2020年10月05日

エンドは保険でその後の補綴は自費で、ってのが患者術者とも幸せってな理想よねきっと

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ヘミセクションされた第一大臼歯の遠心根(根管治療履歴あり)が主訴の患歯

若い女性患者。前医にて「このまま放置」もしくは「抜歯して自費のブリッジ」の説明を受けていたが、心理的に納得できないということで来院。セカンドオピニオン希望。


この場合のベストは抜歯してのインプラントであろう。単純な話で、歯槽骨がリッチで天然歯を犠牲にする必要がなく、咬合を再建する上で予知性が高いからである。

再根管治療を行った場合、残された処置は単冠補綴か隣在歯を支台に求めたブリッジ補綴が考えられる。残根上の部分床義歯は年齢的に許容されるものではない。

個人的に歯科治療が達成すべき重要な目標のひとつは「噛ませる」ことだと考えているので、このケースではインプラント補綴がベストだと考える。ただし、私は目下インプラント処置を採用することができない。恥ずかしい話だが、当院ではインプラントの需要がないので導入しても採算がとれないのである。インプラントは歯科治療の引き出しとして常に用意しておきたい最重要オプションなのだが、現実は厳しい。

治療に対して患者とディスカッションを行った結果、根管治療による保存を希望された。根管治療後は単冠補綴(白い歯が良いということだからHJCかCAD/CAM)をゴールとして設定。治療対象は患歯のみ。保険診療。

このような場面を迎えると私の心は「本気を出すでぇ!」とメラメラ燃え上がるのを感じる(いつも本気じゃないんですか?という真っ当な質問は申し訳ないがNG)。「その歯に関して保険診療でできる限り最良の治療をお前は頑張れば良い」という、明確な目標が見えた上で治療の許可が降りた感じがするからであろう。

加えて、私自身の保険診療に対する観念が好意的である向きも影響している。歯科の保険診療なんて、そりゃ様々な不満や問題点があることは重々承知なのであるが、それでも保険医であることを選んだのは自分自身であるのだから節度と誇りを持って堂々と治療にあたる姿勢であらねばならない。患者が保険証を持って来院されたのであれば、まず保険診療でできうる最善の治療を実践することが最優先されよう。

ここに私は、駆け出しの研修医だった時分にお世話になった2人のメンターの背中を見る。自己犠牲を強いられることがあっても、国が保険医になって下さいと頭を下げていた時代はとうに過ぎアンタラ好きで保険医なんでしょコッチの言うことに従えよという態度を取られるようになっても、保険医であるなら保険診療を理解し精緻した上で診療に従事せねばならない。哲学的な要素を含むものだが、私自身の心は納得の上で完結している。それで、保険医であることを好意的に受け止めている。


話が逸れてしまったので根管治療に戻そう。

実のところ、保険の根管治療は、術者の考え次第ではあるが高水準な治療が可能である。CBCTの画像診断もラバーダム防湿下での治療もマイクロスコープを使用して治療するのもNiTiを使用した根管の拡大形成も、これらは保険診療で可能である。MTAを代表とする根管治療用の薬剤/材料の一部が使用できないだけである。

さはさりながら、ここには現実的な問題がある。これらの技術的な評価が保険点数に真っ当に反映されているといえないことである。つまりは、これらを駆使した根管治療を行うことはもちろん可能だけれども、その労力を温かく報いてくれるほどの診療報酬は残念ながら得られない。購入した器具や材料費、単位時間あたりの点数評価を鑑みれば保険の根管治療は持ち出しのボランティアみたいなものだ。

昨今は保険改定毎に根管治療の諸点数が微増しているので、以前ほど真っ赤部門でもないとは思うが、1日の治療が保険の根管治療ばかりであったら歯科医院の経営は成り立たないだろう。エンドが好きでない先生だったら発狂しかねないのではないか。

偏見かもしれないが、保険医は根管治療が好きでないと精神的に不安定になりそうでアブナイ気がするし、若い先生は少なくともエンドが苦手ではない(むしろ好き)状態に育って欲しいと思う。


