2023年09月10日
根管内の破折ファイルの除去
最近の臨床から、破折ファイルの除去について思うところがあったのでクソ記事を書くことにした。
今まで、根管内にある要除去破折片は、私はどれもを超音波チップで除去してきた。
要破折片(多くが手用ファイルやNiTiファイルの先端部分)を除去する手法は、現在とは異なりマイクロスコープがエンドで使用されてもいないような時代に、私の師匠が見せてくれたので印象深い。診療フロアの片隅に物干し台の様に埃をかぶっていたMANIの初期のマイクロスコープとオサダのENACにエンド用チップで除去していた。
さてこのMANIのマイクロスコープ、可動部が重々しいことから取り回しがも悪く、ハロゲンの明るさも昨今のLEDのそれに比べて低かった。外部モニタに映像を出力させることもできていたが、様々な機器を「挟ませる」必要があったので、大変な手間であった様に思う。チェアサイドが一気に物々しい存在感に支配されるのであった。フロアの動線に干渉が生じる始末であった。だから、特別な場面でなければマイクロスコープは単独使用することになった。
根管内に刺さる様に引っかかっている破折片に、微振動するチップを当てて緩ませればプッと飛び出してくるよ、と言って割合に苦労するまでなく除去していた様に思う。当時の私はやる気がない大学院生(歯医者になって2年目)で、根管内の破折片を除去するトピックに興味はあったものの、どの様なチップをどのようなパワーで用いるとか、チップの取り回しの勘所など、肝心の点を記憶に留めていなかった。これは、なにも知らないのと同じことである。
往時は、根管の中にファイル折れ込ませてしまうことは頻発していたように思われる。なにしろ空いてない根管を相手にするのが普通であった。手用ファイルは「回すんじゃねえぞ」と実習であれだけライターに釘を刺されて育ったのに、実際の臨床現場では誰もがファイルのネジ巻き作業員と化していたのだから。指にタコができるほどファイルをこねくり回して根尖まで開けたら褒められたりした。それはただの人工根管であるが、そんな考えすら脳裏になかったのだった。
いずれにせよ、根管に手用ファイルを挿入したらすぐに回す悪癖が常態化しているものだから、ファイル先端のピッチは伸びるし、当然ながら破折する結末を迎えることになる。もう下手に根管内をいじくり回さずにイオン導入法で根管内を消毒して終わらせた方がマシなのではないか?と考えたりした。
私の思い違いでなければ、当時のエンド臨床はこういうものだったはずだ。開かない根管を相手にしてどうやって治療を終わらせていったのかというと、ただ根尖歯周組織の炎症を慢性化させて誤魔化していただけなのだ。頑張ってネゴシエーションして根管の走行を損なわぬようstep-back praparationで拡大形成を進めて偉くなった気分になっても、患者はフレアアップを起こして戻ってきたりもする。
今にして思えば、根管洗浄の不備でdebrisを根尖から押し出しまくった結果だとわかるが、未熟な術者は自分術式が否定されたと受け止める。畢竟、エンドは真面目にやってもシンドイだけで報われないし保険点数まで低い、ということで面白くない。厭戦的になるのである。私がそうだった。歯を残す、というのは歯科医師に課せられる偉大な使命であることに疑いはもたなかったが、エンドで歯を残せる歯科医師になれる自信は持てなかった。エンドで歯は治せないから、無理に保存して根尖歯周組織の破壊が進行する前に抜歯してインプラント早急に咬合機能を回復させる、というムーブメントが醸成されていた時代だったようにも思う。
個人的な思い出話などどうでもよくて、この記事で肝心なのは、除去したい破折ファイルを具体的にどうやって除去するか?である。
ひとまず、私自身が成功させてきた破折ファイルの除去は、以下の組み合わせである。
・スプラソン P-MAX2
・E8という型番の非注水チップ
・エンドモードでパワーメモリは4
・破折片は目視で確認できる(ストレートアクセスできる)
破折片にE8チップを当てて振動を加えるとプペッと飛び出す感じで除去できる。
特に今回のような症例であれば簡単だ。
理想的にはE8よりもっと細いチップを注水下で用いるのが良い気がしている。その場合は、必要な振動の確保のためのパワーを変更する必要あるかもしれない。
除去用チップは高価で出番も少ないアイテムなので好奇心の赴くままアレコレ試しにくいが、機会があれば別のチップでの除去を検討して術式を報告してみたいところだ。
2022年06月22日
3D-cleaning and disinfection という重要な概念
(前回の記事の続き)
Ruddle先生よりご返信をいただいたので、私は卑近な症例のデンタル写真を送りつけることにした。その写真は根管充填後の写真で、根尖部で側枝にシーラーが流れ込んでいることが明らかなものである。すなわち、根管洗浄によって根尖部の三次元的な清掃と消毒が達成されているからこそ、根管充填後にそのような写真が得られるのである。肝心の根管洗浄時にはエンドアクティベーターを使用している。根管洗浄液は、ゴールドスタンダードであるEDTAとヒポクロだけである。
電子メールの送信が一瞬で終わるなら、Ruddle先生からの返信は電撃的で、しばらくしたらもう返信が届いているのであった。
Thanks for your kind words.
