2017年05月16日

根管内破折ファイル〜超音波なエンドチップでの除去がまず基本のかしら?


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破折ファイルがあるから除去してくれないかと依頼された症例。
分かる人には一発で分かるが、難易度は高くない。

当院にはマイクロがないので、根管内を直視するのは限界がある。Dr.Kimヘッドランプとミラーで根管内を照らすとなんとか見えないことはないが、目が疲れることには変わりはない。

私は昔から顕微鏡のような、「肉眼で見えない世界をのぞきみる」行為が好きだった。小学生の理科の時間で、田んぼから採取してきた動物プランクトン(ミジンコやアメーバ)や植物プランクトン(アオミドロやボルボックス)光学顕微鏡で観察することに興奮したし、大学院生のときには電子顕微鏡で接着界面や象牙質の構造を見ているのが好きだった。いまは位相差顕微鏡で患者さんのプラークを観察していたりする。

マイクロはこれらに比べて倍率が低い世界であるが、「肉眼でどうこうの」の限界の先を見せてくれる点で喉から手の存在だ。竹藪にマイクロが捨ててあればいのに(現実逃避)


戯言はさておき、破折ファイルの除去である。
根管内の破折器具除去については、世界に冠たる寺内吉継先生のアート的技術が全てであると私は確信しているが、赤面ものの告白をすれば私は寺内先生のセミナーを受講していないので独学我流であり、レベルが低い世界にとどまっている。取れるものは取れるけれども、取れないものはとれない。もし取れても、手探りと感覚での除去がほとんどだから、何が功を制したかの手がかりを得るための考察に乏しい(経験値が低い)。「なんか知らんがやってみたらできた」というのは、まあそんなもんであって、再現性ある結果を得る次のステージに上がるための階段にはなり得ないのである。マイクロは、正確に使いこなすことは要求されるが、確かな階段にはなるだろう。竹藪にマイk(略

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エンドチップが直線的に破折ファイルに達するよう、遠心根管の遠心をわずかに拡大させ、P-MAXにエンドチップ(パワーはエンドモードでメモリ1.5ぐらい)を装着し、注水下で反時計回りにチップを静かに動かす。エンドチップと破折ファイルが接触した時にゆるんで取れるのだろう、根管より破折ファイルがプペッと飛び出してきた。

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エンジンリーマーの破片かな、これは。

シャーペンの芯みたいにバキバキ折れるんで、感根処時のおおまかなGP除去に便利だけれど破折が怖くて常に新品しか使えないファイルです。相棒にするにはピーキーすぎる、それがエンジンリーマー。

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2017年02月27日

乳歯の直接覆髄にセラカルLC


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小児の乳臼歯部の撮影って地味に難しいですよね(言い訳)

まとめ
・乳歯のう蝕で露髄は頻発する
・直接覆髄材にセラカルLCはベターな選択


とかく露髄をきたしやすいのが乳歯のう蝕であります。

外来侵襲に対するヘルメットたるエナメル質が薄く、そのエナメル質が保護している内部環境である象牙質には髄角が誇らしげに尖っているからです。この髄角とう蝕病巣は、お互いに惹かれ合うように接触しようとする。X線写真で読影できるう蝕病巣は、せいぜい実際のう蝕病巣の70%の大きさといわれております。ことに隣接面う蝕は周囲の歯質によって透過性が減弱されるので実際のう蝕病巣の大きさに比べて明らかに小さく見える。要するに、術前に確認したX線写真上のう蝕病巣はかなり小さいのであって、小さいから楽勝だゼと楽観して処置に当たると、思いのほか大きいう蝕病巣に翻弄され予定が狂ってしまう。結果、処置に焦り急ぐあまりに軟象を取り残した充填をしたり間接覆髄に切り替わったり露髄したりするのであります。

