根管洗浄という、エンドの中のひとつのステップは今も私の関心を引いている。
ペットボトルの蓋に抜去歯牙を石膏で固定植立させてエンド実習をした学生時代、次亜塩素酸ナトリウム水溶液とオキシドールをピペットとミニウムシリンジ用いて歯の中に満たして発泡させて「なにやってんのコレ?」と思ったあの時から、ずっと私の心の中に印象深いステップとして在り続けている。子どもの頃から洗面所やトイレといった水回りの掃除が好きだったことが影響しているのかもしれない。
今の職場で働き始めてから、根管洗浄で用いる器具にはアップデートが繰り返されてきた。
最初こそ金属製エンドチップを超音波洗浄で用いていたが、30G洗浄針+ディスポシリンジの陽圧洗浄に切り替えたのを皮切りにヨシダのクイックエンド、エンドアクティベーター、Er:Yagレーザー、EDDY、とバリエーションが豊富になっていった。
自分のエンドのスタイルが確立されていくに従って、根管洗浄で用いられる器具には一定の傾向が出始めた。クイックエンドは根管洗浄ではなく吸引乾燥に、根充直前に根管をヒポクロで満たしたらエンドアクティベーターで攪拌、Er:YAGは準備が手間なので殆ど使わない(馬鹿にできない要因)、etc.
根管洗浄といえば、17%EDTAでスメア層を除去して次亜塩素酸ナトリウム水溶液で有機質溶解と殺菌を行うイメージが強いだろう。もちろん、これは間違いではないし極めて重要なメソッドだ。
ただし、根管洗浄のステップ全てでこの手順を踏むと手間と労働力が高すぎる気がする。毎回の根管洗浄でスメア層の除去を行うまではしなくとも、根管壁に付着したdebrisを剥離させて根管洗浄液中に遊離させて洗い流していけば良いと考えている。これとて、オーソドックスなシリンジ洗浄(陽圧洗浄)では案外に達成できていない。根管壁にへばりついた泥のようなdebrisは少々の液体の流れには動じないからである。
ブローチ綿栓で根管壁を雑巾掛けのように拭えば強い物理的除去作用があると思うが、唾液なりで汚染されているであろうグローブ手指で形成したブローチ綿栓を根管内に挿入するのは抵抗がある。場面場面で色々な手法を都度、自己判断で適応させれば良いのであろうが、私のような楽をしたがる凡人は、ハンディでオールマイティな手法を望むことになる。
最近まで私はエンドアクティベーターを愛用してきた。これは、根管内を満たした洗浄液をプラスチックチップをソニック振動させて攪拌することで根管壁のdebrisを浮遊させて洗い流すことできると考えたからである。使おうと思ったらすぐに使える取り回しの良さも見逃せない長所だ。
あるとき、既に大きく拡大されていた根管の再根管治療時に思うところあってEDDYでの根管洗浄を試みた。根管が太ければ、根管洗浄時に洗浄液の根管内での動態が肉眼で観察しやすいからである。蒸留水でシリンジ洗浄した際に、EDDYのチップを挿入して動作させると、洗浄液中に埃が毛羽立ったかのような様相が見えた。私の心は踊った。根管壁にへばりついていたdebrisをEDDYがあっという間に浮かび上がらせたのではないか?と考えたからである。また、エンドアクティベーターよりも遥かにその効果は高いように思えたからでもある。
シリンジでの陽圧洗浄は洗浄液を根管内に効率よく輸送するだけで、さしたる「洗浄」効果はないのだろうと漠然と思っていた。ニードルの物理的な接触や先端から排出される洗浄液に接しただけで浮かび上がるような微弱なdebris程度なら洗浄時の除去は期待できるけれども、根管内、ことに根尖部のdebrisを浮かび上がらせて洗浄できるわけはないと思っていたからである。それを克服するために、エンドアクティベーターを用いていたのだ。もしEDDYがエンドアクティベーターよりも早く効率的に根管-根尖部の洗浄を達成できる器具なのであれば実に心強い武器になる。
浅薄な私は、簡単な実験を思いついた。
マイクロチューブ内にリン酸エッチングのジェルを入れて水を満たす。その状態だち、リン酸ジェルは水に溶けないので壁にへばりついている。それを根管とdebrisに見立てて、自分が用いている根管洗浄を適応し、ジェルがどうなるかを確認することにしたのである。
結果、ジェルの攪拌除去にはEDDYが圧倒的なパフォーマンスが期待できるのではないかと思った。ジェルとdebrisが同じ動態を示すと考えるのは安直に過ぎるが、EDDYはあっと間にジェルを洗浄液中に溶かしてしまった。エンドアクティベーターは、EDDYに比べると時間が必要であった。EDDYはエンドアクティベーターに比べてキャビテーション作用が期待できるからだろうか。クイックエンド、シリンジ洗浄、Er:YAGではジェルの攪拌は期待できなかった。実際のdebrisは、このジェルよりは除去は容易であろうが、それにしてはEDDYのパフォーマンスは頼もしく驚異的に思える。
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そんなわけで今の私は、根管洗浄時にはEDDYをルーチンに使用する様になった。
好意的な解釈ではあろうが、EDDYを使用した根管洗浄を行うことで術後疼痛の発現が減った気がする。
また、根充前にはEDTAとヒポクロを用いているが、その際もEDDYを使用する。このことで根尖部の三次元的な清掃消毒が達成されるのであろう、根充後の確認デンタルで側枝へのシーラーの入り込みが観察されることが増えた。シーラーパフや側枝へのシーラーの入り込みは、少なくとも根尖部の清掃が達成されて加圧が加わったことを意味するので、自己満足なところもあるけれども、確認できると嬉しいものだ。
あとはEDDYの価格がもっと下がってくれることを願うばかりだ。
円安だから厳しいだろうな……
[自動車]に例えますと、
超音波は(最高速度)による、キャビテーション効果の増大を追求し、
音波式のEDDYは(トルク)による、水流の渦の増大を追求し、側枝〜根尖まで掻き回せることで、原因物質を除去洗浄できているように感じております。
引き続きのご指導を賜りますよう、何卒よろしくお願い申しあげます。
記事に触発されてeddyを注文いたしました。
これ、単回使用でしょうか?
単回仕様ですよね…..
そうですか、そうですよね…..
何か良いゴニョゴニョがあれば小さな声でお教えいただけると幸いです
EDDY愛用しております。自分は作業長ぎりぎりまでチップを入れたくマジックペンで印記をするのですが、そもそも、そこまで神経質にしなくても大丈夫でしょうか?(論文ではなく臨床ベースで)
メーカー側の推奨はおそらく得られないであろうし、キャビテーション効果に悪影響を及ぼしそうですが、先端をカットして#35号サイズに改造しても良いかもです。
急ぎの返信ですみません
手締めでエアースケーラーに着けても思い通りの仕事してくれますね。
もっと早くに導入すれば良かったです。
ただ28mmは長いのでカットするか悩み中です。
有用な情報ありがとうございました。
先がぐにゃっとなってしまいます。
何か対策ありますか?
ただ、私自身は使用していません。というのは、Rooty金属製のチップ用いるので、破折の不安と、根管壁に接触すれば少なからず切削することが考えられるからです。
Rootyはそのむかし、JHエンドシステムで触れたことがあって思い入れもあるのですが、私のエンドのスタイルには馴染まなかった器具です。まごまごしてるうちにクイックエンドやエンドアクティベーターにであって、そちらに乗り換えた覚えがあります。