2022年04月07日

外科的挺出というここぞの一手

正確に統計を取ってはいないが、ここ数年で外科的挺出の成功例が30を超えるぐらいになっている。ここでいう成功例とは「そのままでは支台歯に使えず抜歯の適応だった残根を、意図的に挺出させた状態で再着して支台歯として活用させて歯冠補綴まで到達させられた」ことをいう。悪くない成績だと思う。

私が外科的挺出に力を入れ始めたのは、元々は、支台歯に利用できないほどの縁下残根だから、という理由でEXTして生じた欠損部を補綴することが心理的にとても嫌だったことに拠る。

この状態では抜歯やむなしとEXTした欠損部に、しかし両隣在歯がintactだった場合、その後の補綴は辛いものになる。第一選択のブリッジ補綴は健全歯質の悲鳴に耳を塞いでPZ印象しなくてはならないし、一本義歯はどう足掻いたって患者の心理的満足が下がる。さりとてインプラント補綴や審美性に優れたノンクラスプデンチャーは、全ての患者さんで適応できるものではない。それは、当人の価値観の相違であったり金銭的理由であったり、そもそも補綴処置自体が難易度の高い悪辣な条件にある口腔内であったり。

欠損部の処置の選択肢は、基本的には「何もしない、ブリッジ、一本義歯、インプラント」の4本柱であろうが、当院ではインプラントを希望される患者が今までに一人もいない。私自身が#36にインプラント補綴をしていて、一本義歯とは違って「ホンマに噛める」ことを体験的に理解しているし、患者さんにもメリットを説明するのだが、即座に「それはいい」とNOと言える日本人だったりする。もっとも、目の前でインプラントの説明をしている歯医者自身がインプラント治療をしていないのだから任せられない心理になって当然なだけかもしれない。


話が脱線してしまったので外科的挺出について戻ろう。なお、この記事でいう外科的挺出とは、「抜歯操作で脱臼させた患歯を、生体と再着することを期待して意図的に引き上げた状態で一時的に固定して、結果として患歯が歯肉縁上に位置することとなり支台歯として利用できる状態にもっていく一連の手技」のことを指す。もっと学術的な定義があると思うが私は知らないので、このような認識でいる。

患歯の状態にもよるが、「抜歯するぐらいなら外科的挺出」という手法で保存を狙えるチケットを手にすることができるわけであるから、患者さんにとっても歯科医師にとっても意義の大きなテクニックではないかと思っている。特に犬歯をこの外科的挺出で保存できた場合の恩恵は極めて大きい。私のような凡医でも成功させているので、世の歯科医師の先生がたであれば、もっと成功率が高くて、美しくて、術後疼痛の少ない外科的挺出を習得できると確信している。

以後、述べるのは、私なりの手法である。
学術的に賛同できない点や誤りなどが含まれている可能性がある。正直に言えば我流であれど、予期していた以上に良好な結果が得られているので手技の内容を大きく変えずエンピリカルに行い続けているだけである。

適応とみなす状態
1. 縁下残根(齲蝕を完全除去した状態)
2. 歯根の周囲に歯槽骨がリッチに存在する
3. 中心咬合時にクリアランスが確保されている
4. 口腔内の衛生状態は常に良好に保たれている

歯根破折症例でも破折の範囲が歯冠側で、挺出させた時に縁上に位置させられる場合は適応を考える。

歯牙の再着にあたっては、歯槽骨が十分に確保されていないと厳しい。重度歯周炎の人はそもそも適応になるものではない。
また、患歯を脱臼させて挺出させた状態で閉口させて患歯が対合歯と咬合接触する場合は再着のための患歯安静が得られないので不適応となる。
口腔内の衛生状態は、不衛生であると成功率が有意に下がるようである。


細かな術式は置いておいて、まずは患歯の抜歯である。愛護的な抜歯を心がける。抜歯操作で歯根が破折したり亀裂が存在することが分かって外科的挺出を諦めざるを得ないケースもある(あらかじめ説明しておかなくてはならない)。

もし根尖に嚢胞や肉芽が存在するなら抜歯時に除去しておく。
外科的挺出の適応症例は、おおむね抜歯窩周囲の歯槽骨が温存されていて抜歯窩(ソケット?)もしっかりしているのが通例なので、抜去した患歯を抜歯窩に復位させるのは容易にできるはずである。この時、意図的に引き上げた状態で再着させたいので、患歯は意図的に180度なり回転させて抜歯窩に戻して「沈み込まない」位置で固定を行い再着を図るべきである。縫合糸で脱落しない様に固定するのは当然として、私はその上から即重で固定を加えている。即重での固定は不衛生になりがちで躊躇するかもしれないが、成功率が上がっても下がることはない手応えを得ているので、私はルーチンに使用しているのである。

術後は、患歯が安静を保たれていればほぼ確実に再着する。患部は不衛生になりがちなので、SP来院の際はプラークを慎重に除去して清潔を保つようにする。1wで再着を確認できたら、もう1w待って縫合糸と固定を除去し、更に1wほどまって根管治療に入るのが通例である。ケースによってこの期間は前後する。再着が極めて良好なら、さっさと固定を外して根管治療に移って差し支えない。たとえ再着の程度が良くなくても、最終的にはなんとかなってくれるまでは回復してくれることが多いので諦めないことである。
 
posted by ぎゅんた at 10:09| Comment(0) | 根治以外の臨床 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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