さて、冒頭の患歯は治療が済んだところである。
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ヘミセク済第一大臼歯の単根管遠心根は不幸なことに頬側の髄床底に穿孔が認められた。GPを除去して根管内を通法通りに拡大清掃し、EDTAとヒポクロを根管洗浄液にエンドアクティベーターを用いて根管洗浄して滅菌ペーパーポイントとクイックエンド(ヨシダ)で根管を吸引乾燥して穿孔部封鎖と同時に根管充填を終えた。最終NiTiファイルはレシプロックR50、穿孔部封鎖にEBAセメント、シーラーはBCキャナルシーラーを用いている。

患者の希望が変わらなければ小臼歯大CAD/CAMで終了予定。思うところは色々あるが口にはしない。


(独り言)
こういうケースの補綴はゴールド冠が好きなんだけどな〜。審美に劣るメタル修復には違いないけども、ゴールド冠の外観は不思議な温かみがあるので案外に悪くないと思うんですよね。金パラや銀合金のそれと同じく歯垢が電気的に付着しがちだったりガルバニー電流発生の要因にはなり得ますけども、対合歯や他に金属修復物がないのなら、やっぱりゴールドが良いかなって思うわけです。次点がメタボンかな。

い、いえジルコニア冠が嫌いな古臭い人間というわけではありませんよ…
posted by ぎゅんた at 22:58| Comment(0) | 根治(考察) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年06月16日

歯根破折で困っちゃうのは人類みな平等


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え、マジで?

知人より、週刊ポストで歯科バッシングに近い記事が掲載されているとの報告があった。早速、当該記事を読んでみたところ、なるほどと思い至るところのある内容。

歯根破折に悩まされるのは患者さんだけでなく、歯科医もである。保険でファイバーポストコアが導入されたのも、従前のメタルコア・ポスト合着後につきまとっていた歯根破折のリスクを少しでも下げたいからに他ならない(補綴学会が声をあげてくれたハズ)。メタルコア・ポストがファイバーポストに置き換わった材料の変更だけで歯根破折がなくなったわけではないが、メタルコア・ポストに比べれば、歯根破折は予防できているようだ。もっとも、歯根破折に至る原因は複合的であるはずで、金属→レジンの置換は歯根破折防止のために配慮されるいくつかの要素の1つに過ぎないと考える。

さて本記事は「歯医者のタブー追求キャンペーン 第一回」とあるので、シリーズ連載されるもののようだ。古くは「歯の110番」に始まり、最近では讀賣新聞の「タービン使い回し」記事が記憶に新しい。特定の業界に対する第三者の指摘は、定期的に起こるイベントみたいな感じである。

近年は週刊現代が医科を、週刊ポストが歯科を熱心に取り扱っている印象を受ける。新聞が社会の木鐸なら、週刊誌は庶民の木鐸といったところあろうか。無論、それはタテマエであり、殊勝さのない「売れればいい(部数が伸びればいい)」ことこそがホンネである。ボランティアで雑誌を刊行するわけなどないからである。そんな中にあって、記者は商業的なバイアスと制約の中、己の信条を絡み連ねて記事を書いているのだろう。

日本の歯科業界には特殊なところがあるのであろう、昔からこうした内部に切り込んだ指摘や糾弾はなされてきた。火のないところに煙は立たずで、全てが正しい訳ではないにせよ、完全否定もできないようなところで落ち着いていくのが常である。世間は熱しやすく冷めやすい。そんな中、自戒の念を忘れずに「指摘されたこと」の改善のために行動に移す歯科医も出てくる(褒められることではないので、声に出さないだけだ)。

そういう意味では、第三者からの歯科への指摘というのは、良いことであると思うし、なくなるべきではないし、耳を傾けるべきである。偏向的で悪意に満ちたデタラメ記事でもなければ、目を通した歯科医の中から、自己反省や内省・考察により良い方向に動く者が現れるからである。

歯科に限らない話であろうが、どんな業界であれ、第三者のチェックがないと悪い方向に向かうものだ。株式会社に監査役が配置されるのも、名目上、それを懸念してのことだ。



さて本記事
普通の読者が通読すれば「歯医者は保存できる歯を安易に抜歯しすぎ。抜歯してインプラント治療に誘導しすぎ」という印象を受けるのではないかと思える。もっとも、「安易に抜歯しすぎ」に関しては、昔から言われていることである。「外科医はすぐに盲腸(虫垂)を切りたがる」と同じで、永遠に言われ続けるかもしれない。