先述の解剖学的特徴のある乳歯では、耐酸性が永久歯に比べ低いことからう蝕の進行も早い。とくに乳歯のう蝕の好発部位である乳臼歯隣接面では、見た目に小さなう蝕病巣でも油断なりません。実際に手をつけるとやたら大きいう蝕だった、というのは歯科医なら誰しも経験しているはずです。そのとき、露髄を恐れた消極的なう蝕除去と充填の結果、根尖性歯周炎で頬側歯肉に膿瘍形成をきたすことがしばしばあります。充填処置で済んで良かったワイと胸をなでおろしている術者に「歯茎が腫れてきましたケド…」と、とんぼ返り的遭遇をきたすことになるのであります。


乳歯のう蝕の臨床経験が乏しいとベテランドクターがやたら乳歯の抜髄をする姿勢に見えたりするものですが、そこには道理と経験があるのです。X線写真上でう蝕病巣と歯髄とに一定の距離があるから露髄はしないだろう、と予想しても、実際には露髄する可能性がとても高いのです。既にう蝕病巣と歯髄は接触していたりするからです(仮性露髄)。間接覆髄で対処しようにも、既にう蝕病巣と歯髄がキスしていた段階では予後が悪い。いきおい歯髄感染が進行すると簀のような隙間まみれの乳臼歯髄床底から分岐部に炎症が拡大したりする。乳臼歯分岐部の炎症病変は後続永久歯の小臼歯歯冠部に部分的な脱灰ダメージを及ぼすし、歯胚回避がおこれば萌出位置がずれることになる。

乳歯の根管治療にはマニュアルが存在せず、どうしても永久歯との交換までもたせるための治療になる不安定な側面があるから、歯科医は、乳歯を感染根管にしないことを第一に考えることになります。

結論から申せば、乳歯のう蝕治療は露髄上等で挑む姿勢でかまわない。軟化象牙質を残しても緩慢と感染根管に移行するリスクが高いし、たとえ軟化象牙質除去の末に露髄してもラバーダム防湿下で手早く直接覆髄するなら予後は良好だからです。そして、直覆でダメなら早期に生切すれば根管の歯髄を保存できる可能性が残されます。直覆にしろ生切にしろ、少なくとも余計な追加感染をさせなければ予後が期待できます。乳歯歯髄の旺盛な生命力に助けられている歯科医は多いはずであります。



ようやくタイトルのセラカルLC
光重合型MTA系覆髄材の名目で売られていますが、操作性が改善されたMTAセメントと考えるのは早計です。MTAセメントの成分を含んだレジン系覆髄材であってMTAセメントの本来的な性質を期待できる覆髄材でもなんでもないからです。間接覆髄・直接覆髄のどちらも適応です。

従前の覆髄材にはダイカルやライフなどがありましたが、混和作業が必要で接着性がないことがデメリットでした。また、組織親和性があり水分存在下で接着性を発揮するスーパーボンドこそが理想の直接覆髄材だと脚光を浴びたことがありますが、最近はあまり報告を耳にしません。臨床成績が悪いわけではなく、MTAセメントのプレゼンスが相対的に高まったため日陰に入ってしまったものと思われます。

セラカルLCはこれらに比べて良好な操作性と最低限の封鎖性、そして健保適応材料であるところが長所です。狙った箇所にピンポイントに貼付できることは地味ながら成績を向上させます。光照射で硬化しますから、その後の作業で術者に気を使わせることがなくなるのもメリット。薬効は期待しない方がよろしい。重要なのは術野を隔離して追加感染させないことです。なお、間接覆髄では、私はセラカルLCではなくテンポラリセメントソフトを好んで使用します。



こんな感じかしら
軟化象牙質を除去していっての偶発露髄は、その露髄点がφ2mm以下のサイズなら直覆の適応である、と教科書にあった気がする。なぜ2mm以下なのか、その理由を教わった記憶がありません。露髄をきたす部位はまず髄角だろうし、ここが露出するとすれば三次元的に2mm以下になるからでしょうか。なお、露髄をきたした時点で派手な出血が見られる場合は不可逆性歯髄の示唆ですから覆髄は諦めなくてはなりません。