It was my pleasure seeing your endodontic treatment of the mandibular second molar.
Great shapes, and your 3D obturation reveals the importance of 3D cleaning and disinfection.
Great result!
やったぜ。
当然ながら多分に世辞的なものがあるのは当然でその点は差し引くが、それでも世界的に高名な先生からお褒めの言葉が貰えると感動してしまう。ここのところ、自分のエンドは漫然としたものがあって日々の臨床に停滞感があったが、ありがたいことに前向きな気持ちが湧いてきた。やはりエンドは楽しい。
さてエンドアクティベーターとEDDYであるが、使用しての根管洗浄の効果に有意差はないと思われるので扱いやすい方を選べばよいと思う。私は細い根管にはEDDY、そうでもない根管にはエンドアクティベーターを使用している。ただ、EDDYの方が(患者さんにとって決して愉快ではない)余計な振動がないし、根管という狭い空間を手早く洗浄するには向いている気がする。エアスケーラーに装着すればいいだけなのでEDDYの方が臨床医向きかもしれない。
2022年01月14日
SEC1-0で狭窄根管のネゴシエーション
根管治療を開始するに際して、ネゴシエーションは誠に重要なステップである。それはとりもなおさず、Patencyを確保したいからである。
解剖学的に本来的な根管が大きめであったり、歯髄腔に二次的な変化がない根管なら、通常は根管に挿入された12号程度のストレートのSSファイルは自然に根尖まで到達する。この操作は、とにかく指で把持しているファイルを「回転させない」ことを強く意識して落ち着いて行えばそう難しいものではない。挿入したSSファイルは、根管壁をガイドに導かれるように根尖孔にまで到達するようなっているからである。ファイルに与えられるのは上下の「抜き差し」的な運動だけであり、回転させる必要性はないのである。
もし先生がファイルを回転させてネゴシエーションを行っているのが癖になってしまっている場合は矯正が必要である(私も最初はそうだった)。したがって、最初は違和感を覚えるかもしれない。けれども、ファイルを回転せずにネゴシエーションするのはそう難しい手技ではない。抜去歯牙で試してみれば、すぐに納得できよう。
ただ、我々が臨床で相手をする根管の大部分は、そう簡単ではない。再根管治療のケースのみならず、加齢や咬合の影響を受けて狭窄した根管であることが殆どだからである。いきおい、ネゴシエーションの難易度は高くなる。
高齢者でよく見られる、前歯部根面齲蝕を原因とする歯髄炎の根管治療では、処置前のデンタル写真上で歯髄腔が既に埋まってしまっているような所見を確認することが少なくない。場合によっては根管口を見つけることに難渋したりもするし、根管自体、完全に閉塞して消失してしまっているのではないか?と思わされることもある。私の経験上では、根管口はなんとか見つかることが多い。ただし、著しい狭窄根管であることからネゴシエーションの難易度が高いことがセットであることも多い。
この場合、指でネゴシエーションを行うのは骨が折れるチャレンジになる。#08Kのような細いファイルは、不用意な力加減や指の操作で容易にへしゃげてしまう。ファイルも、抵抗があってなかなか先に進まない。
上下の抜き差し運動のみでネゴシエーションを狙うわけであるが、著しい狭窄根管では、不安になるほどファイルが先に進まなかったりするので、いきおい、ファイルを回転させてリーミングの力でファイルを根尖に送り込みたくなる気持ちが術者に湧く。
その場合もバランスドフォースのような繊細な操作をすればレッジを形成することは避けられるが、いずれにせよネゴシエーションにかかる時間と労力は大きなものとなる。
本記事のタイトルのは、このシチュエーションに対する私の解答である。きっつい狭窄根管のネゴシエーションも、器械の力で楽に達成できるからである。ネゴシエーション自体の成功率も、手技の場合よりも遥かに高く期待値が高いことを確信している。SEC1-0が使えなくなったら、私はエンドができないかもしれない。
さてそのネゴシエーションのための使用法はシンプルである。
・根管を見つける
・新品の♯08KファイルをSEC1-0に装着する
・♯08Kファイルにエンドミニを噛ませてEMRと接続させる
・RCプレップ等の潤滑剤を付けて根管に挿入
・ペダルを踏んでSEC1-0を動作させつつ、ファイルが根尖に向かうようにゆっくり動かす
・ファイルは自然に根尖に到達して穿通してEMRが鳴る(ネゴシエーション達成)
・新品♯10Kに替えて同様の操作を行う
この後は♯12Kを指で操作してPatencyが得られていることを確認してからプログライダーでグライドパスの形成を行なっている。これらの手順は、慣れれば小さな労力であっという間に達成できる。
極端に強く狭窄している根管では、08Kであってもネゴシエーションに苦戦することがある。その場合は、ファイルが根管に食い込んでいる感触があることを前提に、根尖方向に押してファイルを強制的に進めることもある。おそらく、推奨されない使用方法であると思うのでここは術者の判断が問われる。
SEC1-0用いたネゴシエーションは確実性が高いが、調子に乗ってウェーイwwと乱暴な操作をすればファイルをへしゃげさせて無駄にしてしまったりファイル先端を折れ曲がらせtr破断させたりレッジを作ったりするので、過信は禁物である。色々な手用ファイルで試してきたが、マニーのKファイルが最も精度が高くファイル先端の靭性に優れてバランスが良い。ここは術者の好みもあると思うが、少なくとも私は手用ファイルはマニー製だけを愛用し続けている。
ダウンロードは🎥こちら
SEC1-0はこんな風に動作します。
パワーの細かな調整はあまり必要としません。ベタ踏みフルパワーで可。
そのかわり、独特の音と振動が出るので患者さんには予め説明しておこう。
ラベル:SEC1-0
2021年10月29日
根管洗浄 最近はコレばっかり
根管洗浄という、エンドの中のひとつのステップは今も私の関心を引いている。
ペットボトルの蓋に抜去歯牙を石膏で固定植立させてエンド実習をした学生時代、次亜塩素酸ナトリウム水溶液とオキシドールをピペットとミニウムシリンジ用いて歯の中に満たして発泡させて「なにやってんのコレ?」と思ったあの時から、ずっと私の心の中に印象深いステップとして在り続けている。子どもの頃から洗面所やトイレといった水回りの掃除が好きだったことが影響しているのかもしれない。
今の職場で働き始めてから、根管洗浄で用いる器具にはアップデートが繰り返されてきた。
最初こそ金属製エンドチップを超音波洗浄で用いていたが、30G洗浄針+ディスポシリンジの陽圧洗浄に切り替えたのを皮切りにヨシダのクイックエンド、エンドアクティベーター、Er:Yagレーザー、EDDY、とバリエーションが豊富になっていった。
自分のエンドのスタイルが確立されていくに従って、根管洗浄で用いられる器具には一定の傾向が出始めた。クイックエンドは根管洗浄ではなく吸引乾燥に、根充直前に根管をヒポクロで満たしたらエンドアクティベーターで攪拌、Er:YAGは準備が手間なので殆ど使わない(馬鹿にできない要因)、etc.
