2016年12月28日

吸引によって根管内が乾燥され清掃され

掃除機をかけるとき.jpg

根管に吸引作用を与することは、元来、根管の乾燥のみを目的に行われてきたようだ。
世には排唾管に吸引チップを装着することで根管の乾燥を狙う器具(ネオ製薬の「マルチサクション」※1)が存在するが、この器具の目的は「根管の乾燥」あってdebrisを吸引で積極的に排出させることは意図していなかったのではないか。

根管の乾燥はブローチ綿栓で行うものと思考停止的に慣行していた私には、とくに食指が動く器具ではなかった。暴露すれば、根管内を乾燥させることに無頓着であった。仮封材が充填できる程度に水分が徐々されていればそれでよかったのだ。根管内の水分?いんだよ細けぇことはってなもんである。この意識の根底には、「感染源の除去こそがエンドの主目的なんだから貼薬仮封時に水分があってもへーきへーき」が存在する。間違っているのはいうまでもない。根管内を乾燥させることは重要なステップなのである。


吸引でdebrisをできる限り除去したい
さて、吸引によってdebrisを排出する概念を本邦で打ち立てたのは小林千尋先生ではないかと思う。先生が「根尖部の清掃は全くできていない。どうしたらよいのだろう?」と思惟懊悩されていた末の閃きなのか、「吸引で根尖部を清掃してみたらことのほか成績が良くてワロタ」と、トライアル魂と経過を見逃さない慧眼を持っておられたのか。どちらも考えられるけれども、いずれにせよ、根管内の(ことに根尖部の)debrisを除去することこそが、エンドの良好な成績求める上で欠くべからざる秘訣なのである。私はそう信じている。

根尖部のdebrisを吸引して排出するには、根尖部に存在するdebrisを根管壁から浮かせなくてはならない。洗浄液を併用して、洗浄液の中に浮かせ漂うdebrisを、吸引によって根管外に排出するわけである。理想的には、根尖部を超音波で撹拌させた側から吸引していくことであろう。しかし、現実的にそれは難しい。細いイリゲーション・ニードルを用いたポジティブプレッシャーイリゲーションなりエンドチップによるパッシブウルトラソニックイリゲーションなり、根管洗浄したそばから間髪入れず吸引するのである。根尖よりdebrisを押し出さないよう注意しながら、頻繁に洗浄して吸引することになる。超音波で撹拌する側から吸引する超音波吸引洗浄が理論的に最も優れた根管洗浄法であろう。

目下、私が用いている吸引用器具はヨシダのクイックエンドである。エアタービン回路を用いて、注水洗浄と吸引を同時に行う器具である。撹拌効果は期待されない。注水をカットすると吸引効果だけを得ることができる設計になっている。注水させて用いても悪くないが、排膿や出血を吸引チューブ越しに確認できなくなる。私がこの器具を使用する目的はdebrisの吸引なので、殆どの場面で非注水で用いている。

クイックエンド(の非注水使用)によって、根管の乾燥だけでなく根管内debrisの排出効果も得られているようだ。個人的な感想の域を出ないし客観的なデータを立証できるものではないが、術後疼痛の出現と程度が、使用する前に比べて明らかに目立たなくなったからである。


吸引で根管内をできる限り乾燥させたい
根充前にしろ根貼にしろ、根管内は徹底的に乾燥させるべきと考える。
根充は、通常、疎水性であるシーラーを併用するものだから、当然のことながら期待される物性の発揮のために根尖部までの水分を除去しなくてはならない。そして、根充により、得られた根管の乾燥状態がガッタパーチャ(とシーラー)によって維持されることになる。

根貼は、次の治療までの期間、治療途中の状態が悪化せぬよう(細菌の繁殖を抑えるよう)仮封する行為と考えられるが、やはり乾燥が不可欠である。水分があれば仮封材による封鎖が不十分でリーケージの原因になるだけでなく、湿潤環境では細菌の繁殖を抑えることができないからである。根管という閉鎖的な空間は、清掃されて乾燥された状態に整えなくてはならない※2。これは、歯科医師にしかできない。

