2017年07月13日

Q.歯科医師という職業ってどう?


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A.儲かりません!

半分冗談で、まずこう答えておかなくてはならないのが礼儀です。

過去に散々バブリーな様を世間に見せつけた職業でありますから、いまだに「歯科医=金持ち・成金」という図式と偏見が、ことに地方社会で根強かったりします。「儲かるか儲からないか」で言えば、儲からない職業です。院長だぞエヘンと威張ったところで、せいぜい中小企業の社長さんですし、年収もそれ以下でしょう。自費診療メインであればともかく、保険診療を主体とする歯科医業の収入は、平均ちょっと上あたりのサラリーマンクラスです。開業医は、給料とボーナスを支給する側で、年金は国民年金オンリー(老後の設計が不可欠)の「ガチ自営業」です。歯科医師会に所属しても金銭的・社会的に生活が保証されるわけでも保護されることもありません。「勤め人」と違って仕事形態に自由が大きいことは魅力的ですが、医院経営の責任が常に肩にズシリとのしかかります。勤務医の方が楽だったと愚痴をこぼす先生や、従業員に給料を支払うためだけに(雇用のために)歯科医院を開いている先生も少なくありません。

ゴタゴタと言い訳がましい否定をするってことは、実は儲かる職業だな?と早合点するオメデタイ人はともかく、世間様が羨むほどお金を稼げる職業ではないことは旗幟を鮮明にしなくてはなりません。嘘をついてはいけないからです。そもそも、歯医者の経済的実体がマスコミなんぞに面白おかしく報じられたものですから、異業種、ことに経済界の面々からは「歯医者さん、いま大変なんですね」と同情される始末であります。歯医者になったもん勝ちの時代は遠い過去のことでありまして、進路指導の先生だけでなく、保護者の皆さんも、生徒やご子息に歯医者さんになるよう勧めることはないと聞きます。しかし、これでいいと思います。「話が違うやないか」と言われても困りますし、歯医者は、歯科医師免許を取った後の自由が乏しい(要するに「潰しが利かない」)からです。

「歯医者は、やり方次第でいまでも稼げる仕事」と口にするのは鼻息の荒いコンサルか業界通を装う輩ぐらいのもので、大多数の歯科医師はさして興味がありません。やり方次第で稼げるのは歯科医業に限りませんし、「悪い奴もいるけどいい奴もいる理論」と同じで、だから何ってなもんです。身体を犠牲に、身を粉にして忙しく診療に励めば、実入りは大きくなりますが、ストレスとして跳ね返ってきますし納税額も大きくなります。

稼ぐというのは、月の手取りが最低でも1000万を割らないような、およそ世間離れした話になるわけで、その世界を謳歌している歯科医師はほとんどいないはずです。今の時代、稼ごうと思ったら金融か悪徳政治家か芸能界でひと旗あげるか裏稼業に身を投じることになるでしょう。稼ごうと思って歯医者になった人はいないのであります。平均以上に裕福であれば嬉しいな、ぐらいの気持ちです。悲劇的なことは、この望みすら最近では実現が難しくなってきていることです。

歯科医師に限った話ではありませんが、社会的地位の高さと金銭収入はリンクしなくなりました。高い社会的地位を維持するには弛まぬ自己研鑽が不可欠であって、高い金銭収入はその約束であったわけです。これがないと、自己研鑽への資金を生活費から捻出することになっていきます。自己研鑽より己の生活を優先するのは当然のことです。貧しいとは学べないことですから、金銭収入が約束されない職業は、社会的地位も意義も凋落していくことになります。少なくとも私は自費診療の報酬から自己研鑽の費用を得ています。



歯科医師になっていいことあるのか?
数字は残酷なので、金銭面でみると歯科医師は決して魅力的な職業ではありません。むしろマゾヒズムに満ちています。それでいて一方的に責任や社会通念を押し付けられるところがありますから、窮屈さを感じることすらあります。歯科医師を目指すことは容易ですが、学費と国家試験の突破、その後の下済み時代の生活のことなどを考えると高いハードルがあることも自明です。

歯科医師の魅力は、その専門性を活かした社会貢献にこそ全てがあると思います。「たかが歯。されど歯」は、私の師匠の言葉ですが、本当に、歯の一本が痛いだけでも人は気分が沈みこんでしまう。生活に暗い陰がおちるのです。歯を病むと、独特の緊張感(生存活動を維持していく上での危機感)に見舞われます。自然界に生きる動物たちにとって歯の喪失は死を意味するように、歯を失うことへの根源的な恐怖心が人間にも残っているからでしょう。

学生時代、医療倫理学で「患者とは、心に串が刺さった人のことである」と教えられたことを覚えています。「歯」に悩む患者の心理状態を理解し、推察し、配慮し、救いの手を差し出せるのは歯科医師だけです。人間を治せるのは人間だけであり、医療というのは感情の塊である人間同士のぶつかり合いの中で癒しを見つけ出す技術です。 歯科医業は、老若男女とわず全ての人の口腔内の健康に寄与できる機会を与えられた医療職といえます。

仕事のメインは保険診療になります。自費診療も加わりますが、自費をメインに据えた先生は少数派です。診療室から飛び出して、検診業務や啓蒙活動を行う機会も少なくありません。また、訪問診療のニーズに答え、来院の難しい患者さんに寄り添うこともできます。歯科医師の社会的地位の高さから、なんらかの形で地域行政の仕事を依頼されることもあります(NPOの理事や民生委員や町会議員・市会議員など)。

少なくとも私は歯科医師という職業に就けてよかったと思っています。やりがいを覚えます。

歯科医療に関する知識やテクニックは一生かかってもマスターしきれないほどありますし、患者さんとのコミュニケーションは患者さん数と出会いだけあります。歯科医師としての練度を高めようと思ったとき、深淵のような奥深さを覚えますし、なにより歯科の仕事が好きだからです。

無論、私も感情的な人間なので、相性が悪いと感じて接触を避けたい種の患者さんも抱えてはいますし、食指の動かない内容の仕事もあります。けれども、起床して「よっしゃ仕事いくぞ!」と抵抗なく考えている自分がいることは幸福なことだと思います。

金銭的にゆとりのある生活とは無縁ですし、嫁に稼ぎの悪さで甲斐性なしと罵られることもある点では苦痛を覚えますが、食べていけないほどの貧窮はありません。なにより開業医というのは、結局のところ地域住民に貢献し、健康に寄与し、信頼と支持を得られることに尊さがありますから、言ってみれば名誉職のようなところがあります。あの人は名医だとか地元の名士だと言われることほど開業医として嬉しいことはないものですし、絶対の評価もないものです。これは、歯科医師国家資格と同様、お金で得られるものではありません。どうです、魅力的な仕事に思えませんか?



※ 「手に職」と言えば医療職で、その信仰はいまも根強いですが、今後も手堅いままであろうと考えられるのは看護師だと思われます。ペーペーの歯科医師よりも衛生士の方が待遇がいいのと同様に、看護師さんの地位が相対的に高まっていく一方になるのではと思います。お医者さんは病魔を克服して患者を救う一方で、高騰する医療費などの社会的制約を理由に患者の延命を制限しなくてはならない場面が出てくる非常に厳しく辛い立場に置かれる場面が出てくることになるのではないかと思います。しかし、歯医者ほど冷遇されることはないでしょうから、医学部人気は今後もずっと続くことでしょう。
posted by ぎゅんた at 15:16| Comment(0) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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