露髄点を含めて次亜塩素酸ナトリウム水溶液とオキシドールでケミカルサージェリーを行い、露髄点を含めた窩洞内を消毒し、露髄点にセラカルLCを貼付します(露髄点周囲に1mm以上の範囲で1mm以下の厚み)。これで直接覆髄が終了します。露髄点の止血と消毒にはケミカルサージェリーより歯科用レーザー照射の方がより効果的と考えますが、当院にレーザーはありません。喉から手。


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卑近な例
直覆後、手前の第一乳臼歯遠心隣接面部う蝕に合わせて同時に充填しています。直覆した右下EのCR充填は仮封扱いです。経過不良ならどうせ除去するし、そのときの隔壁にできるからです。

石塚式イージーマトリクスを使用し、メガボンドFA、SDR、チャームフィルフロー(B2)、アイゴスローフロー(A1)の順に充填しました。あ、窩洞辺縁に段差が(3流)。

次亜塩素酸ナトリウム水溶液で窩洞を清掃しているので接着操作をすぐにするのは不安な方はアスコルビン酸水溶液かスーパーボンド根充シーラーのキットにあるアクセルで窩洞を洗うとよいでしょう。ベースセメントで裏層してインレーにいくのも手です。
 
posted by ぎゅんた at 22:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 根治(実践的) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年02月23日

レシプロック専用ガッタパーチャポイントを用いた根充

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NiTiファイルで形成を終えた根管には適切なテーパーが規格的に付与されており、側方加圧にしろ垂直加圧にしろ、良好な根充を期待できる「器作り」を終えた根管の会得を意味している。

根充については様々な方法があり、このテクニックがベストと断ずることはできない。

紆余曲折あったが、私は今、テーパードGPを用いたCWCT(もどき)をメインの根充法に据えている。使用しているテーパードGPは、レシプロック関連製品のR25専用GPとR40専用GPである。アペックスへのアジャストは、ポイント先端をガッタゲージでトリミングすることで行う。

テーパードGPは、NiTiで形成した根管にジャストフィットする設計であるはずだが、奇妙なことに、形成後の根管に一致しないのが常である。例えば、25/.06NiTiで形成した後に、06テーパーの25号のGPを根管に挿入すると作業長まで達しない。根管口付近でポイントが壁と干渉していたりする。上顎中切歯のような根管がそもそも太いような根管を除けば実に使用しづらい。結局、ラテラルの変法で、根管口直下でポイントの束をスカッと切断したあとに電熱式根管プラガーでダウンパックすることになる。これはこれでいいのだけれども、やはり形成した根管に、テーパー通りのポイントがメインコーンとして使用できる状況が欲しい。


こうした中にあって、デンタルショーの茂久田ブースにあったレシプロック用GPは、形成後の根管に満足のいくフィッティングをみせた。おりしもレシプロックは、ウェーブワンゴールドを動作させるエンドモーター(Xスマートプラス)で使用できる。私はこう考えた。ウェーブワンゴールドプライマリ(25/.07)で拡大形成を終えた後、レシプロックR25(25/.08)で根管形成を終えてR25用GPでCWCTをすればよいのではないかと。NiTiファイルを破折させないコツは、拡大に使うのではなく形成に用いることだからだ。この原則は、どんな最新のNiTiファイルであっても変わらない。

NiTiファイルを根管の形成だけに用いるとなると、時間と手間がかかる(シンプルな術式でなくなる)。メーカーもその辺は分かっているので、NiTiファイルの弱点は使用中の破折だが、新品で用いればまず破折もしないだろうという設計で拡大と形成を同時に行うプロトコルを設ける。これでシンプルで手軽で手早く規格的な根管形成システムを可能とする製品だと胸を張れるからである。意地悪く言えば、ファイルを贅沢に使い捨てることを前提とした、メーカーウハウハ設計である。常に新品なら切れ味抜群で安全性もダンチだ!

