2016年10月08日

歯髄炎の応急処置には

20160909.jpg
「右下奥歯の歯がズキズキと痛いです」 すわ抜髄だ! しかしこのケースにペリオドンはダメだ!

印象深い国家試験の問題の禁忌肢が、「急性化膿性歯髄炎に歯髄失活剤」である。

歯髄失活剤といえば、アルゼンブラック、な感じであるが、これは現在では販売していないので入手できない。私が学生の頃はまだギリギリ、臨床で歯髄失活のために使用されていたようだが、研修医になる頃には販売中止になっていて、実際に使用している場面はおろか実物を見たこともなかったりする。

なぜ急性化膿性歯髄炎に歯髄失活剤禁忌であるのか。その理由は、(確か)「歯髄が失活するほど強力な作用を有する薬剤であるから、歯髄が化膿して急性炎症をきたしている時にアルゼンブラックを使用するととんでもない事態にことになるから」のような説明であった記憶がある。しかし抜髄をするのは、普通、歯髄が不可逆性の化膿性炎症を越している状態なのだから、それが理由ならほとんどのケースで使用できへんやないかと思ったものだ。そんなわけで先生にその疑問をぶつけると、国家試験的には禁忌だが、臨床じゃ普通に使うヨとのことであった。うーん本音と建前。

さてそんなアルゼンブラックは入手できなくなった。とはいえ、歯髄を失活させる薬効を求める声が臨床から消失したわけでない。アルゼンブラックほど強力無比ではないはずだが、似たような歯髄失活作用を有する薬剤としてペリオドンが存在する。アルゼンブラックは使わないけれども、このペリオドンは使うという先生は多いようだ。ペリオドンには塩酸ジブカインが含有されているから、残髄の痛みある場合にこれを貼薬するとかファイルに付けて使用するとか、そうした使い方をされていた場面を思い出す。そしてまた、急性化膿性根尖性歯周炎の初回時の感染根管治療にペリオドンを貼薬して重篤な医原性疼痛を患者さんに与えてしまって顔面蒼白、大目玉をもらって茫然自失となった苦い経験がある。これをして、エンドの本質が根管内感染源の機械的除去であることと本気で向かい合うことになったのだった。

使い方を誤った道具が人を殺す凶器に化けるように、材料というのは使い方が重要である。このペリオドンに関して言えば、根管治療のほとんどの場面で選択されることはない薬剤であるが、歯髄炎初期の除痛を優先した応急処置には有効だ。露出させた歯髄にペリオドンを塗布するだけでよい。

う窩へのアクセス、軟化象牙質除去からアクセスキャビティを終え、根管口に存在する歯髄組織にペリオドンを貼薬(ファイル先端に採ったペリオドンを根管口の歯髄に接触させ、ファイルを逆回転させて塗布する)して仮封(脱落を避けたいのでベースセメントが良い)するのである。歯髄組織は基本的に「虐めなければ」痛みは訴えないから、余計な感染をさせることなくペリオドンを根管口の歯髄断面にそっと貼薬すれば、ペリオドンの緩徐な麻酔作用と失活作用で自発痛を消失させることができる。浸麻の奏功が切れた後には患歯の自発痛は消えている。

もっとも、これはあくまで応急処置であるから利用には慎重になるべきだ。次回来院時には全部抜髄をすることになるわけだが、歯髄の完全失活活が得られず浸麻が必要になることも多いし、歯髄失活作用のある薬剤を使用すること自体が術者にとってストレスだからだ。

結局、浸麻をして全部抜髄をするなら、いっそのことペリオドンは貼薬せず、冠部歯髄だけを除去してヒポクロで消毒後にそのまま仮封するだけの方が安全である。歯髄炎をきたした歯髄は硬組織内で膨張することで苛烈な痛みを生じている側面もあるから、う蝕を除去して冠部歯髄を除去して仮封するだけでも歯髄内圧が抜けて楽になるものである。

冒頭の写真のような場合で、応急処置を行うならペリオドンは使用してはいけない。生活反応が残っていれば抜髄の適応なのでペリオドンを使用しても…と思わないでもない。しかしそれ以上に、根尖病変の存在が不穏で怖い。こうした場合、たいてい髄腔拡大して露見した歯髄は感染融解した状態であり、とめどない出血を伴う末期状態であったりする。当然ながら根尖性歯周炎にバトンタッチしているわけで、こんな状況でペリオドンを使うと著しい疼痛と腫張をきたすリスクがある。よしんば応急処置の除痛が達成できても、結局のところ、根管内感染有機質の除去はなんら達成されていないわけで、治癒が遠ざかっていく結果になる。

急性化膿性歯髄炎の応急処置にペリオドンは確かに有効であるが、除痛だけを優先した、姑息的な対応に過ぎないことには注意する必要がある。テクニックのひとつとして身につけておくべきではあるが、頼らない方がよい。目下、私はペリオドンを使用していない。
 
posted by ぎゅんた at 20:29| Comment(9) | TrackBack(0) | 根治(実践的) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
同じくペリオドンとFCも最近全く使わなくなりました、根管開放もしないですし。冠部歯髄除去して次亜塩素酸ナトリウムで徹底的に洗って、カルシペックスおいて仮封。感染が原因と考えると考え着く先は基本同じですね。
Posted by ShinyaM at 2016年10月14日 14:36
ペリオドンはともかくFCやFGはたまに髄腔内貼薬で使うときはあります。けれども、ほとんど慣習的なおまじないの域を出るものではありません。

