2017年06月10日

(いつか買うリスト)オーラルID

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粘膜病変、ことに口腔がんを見逃さないように常に留意しているのが歯科医であります。人間にとって口の中をマジマジと観察される機会は、歯科にかかったときぐらいしかありませんから、口腔内の異変を(専門家である)歯科医が見逃してしまうと大きな損失になってしまうからです。口腔がんの早期発見は、地味ながらも歯科医の重要な仕事のひとつです。

酒の席で口腔外科の先生にこっそり聞いたときに「我々を含めて、少なからず見逃しがあるから楽観視できない」「予後不良のケースは、早期発見できてさえいればひょっとしたら…と悔やまれるものが多い」との意見をいただいたことがあります。これはちょっと怖いことです。注意深く観察していても、見逃したり、判断に困ってしまうケースがあります。まして、歯しか見ていない、視野狭窄を起こしている歯科医であれば、間違いなく見落としてしまう。こうしたときに、スクリーニングであろうと、信頼の置ける診断機器があれば間違いなく有益であります。頼りになりそうでならないのが自分の目だけの判断だからです。

我々が健診業務に出た際は、歯牙と歯肉だけでなく、歯列や顎関節、そして粘膜病変の有無を診査します。その際に、こうしたスクリーニング用機器があれば有益であるばかりでなく、国民の口腔がんの啓蒙につながるのではないかと期待できます。


良さげやな?…しかし
このオーラルID、保険診療での使用が(現時点では)認められていません。健診業務であれば保険証もクソもないので使用しても問題ないでしょうが、保険医療機関が使用する際には制限がかかってしまうことになる点が気にかかります。例えば、カルテに「粘膜に病変を疑う表情の部位があったためオーラルIDで確認したところ異常はなかった」などと記載したら一発アウトなわけです。黙っていればわからんといえばそれまでのことかもしれません。しかし、保険診療で使用を認められていない機器を保険診療で用いてはいけないことを保険医は周知しています(そういうことになっている)。

歯科医師による口腔粘膜の視診は「初心・再診」に包括化されていると思うので(算定できる項目がないので)、このオーラルIDを使っても、現実的には構わないと思いますが、ルール上グレーであることは否定できないでしょう。メーカーに問い合わせたところ「先生のおっしゃる通りなので、自費で行ってください」とのことでした。そりゃそうだ。

もしこのオーラルIDで扁平上皮癌を疑う部位を発見したとして、細胞診で早期の扁平上皮癌と診断されたとする。素晴らしいことです。しかし、この流れでは当然のごとく保険算定はなにひとつできないことになります。細胞診を行わないにしても、口腔外科へ紹介して診療情報提供料を算定することもダメのはずです。

畢竟、保険医にとってこの機器は、自費でスクリーニング検査をするか健診業務で使うかの2つの使い道に限られた存在になるのではないでしょうか。口腔がんを見逃さないための優れたスクリーニング機器(推測)でありながら普及が進まないのは、ひょっとしたら保険診療に使用できない実情が足を引っ張っているのではないかと邪推してしまいます。



我々開業医は、治療のための専門機器を導入する際に、必ずや「導入して元が取れるか」をまず念頭に置きます。欲する器具をす無尽蔵に購入できる先生は世界一の幸せ者です。歯科医療機器というのは、高いのか安いのか皆目見当がつかないプライスタグが掲げられているのが普通で、現実的な保険点数から冷静に判断してみるとやっぱり高い、そんな値段であります。購入への決断には慎重になるのが普通です。

このオーラルIDによるスクリーニング検査を自費で希望される患者さんは、少ないと思います。「なんで保険でやってくれないの?」と不思議がられることでしょう。「保険で認められていない機器だから自費になる」と説明しても、それならイイデスと拒否されるのが目に見えています。いいものは自費でも選んでくれるというのはコンサルの一方的な意見で、確かにそういう患者さんもいらっしゃるけれども、数は少ない。そうした患者さんを増やすためにこそ自院をブランディングしなさいとセットで追撃される展開も承知していますが、国民の大半は保険証をもって医療機関に出向くことがルールであり患者として当然のことと考えておられるわけで、様々な理由があるにせよ、医療者側がその心理に水をぶっかけることはあってはならないと考えています。「自費自費うるせーよ保険診療でできうる最善最適の治療をまずしてみろ」と患者さんは考えているのです。月々に安くもない健康保険料を納めることを甘受しているのですから、当然の心理です。