ひとまず、抜歯以外に策がない場合は別として、まだ歯を残せる手立てがあるのであれば、それを無視することなく患者に提案する姿勢が歯科医師に望まれる、というメッセージを読み取ることができる。けだし正論であるし、歯を残すために尽力することは、歯科医師に求められる姿勢であると思う。

とはいえ、抜歯に至る原因が歯根破折である場合は例外的なのだ。

歯根破折=抜歯というのは、昔からの教科書的な不文律であり、歯科医師はそう教育を受けて育つ。歯根破折に伴う歯周組織を巻き込む急性炎症の惹起に数多く遭遇しているし、自らが手がけ治療した患歯が歯根破折によってスポイルされる経験もしているものだ。「破折、コノヤロー!」と思っていない歯科医師もまた、世界中のどこを探してもいないのである。

生活歯/失活歯を問わず、歯根に亀裂や破折が生ずると生体はどデカイ声をあげてパニックに陥り、生体より追い出そうとし始める。口腔内は最高のヘヴン・オブ・バクテリアなので、亀裂や破折に沿った炎症に細菌の修飾が加わって化膿性炎となる。こうなると歯茎は腫れるし痛くて噛めないし、患者さんは泣きっ面に蜂で歯科医院に駆け込むことになるのが常である。

こうした場面においては歯科医師、ことに開業医は「確実な結果」として除痛と解決策を提示しなくてはならない。沽券と評判に関わるからである。歯根破折に伴う苦痛の禍根は「その歯」なので、原因除去として抜歯を提案するのは自然なことである。ただ、抜歯は急性炎症時には局所麻酔が奏功しづらいことから、まず消炎後に行うことになるのが普通である。抜歯後、症状は原因除去によって消失し、欠損だけが残る。

歯根破折を前にして、抜歯に踏み切るか保存を狙うかは歯科医師の考え次第で左右される。繰り返すが、抜歯を選択するのが普通である。歯根破折をきたした歯は、基本的に炎症から休まることは考えられないからである。たとえ保存したところで慢性炎症を抱えた歯として口腔内-顎骨に存在し続けると考えられるし、そもそも歯としての機能を発揮できるものか不確かにすぎる。「しょっちゅうトラブルを起こすけれども口の中にいる」状態と「現在歯として口腔内で過不足なく機能している」のは、口の中に在ることは同じでも、意義として大きく異なる。

インプラント技術の台頭は、その黎明期は確かにミゼラブルなものであったが、弛まぬ研究の積み重ねによって、今では欠損補綴に対する余地性の高い治療法になっている。歯根破折や根尖病変によって保存が叶わない歯を抜歯した後の欠損補綴の第一選択かもしれない。たとえフィクスチャー埋入のための骨がなくとも、骨補填や人工骨を用いて応用する手法も確立され、歯周炎で歯槽骨のロスを伴う欠損部にも利用できるようにもなった。隔世の感がある。私は、このインプラントの急速な発展の軌跡の中に、歯根破折に懊悩する歯科医師がいかに多かったかを感じ取ることができるのである。

記事中には、「複数あるはずの治療の選択肢を提示しないのは、医療人として誠実とは言えない」とある。これには誤解があると思う。どんな歯科医師であれ、破折歯接着療法ついてはまず知っている。知っているけれども、信頼の置ける治療法として捉えていないので選択肢にあげていないだけである。歯科医師の大部分にとって破折歯接着療法は、例えは悪いが、がん治療の説明の際に主治医に「民間療法で治療する方法」を提示するような感覚に違いない。保険診療で対応できるならいざ知らず、自費治療で予後や結果が不安定な処置というのは、開業医であれば提示できないのが普通である。

実際のところ、破折歯接着療法も今ではインプラント治療と同じく信頼の置ける治療法として確立されているのかもしれない(推量系なのは、私自身がまだ破折歯接着療法を確実な治療のオプションとして身につけていないからである)。それでも、歯根破折があった時に、それを接着療法で治すことを提示しない歯医者の不誠実だと断定されるいわれはない。先述したように、欠損補綴には、いまやインプラントが予知性の高い方法として地位を確立しているからである。そしてまた、歯根破折で抜歯と診断した症例でインプラント補綴を成功させられる先生は、間違いなく基本手技が丁寧であり、信頼の置ける腕を有している。破折歯接着療法が自費診療で15-30万円のチャージなら、生着後の歯冠修復もまた自費診療となり5-10万の追加費用を要するだろう。インプラント治療に比べて格別に安いわけでも高いわけでもない。私自身なら、インプラント治療を選択する。自分自身の左下の奥歯に埋入されたインプラントが7年が経過したいまもストレスなく機能しているし、予知性が高いからである。


