、患者さんは喜んでくれます。 さしてなにも喜ばない人もいますが…


そんなわけで当院ではCAD/CAMをまったくしていません。
CAD/CAMは脱離しまくるとまことしやかな噂を耳にするし、支台歯形成がHJCに比べシビアさを増すし、レセプトの平均点数の上昇は抑えたいし…と、二流歯科医院特有の消極的理由も含まれます。でも外来環は算定してます。えへん。

ああ… つぎはカカリツケだ(その前に往診だ)


※松風のS-PRGフィラー配合のコンポジットレジン(ビューティフィルシリーズ)の表面にはプラークの付着を防ぐ効果があるとの報告があったの思い出す。あまりそのことは「売り」にされていないような気がする。
 
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2017年04月09日

前歯が欠けたのでCRで象牙質を保護して見た目を回復させましょう(上顎前歯部の直接法コンポジットレジン充填)


歯質にレジンを接着させられる技術が、どれほど人類に貢献しているものか正確な評価を下すことができない。私自身は、口の中のような水分まみれのところで、歯という無機質と有機質と水分とからなる複合生体組織に「油」であるレジンを接着させられる技術は、とんでもないことだと感じる。

接着歯学とコンポジットレジンの物性向上、充填テクニックの進歩により、信頼のできる接着はもとより審美的な充填すら可能になっている。とくに前歯が部分的に歯が欠けてしまったことによる審美不良を即日的に回復させることができるようになったことが大きい。ひと昔前は補綴に頼らざるをえなかったことに比べれば吉報である。接着歯学は、地味ながら着実に進歩してきた分野なのである。

保険診療のCRは使用する材料に一部制限があるものの、ソコソコの見た目を回復させられることはできる。健保適応で自分と相性のいい材料を揃えたら、あとは器具とテクニックと気合でなんとかするわけである。



卑近な例を紹介する。
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硬式野球の練習中にボールがぶつかって欠けた#21.23(#22は先欠)と来院した高校生。
外傷のアポなし来院であるから緊張が走ったが、患歯に動揺は認めず、打診痛もなく、EPTで正常反応をしめした。主訴は、歯が欠けたことによる審美障害に加えて風や冷たいものが歯にしみて痛いことであった。

固定を必要としない外傷とは運がいい。
外傷に継発する突然の歯髄死が心配なので経過を追う必要があるものの、形態の回復と誘発痛除去が応急処置で必要となる。露髄もしていないのでは素直にCR修復で対応すればよろしかろう。

保険で使用できるCRでソコソコの見た目を回復させるなら、透過性の異なるCRでレイヤリングすることになろう。例外的なのは咬合面1級や5級でこれは単一ペースト充填でも案外にイケる。しかし、光の透過を受ける3級や4級、切端のCR修復では透過性を考慮しないとどうしてもイマイチな仕上がりにならなりがちだ。

こうした修復時に私が愛用するCRは3Mのフィルティックシュープリームウルトラ(A2E、A3B・A3.5B・A4B、A4D)と松風のビューティフィル(BW)である。シュープリームウルトラは、ボディシェードをメインに充填し、表層をA2Eで仕上げるだけでなんとなく美しく仕上がってくれる。BWは「中に仕込む」ことで白斑や白帯を表現するために用いる。切端エナメル特有の表情を作り出すためのトランスルーセントや黄色ティント等は保険で使える材料がない(あるのかな?)し、そこまで拘って充填に時間をかけられないことから採用していない。これを組み込むのは、ダイレクトボンディング(自費)のできる'職人芸'ドクターに限られてこよう。私にはムリデス

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充填と当日研磨直後。犬歯尖頭にBWを仕込んである。水色の点は、艶出し目的で使用したジフィーハイシャイン(ウルトラデント)の欠片である。

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2w後
外傷-受傷後の歯髄失活などがないことの経過確認のため来院。EPT正常、自発痛、打診痛、歯牙動揺なし。充填が上手くいったかなと思ったら写真撮影するとよい。肉眼観察と違って不備なところが面白いように分かるからである。近心隅角に形態不良があるので修正する必要があることが分かる。



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たまにあるのが、レジン前装部の破折や脱落

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レジン前装はどうしても無表情な見た目になりがち(A4D+A3B+A2E使用)

応用的に硬質レジン前装冠のレジン剥離修理がある。バッキングメタル金属色を遮蔽させた上で接着と嵌合でCRを築成していかなくてはならない。これは難易度と点数的に手間暇に見合うものではないから、修理などせず冠を新製するのが一般的だ。ただ、規模の小さな部分破折程度なら修理の方がよかろう。即日修理ができた方が喜ばれるし、浸麻も要らず短時間で仕上げられることから点数的にペイできるからである。

オペークレジンが用意できない場面での裏技があるので紹介しよう。
それは、レジン練板に採ったCRペーストをプラスチックスパチュラで織り込むように練り込みまくり、気泡を混ぜることでオペーク性を付与するテクニックである。ペースト性状が水飴のように変化して操作性は低下するが、明度が上昇して不透過性が得られる。A4Dあたりを練りこんで使うと良いだろう。これにより、オペーク性の強くなったA3Dを得ることが出来る。

これは私のアイデアではなく、愛知学院大の冨士谷先生に教わったものである。ありがとうございます。
 
posted by ぎゅんた at 16:44| Comment(5) | TrackBack(0) | 根治以外の臨床 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年03月17日

メタルインレー


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直接法修復の技術の進歩があっても、やっぱり必要になるのが間接法修復であります。
CRで充填して終わらせたくても実質欠損の規模が大きければ、それがかなわなかったりするわけで、そのときは間接法をとらざるをえないからです。

最近では2級充填のための優れた器具やテクニックが開発されているので、充填の適応が広がっています。とはいえ、できないときはできないのが2級充填であって、ときにアンレーの必要性を呈する場合もあり、時間的制約を考えると充填での対応を断念せざるをえないことがあります(自費診療なら別かもだが)。


極めて適合のいいインレーにたまに遭遇しますが、そこにはどこか美しさがあります。時代遅れのガッデム金合金である金パラインレーといえど、良い仕事の末に合着された姿には否定できない尊厳があります。歯科理工学の理論と歯科技工に裏付けられた精度で作り上げられたそれは、本当に綺麗に適合する。ときに石膏模型に起こしたときにマージンにギャップが無いぐらいの適合をみせることもあるようです。

私はメタルインレー修復に慣れた世代で、この保存修復技法が嫌いでもそれ以外もないのですが、金パラは好きではない。パラジウムが投機対象になることと生体毒性を否定できないところが気にくわないのです。真偽はわから無いけれど、メタルインレー修復は本来は金箔充填の進化系であって、金合金インレーが正道ではないかと思っています。

その金合金インレー、良いものですが患者さんウケはあまりよろしくない。若年者もご年配のかたも、例外がありません。
なるべくメタルを口の中で使わない歯科治療が求められる趨勢もありますが、金合金インレーは、ようするに「金歯」のイメージが強くて拒否反応が出るようです。化学的に安定した合金であることに加え、ほのかに明るく暖かな、あのなんとも言え無い恬淡さが気に入っているのですが、確かにメタルですものね。


ところで金沢といえば最近、金箔ソフトクリームが有名らしいですね。はんぱねえ
加賀市には美味しいブロッコリーがありますよ。うーん地味
 
posted by ぎゅんた at 23:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 根治以外の臨床 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年02月16日

苦手なりに保険のCR

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写真で見ると、ありゃこんなイマイチだっけと感じるのはあれだね、賢者モードってやつ?

保存修復学講座にいたくせに未だに苦手意識があるのが直接法コンポジットレジン修復CR(以下CR)。接着操作に不安があるわけではない。仕上がりを美しくすることが、どうしても難しいのである。歯と似たような外観の「見た目」が歯に居続けていく修復処置だから尚更。

CRのプレゼンスが高まったのは、接着歯学の台頭とセットになろうが、その頃のトピックは、象牙質接着界面に形成される樹脂含浸層が、エナメル質のように酸に抵抗性を示す性質を有することからくる「人工エナメル質」にあったとおもわれる。学術的に否定されたのか潮流に乗り切れなかったのか忘れ去られたのか、最近ではあまり樹脂含浸層とその性質について耳にしなくなって久しい。東京医科歯科大学が樹脂含浸層とその次の存在であるABRZを報告していたところで私の接着歯学の記憶は途絶える。


CRで重要なのは
質の高い接着界面と、余計なところのない審美的な充填である。いわゆるダイレクトボンディングといった超審美的CR充填は、このステップをより高次元に昇華させた職人芸になる(だから、自費診療なのである)。たゆまぬ自己研鑽と審美充填への情熱、技術を裏付ける確かな知識、そしてセンスが求められる。およそ審美的といえない充填であっても自費用のCRを使ったからダイレクトボンディング♡は通用しない(とはいえ、この場合は保険請求できないけれど)。多くの先生方は、保険で、保険診療用CRを用いて美しい充填になるよう努めている。

質の高い接着界面は、防湿と材料の使い方の影響を強く受ける。余計なところのない審美的な充填とは、接着界面上にギャップをつくらず、フローレジンに気泡を巻き込まず、ペーストレジンを窩洞外形よりはみ出さずに最小限の形態修正で済むように充填と賦形を行うことである。歯面処理では、ベベルを付与したエナメル質に限局したリン酸エッチングを施す手間を加える必要がある。

前歯部は絶対でないかもしれないが、臼歯部ではラバーダム防湿は絶対である。患歯の形態によってはクランプの装着が難しいこともあるが、その場合は「Zoo」などの代替器具を用いることになる。


ただ埋めるだけにあらず
咬頭の再現を含む窩洞の充填にはペーストレジンの充填が望ましいが、これは難易度が高い気がする。「保険なんだから埋めりゃええだろ」とまさしく填入すれば極めて短時間で充填が完了するが、それは歯科医の矜持が許さないだろう。GIC充填じゃあるまいし、せっかくのCRで窩洞をのっぺらぼうに仕上げることには心理的抵抗がかかるからである。CRで咬頭や裂溝を再現することにどれほどの歯科医学的意義があるか、私は学術的なところを知らないけれど、これを全く考慮しないのは乱暴だと思う。充填と賦形は多少の操作時間の猶予はあるにせよ、短時間で済ませるべきであろうから、各歯固有の解剖学的形態を大雑把でも再現できる即興的な腕が必要であろう。だれしも、学生時代に彫刻刀やエバンスで石膏棒から「歯」を削り出したと思われるが、その経験を転じて、充填で解剖学的形態を再現するのである(あの時、もっと真面目にやっておけば…と悔恨に泣くのは私だけではあるまい)。


私がCRで頻用する材料は以下である。
ペーストレジン:フィルテックシュープリームウルトラ(A2E,A3.5B,A4D)・アイゴス(E,A5)・ビューティフィル(BW)
フロアブルレジン:アイゴスローフロー(A1,E)
ファンデーションレイヤー:SDR

保険のCRで、なるべく短時間で、なるべくマシな見た目を回復できて…を考えてきた末のラインナップである。接着システムにはメガボンドFAとスコッチボンドユニバーサルアドヒーシブを使用している。もう少し整理してシンプルにした方が良さそうな気がする。


ローフローでレジンコーンテクニック
咬合面をフロアブルレジンでのみ仕上げることもできる。昔のそれと違って最近のフローレジンの強度と耐久性には信頼が置けるようになったし、賦形を容易にするローフロータイプが存在するからである。

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例えばこの症例はアイゴスのローフロー(A1)を用いている。乳臼歯なのでフロアブルレジンで咬合面を仕上げても問題ないし、乳歯は明度が高いのでA1でアンマッチになることも少ない。

窩洞形成後にラバーダム防湿し、歯面処理してSDRでファンデーションレイヤーを形成したら充填操作に入る。シリンジチップの先を窩壁・窩底に位置させ、充填を開始すると壁に沿ってレジンが膨らむように盛り上がってくる。量を適度に調整し、部分的に形態を作り上げていく。これを数度繰り返すと、隆線や裂溝が導かれるように出来上がる。隆線の形態が不足やイマイチに感じたら、Eシェードのローフローで追加修正を図るとなんとなく自然な感じで誤魔化せる。ローフローなのでバイトフォーミングテクニックは使えない(全くフローしない、ビューティフィルフロープラスF00ならできるかもしれない)。慣れればそれほど時間がかからず充填を終えられるので保険診療の充填としても向いていると考えている。

そして唐突に終わる。



※:ローフローのフロアブルレジンには思い出がある。大学院生時代、当時、うちの教室でお世話になっていた松風の技術者が持ってきた試作品(いまのビューティフィルフロープラスのF00)が初めての出会いになるからである。ローフローというよりノンフローのそれは、先見性のない思慮浅薄さに定評のあった私にとっては野次馬的興味以上のものを抱かせなかった。

ボスに、これは臨床でどう使うものですかと質問したところ、ちょうど適当な症例で使うから見にくる?とおっしゃる。さてその見学に向かうと、ボスは大臼歯一級窩洞にこの「ローフロー」を用いて、数度に分けて充填している。すると、短時間で隆線と裂溝が再現された咬合面充填がなされていた。余計に流れない性質を利用して、充填と同時に大まかな形態を再現させた充填を行ったのである。レジンコーンテクニックという(らしい)この手法は、うちのボスが考えたアイデアだと私は信じている。その後、大学院を中退することになり逃げるように北海道を去った不肖で恩知らず私であるが、接着に関してはボスに教わったことに泥を塗らぬよう、戒めの気持ちが常にある。

 
posted by ぎゅんた at 12:52| Comment(2) | TrackBack(0) | 根治以外の臨床 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする