2017年07月13日

Q.歯科医師という職業ってどう?


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A.儲かりません!

半分冗談で、まずこう答えておかなくてはならないのが礼儀です。

過去に散々バブリーな様を世間に見せつけた職業でありますから、いまだに「歯科医=金持ち・成金」という図式と偏見が、ことに地方社会で根強かったりします。「儲かるか儲からないか」で言えば、儲からない職業です。院長だぞエヘンと威張ったところで、せいぜい中小企業の社長さんですし、年収もそれ以下でしょう。自費診療メインであればともかく、保険診療を主体とする歯科医業の収入は、平均ちょっと上あたりのサラリーマンクラスです。開業医は、給料とボーナスを支給する側で、年金は国民年金オンリー(老後の設計が不可欠)の「ガチ自営業」です。歯科医師会に所属しても金銭的・社会的に生活が保証されるわけでも保護されることもありません。「勤め人」と違って仕事形態に自由が大きいことは魅力的ですが、医院経営の責任が常に肩にズシリとのしかかります。勤務医の方が楽だったと愚痴をこぼす先生や、従業員に給料を支払うためだけに(雇用のために)歯科医院を開いている先生も少なくありません。

ゴタゴタと言い訳がましい否定をするってことは、実は儲かる職業だな?と早合点するオメデタイ人はともかく、世間様が羨むほどお金を稼げる職業ではないことは旗幟を鮮明にしなくてはなりません。嘘をついてはいけないからです。そもそも、歯医者の経済的実体がマスコミなんぞに面白おかしく報じられたものですから、異業種、ことに経済界の面々からは「歯医者さん、いま大変なんですね」と同情される始末であります。歯医者になったもん勝ちの時代は遠い過去のことでありまして、進路指導の先生だけでなく、保護者の皆さんも、生徒やご子息に歯医者さんになるよう勧めることはないと聞きます。しかし、これでいいと思います。「話が違うやないか」と言われても困りますし、歯医者は、歯科医師免許を取った後の自由が乏しい(要するに「潰しが利かない」)からです。

「歯医者は、やり方次第でいまでも稼げる仕事」と口にするのは鼻息の荒いコンサルか業界通を装う輩ぐらいのもので、大多数の歯科医師はさして興味がありません。やり方次第で稼げるのは歯科医業に限りませんし、「悪い奴もいるけどいい奴もいる理論」と同じで、だから何ってなもんです。身体を犠牲に、身を粉にして忙しく診療に励めば、実入りは大きくなりますが、ストレスとして跳ね返ってきますし納税額も大きくなります。

稼ぐというのは、月の手取りが最低でも1000万を割らないような、およそ世間離れした話になるわけで、その世界を謳歌している歯科医師はほとんどいないはずです。今の時代、稼ごうと思ったら金融か悪徳政治家か芸能界でひと旗あげるか裏稼業に身を投じることになるでしょう。稼ごうと思って歯医者になった人はいないのであります。平均以上に裕福であれば嬉しいな、ぐらいの気持ちです。悲劇的なことは、この望みすら最近では実現が難しくなってきていることです。

歯科医師に限った話ではありませんが、社会的地位の高さと金銭収入はリンクしなくなりました。高い社会的地位を維持するには弛まぬ自己研鑽が不可欠であって、高い金銭収入はその約束であったわけです。これがないと、自己研鑽への資金を生活費から捻出することになっていきます。自己研鑽より己の生活を優先するのは当然のことです。貧しいとは学べないことですから、金銭収入が約束されない職業は、社会的地位も意義も凋落していくことになります。少なくとも私は自費診療の報酬から自己研鑽の費用を得ています。



歯科医師になっていいことあるのか?
数字は残酷なので、金銭面でみると歯科医師は決して魅力的な職業ではありません。むしろマゾヒズムに満ちています。それでいて一方的に責任や社会通念を押し付けられるところがありますから、窮屈さを感じることすらあります。歯科医師を目指すことは容易ですが、学費と国家試験の突破、その後の下済み時代の生活のことなどを考えると高いハードルがあることも自明です。

歯科医師の魅力は、その専門性を活かした社会貢献にこそ全てがあると思います。「たかが歯。されど歯」は、私の師匠の言葉ですが、本当に、歯の一本が痛いだけでも人は気分が沈みこんでしまう。生活に暗い陰がおちるのです。歯を病むと、独特の緊張感(生存活動を維持していく上での危機感)に見舞われます。自然界に生きる動物たちにとって歯の喪失は死を意味するように、歯を失うことへの根源的な恐怖心が人間にも残っているからでしょう。