The success to preserve.
患者さんによっては、たとえトラブルを起こしやすい状態であっても、抜かずに残しておいて欲しいと願う人もいる。たとえ一本の歯にすぎなくとも、両親より授かった身体の一部であり長年を共にしてきた臓器だからである。そうした患者さんは、抜歯を回避する術を提示することに大きな意義があるし、また、破折歯接着療法は福音となるだろう。智歯の抜歯移植はなぜか人気がない。

当院にも、そういう患者さんはおられるため、意図的再植や外科的挺出などで保存を図る場面がある。案外に予後が良い。今では「次の一手」としての地位を確立しつつあるし、患歯保存のための次のオプションに臨床的歯冠長延長術も習得したいと考えているところだ。

破折歯に関しては、過去に「状態が悪いことは分かりましたが、抜歯はちょっと……延命ははかれませんか」と頼まれて色々とチャレンジしてきた(同様の先生も、多いはずだ)。

破折歯接着療法に関して稚拙な私の経験から言えそうなことがあるとすれば、破折に伴って生じた感染が重篤で歯槽骨の破壊が大きい場合は厳しいし、咬合圧が大きく加わる大臼歯絶望的なまでに厳しい。前歯部は比較的助けやすいが、やはり予後は不安定である(もっとも、私の経験症例数が少なく熟練度が低いことは無視できない)。

年齢や性別はそこまで予後を左右する因子ではない。非喫煙者であり、抜歯窩と破折部を含む歯根の感染の徹底除去と、再植後の固定をシッカリ確保して咬合圧から解放させることが重要のように思える。これは、意図的再植や外科的挺出でも同じことが言える。

総合的に述べるなら、破折歯接着療法は適応が難しいテクニックである。大臼歯に限っては、無理に接着療法に拘泥せずにインプラントを選択した方が安定した結果が約束されるだろう。


まとめ
破折歯接着療法は、その手技に熟達した先生であれば予知性が高い有効なテクニックかもしれない、としか今の私にはいえない。臼歯部での適応は、どうやるんだ?

歯根に生じた垂直性破折(VRF)に対して接着性レジンを用いた再植に関する論文を適当にWEB検索して読んでみても「前歯部に限ってなら、抜歯の前に考慮されるべき手法」みたいな、及び腰的な論調のものが数件ヒットする。海外では根管治療にせよインプラントにせよ、その治療費は(日本の治療費に比べて)高額であり、予知性の高い治療法こそが患者-術者にとって絶対とする土壌があるから、おそらくこれ以上の実践的な報告は出てこないだろう。

接着歯学、ことに象牙質へのレジン接着には日本人が大きく関わってきた経緯がある。海外の歯科医師たちの報告はさておき、日本から有効なデータと手法が発表されることで破折歯接着療法が予知性の高い手法として確立されることを祈るばかりだ。




余談
私が懸念するのは、歯根に破折があると嘯き「通常は抜歯になるが、こういう最新の治療法がある」と当該記事を患者に読ませ、偽の破折歯接着療法を行なって自費料金をチャージする小悪党の出現である。破折歯接着療法も外科的挺出も意図的再植もそうだが、歯槽骨が豊富に残っており歯根の感染が軽度であれば、たとえ抜歯後に再植しても良好に生着する。歯根に亀裂がある、と偽って抜歯して再植して固定すれば、なんら難しくないし予後も悪くない。加えてこれは自費診療であるから、その後の修復処置も自費で行える。「記事には15-30万てあるけど、ウチは10万でやるヨ(ニコニコ)」と説明したら、患者さんは喜んで承諾するのではないか。不幸にして失敗しても、それは神の思し召しということにすれば良い。

どこかの記事にも書いたが、専門家が素人を騙すことなど朝飯前のことだ。悪い心を働かせれば、小銭を素人から巻き上げることなど造作もないことなのである。だからこそ、プロフェッショナルには高い倫理観と人格が求められるのであり、高い社会的地位が約束されている。裏切りの代償は、まことに大きいのである。
 
posted by ぎゅんた at 21:04| Comment(4) | 根治(考察) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年05月16日

