2022年06月29日

現役の歯学部生に伝えたいことがあるならば


基礎英と英標.jpg

タイトルを書いて気づいたが、メチャクチャ上から目線である。
お前なんぞが俺たちに何を言いてえんだよえ──っ、と言われそうだし、実際に私が歯学部生だった時代に、開業医が自分たちに向けて話しをしてくれる機会があったとしても食指が動いたとは思えない。大学とは不思議な空気がある組織で、そこに属していると開業医というのは歯科医師として下の位置にあるように錯覚できる場所でもある。

例えば、解剖学の実習で開業医の先生が見学に来られていても、学生はその先生に特別に敬意を示すことはない。今更なにを学びに来たんだ?ぐらいの意識かもしれない。私も当時、解剖学実習に見学に来られていた先生の姿をみて似たような感想を抱いた覚えがある。

お分かりのとおり、これはとんでもない思い違いである。
開業医の先生が見学に来られるというのは、臨床経験上、目で確認しておきたい解剖学的真理を実地で学びたい真摯な気持ちがあるからであり、そのような気持ちの湧く診療をされているからである。勿論、その先生が解剖学に対して思い入れがあるとか、ふと母校を訪れてみたい心境になったとか理由があるかもしれない。とはいえ、平日の診療や休診日に時間をさいて大学を訪れるために大学側に打診をするなどの手続きを踏むのは手間であり、思いつきで行動に移せるものではない。子どもへの説法のようで恐縮であるが、大学に来られた開業医の先生を軽く扱ってはいけない。敬意をもって接し、教えを乞うべきである。


のっけから道徳教育みたいになってしまった…
「そんなん当たり前やろ」と思われるかもしれない。けれども昨今は、現場で働いている人に敬意を示さない若い人が増えているように感じるので、あえて述べてみた次第である。



次に、私は英語の習熟を薦めたい。
歯学部生時代は、専門科目の勉強や国家試験の勉強を除いても、有り余る時間があるはずである。世の中の大学生の多くは、その時間を遊ぶかバイトにつぎ込むのが常である。それか、延々とスマホいじりをしている。スマホいじりはさておき、遊びやバイトも学生時代には重要だ。しかし、学生の本分が勉学にあることは論をまたない。しかし、私自身を含めて、学生時代を振り返って、本当に勉学に明け暮れただろうか?と考えると頷くことはできない。むしろ、あのときもっと勉強しておけばよかったと後悔するものである。

学生という、やる気さえあれば際限なく学べる身分から離れると、学びの大切さや学べる環境に身を浸していられることの幸福さに気づくものである。日銭を稼ぐ必要はなく(苦学生が増えた今は、バイトに明け暮れないといけない学生もいるかもしれないが)、大学には図書館があり、多数の知識人がいる。同期もまた、目的を同じくした学徒なのである。そのような環境で勉強をしないという行為はあり得ない。

現在進行形で学んでいる専門科目を予習したりするのは食指が動かないかもしれないが、歯学とは全く別系統の学問に打ち込んで良いのである。現実的なところでは語学であり、英語であろう。英語は、事実上の世界語になっているうえ日本語とは違って論理(ロジカル)そのもの言語だからである(日本語で論理的に考えるよりも、英語で考えた方が早くて効率が良い)。鍛えるのはスピーキングではなくリーディングである。論文だけでなく、あらゆる英文を苦労なく読んで理解できるようにしておきたい。ネットでは情報の多くが英文で提供されているので、リーディング能力が鍛えられていれば、ネットで英文に触れているだけでも英語の「勘」が失われずにすむ。還元すれば、英語の能力を維持する上でのメインテナンスの労力が小さくて済む。

近年、英語というとスピーキング偏重になっている傾向にあるが、私はそんなことは無いと思う。意味のある内容の英文を、意味を取り違えることなく正しく読み取ることのできるリーディング能力こそが優先されるべきだと思う。先述したが、英語というのは論理そのものであるから、扱えると貴方自身の論理的能力が底上げされる。論理的思考ができることは、生涯にわたって貴方の能力を様々な方向から底上げするパッシブな効果が得られる。たとえリーディング能力偏重であれ英語ができるなら、それは貴方の自信につながるだろうし、周りからの評価も高くなるだろう。なぜ、私は学生時代に英語を勉強しなかったんだ……と悔恨に生きている。