学生時代、医療倫理学で「患者とは、心に串が刺さった人のことである」と教えられたことを覚えています。「歯」に悩む患者の心理状態を理解し、推察し、配慮し、救いの手を差し出せるのは歯科医師だけです。人間を治せるのは人間だけであり、医療というのは感情の塊である人間同士のぶつかり合いの中で癒しを見つけ出す技術です。 歯科医業は、老若男女とわず全ての人の口腔内の健康に寄与できる機会を与えられた医療職といえます。

仕事のメインは保険診療になります。自費診療も加わりますが、自費をメインに据えた先生は少数派です。診療室から飛び出して、検診業務や啓蒙活動を行う機会も少なくありません。また、訪問診療のニーズに答え、来院の難しい患者さんに寄り添うこともできます。歯科医師の社会的地位の高さから、なんらかの形で地域行政の仕事を依頼されることもあります(NPOの理事や民生委員や町会議員・市会議員など)。

少なくとも私は歯科医師という職業に就けてよかったと思っています。やりがいを覚えます。

歯科医療に関する知識やテクニックは一生かかってもマスターしきれないほどありますし、患者さんとのコミュニケーションは患者さん数と出会いだけあります。歯科医師としての練度を高めようと思ったとき、深淵のような奥深さを覚えますし、なにより歯科の仕事が好きだからです。

無論、私も感情的な人間なので、相性が悪いと感じて接触を避けたい種の患者さんも抱えてはいますし、食指の動かない内容の仕事もあります。けれども、起床して「よっしゃ仕事いくぞ!」と抵抗なく考えている自分がいることは幸福なことだと思います。

金銭的にゆとりのある生活とは無縁ですし、嫁に稼ぎの悪さで甲斐性なしと罵られることもある点では苦痛を覚えますが、食べていけないほどの貧窮はありません。なにより開業医というのは、結局のところ地域住民に貢献し、健康に寄与し、信頼と支持を得られることに尊さがありますから、言ってみれば名誉職のようなところがあります。あの人は名医だとか地元の名士だと言われることほど開業医として嬉しいことはないものですし、絶対の評価もないものです。これは、歯科医師国家資格と同様、お金で得られるものではありません。どうです、魅力的な仕事に思えませんか?



※ 「手に職」と言えば医療職で、その信仰はいまも根強いですが、今後も手堅いままであろうと考えられるのは看護師だと思われます。ペーペーの歯科医師よりも衛生士の方が待遇がいいのと同様に、看護師さんの地位が相対的に高まっていく一方になるのではと考えています。お医者さんは病魔を克服して患者を救う一方で、社会的制約を理由に患者の延命を宣言しなくてはならない場面が出てくる立場になるのではないかと思います。しかし、歯医者ほど冷遇されることはないでしょうから、医学部人気は今後もずっと続くことでしょう。
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2017年06月10日

(いつか買うリスト)オーラルID

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粘膜病変、ことに口腔がんを見逃さないように常に留意しているのが歯科医であります。人間にとって口の中をマジマジと観察される機会は、歯科にかかったときぐらいしかありませんから、口腔内の異変を(専門家である)歯科医が見逃してしまうと大きな損失になってしまうからです。口腔がんの早期発見は、地味ながらも歯科医の重要な仕事のひとつです。

酒の席で口腔外科の先生にこっそり聞いたときに「我々を含めて、少なからず見逃しがあるから楽観視できない」「予後不良のケースは、早期発見できてさえいればひょっとしたら…と悔やまれるものが多い」との意見をいただいたことがあります。これはちょっと怖いことです。注意深く観察していても、見逃したり、判断に困ってしまうケースがあります。まして、歯しか見ていない、視野狭窄を起こしている歯科医であれば、間違いなく見落としてしまう。こうしたときに、スクリーニングであろうと、信頼の置ける診断機器があれば間違いなく有益であります。頼りになりそうでならないのが自分の目だけの判断だからです。

我々が健診業務に出た際は、歯牙と歯肉だけでなく、歯列や顎関節、そして粘膜病変の有無を診査します。その際に、こうしたスクリーニング用機器があれば有益であるばかりでなく、国民の口腔がんの啓蒙につながるのではないかと期待できます。