根管洗浄といえば、17%EDTAでスメア層を除去して次亜塩素酸ナトリウム水溶液で有機質溶解と殺菌を行うイメージが強いだろう。もちろん、これは間違いではないし極めて重要なメソッドだ。
ただし、根管洗浄のステップ全てでこの手順を踏むと手間と労働力が高すぎる気がする。毎回の根管洗浄でスメア層の除去を行うまではしなくとも、根管壁に付着したdebrisを剥離させて根管洗浄液中に遊離させて洗い流していけば良いと考えている。これとて、オーソドックスなシリンジ洗浄(陽圧洗浄)では案外に達成できていない。根管壁にへばりついた泥のようなdebrisは少々の液体の流れには動じないからである。
ブローチ綿栓で根管壁を雑巾掛けのように拭えば強い物理的除去作用があると思うが、唾液なりで汚染されているであろうグローブ手指で形成したブローチ綿栓を根管内に挿入するのは抵抗がある。場面場面で色々な手法を都度、自己判断で適応させれば良いのであろうが、私のような楽をしたがる凡人は、ハンディでオールマイティな手法を望むことになる。
最近まで私はエンドアクティベーターを愛用してきた。これは、根管内を満たした洗浄液をプラスチックチップをソニック振動させて攪拌することで根管壁のdebrisを浮遊させて洗い流すことできると考えたからである。使おうと思ったらすぐに使える取り回しの良さも見逃せない長所だ。
あるとき、既に大きく拡大されていた根管の再根管治療時に思うところあってEDDYでの根管洗浄を試みた。根管が太ければ、根管洗浄時に洗浄液の根管内での動態が肉眼で観察しやすいからである。蒸留水でシリンジ洗浄した際に、EDDYのチップを挿入して動作させると、洗浄液中に埃が毛羽立ったかのような様相が見えた。私の心は踊った。根管壁にへばりついていたdebrisをEDDYがあっという間に浮かび上がらせたのではないか?と考えたからである。また、エンドアクティベーターよりも遥かにその効果は高いように思えたからでもある。
シリンジでの陽圧洗浄は洗浄液を根管内に効率よく輸送するだけで、さしたる「洗浄」効果はないのだろうと漠然と思っていた。ニードルの物理的な接触や先端から排出される洗浄液に接しただけで浮かび上がるような微弱なdebris程度なら洗浄時の除去は期待できるけれども、根管内、ことに根尖部のdebrisを浮かび上がらせて洗浄できるわけはないと思っていたからである。それを克服するために、エンドアクティベーターを用いていたのだ。もしEDDYがエンドアクティベーターよりも早く効率的に根管-根尖部の洗浄を達成できる器具なのであれば実に心強い武器になる。
浅薄な私は、簡単な実験を思いついた。
マイクロチューブ内にリン酸エッチングのジェルを入れて水を満たす。その状態だち、リン酸ジェルは水に溶けないので壁にへばりついている。それを根管とdebrisに見立てて、自分が用いている根管洗浄を適応し、ジェルがどうなるかを確認することにしたのである。
結果、ジェルの攪拌除去にはEDDYが圧倒的なパフォーマンスが期待できるのではないかと思った。ジェルとdebrisが同じ動態を示すと考えるのは安直に過ぎるが、EDDYはあっと間にジェルを洗浄液中に溶かしてしまった。エンドアクティベーターは、EDDYに比べると時間が必要であった。EDDYはエンドアクティベーターに比べてキャビテーション作用が期待できるからだろうか。クイックエンド、シリンジ洗浄、Er:YAGではジェルの攪拌は期待できなかった。実際のdebrisは、このジェルよりは除去は容易であろうが、それにしてはEDDYのパフォーマンスは頼もしく驚異的に思える。
再生できない場合、ダウンロードは🎥こちら
そんなわけで今の私は、根管洗浄時にはEDDYをルーチンに使用する様になった。
好意的な解釈ではあろうが、EDDYを使用した根管洗浄を行うことで術後疼痛の発現が減った気がする。
また、根充前にはEDTAとヒポクロを用いているが、その際もEDDYを使用する。このことで根尖部の三次元的な清掃消毒が達成されるのであろう、根充後の確認デンタルで側枝へのシーラーの入り込みが観察されることが増えた。シーラーパフや側枝へのシーラーの入り込みは、少なくとも根尖部の清掃が達成されて加圧が加わったことを意味するので、自己満足なところもあるけれども、確認できると嬉しいものだ。
あとはEDDYの価格がもっと下がってくれることを願うばかりだ。
円安だから厳しいだろうな……
2021年08月19日
アクティブな根管洗浄も加える
根管洗浄については、幾度と記事にしてきた。
それはきっと、個人的に根管洗浄というひとつのステップが好きだからである。
思えば子どもの頃から水遊びには夢中になったり、水路を眺めているのが好きだった。きっと私は、液体が狭いところや隘路を流れる物理運動が本能的に好きなのだと思う。用水路なんて人類が産みだした至高の発明品だと思うし、ロマンを感じる。