根管内にEr:YAGレーザーを照射してみよう


あーうぃんあどべーる.Jpg
こんなナリでも、トヨタ・ランドクルーザーが買えるお値段です

歯科用レーザーが臨床現場に台頭してきた時、その用途や対象は、歯牙硬組織の無痛的切削と歯周処置であり、根管内への照射は特に意識されていなかったように思う。穿孔部の処置の際の一手がせいぜいだったはずである。

歯学生当時、根管治療の実習でのストレスで胃を痛くしていた私は、なにかにすがる気持ちで丸善の売店で『エンドに強くなる本(増補改訂版)』を購入した。ときを経ていま本書を紐解いてみると、エンドへの歯科用レーザーの記載は「73 レーザーの根管治療への応用」の僅か2頁しか割かれておらず、論調も「〜が期待される」と弱い。

いずれにせよ、レーザーは根管治療と疎遠な印象であったレーザ光が照射された部位にしか効果がないと考えられたことから、複雑怪奇な根管内においてそれは効果をあげにくいと思われたからであろう。



借りパクしたいけど絶対無理そうなので色々と使ってみる
この度、モリタより『アーウィン・アドベール』を拝借できることになった。エンドへの応用について担当者に訊いたところ、マイクロエクスプロージョンによる攪拌効果で極めて高い殺菌効果が期待できることが分かっているのだという。

拝借中のアーウィンアドベールには根管内を照射できる専用チップ(R135T、R200T、R300T)は付属していないものの、P400FLで代用ができると説明を受けたので実地にて確認することにした。

厳密な実験ではないので、「あー、この場合なら使ってみようか」と感じた場面で用い、使用後の根管内の変化と予後が良好であるかどうか程度で判断する極めて適当なものである。

結果
・「根管内の殺菌」の意味で、効いてる気がする。
・根尖部が大きく破壊されている根管(再根管治療の根管)が対象な気がする。
・下手に使うと根尖部を壊しそう

担当者から動画つきで受けた説明を個人的解釈の元に解釈すると「ヒポクロを満たして発泡反応もない、綺麗に消毒されたと判断される根管にチップを挿入してレーザーを照射すると、ホラ、こんな濁りが発生します(汚れの取り残しがあったんです)!」とのことであった。

「濁るのはオメー、レーザーが照射された根管壁が吹っ飛んだからじゃないの」と思うのだが。
ヒポクロを満たして、照射によって汚れが除去されたなら発泡してきそうなものだ。

それか、根管内の除去されるべき debris が根管内照射による溶液に生じたマイクロエクスプロージョンによる攪拌効果で根管壁より浮き上がって生じた濁りなのであろう。根管内より debris を除去することが根管洗浄の肝であると考えるなら、もしこれが事実なら頼もしい効果であると言える。

しかしこれは、17%EDTAを満たしてエンドアクティベーターで60秒の攪拌でも達成できそうなものだ。
目下、私が使用している『エンドアクティベーター』の場合では、消毒を期待するには irrigants にヒポクロを使わなくてはならないだけだ。

根管洗浄の観点からいえばレーザーの方がクオリティが高いと思われるが、準備やコストの面で明らかに不利である。
高級車一台を購入できる価格のアーウィンアドベールを根管洗浄のために購入するのは変態を通り越して奇人の域であろう(そんな熱い先生がいらっしゃったら自分が患者だったら通院します)。



卑近な症例その1
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「4日前から左下の奥歯が痛む」を主訴に来院された患者さん。#37(近親傾斜)

FMCを除冠し、ダウエルモアを除去(ダブルドライバーテクニック+オートセーフリムーバー)し、ガッタパーチャ除去と根管の攻略。ネゴシエーションのためにSEC1-0とマニー10Kを使用。果たして、遠心根管はあっさりネゴシエーションができたが、近心根は達成できず(閉鎖と判断)。

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根尖部が既に壊れていたのか、感染象牙質として脆くなっていたのか、いずれにせよ30号が通過してしまう状態であった。
大まかにガッタパーチャの除去を達成したと判断したタイミングで仮封後に撮影した写真。

泣く子はニッコリのXP-エンドシェーパーを用いたら根尖部のGPがモリモリ除去できた。
もうこれなしでは生きられない……なんて言ったら大げさだが、これは本当に良いNiTiファイルだ。