見える領域なのに想像以上に取り残してしまう感染象牙質をしっかり除去できるだけでも、エンドではこれ以上にない重要な治療ステップかなと。そうした極めて基本的でしかし地味な作業をどこまで正確に達成できるかが、やっぱり取り残していることがあることに嘆く最近の私の課題です。

ラバーダムをルーチンに行ってマイクロで術野を覗けば、感染象牙質と健全歯質のコントラストがより鮮明になるのだろうなあ(ええなあ…)とか考えることしきりです。銀行は今すぐ俺に無利子無担保で金を差し出すことが求められるのであります。
Posted by ぎゅんた at 2016年10月15日 10:12
初めまして、HP非常に勉強になり拝見している普通の保険医の者です。
抜髄で作業長をどこに設定しようと高位や低位の断髄で切断層があると思います。
歯髄の状態や年齢により出血が多く止血が困難で苦労するケースがありますが、ぎゅんた先生はどのように対応されていますか?
あと先生はコスモデンタルサージで残髄予防されていますが、機械が無い場合は残髄予防する
方法があれば教えて下さい。
自分の手技的に問題があると思いますが、大臼歯に残髄が多くあります。
教科書的にはNC洗浄やcaOH2貼薬により歯髄溶解作用があると思いますが表層のみで全て溶けるとは思えません。
Posted by 保険医 at 2016年10月16日 23:05

保険医先生 コメントをありがとうございます。
抜髄時に歯髄の炎症が強く止血が困難なとき、ありますよね。
基本的に歯髄が除去できさえすれば満足のいく止血がなされますから、まず冠部・根管口・根管の上部1/3あたりの歯髄の機械的除去を徹底します。これは髄室の整理や根管口明示のステップでほとんど達成できる範囲です。ここまできたら一度NCを満たして3分ほど置きます(エピネフリンの影響もあって、この辺りで大体は、抜髄操作を妨害しない程度の止血は得られていると思います)。NCを洗い流す要領で、30Gのイリゲーションニードルを根管口に突っ込み、洗浄して手用ファイル#10Kでネゴシエーションに移ります。穿通したら、ファイルを直ぐに引き抜かず、根尖孔から意図的に突き出す⇆引き抜くを30回ぐらい執拗に行います。この操作を行う目的は2つ、根尖と根管の交通性が確保と歯髄の切断にあります。ここまでやっても止血が難しい場合というのはあまりない気がします。あって乳歯かなと…永久歯であれば穿孔か根尖部の破壊か、別の要因を疑い、オキシドールを根管内に満たして時間を稼ぐと思います(オキシドールの止血効果&頭を冷やして考える時間を確保する)。

NCは歯髄を溶解しますが、接触時間が予想以上に必要です。根管の歯髄に適応すると、接触面積が根切断層に限局されます。根管にNCを入れたから歯髄がドンドコ融解されて残髄を防止できるとは考えない方がよいと思います。水酸化カルシウムも同様です。コンサバティブに、機械的除去を優先するのが良いとおもいます。そしてまた、感染させないことが重要です。たとえ残髄をおこしたとしても、感染させて残髄炎にしなければ自発痛はでないので。

ご参考になるところがあれば幸いです。
Posted by ぎゅんた at 2016年10月18日 09:59
ぎゅんた先生NC3分満たすのとネゴシエーション30回やってみようと思います。
アドバイス頂きありがとうございました。
Posted by 保険医 at 2016年10月19日 16:49
上記にShinyaM先生が書かれている通り、根管内の貼薬は、基本的に水酸化カルシウムの1択になっていくか、あるいは無貼薬になるかが、モダンエンドの行きつく先かと思われます。おそらくFCやFGというものは、なくなっていくと思われ、ぺリオドンなどは言うに及ばず・・・。
ぎゅんた先生も、早くこちら(エンドの変態世界)へいらっしゃいませ(笑)モダンエンドの世界にどっぷり浸かると、先生が悩まれているであろう多くの問題が解消いたします(また新たな問題が発生するにしろ・・・)。
Posted by 奈良の変態紳士 at 2016年10月19日 22:40
変態に染まりゆくために、エンドアクティベーターという根管洗浄用の器具を買おうか画策中です。エンド専門器具は当然ながらエンド診療のごく一部にしか使えない意味において趣味投資に近いところが変態。これもヨシダがクイックエンドを貸してくれないからやで

FCやFG、ペリオドンは診療室のホルムアルデヒド汚染とアレルギーの問題があるんで、ゆっくりと過去の薬剤になり消えていく薬剤でしょうね。今ある在庫のやつで最後になります。クレオドンは思い入れがあるので、残るかも。
Posted by ぎゅんた at 2016年10月20日 12:49
マイクロは楽しいですよ、手を出しにくい買い物ではありますが。ただ奈良の先生とか見ているとCT等色々欲しくなるのは難点ですが(苦笑
クイックエンドも欲しいなあ・・・。

>根尖孔から意図的に突き出す、引き抜くを30回ぐらい執拗に行います

賛否両論ありますがペイテンシーファイリング等、小さいファイルを出すことに関しては問題なさそうですね。出してしまえばレッジもできませんし。
Posted by ShinyaM at 2016年10月22日 10:49
ShinyaM先生 コメントをありがとうございます。

#10Kなら突き出しても小さな傷ですし、根尖を拡大するにしてもせいぜい#12なので無視できるかなと。感染根管だとフレアアップが怖いですが、それよりdebrisで詰まっちゃう方がストレスです。自業自得なんでこれまたストレス。再穿通させないと自責の念で寝つきが悪くなる。時間あたりの診療報酬を考えると落涙至極。やっぱエンド好きの保険医はマゾです。ぐへへ
Posted by ぎゅんた at 2016年10月25日 10:53
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:


この記事へのトラックバック