英語を勉強するに際して、教材は腐るほどある。
こと英文を読み下していく能力を鍛えるのであれば、それは大学入試での英語-下線部翻訳問題のような、英文の構造理解と文法解釈から内容を読み解くことのできる能力をいうものと思われる。要するに、英文読解である。従って、英文の読解の能力を鍛えようとするなら、大学入試対策系の、英文読解の問題集にあたるのが近道だろう。その中でも私は、古典的な名著として『英文標準問題精講(原の英票))』をオススメする。ああこれか、と思う人も多いだろう。内容的に古くさくて今の大学入試には不向きな教材と捉えられているが、別に受験が目的ではない。英文を正確に読み解ける力を身につけるために使用するのである。全国の書店でいまでも簡単に入手できる、ただし難易度は高い。格調の高い、複雑で意味を取りづらい名文ばかりである。

元々、英語が得意な人には読み応えのあるパッケージなのだろうが、そうでない人は難易度を下げて『基礎英文問題精講』にしよう。私のような英語劣等生にとっては、こちらでも十分に難しいが、なんとか断念しないで済んでいる難易度だ。こちらは現在、書店に改訂版が並んでいるが、改訂版は旧版の良さがスポイルされているので旧版を古本屋で調達することをオススメする。諸君らは高校生時代〜大学入試と英語を学び理解してきたはずだから、久しく英語に触れたとしても勘がすぐに戻るはずだ。せっかく学んできた英語を、受験が終わったからと封印してしまうのは能力の持ち腐れに他ならない。

言語も時代に合わせて表現は変わっていくものであるが文法は変わらない。また、知的階級が使うような、格調の高い英文の良さも損なわれることはない。将来的に英語の論文を読むだけでなく書くことになるかもしれないわけだから、学んでおくべきはブロークンではない、学術的に正しい英語であるべきだ。英文の作法を身につけるような感覚である。

自学の末、英文の読解に詰まってしまったら、大学には英語の講師がいるはずなので質問に行けばよい。教師や講師という、学生に教える側の人間は、熱意のある生徒のことが好きなので喜んで付き合ってくれるはずである。良書で英語を勉強し続けながら、ときおり専門家に質問して疑問を解消すると、驚くほど英語の能力が高くなる。ある程度のレベルに達すると、学術論文を読めるようになってくる。そうしたら、自分の興味のある分野の論文を読んでみよう。例えば解剖学が好きなら、解剖学の教室に足を運び、解剖学の面白い論文を読みたいのですけれどオススメはありませんか、とでも聞いてみよう。誰しも、自分なりのお気に入りの論文が何本かあったりするので、教えてくれるはずだ。

学生時代に目上の人や専門家と交流を持つことは、知的な刺激を受けるので、勉学のモチベーション上にも有益である。私は今でも、学生時代に病理学の教室に遊びに行って教授と話をしていた内容を懐かしく思い出すことができるし、読んでみたら?と紹介された南木佳士の『医学生』の読後感を思い出すこともできる。



続いて、金銭感覚の育成である。
感覚に言うと、貯金を始めてお金のありがたさを実感させていき、定期的に貯金をしていくことで自分の予想以上にお金が積み上がっていく体験をすることから始めるのである。貯金用の、ネット銀行の口座を開設しよう。

最近は若いうちから投資を進める向きがあるようだが、投資というのは、初心者は必ず損をする(その失敗とお金を失った蹉跌から自分の投資のスタイルを確立させていくプロセスをたどる)し、種銭ならぬ投資金も10万円単位でないと目立ってリターンもない。小遣い稼ぎにFXや仮想通貨を始めたりパチンコや宝くじ等に手を出すのは全く賢明ではない。

重要なのは、諸君らが歯科医師として働き始めてから大学に残るにせよ開業するにせよ勤務医として働き続けていくにせよ、手持ちに資産があることである。それが、どれほど大きな礎であるかを想像して欲しい。これから先の社会の経済状況がどうなるか私には何も行けないけれど、開業に必要な資金は上がり続けていくであろうし、銀行は金を貸してくれない。自分にかかった学費を取り戻していかなくてはならないし、人によっては奨学金の返済も必要だろう。今のうちから貯金を始めておくことは賢明である。