揶揄はともかく、根充の話に移ろう。
レシプロックR25で形成を仕上げた根管の作業長を手用ファイルで再確認し、その長さにほぼ一致してR25GPがフィットするかを確認する作業に入る。ポイント先端をガッタゲージで確認し、オーバーしていればトリミングする(ポイント先端のサイズのバラツキは想像以上に多い)。もし0.5mmほどポイントがアンダーだったりしても、構わない。そしてそのままポイントトライも行う。ラバーダムをしているとこのポイントトライの写真が撮りづらく難儀するのが困りどころだ(折りたたみ式のフレームを使用すべきか?)。わずかにアンダーでも、電熱式プラガーでダウンパックすることで補正が利くので心配無用である。オーバーさえしていなければよい。そして根充(CWCT)に移る。

さて、R25で根充するということは、アペックスの拡大が25号であるから、これは拡大が不足していると考えられる。アペックスは35号以上の拡大がないと確実な根管洗浄の効果が期待されないからである。私も、そう思う。ただし根尖孔のサイズが0.15mm以下の細い抜髄根管ならば許容されるとも考えている。Patencyを確保して、根尖部の触知が硬質で、吸引を併用した頻繁な根管洗浄を行ってあれば、R25GPで根充することが殆どである。根尖部が細ければ細いほど、根尖部に垂直圧を加えることができるし、従来が無菌的と考えられる抜髄根管の根尖部であれば、根尖部を大きく拡大しないほうが望ましいとも考えられるからである。今後の経過を注意深く負わねばならないが、今のところ、R25根充で目立った失敗例がない。もし明らかに間違っているのであれば、早晩、トラブルとなって跳ね返ってくるのでそうとわかる。


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感染根管ではレシプロックR25では拡大不足なのでさらなる拡大が必要になり、少なくともR40以上の根充になろう。手順は同じである。隙間が大きくなってくるので、アクセサリポイントの併用も必要になってくる。R40でAHプラスをシーラーにCWCTで根充すると、自己満に過ぎないが写りの良い確認デンタルが得られやすい。重要なのは根尖部の消毒が得られていることや根充後に根尖病変が治癒に向かうかである。見栄えの良い根充写真が良好な予後を保証するものでは一切ないことは忘れてはならないし誤解してはいけない。ただし、苦労して仕上げた根管が綺麗に根充されたことを嬉しく思う気持ちを否定するほどスパルタな臨床である必要もない。
 
タグ:根充
posted by ぎゅんた at 01:26| Comment(5) | TrackBack(0) | 根治(実践的) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年02月03日

上顎第二大臼歯は稀に1根管かなって


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こうやって写真で見ると軟象の取り残しが分かりやすい(3流)


3根管か2根管がほとんどな上顎第二大臼歯であるが、10%の確率で1根管のものが存在するそうである。根管が少ないとやったぜラッキーってなもんで喜んでしまうが、「本当の本当に1根管なの?」と不安に苛まれるのもまた事実。

例えば上顎第一大臼歯の髄腔整理後、ヒポクロによる有機質溶解作用で白く明るくなった髄床底を眺めながらウムこれは3根管である、と判断し、意気揚々と根充まで終えて、その確認写真でどう見てもMB2が存在する近心頬側根が写っていた時ほど無力感に打ちひしがれる瞬間もない。実際はMB2が存在しない読影ミスかもしれないし、完全閉鎖で発見できなかったのかもしれないが、それはさておき、平然と見逃したままで根充まで終えてしまった自分を許せないし、信じられなくなるのである。こういう経験があると、hidden-canal の存在にいつまでもビクビクするようになるし、腕を振り回して窓から飛び出したくなる自分を押さえ込まなくてはならなくなる。