根貼時の根管の乾燥に関しては、手持ちの成書を渉猟するに、さしたる記述がない。火で炙ったブローチ綿栓に貼薬剤をつけて根管に挿入て仮封する、とか貼薬剤を染み込ませた綿球を髄腔に位置させた状態で仮封する、とか、根管を乾燥するステップは記述が省略されている例ばかりである。行われることがあまりに当然過ぎることが理由で記述が省略されているのだろうか。

強調しておきたいが、仮封と根充前の根管の乾燥こそが良好な結果に結びつく鍵である。
貼薬剤が根尖部を治すことがないのと同様、水分まみれの根管で根尖の治癒が促されることはあるまい。
クイックエンドで手早く髄腔と根管口〜根管中央あたりまでを吸引乾燥し、根尖部をアピカルサイズ以上の滅菌ペーパーポイントで吸湿すると手早く終えられる。その後は長さをカットした滅菌ペーパーポイントを根管に挿入して仮封(ドライコットン仮封)するか、綿球にFGやクレオドンなどを少し湿らせた髄腔貼薬を行えば良いだろう。ポイントに貼薬剤をつける場合は、ポイントの先端にはつけないほうが良い。根尖歯周組織から浸出液や出血があった際にそれを受け入れる空間を確保するためと、貼薬剤の根尖への漏れを防ぐためである。

debrisの根尖への押し出しをできる限り防ぐことを目的に、根管洗浄のステップに「吸引」を採り入れると良い治療成績が得られるだろう。「吸引」は乾燥も同時に行うので、根貼や根充前の根管の乾燥にも有益である。



※1.この記事を書くにあたって購入してみたが、想像以上に吸引しない様に愕然涙目。バキュームの吸引力が強いユニットであれば及第点が下りるかもしれないが、少なくとも当院では使用に相応する吸引力を発揮してくれない。おのれネオ製薬。欲しい人いたらあげます…

※2.しばしば「根管治療の途中で来院が長期間途絶えていた患者の患歯を際来院時に確認したところ、存在していた根尖病変が縮小してほぼ消失していた(=「根管内の感染源を除去すれば、根尖歯周組織は素直に治癒に向かう」」という報告を耳にする。著名なエンドドンティストなら誰でも有している症例であろう。この報告の真意は、感染源の除去だけにあるのではない。綺麗に清掃された根管を充分に根管乾燥された状態で緊密に仮封してしまえば根尖歯周組織は速やかに治癒に向かうことにある。
 
ラベル:根管洗浄
posted by ぎゅんた at 22:34| Comment(6) | TrackBack(0) | 根治(考察) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
待っておりました!んん、いい記事ですねえ(笑)
それはともかく、蛇足ながら付け加えさせて頂くと、クイックエンドを用いる利点はもう一つ。洗浄のゴールドスタンダードとされる次亜塩素酸とEDTAの交互洗浄ですが、この2つは混ざってしまうと、それぞれのパフォーマンスがガタ落ちします。交互洗浄なんて書いてあるもんだから、ろくに乾燥もさせないで、交互にジャバジャバ洗ってるなんて事をやらかしてる先生もいるそうですが、アレは全くもっていただけない。
イリゲーションを時間短縮させつつ、交互洗浄を効果的に行うキーがクイックエンドなのですよね〜。2つの薬剤を混ざらせないという点でも、デブリ吸引に並ぶ素晴らしい利点。
ワタクシも大いに愛用しております!
Posted by 奈良の変態紳士 at 2016年12月28日 23:37
クイックエンド、私も乾燥目的で使っています。残念なのは#35/6だと大臼歯、小臼歯辺りで根管の半分くらいしかチップが入らないこと。やはり根尖はペーパーポイントが必要ですね。
因みに相変わらずntコンデンサー苦戦しています。今のところ成功率30%。やっぱり反動が返ってくれないことが多く、細切れになって根充されたりしています。軟化温度を70から80℃に上げて練習中です。
Posted by トリ at 2016年12月29日 07:55
勉強になります。
クイックエンドまだもっておらずペーパーポイントで乾燥させてますが時間がかかるかかる。早めに買っておきたいところです。
客観的なデータも欲しい所ですが今の所、裏打ちになりそうな文献まだ見つけてないです、何かあったらいいんですけどねえ。
Posted by ShinyaM at 2016年12月29日 09:16
奈良の変態紳士 先生 コメントをありがとうございます。

