2017年03月13日

【痛み止めと化膿止め】なにを根拠に、どう投薬しますか


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歯科医は医師に比べ、薬とその処方に疎いことは疑いようがない。

解熱鎮痛消炎薬と抗菌薬の2つの領域の限られたものになるのが一般的であるから、処方する内容も定型的になりがちである。また、診察した都度なにかにつけ薬を処方する歯科医師がいないように、薬を処方しないことが普通である事情も考慮できる。歯科の日常的な診療の中で処方のウエイトは低いから、それをして、薬の処方が浅薄になりがちである。

歯科医が処方する薬は、解熱鎮痛消炎薬薬と抗菌薬の2つの領域の限られたものが主である。狭い領域だ。歯科医はこの2つの領域の薬には、「狭く深く」精通するべきであるし、できるはずだ。市井の開業医が、数多ある薬剤を細かく使い分ける必要はない(そもそも、そういう精緻な処方をするために必要な検査を歯科医はしていないし、できない)。重要なのは、薬剤を処方することのリスクを常に意識すること、推奨されない処方を漫然と行ったり相互作用を考慮しない処方をしたりプラセボ的処方をしないこと、副作用や相互作用のチェックを忘れない姿勢でいることである。

とりわけ抗菌薬は誤用と乱用を防がないと耐性菌の出現につながる点で恐ろしい。抗菌薬を漫然と投与し続けることほど危険な行為はない。もし歯科医が処方する抗菌薬の不適切さが原因で耐性菌を出しているなどとしたら。そして、その抗菌薬の処方がなんら知識の裏付けのない(漫然とした)ものであれば、歯科医の社会的地位は大きく損なわれることになる。



薬も逆さに読めばリスクなり
処方することで得られる恩恵が、処方しないリスクを上回る場合に限って、薬が使用される。

わけても鎮痛薬は、歯科医の意識が高いところだろう。
酸性Nsaidsの処方を第一選択として、基礎疾患を有する患者や小児・妊婦では鎮痛効果がマイルドながら安全を考慮してアセトアミノフェンを選択する。この程度の使い分けは誰だってしているものだ。

ここに加えて、ワルファリン服用者やニューキノロン系抗菌薬投与の際に酸性Nsaidsは禁忌とか、アスピリン喘息患者にアセトアミノフェンは無難なだけで安全ではない(喘息患者にはペントイルという塩基性Nsaidが処方できたが、発売中止でいまは使用できなくなった)とか、肝臓障害のある人にアセトアミノフェンは禁忌とか、もっと知っておくべき知識が追加されてくる。


当院で処方できる解熱鎮痛消炎薬は以下のとおりである。

1.ロキソニン(頓用)
2.カロナール(頓用)
3.ソランタール(服用)※アモキシシリンと一緒に処方することが多い
4.キョーリンAP2(服用)※小児、妊婦、基礎疾患があってカロナールを処方できないケース用

ジクロフェナクナトリウムや立効散エキスも用意したいところだが、これは処方箋要員になっている。


感染根管治療後、一過性の術後疼痛の対策に解熱鎮痛消炎薬を処方する場面は少なくない。抜髄にしろ感染根管治療薬にせよ、不快な術後疼痛に苛まれることがあるからである。

この場合、まず基礎疾患と服用薬剤をチェックし、問題がなければロキソニンを第一選択にしている。
妊婦・小児ではロキソニンは使用できない(妊娠後期の酸性Nsaidsは禁忌)。
高齢者も、服用薬剤にバイアスピリンやワルファリンがあればロキソニンは処方しない(出血傾向となるから)。



抗菌薬を処方する場面
初回の感染根管治療後に抗菌薬を処方することがしばしば行われているようだが、私は、これはただの慣例に過ぎないと思っている。出しておく「べき」だからとか、なんとなくみんな処方しているからとか、処方する方が無難だからとか、およそ地に足が付いていない処方にすぎない。ここには、治療後に生じうる術後疼痛を抑えたい意識も、あるだろう。しかし我々は、抗菌薬が根尖病変を治癒に導きはしないことを知っているし、抗菌薬で根尖病変を叩いて治そうという意志など欠片も持っていない。

治療後にフレアアップを起こしたり膿瘍形成をきたしたりすれば処方の必要性もでてこようが、根尖部のマネジメントに大きな誤りがなければフレアアップはおろか術後疼痛もさして出ないものである。卑近な例でいえば、私はクイックエンドを導入することで術後疼痛の発生が激減した(根管内のdebrisを積極的に排出することで、根尖への押し出しが結果的に少なくて済むようになったのだろうと思われる)し、フレアアップも発生せずにきている。根尖へ無用な感染源を押し出すことなく、根管から感染源を除去していけば、生体である根尖歯周組織が病変を治癒へと向かわせる。ここに抗菌薬の出番はない。

