臨床医なら誰しもが前装レジン(審美性の改善というよりは、金属使用量を減らすための苦肉の策)の脱離をきたしたポンティックの姿を目にしたことがあると思います。前歯部前装冠であればコンポジットレジン接着技法用いた前装部修理が認められています(とは言え、「60+102+11」点なので、除冠してやり直すことが圧倒的かも?)。しかし、臼歯部のポンティックで同様のこと行っても算定できません。この場合は、「ポンティック修理」が該当することになります。
全国保険団体連合会の「赤本」である「歯科保険診療の研究」では、ポンティック修理の項でこう解説されています。
1.前歯部ポンティックの修理は、ポンティック1歯につき算定する
2.臼歯部レジン裏装ポンティック(咬合面は金属)のレジン前装が脱落し、即時重合レジンで修理した場合は、ポンティック1歯につき算定する
3.4.(略)
これに従って、冒頭の写真のような大臼歯ポンティックのレジン前装が脱離しているものは、即重で修理した場合に70点を請求できます。前装冠修理のようにコンポジットレジンを用いたい気持ちがありますが、そうすると(「即時重合レジン」ではないことから、ひょっとして)算定できないかしれません。審美的にあまり気にしなくて良さそうな場所なので、気泡だらけの即重でも最低限のマスキングと審美的・形態的回復が可能ですから、まあ、そういうものだということだと理解しています。
修理は極めて簡単で、被着面の清掃をして即重を筆積で盛り、形態を回復させ、研磨するだけです。
ここで最大限に重要なことは、おそらく被着面のサンドブラスト処理でありましょう。ただ、これにはチェアサイドで用いることのできるようなコンパクトなサンドブラスターが必要ですし、口腔内で用いることに抵抗があります(ラバーダムも必須)。
現実的には難しいので、カーボランダムポイントなどで新鮮面を出したりリン酸エッチングしたりの処理がせいぜいでしょう。メタルプライマーは、その後に用いる即重に機能性モノマーが含まれていないので不要だと思われます(不確かな知識。GCの「メタルプライマー」は、義歯修理:クラスプ修理で用いた記憶があるので、やはり効果がある?)。
丁寧にやるなら、
被着面のサンドブラスト処理 ⇒ メタルプライマー塗布・乾燥 ⇒ 最近の「なんでもOK」なボンディング材の塗布・重合 ⇒ 即重筆積み
の流れになるのでしょうか(接着歯学の界隈から離れると、この辺の知識が曖昧模糊になってしまって良くない)。無論、70点の処置にここまでやってられませんから、どこかで折り合いのつけた操作になるわけで、
被着面の清掃 ⇒ 即重筆積み
の流れになるものと思われます。
それでも咬合圧に直接晒される場所でないことと、少ないながらも嵌合効果があって意外になんとかなってくれるものだったりします。下手に煩雑なステップを踏んでテクニカルエラーを犯すよりも、シンプル手法の方が安定しそうな感じです。
【チンケな臨床例】

「左下の詰め物が取れた」が主訴の方。みると左下臼歯部ブリッジのコンサバなポンティックの前装レジンが脱落している。食事のたびに食べ物がトラップして気になって仕方がないらしい。Brの再制作がベストと思われますが、そこまで希望せず主訴の解決のみを求める方であったので、修理で対応することになりました。バランシングコンタクトで脱離するか確証はありませんが、咬合接触の確認も行います(なかった)。
被着面をスチールラウンドバーを用いて機械的清掃と新鮮面の露出を計り、気持ち程度3Mのスコッチボンドユニバーサルアドヒーシブを塗布・光重合させて即重を筆済み。
重合後のレジンの形態修正や研磨がイマイチ難しいのが悩みどころです。形態修正をしなくて済むように、筆積みの時点で及第点の形態を付与しておくべきです。重合後は即重レジン用の研磨ポイント類でなるべく滑沢に仕上げておきましょう。

この記事でも書いた「シールインシャイン」が出番がなくていつもベンチを温めていたので久々に活躍してもらいました。「誤魔化しの艶っぽさ」が得られます。

一週間後に確認。「凹み」に物がはさまらなくなったと喜んでおられました。
即重はやっぱり即席解決用アイテムとして優秀です。おしまい。
先生の仰る通り、「臼歯部ブリッジのポンティックにおいて即時重合レジンで修理した場合に算定する」
となるとCRで修理すると算定できない可能性が高いなと、意外と解釈間違えてる事も多く勉強になります・・・。
「修理なんざしてたら点数が上がらんだろが」とよく怒られて育ちましたが、とても手軽に患者さんが喜んでくれるので修理が好きです。
前歯部前装冠はCRでの修理が用意されているのに、臼歯部ポンティックの前装修理は即重のみで70点というのは、なかなか不思議なところです。点数があるだけマシってところで感謝です。