根管洗浄については、幾度と記事にしてきた。
それはきっと、個人的に根管洗浄というひとつのステップが好きだからである。
思えば子どもの頃から水遊びには夢中になったり、水路を眺めているのが好きだった。きっと私は、液体が狭いところや隘路を流れる物理運動が本能的に好きなのだと思う。用水路なんて人類が産みだした至高の発明品だと思うし、ロマンを感じる。
なお、根管洗浄液は論文上でしばしば irrigants と表記されているが、これは灌漑用水の意味である。
今の若い先生方や歯学生たちは、歯内療法学の教育内容が様変わりしているだろうから、当てはまらない話だろうと思うけれども、私が学生だった頃や研修医になった頃の「根管洗浄」は交互洗浄のことを意味していた。それからすぐ、変遷が始まって、まずエンドチップを超音波洗浄で用いるPUI(passive ultrasonic irrigation)が流行った。洗浄液はヒポクロか、超音波洗浄器からの水(ユニットに供給される水)が殆どであった。現在では、どこの誰でも根管洗浄液のゴールドスタンダードはEDTAとヒポクロだと知っている。当時、スメアクリーンを使用している先生は私の師匠をはじめ、相当の少数派だったように思う。
なお、エンドチップを超音波洗浄で用いるまでは良いが、誤った操作によってチップをシャープペンシルの芯のごとく根管内で破折させまくる事例が相次いでいた。あまりにも破折するものだから、研修医にはエンドチップ使用禁止令が発令したほどだ。
なんだかんだ、臨床現場での実態は、交互洗浄と3wayシリンジからのウォータースプレーがメインだったのだ。交互洗浄は、オキシドールを注いだときに鮮やかに発泡するから、それは気持ちの良い消毒ができたと術者を満足させるのだが、根管洗浄で重要なターゲットとなるのは根尖部である。それは、髄腔を幾らか綺麗にするよりも優先されなくてはならない。
今考えれば、ネゴシエーションやPatencyの概念もなくリカピチュレーションも意識せず、ましてラバーダムもNiTiファイルも使用せず、根管口付近をチョロっと洗い流して終わる「根管洗浄」をしていたわけである。根管内は根尖孔から根管口にかけて debris まみれだったに違いないし、満足な拡大形成もされていなかっただろう。
根管充填にしても根管の仮封操作の域を出たものではない。根管充填後に根尖歯周組織に慢性炎症が惹起されていたのが、その程度が弱ければ宿主の免疫力による庇護で症状が発現しなかっただけのことを「予後良好」と信じていたに過ぎない。どれほど低レベルのエンドをしていたのか(それも大学の保存科で)、まったく、背筋が凍る思いだ。
私の思い出話などどうでもよくて、現在の私は根管洗浄で交互洗浄は行なっていない。ファイル操作ごとにイリゲーション用ニードルをつけたディスポシリンジ(洗浄液はEDTAと0.5%ヒポクロ)での陽圧洗浄、ヨシダのクイックエンドでの吸引洗浄をメインに行っている。
根管充填や仮封前に根尖部1/3(apical delta)の清掃消毒を目的に行う根管洗浄の際には、エンドアクティベーターによる可聴域振動洗浄やエアスケーラーにEDDYチップを装着しての超音波洗浄、ヒポクロを満たした根管にマスターポイントを挿入して上下運動を加えたりEr:YAGレーザーで溶液内に気体を発生させての攪拌洗浄を行ったりする。
こうした、根尖部の清掃を目的にした根管洗浄操作の後に陽圧洗浄を行うと溶液中に浮遊してきた debris の存在が確認できる。少なくとも陽圧洗浄だけでは根管洗浄は不十分と言わざるをえない※。
一時期はXP-EndoFinisherも使用していたが、ランニングコストがかかりすぎるのでやめた経緯がある。パクり品の、FANTAのAF-MAXに期待した時期もあるが、結局は日本国内で発売されないし輸入してまで使用するメリットはない。
金属性のエンドチップ用いた超音波洗浄は、根管壁に触れれば少なからず切削したりスメア層が発生するし、そもそも破折の危険性もあるので取り扱いが神経質でストレススフルであるから一切、採用していない。使用するのは、根管壁に接触してもなんら一切の切削能力をもたない非金属のチップに限定している。
根管洗浄液もEDTAとヒポクロがメインであって、クロルヘキシジンやMTADなど一歩先を進んだものは採用していない。
根管洗浄で何を使用すれば良いか?を考えるとコスト面での戦争が始まりキリがないのが正直なところだろう。私個人としては、陽圧洗浄にプラスしてなんらかの、先生方の診療スタイルに好都合な、根尖部の確実な清掃と消毒を約束するテクニックを用意しておけば良いと思う。EDDYかエンドアクティベーターを用意するのがオールマイティに対応できそうな気がする。
最近のマイブームはEr:YAGレーザーを用いた根管洗浄だが、湾曲根管では適応が難しいこと、根尖部を破壊しかねないリスクがあること、準備が面倒なこと(意外に重要)がネックである。
2021年08月19日
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