世間には様々な医院経営の歯科医院がありますから、このオーラルIDを自費で使いこなせる医院もあることでしょう。しかし、当院では無理です。またぞろコンサルに「田舎で国保の患者が多くて…は言い訳!どんな場所でも自費を選ぶ患者を必ず発掘できる!(できないのは、先生のやる気がないから!)」と怒られてしまいますが、当院の診療スタイルから勘案するに無理に等しいのです。突き詰めて考えれば無理ではないかもしれないけれども、そこに割く労力があるなら他に割きます。

なにも実行に移していないうちに机上の空論よろしくオーラルIDにダメ出しをしていますが、しかし、この機器を健診業務に携えて活用したい気持ちは旺盛にあります。喜ばれること間違いなしだからです。

いち保険医療機関としてこのオーラルIDは、なるほど制度上の制約が多すぎてリターンが得られないだろうが、制度の軛より離れた場では大活躍が見込めるものではないか。ここにきて私は、もう購入しようかと決断委ぽ手前におります。ビジネス用語に「Win-Winの関係」というものがあります。「Windows(OS)のパソコン同士こそが最高や!」という意味だと誤解して長かった言葉ですが、真意は「それぞれの当事者とも利益を得る」みたいな意味です。あまりに使われて陳腐化していますし、虫のいい関係にしか思えない点で嫌いな言葉です。「今回はうちが泣きましょう。でも、次の機会にはよろしく」とか「泣かされちゃったけど、許しちゃうよ」という緩さがある関係のほうが堅牢で永続的なビジネスを送るうえで望ましいと思うからです。オーラルIDは保険診療で使えないという事実では泣きをみるけれど、健診業務で燦然と活躍が見込めるという意味で「win-loseの関係」でありましょう。けれども、それで良い気がします。オーラルIDの目的が、口腔がんや粘膜病変の見落としを防ぐことと早期発見の手助けにあるからです。


http://oralid-japan.com/
ラベル:Oral ID
posted by ぎゅんた at 13:53| Comment(2) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
このあたり、検診、スクリーニング等が基本認められない保険診療の難しい部分ではあるんですが・・・。

細かい話で申し訳ない所ですが、オーラルIDは
保険診療で請求できない、(が使用してもいい)でしょうか
保険診療で使用してはいけない、でしょうか?

保険医療機関及び保険医療養担当規則によれば、医薬品医療機器等法の医薬品は制限があるんですが、医薬品等に関しては言及がないと見ています。ほかの歯科医師法等にひっかからない限り機器の使用に関しては法律や規則的な制限があるのでしょうか?

facebookの清水藤太先生の投稿でも少し意味あ合いは違いますが話題になった事もあります。ぎゅんた先生のご意見を聞かせていただければ幸いです。
Posted by ShinyaM at 2017年06月12日 12:54
ShinyaM先生 コメントをありがとうございます。

私の考えを述べます。

オーラルIDは保険診療で請求できません。使用しても良いのかもしれませんが、法律上はダメなはず。そういう意味からいえば、保険診療で使用してはいけない。この辺りの実態は、あまりうるさくはないはずですし、知らずして保険診療で用いられているケースもあると思います、ただ、オーラルIDは発売元に確認して保険診療で使えません言質を得ているので、もうそういうもんだと思うしかありません。

一番いいのは、保険診療に使用して良いと認可されることなのですが。、されたところで算定のメリットがないことは販売元も分かっているはずなので申請がされていないのだと思われます。

私がこれを購入するとすれば、純然たる健診用です。

Posted by ぎゅんた at 2017年06月12日 14:47
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