万が一、フレアアップや切開排膿を必要とする急性歯槽膿瘍をきたした場合は、消炎処置と共に抗菌薬を処方するであろう。その場合、まず私はアモキシシリン水和物250(サワシリン等)と解熱鎮痛消炎薬の処方をするだろう。アモキシシリンはグラム陰性桿菌まで抗菌スペクトラムが広がったペニシリン系抗菌薬である。口腔領域の急性炎症の起因菌は、通常はグラム陽性球菌やグラム陰性桿菌のいずれかの一種であって、アモキシシリンが程よくカバーしてくれるのである。つまり、完全にターゲット菌を絞り込んでの処方ではない。私にとってアモキシシリンは、一般開業医が遭遇しうる口腔内の急性炎症に対する、ファーストチョイスの抗菌薬としての存在である。フレアアップ、急性歯槽膿瘍、智歯周囲炎など、およそ臨床医が頻繁に遭遇するすべてのケースで第一選択になる。

これで効かない場合は、起因菌が抗菌スペクトラムより外れているか、炎症が後期に移行して嫌気性菌が台頭したかことを考えるし、自らが下した診断と行った消炎処置に誤りや不足があったのではないかと再考せねばならない。

起因菌の同定のための検査ができれば抗菌薬を絞り込めるが、歯科ではその保険評価がない(だから、誰もやらないしデータの蓄積もない)。いきおい、やむをえずで起因菌の同定検査なしに強力無比な抗菌薬が投与されることがある。アジスロマイシン(ジスロマック等)やシタフロキサシン(グレースビット)がそれである。これらは「幅広く焼き尽くすように」よく効く。だが、これは最後の切り札的存在であって、ファーストチョイスにはならないと思う。こんな強力な抗菌薬を処方することなど年に数回あるかないかであろう。「抗菌薬は、効かせたいときにガツっと効かせてスパッと終わらせる」使い方を重視するならファーストチョイスに良いかもしれないとも考えられるが、ビビりの私は処方を躊躇する。

私の抗菌薬の選択と処方は古典的で慎重すぎるところがあるはずだが、さりとてアモキシシリンの処方で困った経験もさしてない。あるとすればペニシリンアレルギーで処方できない場合(その場合はクリンダマイシン(ダラシン)を処方)か、消炎処置に誤謬があって感染症を進行させてこじらせてしまった場合である。

歯科治療は原因除去を根本に据えた外科処置が本体であって、抗菌薬で治療する内科的療法が優位に立つことはないと考える。解熱鎮痛消炎薬は痛くなければ服用せずに終わるが、抗菌薬は決まった回数と期間、服用して効かせなくてはならない。処方がより慎重でなくてはならないのは抗菌薬である。臨床所見からどの抗菌薬を選択するかを判断し、血中の薬効濃度の維持を考えた処方、患者のコンプライアンスが良好であることが求められるからである。
 
posted by ぎゅんた at 23:14| Comment(2) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ガイドラインないかなと思ってBingで「根管治療 抗菌薬」で調べるとぎゅんた先生のところが3番目で出てきました(笑

それはともかく、歯周病分野では抗菌薬の選択等ガイドラインはあるんですが、根管治療に関しては無さそうです。(歯周病分野、第一選択はペニシリン、βーラクタム、第二、マクロライド、第三、ニューキノロン。)
やはり全身的な影響がある場合の投与で十分ではないかと。

自身の場合は、現在ジスロマックにしています。地域柄かもしれませんが、服薬コンプライアンスがいまいち良くないため・・・。ただ比較的アレルギーが少ないことも考えると、自身のところではジスロマックで十分と考えています。
Posted by ShinyaM at 2017年03月14日 15:06
ShinyaM 先生 コメントをありがとうございます。

根管治療は外科処置ですから、その治療に積極的に投与するものではないということだと思います。治療と並行して抗菌薬を全身投与すると治癒が良いとかあるかもしれませんが、根管内に根尖病変の原因たる感染源を取り残していれば再発するだけですものね。

ジスロマックは強力なマクロライドで、安全性も高いデータがありますが、どうもアメリカでは心疾患がある人に処方すると突然死やら不整脈やらおこすから危ないぞ的警告が出たようで、私はマクロライドを処方することを考えるときに心疾患がないことに留意しています。

アメリカ人は馬鹿なのか医者にかからないことを重視しているのか、風邪を引いたらジスロを服用して治すという致命的誤りが横行しているらしいです。

アメリカ人にとってジスロマックはアスピリンに次ぐ万能薬扱いされる薬なのかもしれません。色々と極端な国民だなぁ。
Posted by ぎゅんた at 2017年03月15日 10:42
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