歯根破折に苦渋させられたことがない歯科医はいないでしょう。歯根破折ほど患歯を保存したいと願う患者と歯科医を嘲り笑う存在はありません。予後が極めて悪いからです。テメー(歯根破折)のせいで抜歯に至ったら、一本義歯か両隣在の歯質を犠牲にしてブリッジにするかインプラントせにゃならんのだボケ!っと、残された側のミゼラブルな現実に憤ることになるのであります。
歯根破折が歯科医の天敵である事実は覆せませんが、そのことに唯々諾々として抜歯を選択させられるのも癪なものです。そんな中、クリティカルな規模の破折でもなければ、その存在が予後を不安定にする事実は隠しきれないとしても、なんとかして患歯の延命を図ることができないものか模索する流れがあっても当然だと思います。破折に至っていたら絶望的だが、亀裂なら、まだなんとかなるのではないか……
過去にも報告した気がしますが、抜歯するぐらいなら外科的挺出を行なって患歯保存を狙う手段を知っておくことは有益であると思います。
今回、報告したいケースもまた、この例に合致したものです。
「コアごとダツリ」を主訴に来院、その原因が歯冠側に存在する歯根破折であり、二次カリエスの影響もあり縁下残根に至っている患歯です。
通常の残根抜歯の手順で患歯を脱臼させ、破折の部位と規模を確認し、根尖に病変がないかを確認します。意図的に挺出させた状態で固定して生着を図りますから、脱臼させた患歯がソケットと「座りの良い」収まりがあるかも確認します。この場合、患歯を180度回転させて歯根徴を逆にすると挺出させた上で座りの良い状態が得られることが多いようです。このケースでも、それを採用しております。4-0の絹糸縫合糸を用いた固定と、その後に即重を追加的に乗せて固定強化を施し、あとは患歯の安静に努めます。うまくいけば1wで自発痛なしで初期固定が得られます。更に3-4wほど待てば、多少の動揺があっても自発痛も違和感もない状態に回復します。
このケースでは、ラフな支台を築造後に遠心傾斜が目立ちましたから、セパレートリングを介在させて多少の歯軸の修正を行い、硬質レジンハイブリッドCAD/CAM冠補綴で仕上げています。
写真上ではホンマ大丈夫か?な状態で不安極まりないのですが、実際の口腔内では多少の動揺を認める程度で、ギリギリのところで保存がかなえられたか・・・?という水準(丁寧な臨床を行うならプロビジョナル仮着がベストだと思いますが、そうすると歯科医の誰もが経験のある「もうコレでいい」の治療終了が生じうるリスクが生じます)。
頬側のマージンラインの追求が甘く審美性の面でイマイチで恥ずかしいですが患者は気にせず喜んでくれたのでよしとしましょう。
このテクニックを適応するために必要なのは
・患者の理解と同意
・患歯の状態と経過が悪くないこと
だと考えられます。
少なからず痛みと不自由な期間を患者に強いることになりますから、即日的な治療を希望される場合や、「確実な結果」を望まれる場合は不適です。
また、生着がうまくいくかどうかも、どうしても運要素が絡むような気がしてなりません。ポステリアストップの崩壊したような咬合状態であるとか、プラークコントロールが不良であるとか、神経質で常に患歯を舌で弄してしまう場合は成功率が大きく下がると考えられます。
総合的に見て、「(良い意味で)いい加減な気持ちでやってみる」と納得できる結果が得られるテクニックではないかと思っています。
俗的に言って開業医向け。
れっつちゃれんじ!