2020年10月05日

エンドは保険でその後の補綴は自費で、ってのが患者術者とも幸せってな理想よねきっと

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ヘミセクションされた第一大臼歯の遠心根(根管治療履歴あり)が主訴の患歯

若い女性患者。前医にて「このまま放置」もしくは「抜歯して自費のブリッジ」の説明を受けていたが、心理的に納得できないということで来院。セカンドオピニオン希望。


この場合のベストは抜歯してのインプラントであろう。単純な話で、歯槽骨がリッチで天然歯を犠牲にする必要がなく、咬合を再建する上で予知性が高いからである。

再根管治療を行った場合、残された処置は単冠補綴か隣在歯を支台に求めたブリッジ補綴が考えられる。残根上の部分床義歯は年齢的に許容されるものではない。

個人的に歯科治療が達成すべき重要な目標のひとつは「噛ませる」ことだと考えているので、このケースではインプラント補綴がベストだと考える。ただし、私は目下インプラント処置を採用することができない。恥ずかしい話だが、当院ではインプラントの需要がないので導入しても採算がとれないのである。インプラントは歯科治療の引き出しとして常に用意しておきたい最重要オプションなのだが、現実は厳しい。

治療に対して患者とディスカッションを行った結果、根管治療による保存を希望された。根管治療後は単冠補綴(白い歯が良いということだからHJCかCAD/CAM)をゴールとして設定。治療対象は患歯のみ。保険診療。

このような場面を迎えると私の心は「本気を出すでぇ!」とメラメラ燃え上がるのを感じる(いつも本気じゃないんですか?という真っ当な質問は申し訳ないがNG)。「その歯に関して保険診療でできる限り最良の治療をお前は頑張れば良い」という、明確な目標が見えた上で治療の許可が降りた感じがするからであろう。

加えて、私自身の保険診療に対する観念が好意的である向きも影響している。歯科の保険診療なんて、そりゃ様々な不満や問題点があることは重々承知なのであるが、それでも保険医であることを選んだのは自分自身であるのだから節度と誇りを持って堂々と治療にあたる姿勢であらねばならない。患者が保険証を持って来院されたのであれば、まず保険診療でできうる最善の治療を実践することが最優先されよう。

ここに私は、駆け出しの研修医だった時分にお世話になった2人のメンターの背中を見る。自己犠牲を強いられることがあっても、国が保険医になって下さいと頭を下げていた時代はとうに過ぎアンタラ好きで保険医なんでしょコッチの言うことに従えよという態度を取られるようになっても、保険医であるなら保険診療を理解し精緻した上で診療に従事せねばならない。哲学的な要素を含むものだが、私自身の心は納得の上で完結している。それで、保険医であることを好意的に受け止めている。


話が逸れてしまったので根管治療に戻そう。

実のところ、保険の根管治療は、術者の考え次第ではあるが高水準な治療が可能である。CBCTの画像診断もラバーダム防湿下での治療もマイクロスコープを使用して治療するのもNiTiを使用した根管の拡大形成も、これらは保険診療で可能である。MTAを代表とする根管治療用の薬剤/材料の一部が使用できないだけである。

さはさりながら、ここには現実的な問題がある。これらの技術的な評価が保険点数に真っ当に反映されているといえないことである。つまりは、これらを駆使した根管治療を行うことはもちろん可能だけれども、その労力を温かく報いてくれるほどの診療報酬は残念ながら得られない。購入した器具や材料費、単位時間あたりの点数評価を鑑みれば保険の根管治療は持ち出しのボランティアみたいなものだ。

昨今は保険改定毎に根管治療の諸点数が微増しているので、以前ほど真っ赤部門でもないとは思うが、1日の治療が保険の根管治療ばかりであったら歯科医院の経営は成り立たないだろう。エンドが好きでない先生だったら発狂しかねないのではないか。

偏見かもしれないが、保険医は根管治療が好きでないと精神的に不安定になりそうでアブナイ気がするし、若い先生は少なくともエンドが苦手ではない(むしろ好き)状態に育って欲しいと思う。


さて、冒頭の患歯は治療が済んだところである。
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ヘミセク済第一大臼歯の単根管遠心根は不幸なことに頬側の髄床底に穿孔が認められた。GPを除去して根管内を通法通りに拡大清掃し、EDTAとヒポクロを根管洗浄液にエンドアクティベーターを用いて根管洗浄して滅菌ペーパーポイントとクイックエンド(ヨシダ)で根管を吸引乾燥して穿孔部封鎖と同時に根管充填を終えた。最終NiTiファイルはレシプロックR50、穿孔部封鎖にEBAセメント、シーラーはBCキャナルシーラーを用いている。

患者の希望が変わらなければ小臼歯大CAD/CAMで終了予定。思うところは色々あるが口にはしない。


(独り言)
こういうケースの補綴はゴールド冠が好きなんだけどな〜。審美に劣るメタル修復には違いないけども、ゴールド冠の外観は不思議な温かみがあるので案外に悪くないと思うんですよね。金パラや銀合金のそれと同じく歯垢が電気的に付着しがちだったりガルバニー電流発生の要因にはなり得ますけども、対合歯や他に金属修復物がないのなら、やっぱりゴールドが良いかなって思うわけです。次点がメタボンかな。

い、いえジルコニア冠が嫌いな古臭い人間というわけではありませんよ…
posted by ぎゅんた at 22:58| Comment(0) | 根治(考察) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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