良さげやな?…しかし
このオーラルID、保険診療での使用が(現時点では)認められていません。健診業務であれば保険証もクソもないので使用しても問題ないでしょうが、保険医療機関が使用する際には制限がかかってしまうことになる点が気にかかります。例えば、カルテに「粘膜に病変を疑う表情の部位があったためオーラルIDで確認したところ異常はなかった」などと記載したら一発アウトなわけです。黙っていればわからんといえばそれまでのことかもしれません。しかし、保険診療で使用を認められていない機器を保険診療で用いてはいけないことを保険医は周知しています(そういうことになっている)。

歯科医師による口腔粘膜の視診は「初心・再診」に包括化されていると思うので(算定できる項目がないので)、このオーラルIDを使っても、現実的には構わないと思いますが、ルール上グレーであることは否定できないでしょう。メーカーに問い合わせたところ「先生のおっしゃる通りなので、自費で行ってください」とのことでした。そりゃそうだ。

もしこのオーラルIDで扁平上皮癌を疑う部位を発見したとして、細胞診で早期の扁平上皮癌と診断されたとする。素晴らしいことです。しかし、この流れでは当然のごとく保険算定はなにひとつできないことになります。細胞診を行わないにしても、口腔外科へ紹介して診療情報提供料を算定することもダメのはずです。

畢竟、保険医にとってこの機器は、自費でスクリーニング検査をするか健診業務で使うかの2つの使い道に限られた存在になるのではないでしょうか。口腔がんを見逃さないための優れたスクリーニング機器(推測)でありながら普及が進まないのは、ひょっとしたら保険診療に使用できない実情が足を引っ張っているのではないかと邪推してしまいます。



我々開業医は、治療のための専門機器を導入する際に、必ずや「導入して元が取れるか」をまず念頭に置きます。欲する器具をす無尽蔵に購入できる先生は世界一の幸せ者です。歯科医療機器というのは、高いのか安いのか皆目見当がつかないプライスタグが掲げられているのが普通で、現実的な保険点数から冷静に判断してみるとやっぱり高い、そんな値段であります。購入への決断には慎重になるのが普通です。

このオーラルIDによるスクリーニング検査を自費で希望される患者さんは、少ないと思います。「なんで保険でやってくれないの?」と不思議がられることでしょう。「保険で認められていない機器だから自費になる」と説明しても、それならイイデスと拒否されるのが目に見えています。いいものは自費でも選んでくれるというのはコンサルの一方的な意見で、確かにそういう患者さんもいらっしゃるけれども、数は少ない。そうした患者さんを増やすためにこそ自院をブランディングしなさいとセットで追撃される展開も承知していますが、国民の大半は保険証をもって医療機関に出向くことがルールであり患者として当然のことと考えておられるわけで、様々な理由があるにせよ、医療者側がその心理に水をぶっかけることはあってはならないと考えています。「自費自費うるせーよ保険診療でできうる最善最適の治療をまずしてみろ」と患者さんは考えているのです。月々に安くもない健康保険料を納めることを甘受しているのですから、当然の心理です。

世間には様々な医院経営の歯科医院がありますから、このオーラルIDを自費で使いこなせる医院もあることでしょう。しかし、当院では無理です。またぞろコンサルに「田舎で国保の患者が多くて…は言い訳!どんな場所でも自費を選ぶ患者を必ず発掘できる!(できないのは、先生のやる気がないから!)」と怒られてしまいますが、当院の診療スタイルから勘案するに無理に等しいのです。突き詰めて考えれば無理ではないかもしれないけれども、そこに割く労力があるなら他に割きます。

なにも実行に移していないうちに机上の空論よろしくオーラルIDにダメ出しをしていますが、しかし、この機器を健診業務に携えて活用したい気持ちは旺盛にあります。喜ばれること間違いなしだからです。

いち保険医療機関としてこのオーラルIDは、なるほど制度上の制約が多すぎてリターンが得られないだろうが、制度の軛より離れた場では大活躍が見込めるものではないか。ここにきて私は、もう購入しようかと決断委ぽ手前におります。ビジネス用語に「Win-Winの関係」というものがあります。「Windows(OS)のパソコン同士こそが最高や!」という意味だと誤解して長かった言葉ですが、真意は「それぞれの当事者とも利益を得る」みたいな意味です。あまりに使われて陳腐化していますし、虫のいい関係にしか思えない点で嫌いな言葉です。「今回はうちが泣きましょう。でも、次の機会にはよろしく」とか「泣かされちゃったけど、許しちゃうよ」という緩さがある関係のほうが堅牢で永続的なビジネスを送るうえで望ましいと思うからです。オーラルIDは保険診療で使えないという事実では泣きをみるけれど、健診業務で燦然と活躍が見込めるという意味で「win-loseの関係」でありましょう。けれども、それで良い気がします。オーラルIDの目的が、口腔がんや粘膜病変の見落としを防ぐことと早期発見の手助けにあるからです。


http://oralid-japan.com/
ラベル:Oral ID
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2017年05月24日

