2019年07月24日

うーん、これは抜歯……ってな時に外科的挺出の一手


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FMCコアごと脱離で来院 みなさんお馴染みの、こういう場面

抜歯しないことが生体にとって不利益しかない場面での抜歯を躊躇する歯科医師はいないと考えられるが、保存-補綴の面で不可能であるために抜歯を選択する場面での躊躇する歯科医師は少なくないはずである。大抵は、縁下カリエスの著しい進行による残根化か、無症状的に経過している歯根亀裂(軽微)が該当すると考えられる。残しておいてもいいのかもしれないが、歯冠を回復させて咬合咀嚼機能に復帰させることはできない面で中途半端な感は否めず歯痒さが残る。現実的には残根上義歯にする場面が多いかもしれない。しかし、誰だって義歯を受け入れてくれるわけではない。インプラント補綴は尚更のことである(口腔内の環境次第であるが、最善の手だとは思う)。

こうした場合に考慮に値する一手ではないかと考えられるのが外科的挺出である。

縁下残根で保存不可(補綴が望めないケース)の患歯を脱臼させて挺出させ、固定することで歯根膜の再生と固着を待ち、残存歯質を歯肉縁上に持ってきて堂々と補綴に移行させるのである。

私はこの考えが好きである。

乱暴な話、「どうせ抜くなら勝負に掛けてもいいのでは?本当にダメなら、その時は予定通りの抜歯に移るだけだろうし」という、いくらか歯科医師側に都合のいいところがあるにせよ段階的な考えを持てるからである。この場、患者さんがこちらを信頼してくれて付き合ってくれるかが実行に移せるかどうかの鍵である。市井の開業医向きではないだろうか。

学生時代に学んだ知識では若年者以外では成功率が低いので期待できない、みたいな論調にあった覚えがある(間違いかも)が、実際に何度か試してきたが、高齢者でも普通に成功する。挺出後に外圧を徹底的に排除したうえで患歯の固定がシッカリしていると成功率が高いようだ。最初は、固定後の感染が予後不良に直結する考えていたが、プラークまみれでも再着してくれると場面を見てきた。もちろん、固定後の患歯周囲は清潔性が保たれているべきであろうが、患者さんが怖がってブラッシングを意識的に避けてしまうことからくるものなのでなんら一切を責めるべきものではない。そこに、患者さんが一緒に歯を残そうとする姿勢を垣間見ることができる喜びを素直に味わうべきである。



[卑近な症例]
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縁下残根。根管治療で根充までは済ませるが、このままでは補綴できない場面

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抜歯の要領で脱臼させて意図的に挺出させて、固定して再着を待つ

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再着したら堂々と補綴に移行しましょう。咬合調整はバランシング・コンタクトを忌避して歯軸方向にのみ咬合圧がかかるようにする。

ポステリア・ストップがしっかり機能していて、口腔内の衛生環境が良く、過度なブラキシズムがなければ良好な予後が期待できる。

患者さんが喜んでくれるのが1番嬉しい。
難しい処置を一緒に乗り越えた達成感があるからだと思う。


具体的な臨床手技(患歯の縫合固定など)は『自家歯牙移植 増補新版 (シリーズ MIに基づく歯科臨床) 』を参考にして行っている。
 
posted by ぎゅんた at 11:18| Comment(6) | 根治(実践的) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
お久しぶりの更新ですね。ぎゅんた先生、お元気ですか?ちょっと心配してましたよ。
それはともかく、この外科的挺出は、新潟の某先生なんかは再埋入をクルッと方向変えて再植したりする、秘技「クルリンパ」とかやってますよね。
僕もよく移植も再植もやるんですけど、固定がキモで苦労します。生着するまでが心配で。
でも上手くいくと嬉しいっすよね、患者さんも術者も。このケースも上手くいくことを心より祈っております。
Posted by 奈良の変態紳士 at 2019年07月25日 21:12
奈良の変態紳士先生 コメントをありがとうございます。

ちょっと別のSNSのお誘いを受けてそっちの世界で遊び呆けたりしていてブログの更新が滞っていました。病気になったとか仕事を辞めたとか、そういう事情はございません。ご心配をおかけしてしまい申し訳ありません。


先生のご指摘の通り、この患歯は「クルリンパ」しています。元来は歯根の破折線の位置を縁上に持って来させるテクニックだったかと思いますが、この患歯では歯根に破折線は存在しませんでした。

クルリンパさせたのは、患歯歯根の形態にもよりますが、こうすると上手いこと浮き上がった状態である程度の固定が得られて再着が期待しやすくなるためです。抜去方向に一致させて再埋入させると、どうしても歯根方向に潜りやすいので、操作上の便宜の面が大きいです。

どんな状況でも万能なテクニックではありませんが、巷間で言われるほど成功率は低くない、案外に頼りになる一手だと思ってます。
Posted by ぎゅんた at 2019年07月26日 10:41
お久しぶりです。そっちの世界・・・〇っこさんの方かなと予想します(笑)

再植お見事です。抜歯が苦手な自分としては割ってしまうリスクも考え、クラスプでもかけてエクストルージョンに頼ることが多いです。でも再植やっぱりやらないとなあ、と思いつつ。
Posted by ShinyaM at 2019年07月26日 17:23
ShinyaM先生 コメントをありがとうございます。

縁下残根で補綴はかなわないけれども歯根長が十分に確保されており、根尖の状態も良好な歯根でトライされると良いです。

歯根の脱臼→引き上げ→縫合糸で固定→PMMA系レジンで固定を補強→患歯の安静を保ってもらう

が(私なりの)基本的な流れです。

でも矯正方向からのアプローチの方が予知性が高いですね。私はMTMが苦手意識があるので、外科的挺出を愛用しています。
Posted by ぎゅんた at 2019年07月27日 10:02
外科的挺出素晴らしいです! 質問なのですが、なるべく歯根膜を傷つけないよう脱臼させるのが大事なのかなと思うのですが、ぎゅんた先生はどのようにやられているのでしょうか? もし、おすすめの器具などあれば教えていただけるとありがたいです(^^)
Posted by at 2019年08月07日 13:02
コメントをありがとうございます。

外科的挺出メインに行うのは概ね小臼歯なのですが、先生のご指摘通り、歯根膜の損傷を避けたいことを念頭においております。

挺子抜歯が基本だと考えますが、その際は勤務医時代から愛用している『ラクスエーター』の2Sを第一選択にしています。単根の残根抜歯で活躍してくれるエレベーターなので、個人的にオススメするなら、これかな?

あとは特別なものは使用していません。
速やかな抜歯、再植、患歯の安静を約束する固定を達成することができれば良いと思います。

ご参考になれば幸いです
Posted by ぎゅんた at 2019年08月07日 15:58
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