自分自身を振り返っても、学生のころは貯蓄や倹約が疎かになるものだ。そもそも、自分で稼いだお金で得た身分でなかったから、お金のありがたみ自体を理解できていなかったのだ。だから、休み時間に自販機で適当に飲み物を買っていたしし、丸善で無意に菓子類を買い求める。気分で文房具を買って紛失したりする。こうした、習慣的な緩い消費をラテマネーというが、総額で一体どれほどの額にのぼるものか、私は恐ろしくて計算する気にもならない。思い当たる人は、今すぐ改めるべきである(良い解決方法がある。買おうと思ったけれどもやめたお金を「つもり貯金」するのである)。

私立であれば、実習用器材を一式、購入するはずだ。その際、各々の機材の価格を確認して欲しい。どれだけ高価なものであるかを理解して欲しい。そして、大切にして欲しい。少なくともYDMのような名の通ったメーカーの器材は丈夫なので、大切に扱えば開業した後になっても使用できる耐久性がある。器材は決して紛失しないように管理し、乱暴に扱わないようにし、常に美しい状態で揃えておくことである

学生のロッカールームの一斉清掃で器具が破棄される場面があったら、使えそうなものをガメておくのも手である(盗むのではない。破棄されてしまう器具のサルベージである)。歯科用の器具器材とは、それほどに高価なものなのである。



最後に、国家試験への備えである。
恥ずかしながら、毎年の歯科医師国家試験を解くたびに、私は自信を喪失するのである。必要以上に、意地悪に難しいと思うからである。歯学部を卒業した者が、歯科医師として最低限必要な知識を有しているか確認することを目的とする試験として、相応しくないような妙な難易度の問題が混じっているように思う。歯科医師として不適格な傾向にある学生はOSCIIおよびCBTで篩い落とされているはずであるし、プレ国試たる卒業試験を突破しているのだから、歯科医師国家試験の受験者らは全て歯科医師の適性が保証されているはずだ。

私個人としては、貴重な若い人生を国家試験浪人で費やすのは気の毒だと思うので、国の歯科医師の数を調整したい意図も理解できるけれども、従前のような9割以上が合格できる難易度で良いと思うのである。歯科医師という職業に魅力を感じなければ、別の道に行ってよいのである。そうした自由は、あって然るべきだ。しかし国家試験に合格していなければ、そうした転向は全く現実的ではなくなってしまう。

不当に難易度の高い問題は、結局は受験者の多くが正当を引けない「クソ問」であるから、運が良かったら取れる問題ということにして、戦略として重要なのは正答率の高い問題を取りこぼさないことであろう。従って、歯科医学全般の基礎的な事項を広範に正しく理解して、各科目との有機的な知識的繋がりを構築しておくことが求められる。国家試験の勉強を6年生になってから始める者は相当に優秀な学生か大物だけである。まだ国家試験について曖昧模糊としたイメージしかない学年の頃から少しずつ備えておくのが正しいだろう。

個人的なオススメとしては、適当な国家試験の過去問集を用意して、スキマ時間や電車での移動中に解いていくことである。私は四年生のときに、この方法で口腔外科の問題集を解きまくっていたが、5年生の当院実習時も模擬試験でも口腔外科に関しては優秀な成績だった(それ以外はお察し下さい)。試験問題を解きまくっていると、国家試験のあの独特の問題の風体に慣れてくるし、なにが重要かが分かってくるのが大きい。国家試験の問題集は図書館に備えてあるはずだから、適当にペラペラめくってみて、調整できそうな科目あたりから始めて行こう。そして、問題が解けるようになってくると、頭の中でバラバラだった各分野の知識が有機結合しはじめてくることに気づくと思う。そのレベルになったら、同じようなレベルの友人と口頭でいいので問題を出し合って答え合わせをしていこう。こうすると記憶に残りやすいので効率が良いのである。

国家試験で暗記しなくてはならない知識の量は膨大なので、少しづつの積み重ねを利用していかないと間に合わない。よほど優秀な頭脳の持ち主なら、一気に詰め込むことが出来るかもしれないが、少なくとも私には無理だった。過去問集を解き漁り、暗記しにくい点や重要箇所はノートに書く殴って体当たりで覚えた。試験直前にさっと見直せる個人用の知識確認集も自作したものである。
 
posted by ぎゅんた at 20:16| Comment(0) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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