検診後の「再診」


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母校の中学校で学校歯科医をやってます


検診業務で、自分自身が対応した人が患者さんとして来院された場合、保険診療では「初診」ではなく「再診(検診後)」扱いとなります。当然点数は下がる(234⇨45)ので、巷で耳にするに不人気なルールのようですが、私はこの「再診(検診後)」が好きです。算定できることが栄誉あることと思うからです。検診後のシームレスな受診が歯科への無言の信頼に思えますし、当院に来院してくれたご縁を感じるからです。

学校検診を終えて、歯科受診にきてくれる子どもたちの姿が目立ち始める今日この頃。

学校検診そのほかで感じるのですが、中学生の口の中は、ハテこんなに汚れているものだろうか?と不安になることがしばしばです。単に学校歯科医が不甲斐ないからというだけの気がしますが、それだけでもないような。

ガサツなのか不衛生でいることが硬派と勘違いしとるのかしらんが、男子で目立ちます。
異性が気になる思春期だというのに、これではいかんぞ。前歯に食渣とプラークがべっとり。口呼吸もやめておくれ。これでは女子と会話なぞできんし、キスもできんぞ。もっと歯を大事にせい馬鹿タレ!
…こんなことは口腔内診中に声にだせませんから、ポーカーフェイスで淡々と作業をこなします。

たまに前歯に破折やその治療痕跡がみられる子がいますが、確認すると、ほとんどが球技系の部活に所属しています。球技系は歯の外傷が際立って多いのです。練習中に歯の外傷予防のためのマウスガードの着用が推奨されていますが、まだまだ教育現場ではその意識が希薄なようです。学校歯科医が教員や生徒たちに啓蒙しなくてはならないでしょう。困ったちん。
 
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2017年04月25日

し、仕事で iPad mini 4 使うもん!


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もう5年以上使用していた相棒であるiPad mini(初代)が、故障して死んだ。
というより私が引導を渡した(始末してしまった)のが正しいのであるが。

死因はゴーストタッチの嵐で操作不能になったからである。勝手にアプリを起動しまくってフリーズしたり画面の縮小拡大を繰り返してフリーズしている有様。そもそもこちらの入力を全て無視するのでメモで文章も打てなければメッセージの送信もできない。それどころか勝手に余計なことをするわけで、アプリは起動し続けるわデータは消すわ誤送信はするわの迷惑極まりない振る舞いしかしない。制御不能天衣無縫。起動したが最後、危害しか産まないのである。

メモに書きためた記事を消しまくっていく姿にブチ切れた私に引導を渡されこうなった。

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膝蹴りを一発かましただけでこうなるとは、iPadは虚弱体質に過ぎるぞ。


ゴーストタッチの主因は、画面ガラスの亀裂の長期放置のようである。購入して一年目のときに落下させた際にディスプレイガラスを割ってしまい、修理せず使い続けていたのだ。

これまでも稀にゴーストタッチと誤動作の片鱗はみせていたのだが、のび太ママに教えられた方法で窮地をしのいできたのである。それを4年間続けてきた。しかし、流石に今回の症状は終わりの始まりであった。ダメになるときはもう修理もなにも受け付けないのが機械というものか。パソコンと同じで電子デバイスの寿命はせいぜい5年だとか聞くが、概ね、間違いではありますまい。私のようなゴーストタッチ・ストームといった致命的状態には至らないまでも、レスポンスの著しい低下やボタン類の故障、ハードディスク容量の枯渇など、パフォーマンスが使用者の現実世界に追従しきれなくなったら、もう替え時のようだ。

ものは大切に、古いものも大切に、道具は良いものを末長く…、といった、人間が生きる上で大切にしなくてはならない理念は電子デバイスには通用しないようだ。ちょっと寂しい。やっぱアナログのが好きだわと行き過ぎたデジタル化と距離を置く人種がいても当然である。俺は地球最後の日までガラケーを使うぜ。


使い心地夢心地
さてiPad mini4であるが、すこぶる良好である。画質の著しい向上とハイ・レスポンスが心地よい。文章を打つときのキーボードの切り替えや変換時にモタつきが皆無になったのが嬉しい。文章を作成する作業の効率が300%増しである(良い文章が生み出されるわけではない)。
思えば、愛用していた初代iPad miniは動作がトロ過ぎたし画面が汚かった。進化を前にすると、過去の技術は残酷な評価を下される。

ブラウジングも素早いし、JavaスクリプトをOFFにしなくともサクサク観覧できる。容量も16GBから128GBに増えたのだから、一生涯かけても使いきれない安心感に包まれる。野外にて日照下にあっても画面がちゃんと見えるのも地味ながら驚きだ。カメラの画質も満足のいくレベルに向上している。こんなことならさっさと乗り換えておけばよかった。新しい畳と女房と電子デバイスは最高である。涙をのんで大枚を叩いたが、その価値はあった。



仕事への応用
モリタのデジタルエックス線システムである「i-VIEW」はiPadに画像の転送ができるので、iPadは院内の仕事で活用する余地がある。iPad上ではi-VIEWの機能も最低限で、パノラマやデンタル写真の一枚表示をする場面がほとんどであるが、チェアサイドで写真説明が簡単に行えるのは嬉しいところだ。当院では、私がむかし使っていたiPad2が使用されている。この程度の用途に限定すれば、古いiPad2といえど十分に活躍してくれるのである。
 
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2017年03月13日

【痛み止めと化膿止め】なにを根拠に、どう投薬しますか


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歯科医は医師に比べ、薬とその処方に疎いことは疑いようがない。

解熱鎮痛消炎薬と抗菌薬の2つの領域の限られたものになるのが一般的であるから、処方する内容も定型的になりがちである。また、診察した都度なにかにつけ薬を処方する歯科医師がいないように、薬を処方しないことが普通である事情も考慮できる。歯科の日常的な診療の中で処方のウエイトは低いから、それをして、薬の処方が浅薄になりがちである。

歯科医が処方する薬は、解熱鎮痛消炎薬薬と抗菌薬の2つの領域の限られたものが主である。狭い領域だ。歯科医はこの2つの領域の薬には、「狭く深く」精通するべきであるし、できるはずだ。市井の開業医が、数多ある薬剤を細かく使い分ける必要はない(そもそも、そういう精緻な処方をするために必要な検査を歯科医はしていないし、できない)。重要なのは、薬剤を処方することのリスクを常に意識すること、推奨されない処方を漫然と行ったり相互作用を考慮しない処方をしたりプラセボ的処方をしないこと、副作用や相互作用のチェックを忘れない姿勢でいることである。

とりわけ抗菌薬は誤用と乱用を防がないと耐性菌の出現につながる点で恐ろしい。抗菌薬を漫然と投与し続けることほど危険な行為はない。もし歯科医が処方する抗菌薬の不適切さが原因で耐性菌を出しているなどとしたら。そして、その抗菌薬の処方がなんら知識の裏付けのない(漫然とした)ものであれば、歯科医の社会的地位は大きく損なわれることになる。



薬も逆さに読めばリスクなり
処方することで得られる恩恵が、処方しないリスクを上回る場合に限って、薬が使用される。

わけても鎮痛薬は、歯科医の意識が高いところだろう。
酸性Nsaidsの処方を第一選択として、基礎疾患を有する患者や小児・妊婦では鎮痛効果がマイルドながら安全を考慮してアセトアミノフェンを選択する。この程度の使い分けは誰だってしているものだ。

ここに加えて、ワルファリン服用者やニューキノロン系抗菌薬投与の際に酸性Nsaidsは禁忌とか、アスピリン喘息患者にアセトアミノフェンは無難なだけで安全ではない(喘息患者にはペントイルという塩基性Nsaidが処方できたが、発売中止でいまは使用できなくなった)とか、肝臓障害のある人にアセトアミノフェンは禁忌とか、もっと知っておくべき知識が追加されてくる。


当院で処方できる解熱鎮痛消炎薬は以下のとおりである。

1.ロキソニン(頓用)
2.カロナール(頓用)
3.ソランタール(服用)※アモキシシリンと一緒に処方することが多い
4.キョーリンAP2(服用)※小児、妊婦、基礎疾患があってカロナールを処方できないケース用