ヒポクロとEDTAは混ぜると効果が落ちるからダメよ、と先生は以前より警鐘を鳴らされてましたね。ご指摘をありがとうございます。そして申し訳ありません。根管洗浄について書いておくながら、すっかり失念していました。

クイックエンドのレビューを書いているところなので、そちらで記述できればと思います。ところで、この論拠となる論文はあるのでしょうか。読んでみたいおと、記事にレファレンスをつけたら格好がつきますので/ ( ・・)

言い訳がましい弁明をすれば、
「EDTA→ヒポクロ→EDTAの順序で洗浄すると良い」
と説明されるので、「混ざるとダメよ」の観点を失してしまい、なおかつ交互洗浄の癖で、片方の洗浄液が残ったままもう一方の洗浄液を重ねて洗浄してしまうことにつながっているのではないかと思います。

クイックエンドを使うと、debrisの吸引が念頭にあるので、EDTA→吸引→ヒポクロ→吸引→EDTA…
となるので、結果的にはセーフ路線になってくれる点で助かってます。
根管洗浄の度、ヒポクロおよびEDTAの除去をペーパーポイントで除去していたら発狂しそうです。
Posted by ぎゅんた at 2016年12月29日 09:51
トリ先生 コメントをありがとうございます。

純正のインサートチューブの径がおおよそ80号ぐらいなんで、先生のおっしゃる通り、NiTiで形成していったとしても、チューブはせいぜい中央あたりで止まります。

チューブが止まったところでわずかに根尖側に押し当てるようにしてしばらく保持すると、追加でもう少し吸引してくれるようですが、チューブがへしゃげ始めます。ディスポだから気にするなという設計しそうなのですがコストがきついですね。保険診療で使うことなど微塵も考えていないヨシダプライス。流用できるチップや代替案がないか探しているところです。

NTコンデンサーは根尖からガッタを溢出させない限りはやり直しが優しい点がいいですね。慣れるとせいぜいシーラーが根尖や側枝に入り込む程度でできるようになります。根尖孔が細ければ細いほど安全で上手くいく方法です。根尖部に圧力が加わりやすく、ガッタを受け止めてくれるのだと思います。
Posted by ぎゅんた at 2016年12月29日 10:07
ShinyaM先生 コメントをありがとうございます。

私がクイックエンドの購入に至ったのは、奈良の変態紳士先生の影響です。お値段は118000円だったかに思います。ホイホイと出せる額ではありませんね。加えて、モリタのユニットだと別途、接続用ジョイントが必要になります。これが確か2万円ほど。購入を躊躇する気持ちが湧きませんか。ケチな私は悩みました。2日ぐらい。

「もしダメだったら奈良の変態紳士先生に身体で支払ってもらおう」と開き直って銀行に向かいました。結果は、記事にある通りです。

もし購入を躊躇されているなら、「マルチサクション」をお使いになられると良いでしょう。こんなもん使ってられるかとクイックエンドを購入する決心がつくからです。それは冗談として、まずはデモ機をお借りしてクイックエンドの吸引を体感して欲しいです。ちなみに私は「デモ機なんかないよ」と借りられませんでした。が、拝み倒せば借りられるはずです。北陸にはデモ機がないだけのようです。

ペイテンシーと術後疼痛に関する論文はのですが。
ここ最近、根管洗浄がエンドのトピックになった時期があったときいているので、探せばあるのだと思います。正月休みに探してみます。
Posted by ぎゅんた at 2016年12月29日 10:23
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