なお、根管洗浄液は論文上でしばしば irrigants と表記されているが、これは灌漑用水の意味である。
今の若い先生方や歯学生たちは、歯内療法学の教育内容が様変わりしているだろうから、当てはまらない話だろうと思うけれども、私が学生だった頃や研修医になった頃の「根管洗浄」は交互洗浄のことを意味していた。それからすぐ、変遷が始まって、まずエンドチップを超音波洗浄で用いるPUI(passive ultrasonic irrigation)が流行った。洗浄液はヒポクロか、超音波洗浄器からの水(ユニットに供給される水)が殆どであった。現在では、どこの誰でも根管洗浄液のゴールドスタンダードはEDTAとヒポクロだと知っている。当時、スメアクリーンを使用している先生は私の師匠をはじめ、相当の少数派だったように思う。
なお、エンドチップを超音波洗浄で用いるまでは良いが、誤った操作によってチップをシャープペンシルの芯のごとく根管内で破折させまくる事例が相次いでいた。あまりにも破折するものだから、研修医にはエンドチップ使用禁止令が発令したほどだ。
なんだかんだ、臨床現場での実態は、交互洗浄と3wayシリンジからのウォータースプレーがメインだったのだ。交互洗浄は、オキシドールを注いだときに鮮やかに発泡するから、それは気持ちの良い消毒ができたと術者を満足させるのだが、根管洗浄で重要なターゲットとなるのは根尖部である。それは、髄腔を幾らか綺麗にするよりも優先されなくてはならない。
今考えれば、ネゴシエーションやPatencyの概念もなくリカピチュレーションも意識せず、ましてラバーダムもNiTiファイルも使用せず、根管口付近をチョロっと洗い流して終わる「根管洗浄」をしていたわけである。根管内は根尖孔から根管口にかけて debris まみれだったに違いないし、満足な拡大形成もされていなかっただろう。
根管充填にしても根管の仮封操作の域を出たものではない。根管充填後に根尖歯周組織に慢性炎症が惹起されていたのが、その程度が弱ければ宿主の免疫力による庇護で症状が発現しなかっただけのことを「予後良好」と信じていたに過ぎない。どれほど低レベルのエンドをしていたのか(それも大学の保存科で)、まったく、背筋が凍る思いだ。
私の思い出話などどうでもよくて、現在の私は根管洗浄で交互洗浄は行なっていない。ファイル操作ごとにイリゲーション用ニードルをつけたディスポシリンジ(洗浄液はEDTAと0.5%ヒポクロ)での陽圧洗浄、ヨシダのクイックエンドでの吸引洗浄をメインに行っている。
根管充填や仮封前に根尖部1/3(apical delta)の清掃消毒を目的に行う根管洗浄の際には、エンドアクティベーターによる可聴域振動洗浄やエアスケーラーにEDDYチップを装着しての超音波洗浄、ヒポクロを満たした根管にマスターポイントを挿入して上下運動を加えたりEr:YAGレーザーで溶液内に気体を発生させての攪拌洗浄を行ったりする。
こうした、根尖部の清掃を目的にした根管洗浄操作の後に陽圧洗浄を行うと溶液中に浮遊してきた debris の存在が確認できる。少なくとも陽圧洗浄だけでは根管洗浄は不十分と言わざるをえない※。
一時期はXP-EndoFinisherも使用していたが、ランニングコストがかかりすぎるのでやめた経緯がある。パクり品の、FANTAのAF-MAXに期待した時期もあるが、結局は日本国内で発売されないし輸入してまで使用するメリットはない。
金属性のエンドチップ用いた超音波洗浄は、根管壁に触れれば少なからず切削したりスメア層が発生するし、そもそも破折の危険性もあるので取り扱いが神経質でストレススフルであるから一切、採用していない。使用するのは、根管壁に接触してもなんら一切の切削能力をもたない非金属のチップに限定している。
根管洗浄液もEDTAとヒポクロがメインであって、クロルヘキシジンやMTADなど一歩先を進んだものは採用していない。
根管洗浄で何を使用すれば良いか?を考えるとコスト面での戦争が始まりキリがないのが正直なところだろう。私個人としては、陽圧洗浄にプラスしてなんらかの、先生方の診療スタイルに好都合な、根尖部の確実な清掃と消毒を約束するテクニックを用意しておけば良いと思う。EDDYかエンドアクティベーターを用意するのがオールマイティに対応できそうな気がする。
最近のマイブームはEr:YAGレーザーを用いた根管洗浄だが、湾曲根管では適応が難しいこと、根尖部を破壊しかねないリスクがあること、準備が面倒なこと(意外に重要)がネックである。
それはきっと、個人的に根管洗浄というひとつのステップが好きだからである。
思えば子どもの頃から水遊びには夢中になったり、水路を眺めているのが好きだった。きっと私は、液体が狭いところや隘路を流れる物理運動が本能的に好きなのだと思う。用水路なんて人類が産みだした至高の発明品だと思うし、ロマンを感じる。
なお、根管洗浄液は論文上でしばしば irrigants と表記されているが、これは灌漑用水の意味である。
今の若い先生方や歯学生たちは、歯内療法学の教育内容が様変わりしているだろうから、当てはまらない話だろうと思うけれども、私が学生だった頃や研修医になった頃の「根管洗浄」は交互洗浄のことを意味していた。それからすぐ、変遷が始まって、まずエンドチップを超音波洗浄で用いるPUI(passive ultrasonic irrigation)が流行った。洗浄液はヒポクロか、超音波洗浄器からの水(ユニットに供給される水)が殆どであった。現在では、どこの誰でも根管洗浄液のゴールドスタンダードはEDTAとヒポクロだと知っている。当時、スメアクリーンを使用している先生は私の師匠をはじめ、相当の少数派だったように思う。
なお、エンドチップを超音波洗浄で用いるまでは良いが、誤った操作によってチップをシャープペンシルの芯のごとく根管内で破折させまくる事例が相次いでいた。あまりにも破折するものだから、研修医にはエンドチップ使用禁止令が発令したほどだ。
なんだかんだ、臨床現場での実態は、交互洗浄と3wayシリンジからのウォータースプレーがメインだったのだ。交互洗浄は、オキシドールを注いだときに鮮やかに発泡するから、それは気持ちの良い消毒ができたと術者を満足させるのだが、根管洗浄で重要なターゲットとなるのは根尖部である。それは、髄腔を幾らか綺麗にするよりも優先されなくてはならない。
今考えれば、ネゴシエーションやPatencyの概念もなくリカピチュレーションも意識せず、ましてラバーダムもNiTiファイルも使用せず、根管口付近をチョロっと洗い流して終わる「根管洗浄」をしていたわけである。根管内は根尖孔から根管口にかけて debris まみれだったに違いないし、満足な拡大形成もされていなかっただろう。
根管充填にしても根管の仮封操作の域を出たものではない。根管充填後に根尖歯周組織に慢性炎症が惹起されていたのが、その程度が弱ければ宿主の免疫力による庇護で症状が発現しなかっただけのことを「予後良好」と信じていたに過ぎない。どれほど低レベルのエンドをしていたのか(それも大学の保存科で)、まったく、背筋が凍る思いだ。
私の思い出話などどうでもよくて、現在の私は根管洗浄で交互洗浄は行なっていない。ファイル操作ごとにイリゲーション用ニードルをつけたディスポシリンジ(洗浄液はEDTAと0.5%ヒポクロ)での陽圧洗浄、ヨシダのクイックエンドでの吸引洗浄をメインに行っている。
根管充填や仮封前に根尖部1/3(apical delta)の清掃消毒を目的に行う根管洗浄の際には、エンドアクティベーターによる可聴域振動洗浄やエアスケーラーにEDDYチップを装着しての超音波洗浄、ヒポクロを満たした根管にマスターポイントを挿入して上下運動を加えたりEr:YAGレーザーで溶液内に気体を発生させての攪拌洗浄を行ったりする。
こうした、根尖部の清掃を目的にした根管洗浄操作の後に陽圧洗浄を行うと溶液中に浮遊してきた debris の存在が確認できる。少なくとも陽圧洗浄だけでは根管洗浄は不十分と言わざるをえない※。
一時期はXP-EndoFinisherも使用していたが、ランニングコストがかかりすぎるのでやめた経緯がある。パクり品の、FANTAのAF-MAXに期待した時期もあるが、結局は日本国内で発売されないし輸入してまで使用するメリットはない。
金属性のエンドチップ用いた超音波洗浄は、根管壁に触れれば少なからず切削したりスメア層が発生するし、そもそも破折の危険性もあるので取り扱いが神経質でストレススフルであるから一切、採用していない。使用するのは、根管壁に接触してもなんら一切の切削能力をもたない非金属のチップに限定している。
根管洗浄液もEDTAとヒポクロがメインであって、クロルヘキシジンやMTADなど一歩先を進んだものは採用していない。
根管洗浄で何を使用すれば良いか?を考えるとコスト面での戦争が始まりキリがないのが正直なところだろう。私個人としては、陽圧洗浄にプラスしてなんらかの、先生方の診療スタイルに好都合な、根尖部の確実な清掃と消毒を約束するテクニックを用意しておけば良いと思う。EDDYかエンドアクティベーターを用意するのがオールマイティに対応できそうな気がする。
最近のマイブームはEr:YAGレーザーを用いた根管洗浄だが、湾曲根管では適応が難しいこと、根尖部を破壊しかねないリスクがあること、準備が面倒なこと(意外に重要)がネックである。