ジクロフェナクナトリウムや立効散エキスも用意したいところだが、これは処方箋要員になっている。


感染根管治療後、一過性の術後疼痛の対策に解熱鎮痛消炎薬を処方する場面は少なくない。抜髄にしろ感染根管治療薬にせよ、不快な術後疼痛に苛まれることがあるからである。

この場合、まず基礎疾患と服用薬剤をチェックし、問題がなければロキソニンを第一選択にしている。
妊婦・小児ではロキソニンは使用できない(妊娠後期の酸性Nsaidsは禁忌)。
高齢者も、服用薬剤にバイアスピリンやワルファリンがあればロキソニンは処方しない(出血傾向となるから)。



抗菌薬を処方する場面
初回の感染根管治療後に抗菌薬を処方することがしばしば行われているようだが、私は、これはただの慣例に過ぎないと思っている。出しておく「べき」だからとか、なんとなくみんな処方しているからとか、処方する方が無難だからとか、およそ地に足が付いていない処方にすぎない。ここには、治療後に生じうる術後疼痛を抑えたい意識も、あるだろう。しかし我々は、抗菌薬が根尖病変を治癒に導きはしないことを知っているし、抗菌薬で根尖病変を叩いて治そうという意志など欠片も持っていない。

治療後にフレアアップを起こしたり膿瘍形成をきたしたりすれば処方の必要性もでてこようが、根尖部のマネジメントに大きな誤りがなければフレアアップはおろか術後疼痛もさして出ないものである。卑近な例でいえば、私はクイックエンドを導入することで術後疼痛の発生が激減した(根管内のdebrisを積極的に排出することで、根尖への押し出しが結果的に少なくて済むようになったのだろうと思われる)し、フレアアップも発生せずにきている。根尖へ無用な感染源を押し出すことなく、根管から感染源を除去していけば、生体である根尖歯周組織が病変を治癒へと向かわせる。ここに抗菌薬の出番はない。

万が一、フレアアップや切開排膿を必要とする急性歯槽膿瘍をきたした場合は、消炎処置と共に抗菌薬を処方するであろう。その場合、まず私はアモキシシリン水和物250(サワシリン等)と解熱鎮痛消炎薬の処方をするだろう。アモキシシリンはグラム陰性桿菌まで抗菌スペクトラムが広がったペニシリン系抗菌薬である。口腔領域の急性炎症の起因菌は、通常はグラム陽性球菌やグラム陰性桿菌のいずれかの一種であって、アモキシシリンが程よくカバーしてくれるのである。つまり、完全にターゲット菌を絞り込んでの処方ではない。私にとってアモキシシリンは、一般開業医が遭遇しうる口腔内の急性炎症に対する、ファーストチョイスの抗菌薬としての存在である。フレアアップ、急性歯槽膿瘍、智歯周囲炎など、およそ臨床医が頻繁に遭遇するすべてのケースで第一選択になる。

これで効かない場合は、起因菌が抗菌スペクトラムより外れているか、炎症が後期に移行して嫌気性菌が台頭したかことを考えるし、自らが下した診断と行った消炎処置に誤りや不足があったのではないかと再考せねばならない。

起因菌の同定のための検査ができれば抗菌薬を絞り込めるが、歯科ではその保険評価がない(だから、誰もやらないしデータの蓄積もない)。いきおい、やむをえずで起因菌の同定検査なしに強力無比な抗菌薬が投与されることがある。アジスロマイシン(ジスロマック等)やシタフロキサシン(グレースビット)がそれである。これらは「幅広く焼き尽くすように」よく効く。だが、これは最後の切り札的存在であって、ファーストチョイスにはならないと思う。こんな強力な抗菌薬を処方することなど年に数回あるかないかであろう。「抗菌薬は、効かせたいときにガツっと効かせてスパッと終わらせる」使い方を重視するならファーストチョイスに良いかもしれないとも考えられるが、ビビりの私は処方を躊躇する。

私の抗菌薬の選択と処方は古典的で慎重すぎるところがあるはずだが、さりとてアモキシシリンの処方で困った経験もさしてない。あるとすればペニシリンアレルギーで処方できない場合(その場合はクリンダマイシン(ダラシン)を処方)か、消炎処置に誤謬があって感染症を進行させてこじらせてしまった場合である。

歯科治療は原因除去を根本に据えた外科処置が本体であって、抗菌薬で治療する内科的療法が優位に立つことはないと考える。解熱鎮痛消炎薬は痛くなければ服用せずに終わるが、抗菌薬は決まった回数と期間、服用して効かせなくてはならない。処方がより慎重でなくてはならないのは抗菌薬である。臨床所見からどの抗菌薬を選択するかを判断し、血中の薬効濃度の維持を考えた処方、患者のコンプライアンスが良好であることが求められるからである。
 
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