リカピチュレーションしたファイルの先端や根管洗浄、クイックエンド使用時にGP片が確認されなくなってきたタイミングでEr:YAGレーザーをP400FLチップで照射。どこまで挿入するのかはファジーであるが、根尖部に近づけると30号のファイルが通過するほど大きくなってしまった根尖孔といえど、レーザーによって形態が破壊されてしまうだろうからやめるべきである、と考えて控えめな挿入に留める。「本当に効いているんかコレ?」という感触だが、確かに、根管内溶液に濁りが生じてきた。

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ダウンパックの痕跡が見苦しい確認デンタル(バックフィリングをしていない)。
ウェーブワンゴールドガッタパーチャ:ラージとニシカキャナルシーラーBG。



卑近な症例その2
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別の症例。「数日前から左下の奥歯が噛むと違和感がある」が主訴。

根尖部が#40Kが素通りするほど大きく破壊されていた根管。再根管治療。

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根管口直下のガッタパーチャを大まかに除去後にネゴシエーションし、エッジグライドパスでグライドパス形成し、泣く子はニッコリのXP−エンドシェーパーで根尖部のガッタパーチャを除去している。

その後、前述の症例と同様にP400FLで根管内照射をしたところ、軽い痛みの訴えと共に根尖部からの出血が確認された。
根尖孔を破壊したのかもしれないし、根尖歯周組織へのレーザーの到達が出血をきたしたのかもしれない。

これはまずいぞ!
しかし出血は直ぐに止まった。

根尖部が大きく破壊されている根管はMTA根充の適応であると思われるし、その予定なら出血の有無は予後不安因子にはならないはずなのでEr:YAGレーザーの使用は結果オーライ的に有益だと思われる。

とはいえ、意図的に出血させる目的でEr:YAGレーザーを根尖部に向けて照射するのは怖いし、憚られる。

意図的再植で口腔外で処置をする場合ならEr:YAGレーザーの使用に躊躇する理由はないけれども、その場合は目視下であるから、Er:YAGレーザーを絶対に使用しなくてはならない道理も引っ込んでしまう。

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保険治療の希望であったので、ポイント先端をアジャストさせたウェーブワンゴールドガッタパーチャとニシカキャナルシーラーBGで根充することになった。ダウンパックの痕跡が汚らしい。根充後の予後は痛みも泣く良好に推移し、安堵している。




というわけで、もし所有しているのなら、エンドに用いられる場面は少なくなさそう。

でもまあ、Er:YAGレーザーは歯周治療が独壇場だと思います。おわり。
 
ラベル:Er:YAG Laser
posted by ぎゅんた at 23:26| Comment(2) | 根治(考察) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年02月19日

セカンドオピニオン〜これは残せないので抜歯かなと言われた歯の行く末

来院される患者さんには主訴があります。
歯が痛い、歯茎が腫れた、詰め物が取れた、歯石を取って欲しい……etc

患者さんの治療に当たって、なにを重要視するか?は術者のポリシーが大きく関わってくるものです。

安定した治療を提供するためであると画一的な流れに乗せてしまうことを優先するタイプ
自院の哲学をまず懇々と説明してから医療面接を始めるタイプ
正当な医学的理由があれども主訴の解決を優先するタイプ
などなど。

多くの先生は、一番最後の「まずは主訴の解決」を優先するタイプなのではないかと思います。私自身がそうだから、同調の意見を欲するポジショントークでもあるのですが、さはさりながら、患者さんが「好き好んで誰が行くか施設」である歯科を受診するにはまず明確に理由があるわけで、それこそが主訴であるならば、やはりその解決を優先することが患者さんに寄り添う現代医療的姿勢であろうと思います。患者の主訴を叶えることが治療の成功であると考えてよろしいのではないかとも、思います。これは、まっさらな状態からお付き合いが始まる新患の患者さんであれば殊更に重要な姿勢ではないかと考えています。

そんな中、セカンドオピニオンを求めるタイプの主訴を抱えた患者さんもおられます。
この場合、主訴の中には前医の治療方針に納得できなかった心理が少なからず含まれることになります。

人間と人間には相性があるし、世の事象には、タイミング次第で幸福にも不幸にも振り分けられたりするランダム性があります。砂を両手ですくい上げれば指の隙間からこぼれ落ちる砂粒が必ず生じるように、どんな名医であれ良医であれ、全ての患者さんを満たせることは、残念ながらないのです。勿論、自分の力量不足で患者さんに不信感を抱かれてしまう未熟さが原因の場合もありますが。