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デンタル写真で見ると2根管かなと思うのだが、実際の髄腔をみると、太い管が中央にズーンと存在していて、あたかもそこには、「キミちょっと太ったんじゃない」的な単根管の下顎小臼歯が鎮座しているようである。髄腔に満たしていたヒポクロを吸引除去(byクイックエンド)後、1根管にみえてどうせ2根管あるんだろカマトトぶりやがってコノヤローというようなことを、もうちょっとお上品な態度で反芻しながら、#10Kでネゴシエーションする。次に、狭窄部の根尖孔の太さを図るべく#15Kを挿入していったところ、抵抗なく通過した。見た目通り太めの根管である様子。#20は通過せず。排膿や出血所見もみとめず。ひとまず#15Kが楽に根尖を通過して交通が確保できるようにしてから、ウェーブワンゴールド:スモールで拡大し、次にレシプロックR25で拡大。太いもんだからすぐ終わる。要するにあまり根管壁に触れていない。ファイルに付着してくる削片は割りかし綺麗なそれだが、感染根管でレシプロックR25で終えるのは拡大不足だろうとR40→R50でも拡大形成。アペックスは手用ファイルでバランスドフォースで仕上げる。45号→50号。EDTA→ヒポクロ→EDTAを、各洗浄液が混ざらないように注意して交換洗浄する(ヒポクロもEDTAも、お互いが触れ合うとその効力を失うから)。クイックエンドが忙しく活躍する場面でもある。

#50のマスターポイントが作業長通りにアピカルシートに位置したので、側方加圧プラスダウンパックで根充。これは要するにフツーに側方加圧なポイントの充填を行った後、スーパーエンドαなどの加熱加圧器具を用いて根管口部でスカッと切断し、剣山みたいになったポイントを除去して、手用プラガー(大)で切断面をコンデンスして、そのあとにダウンパックを加える手法である。

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早口で喋ったみたいな文章記述はさておき、確認デンタルでこうなった(写真)。ダウンパックの深さが不足しているのが一目瞭然だが、これは私がヘボでビビりだからである。シーラーはMTAフィラペックスである。抜髄根管の根充ではAHプラスを、感染根管の根充の時はMTAフィラペックスをと使い分けはしているが、意義はあまりなさそうだ。MTAフィラペックスが切れたらシーラーはAHプラスだけにする予定である。造影性が微妙に弱い点ご強気な値段が引っかかるのである。それにMTAは、シーラーに混ぜて使うよりもズバリそのまま使う方が良い材料であろう。自費の根充になるからやったことないけど。

なんの話だったっけ。あ、そう1根管の第二大臼歯は低い確率ながら存在するって話でした。



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※例によってこれは「ENDODONTICS PRINCIPLES AND PRACTICE (5th edition)」からです。
posted by ぎゅんた at 13:03| Comment(4) | TrackBack(0) | 根治(実践的) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年01月21日

失活歯髄根管の攻め方


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79歳の男性。左上奥歯に歯茎におできが出来て歯医者に行ったが「問題ない」と言われて放置していたが、変わらず消えないままだと来院された。

サイナストラクトが#26頬側歯肉に存在している。デンタル写真で、MB根尖とDB根尖とにかけて不穏な透過像がある。#27が感染根管であるのは間違いないが、サイナストラクトの原因歯と断定はできない。サイナストラクトからアクセサリポイントを挿入して撮影したところ#26のDB根尖付近を指した。打診痛はないが、打診時の違和感は訴える。電気歯髄診で陰性を示す。遠心充填部からの微弱なリーケージで緩慢な歯髄死が続いていたのだろうと思われる。原因歯と診断し、患者に説明する。

ここからは、浸麻の有無をどうするかを考える。
「サイナストラクトを形成するような感染根管だから歯髄は完全に死んでいるだろう」&「電気歯髄診で陰性だった」ことから無麻酔で始めることはできる。しかし歯科医師は、しぶとく生き残るあのC繊維の存在も知っている。余計なタイミングで鈍い痛みを訴えるアレだ。

即ち、歯髄死に至った根管=浸麻不要と考えるのはいささか早計である。同様に、前医が抜髄処置を施した根管に手を出す時も、残髄の存在を否定してはいけない。したがって、最初から決め打ちで浸麻をして根管治療を始めてもおかしくない。海外では、根治は常に浸麻下で行うと聞いたことがある。

私はまず、浸麻をしないで髄腔に向けて切削を始める方法をとった。歯髄が死んでいる診断に自信があったというよりは、髄腔開拡で髄腔に向けて切削をしていくのだから、知覚があれば切削してすぐに痛みを訴えるだろうと考えたからでもあるし、「ホラ、神経が死んでいるから、痛みを感じないのですよ(エヘン)」と患歯の病態と診断の正しさを誇示したい小賢しさがあったからである。

注意しておきたいのは、「失活歯で歯髄は痛みを感じないはずだから浸麻しないで処置しよう」と短絡的に考えはならないことだ。電気歯髄診で陰性であっても、ファイルを根尖付近に到達させた時に痛みを訴えられることはしばしばある。歯科麻酔学的にも、疼痛を感じた後は閾値が低下して局所麻酔が奏功しにくくなることから、「後出しじゃんけん」は良くない。良くないけれども、浸麻なしでできちゃうことも多い。

このような場合は、患者さんに「根っこの治療は、不意の痛みを伴うことがありますので、不安でしたら麻酔をした状態で治療しますよ」とあらかじめ伝えるとよい。浸麻を希望する人は経験的に30%ぐらいである。

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この人は麻酔しなくていいよとのことだったので、ひとまず髄腔穿孔させていった。予想通り、なにも痛みは訴えずないまま露髄点が3つでた(上写真)。先端が鈍なバーでつなげば天蓋が取れるので髄腔を整理する。頬側はMBもDBもともに完全に失活していた。P根の根尖部ではわずかに痛みを訴えたが、そのままネゴシエーションして#15のPatencyを確保する頃には痛みを訴えなくなった。

サイナストラクトの原因が頬側2根と睨んだので、MB(MB2はなかった)とDBをまず攻略。バージンキャナルなので、根管の走行を逸脱させたくないのでNiTiで根管の形成をする。Patencyとグライドパスを確保してからウェーブワンゴールドで拡大。狭窄根管でもあるのでスモール:20/.07から開始し、プライマリ:25/.07まで拡大を終える。歯髄壊死の感染根管だが、この時点でファイルに付着してくる削片が既に白い。根管洗浄してペーパーポイント:30/.02を挿入するとMBは水分のみだが、DBからは汚染が付着しきた。根管洗浄不足と考え、更に洗浄を行ったところ、汚染の付着がなくなった。P根の拡大形成は次回に回して仮封。目論見通りなら、頬側歯肉のサイナストラクトは縮小や消失に向かうはずで、それを確認したい気持ちがあった(保険診療エンドでこれ以上の時間はかけられなかった泣き言事情もここに加わる)。

一週間後の治療時に確認したところ、歯肉のサイナストラクトは赤黒い外観から、歯肉に同化するように溶け込んだ縮小状態で確認された。術後疼痛もなかったとのことで、患者さんは喜んでおられた。この瞬間はエンド診療の醍醐味のひとつである。ただ余計なものを取っ払って生体の治癒力が発揮されるように手伝いしただけに過ぎないが、これは歯科医師にしかできない仕事だからだ。

サイナストラクトを、診断と治療でもって速やかに消失させることができると、患者さんから大きな信頼を得ることができる。小さいことだが、こうしたものの積み重ねが後になって利いてくる。積立投信みたいなもんである。

最近の私のNiTi事情や根管洗浄の詳細はまた別の機会に紹介できればと思う。



※sinus tract とは、いわゆる「フィステル」のこと。AAEが2003年に取り決めたらしい。臨床上、フィステルの方が名前の通りがいいが、言葉の定義からもサイナストラクトと呼ぶべきである。このへんは寺内吉継先生のビジュアライズド イラストレーションズ How to Endodontics(P20)に詳しい。
posted by ぎゅんた at 22:37| Comment(8) | TrackBack(0) | 根治(実践的) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする