最近のお気に入りの補綴物がPEEKクラウン(PEEK冠)です。
大臼歯の単冠補綴がPEEKまみれになってます。こんな使いやすいクラウンが保険収載されて最高!厚労省に足を向けて寝ることができないぜって感じなんであります。
さはさりながら、私が仄聞したところ世の先生方にとってPEEKクラウンは人気がないようです。知人・友人の歯科医師も「なんどか試してみたけど今はもうやめた」なんて述べる。いつもお世話になってるラボの営業さんは「先生のところは異常に数が出てて困惑してます」と珍妙なコメント。
PEEKクラウンは不人気なのか?
考えつく限り、いくつかの理由が挙げられます。
まずは見た目
出た当初はTEK然としたアイボリーな見た目でしたが、今はヤケクソ・ホワイトというべき白色が選べるようになり幾分かマシな見た目になりました。保険CAD/CAMと同様、保険診療で大臼歯にメタルレスで単冠補綴できる選択は患者にとって福音でありましょう。とはいえ天然歯と比べるべくもない不自然な見た目ですから、審美性に優れているわけではありません。
しかし、保険CAD/CAMクラウンにしても正直「まあこんなもん」って水準ですから悲観するに及びません。
思うに、保険診療は機能回復、それも咬合支持の大臼歯なのですから割り切りが必要です。患者さんにしても「保険で白色の歯が入るんならそれで」と文句も言わない方が大半です。見た目的にアレな白色の歯ではありますが、概ね「銀歯じゃないなら良いよ!」と好意的であります。今の所、見た目が原因でリジェクト喰らったことはありません。
歯科補綴は保険/自費関係なく審美を追求する性格がありますから、PEEKの見た目に心理的な拒絶が出るのはやむを得ません。ただ、患者さんはその辺を案外に気にしないので、思い切ってやってみましょう。単純に述べれば、患者さんは「保険でさっさと白い歯を入れてくれる」歯医者さんを求めているので、それに付き合えば良いだけです。
次に物性
破折しないのか?脱離しないのか?
ハイブリッドレジンのそれと異なる感触があります。粘っこいわけではないが、硬質ではない。咬合調整しても、削っているというよりは捲っている感触というか、良く言えば今までにない独特さがあり、悪く言えば気色悪い感触です。靭性があって破断しにくそうに思える一方、クラウンにたわみが生じるなら脱離力に転化するかもしれない。PEEKクラウンはまだ超長期経過報告がないので予後に未知数の面を残します。
なお、私の臨床例ではいまだに脱離も破折もありません。支台歯が歯根破折や重度歯周炎に移行することで結果としてダメになった例はありますが、これはPEEKの物性とは特に関係はなく、単なる主治医の力量不足であります。
接着は松風のCADCAMレジン用アドヒーシブ用いた上で同社のビューティリンクSAで行っております。
光照射のステップが煩わしい先生はクルツァーのZENユニバーサルセメントでの接着が良いでしょう。
そして支台歯形成量
これは私のお気に入りポイント。なぜなら、PEEKクラウンの支台歯形成のクリアランスは、全部鋳造冠のそれ+αで達成できるからです。これは大きい。保険CAD/CAMの支台歯形成は、私みたいな小心者は気絶しそうなほどのクリアランスを求められるので、形成してて失禁してしまうからです。歯科理工学的に導かれる形成量であることはもちろん分かるのですが「まあこんなもん」の見た目のためにあれだけ削るのは……失活歯ならまだしも、生活歯では怖くてできません。デンチンエナメル・ノーリターンという格言を思い出します。
んでもって研磨性
ここは不満が残る点です。
いまのところ、満足のいくような滑沢な研磨面が得られないからです。どうしても、なんとなく研磨不足感が残ります。そういうモノのようです。しかし「こんな感じでいいのだろうか?」と後ろ髪を引かれる思いで接着操作に移るのは地味にストレスです。
PEEKクラウンは、納品の時点では輝いていますが、あれは仕上げの段階でコート剤(ラボに聞いた話ではヤマキンの『ヌールコートクリア』)を塗布しているためで、我々がチェアサイドで下手に真似をすると折角の咬合調整が台無しになります。咬合調整で触れた箇所は光沢がなくなるのはやむなしと割り切りましょう。
PEEKクラウンの修正と研磨は、私はいまも試行錯誤していますが、基本は
咬合調整:技工用ダイヤモンドポイント、カーボランダムポイント
咬合調整+研磨:松風シリコンポイントPタイプ
仕上げ研磨:CR研磨用のシリコンポイント
艶出し:レジンポリ
この方法がいいぜ!って情報をお持ちの先生のコメントをお待ちしております。
最後に補綴物としての精度の課題
現状、PEEKクラウンだけでなく保険CAD/CAM冠もチタンクラウンも連合印象で提供されていますが、これらは本来は光学印象を経て作製されるものです。光学印象のデータがラボに行き、そこからPC-ミリングマシンの工程で作製されるもののようです(現場を見たことがないので伝聞)。
換言すれば、我々が作成した石膏模型が指示書と共にラボに送られると、テクニシャンは石膏模型を光学印象して作製されるということです。適切な支台歯形成と印象採得が行われ、石膏模型の精度が高ければ問題は起きないでしょう。ただ、肝心のクラウンの精度を追求するなら支台歯形成後は光学印象を行うべき、ということになろうかと思います。なんだか間尺に合わない話ではあります。
今のところ光学印象で加算がつくのはCAD/CAMインレーだけであり、PEEKクラウンもチタンクラウンも保険CAD/CAMも加算がありません。とりあえずは適切な支台歯形成と印象採得と石膏模型作製が歯科医師側に課せられている状況と言えます。おそらく、次回の保険改定で「口腔内スキャナで印象採得して作成していいよ」と修正が入るのではないでしょうか。光学印象加算がつくかはわかりません。CAD/CAMインレーにはついているので付きそうな気がしますが、よしんば加算がついたとしても、連合印象の方の点数が削られるといういつものパターンになると思います。
今後の予想
金銀パラジウムの価格高騰で、保険金属としての金パラは今後は使用制限がかかりそうに思えます。メタルフリーの機運もあるので金パラの保険外しが起こりうるのではないでしょうか(もしくは、使用はできるが逆ザヤに近い点数にされる)。その場合は、PEEKクラウンとチタンクラウンの適応範囲の拡大ということを代替案にしてくると思われるので、補綴物の精度を追求する上でも光学印象ができる体制にしておいた方が良さそうです。でも、そういう流れになっても光学印象加算はつけなさそうな気がするんだよね。
ラベル:PEEK冠