セカンドオピニオンは、様々に複雑な経緯があって患者さんが前医の説明に完全に納得できなかったために生じたものと理解しています。

さて、「この歯は残せないので抜歯と言われたが、どのようなものか診て欲しい」という理由で来院される患者さんは、稀ですがおられます。

経緯・詳細・背景については(ここでは)さておき、「抜歯と言われた歯があるが残したいので、残せるものかどうか診て欲しいのだが」というケースになります。歯を失うか残せるかは、やはり患者さんにとっても大きな局面だからです。

根管治療によって保存を狙う上で必ず確認しなくてはならないのが、歯根破折や亀裂の存在です。もし存在すると、その部の細菌感染の除去は絶望に陥りますし、生体はすわ「異物だ!」と大騒ぎし始めるからです。エンドがどれだけ進歩しても歯根破折や亀裂には(まだ)勝てないのが現状です。

患歯が縁下残根であり、補綴を計画するなら外科的挺出か歯冠長延長術の検討が必要になるでしょう。安定パターンでいくなら「根面板+残根上義歯」になりますが、義歯を厭がる患者さんには適応できません。歯冠長延長術は、手技的に私はもうひとつ自信がないし、(保険でやろうとすると)歯周基本治療を終えてからの長丁場になるので、外科的挺出を選択することが殆どです。奈良の変態紳士先生もおっしゃってましたが、歯周外科に明るくなることが歯の積極的な保存や延命にこの上ない恩恵となりますから研鑽を欠かすことができません(反省)。

いずれにせよ「歯を残す」と言うと簡単ですが、そのためには様々に勘案しなくてはならない要素が多いものんです。予期せぬ伏兵に邪魔をされて失敗に帰することもあるため、ある程度の予防線を張った慎重な姿勢が望ましいでしょう。「残せますよダイジョーブダイジョーブ」と安請け合いして、結果的に抜歯になってしまったら、ばつが悪いどころか、患者さんの顔に泥を浴びせかけるようなものです。



卑近なケース@
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本当にそう言われたのかどうか、ご本人の勘違いのような気がするが「抜歯」と説明された#47。根尖病変を抱える樋状根。歯根に亀裂や破折はなさそう。近心マージン部二次カリ、規模の大きい金属コアが入っている。いけそうだ。

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根管へアクセスするために修復物を「オートセーフリムーバー」で除去する。ポストアンレー。

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根管内をスチールラウンドバーで大まかに清掃して確認デンタル写真。歯根に亀裂破折はなさそう。

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近心根をウェーブワンゴールド:ミディアム、遠心根をレシプロックR50で仕上げて根充。
シーラーにはニシカのキャナルシーラーBG。


卑近なケースA
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縁下残根のため抜歯と言われた#15。根管は狭窄しており、歯髄壊死が疑われる。歯根の破折は無いであろう。

クランプを掛けられないが、根管治療を素早く終えて根充して根面板にすることでなら保存できそうだと考える。当日は写真撮影、軟化象牙質除去(根管口の確認)、仮封、説明で終える。

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initial treatmentを開始したその日に根充(感根即充)。
壊死歯髄で2根管であった。シーラーにはニシカのキャナルシーラーBG。



根充まではできたが、果たしてその後、どれだけ口腔内で機能してくれるか術者の不安は尽きない。「手術は成功した。しかし患者は死んだ」では、やっぱりブラックジョーク。自分なら歯を残せる!と誇り高く根管治療を終えたとしても、その歯が口腔内で機能し続けていってくれるかは、また別の話になるからです。
 
posted by ぎゅんた at 12:46| Comment(4) | 根治(考察) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年12月10日

エンド今昔


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歯内療法学との出会いには明るい思い出がない。実習のたびに「こんなん俺には絶対に出来っこねぇ……」と絶望に打ちひしがれ、手は満足に動かせず、ライターには常に罵倒され椅子を蹴られ、胃を痛くしていたものであった。なぜなら「実習項目.根管の拡大」のステップが全く達成できなかったからである。手も足も出なかったという方が正しい。実習帳の余白にダルマさんのイラストを落書きしている暇はあったが、現実逃避も甚だしい。

いま思えば当時の自分の懊悩など「なあんだ」と鼻で笑ってしまうチンケなものだし、実習内容にしても高速道路の運転シミュレータよろしく、エンドの行程を最低限に理解できればいいだけのチュートリアルにすぎなかったとわかる。私を罵倒したライターにせよ、(当時の平均的なエンド治療の水準を鑑みても)取り立てて優れた治療技術を持っていたわけでないことが、申し訳ないが、分かる。それはつまり、私が大学院生時代に指導していた学生たちから、いま同じように思われていることも意味する上で赤面モノだったりする。過去を消去したいが、どうにもならない。忘れてくれていることを祈るばかりだ。

そんなことはどうでもよくて、私の世代は、エンドは手用ステンレスストールファイルで根管の拡大形成を完遂するよう教わっている(≒洗脳)のである。

よもや、NiTiファイルをこれだけバンバン使うスタイルに落ち着くとは思いもよらなかった。隔世の感である。

根管治療を前にしたとして、もしNiTiファイルがないなら、根管の形態を破壊するエンドしかできないからデキマセンと迷うことなく白旗を揚げてしまう確信すらある。根管の形態を保存できず、時間ばかりがかかり、それはひいては余計な感染リスクとエラーに繋がるからである。



輾転反側?
エンドというのはマイウェイの側面があって、先生方の数だけ手技がありそうなものだ。エンドの目的は根尖性歯周炎の予防と治療であり、その眼目は根管内の感染有機物の徹底除去にある。自分のエンドの手技が固まってくると同時に、過去の自分のエンドの経過を知ることができるようになる。それをして、自分のエンドを評価できる。

さはさりながら、性根があまり真面目でないから、こと細かく検証しているものではない。
それでも見えてくるものはある。

それは、以下のようである。

1.InitialTreatment根管のほとんどは、経過が良好
2.Retreatment根管は、やはり予後が悪い。概ね歯根破折が生じるか、根管内からの感染源除去が満足にできなかったことによる
3.オーバー根充は、予後が悪いと断定はできないが良くもない
4.アンダー根充は、X線写真の見栄えはともかく、予後に悪さに直結しない
5.シーラーパフは、良好な予後を約束しない(根尖部に適切な加圧が加わっただけで、感染源の取り残しをカバーするものではない)
6.根尖部の感染源の積極的な除去を目的に根尖部を意図的に拡大したものは、予後が悪い
7.根尖部を大きく弄らない場合の方が、予後が良い傾向にあることは確か
8.NiTiを用いるようになってから、根管の走行が保存されている
9.人工根管は予後不良を手堅く約束してくるので最悪

ここから見えてくることは、あくまで私のエンドの手技から見える特徴である。
エンピリカルな結論付けだが、NiTiファイルはこのまま使用し続ける、根尖部を意図的に拡大することは避ける、根管充填はアンダー基調で構わない、というあたりに落ち着いてこよう。

根尖部は、せいぜい15-20号の手用Kファイルが通過する程度にしておくのが安全そうだ。根管充填は、X線写真で見える根尖部のアウトラインから見て、1.5-2.0mm歯冠側であれば良さそうだ(写真でみるとやたらアンダーに見えたりするが)。根尖部ギリギリにジャストな根管充填は、格好よいのだが、実際はGPが根尖よりオーバーしている。これは、Retreatment根管で予後不良で抜歯に至った患歯の根尖部を観察することで一目瞭然である。意図的なオーバー根充で根尖病変を治癒に向かわせることはできない。根尖より出ていいのは、ネゴシエーションとリカピチュレーション時のファイル先端と少量のシーラー程度に留めた方が良い。


それにしても、歯根破折だけはどうにも嫌なものである。
「死因:交通事故」ぐらい、やるせないものがある。奸悪きわまりない。

治るエンドに加えて長持ちするエンドもまた、歯科医師が渇望するところである。

とすると、根尖部を破壊することなく根管形成を最小限に留め、根尖部のdisinfectionを達成することが求められる。この達成は、Initialtreatment根管はさておきRetreatment根管では厳しそうだ。最初からガッポリ大きく拡大されていたら天を仰ぐしかない。根尖部の洗浄を徹底するか、MTA根充に望みを託すか、浸透性の高い(と言われる)Nd-Yagレーザーで感染象牙質のバクテリアを叩いてみるべきか……
 
posted by ぎゅんた at 23:36| Comment(6) | 根治(考察) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする