2014年03月19日

続・痛くない浸麻ができれば

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最初の刺入時のシリンジの持ち方

歯科治療において、局所麻酔を効かせて無痛的に処置ができることは患者の安全のためであることは自明である。ただし、無痛的状態としての麻酔効果を得るためには注射針を粘膜に刺入しなくてはならない。これは痛みを伴う。

もしも、この最初の刺入時の痛みを限りなく小さくできればその恩恵は計り知れない。単純に、痛みの少ない麻酔を患者は望んでいるし喜んでもらえるだろう。また、痛みが少なければ、患者は「この先生は腕が良いナ」と術者を好意的に評価し安心するからである。

使うものは一般的な表面麻酔薬(ゼリー状orテープ状)と手用注射器のみ。電動注射器やバイブラジェクトやカートリッジウォーマー等は使用していない。カートリッジの液温は室温保管のそれである。針は細い方がよいが、30G以上の細さなら問題ないだろう。勤務先では30Gとゼリー状の表面麻酔薬、実家では33Gとテープ式表面麻酔薬を使用している。麻酔液はオーラ注、注射針には共にニプロ製(100本で980円のもの)を用いている。

さて、私が行っている方法を以下に記したいと思う。概ね、患者さんから「痛くない」評価を得ているので、みなさまのご参考になるところがあるのではないかと思うからである。以前に起こした記事の内容と比較して、特別に変更されたところはない。内容的にはかなりシンプルであるから、色々と応用が利くと思う。

Procedure
1.浸麻する場所は、まず齦頬移行部に設定する
2.設定した部分と周囲(次に刺入するであろう部位)の粘膜をオキシドール綿球で拭い、消毒しておく
3.その部位をエアでキンキンに乾燥させる
4.表面麻酔薬を、最初の刺入部位である齦頬移行部に置く
5.置いた表面麻酔の上からロールワッテをあてがって1分以上、圧迫し続ける
6.ロールワッテを左手の指で、粘膜を緊張させるように押しよける
7.最初の刺入部位である齦頬移行部が、6.の動作により緊張されていることを確認
8.ベベルの向きを確認した針先を、齦頬移行部に平行になるような向きでスッと刺入させる
9.薬液をごく少量、注入
10.注入してから2、3秒だけ注入動作をストップ
11.ゆっくり薬液を注入していきます。粘膜がカエルの腹様に膨れていることを確認
12.ここでいったん終了して、含嗽のためユニットを起こす
13.重力を利用して浸麻液を次の刺入部位まで移動させる(もしくは膨隆部を指で押すことで麻酔液を移動させる)
14.1分半以上待ったのち、次の刺入と注入を進める(本命の場所)



コツ、その他
・表面麻酔を塗布した粘膜は、刺入までとにかく乾燥させた状態をキープすること
→刺入までの間に粘膜が濡れてしまうと表面麻酔の効果はガタ落ちになる

・ベベルの向きを確認して刺入することを癖にすること
→ベベルが逆だと刺入が難しくなり、痛みが強くなる
注射針のべベル.jpg
基部にべベルの向きを示すマークがあるはず

・時間がかかってしまうのが欠点
→最初から歯間乳頭部に打てば早いが、痛い

・体温付近に温めた麻酔液を用いれば、注入時の痛みを少なくできるかもしれない
→カートリッジウォーマーが不当に高いので私は使用していない

・電動注射器を用いれば、注入時の痛みを少なくできるかもしれない
→ニシカのアネジェクトUが良さそう


Let's try !!
 

posted by ぎゅんた at 20:19| Comment(6) | 局所麻酔 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ぎゅんたさんこんにちは。

浸麻についてなかなか痛くならないようにしたいとこころがけてますが、うまくいくときとそうでないときがありますね´д` ;小児でもう少しうまくやりたいなと思うこの頃です。

麻酔で下顎大臼歯の麻酔がうまく奏功しないことが多くて、なるべく深く針をいれても(骨にすぐ当たり深くいれられないこともあり…)効かないことがあります。抜髄のケースでもリーマー痛があったり、形成時でもやはり少ししみたりすることが多く悩んでいます。
上はオーラ注でこと足りることがおおいですが、下となるとキシロカイン数本使用することがありうまくきいてないなー、下手だなーと思う次第です。
何かしっかり効かせるコツとかあるでしょうか、是非ご教授いただきたいです(^^)
Posted by physy at 2014年04月12日 18:06
physy先生
コメントありがとうございます。

痛くない浸麻のコツは
・患者をなるべくリラックスさせる
・キンキンに乾燥させた歯肉境移行部粘膜に表面麻酔を最低一分
・刺入する部位の粘膜を緊張させて刺入
だいたいこんなところだと思います。

浸麻液を加温して体温に近づけると痛みが感じにくいと言われていますが、私は気にせず室温で使用しております。電動注射器も使用していません。

これは小児でも同じです。小児の場合はとにかく唾液が湧いて出てきますから、刺入部位の乾燥状態の維持が難しいのがネックになります。

歯肉境移行部に浸麻液を注入したら、しばらく時間をおいて、液が付着歯肉あたりに浸潤するのを待ちましょう。2分ぐらいおくとよいです。それから、付着歯肉に浸麻液を注入し、1分ぐらい起きます。それから、乳頭部や歯根膜注射すればまず間違いなく効かせられると思います。オーラ注1.8mlで足りるはずですが、抜歯や抜髄の場合は炎症の有無で奏功に差がでますから、不十分な場合も起こり得ます。

下顎の場合、とにかく大臼歯は効きづらいので、下顎孔伝達麻酔をルーチンに行う方が楽で早いのではないでしょうか。前歯〜小臼歯は浸麻で充分いけます。

効きづらい麻酔について加えれば…
不用意な痛みに伴う閾値の低下はバカにならない影響があるので、麻酔の効き具合不安があれば、注入量を多くとっておく方が良いでしょう。患者さんにしても、治療に入って痛みを感じるぐらいなら、しっかりと麻酔をかけて欲しいと考えておられることが殆どです。麻酔液は薬剤ですから、あまり注入したくない気持ちが働いてとかく注入量が少なくなりがちなところがあります。

急いで書き上げましたが、どこか参考になるところがあれば幸いに存じます。
Posted by ぎゅんた at 2014年04月14日 10:26
ぎゅんた先生御机下
いつも勉強させていただき、ありがとうございます。
・浸麻についての質問です。
1.ベベルの向きを確認した針先を、齦頬移行部に平行になるような向きとは、歯冠から根尖方向に刺入するのではなく、近遠心方向に刺入するということで宜しいのでしょうか?
2.口蓋部への麻酔は著しい疼痛があるかと思います、自分は齦頬移行部に浸麻液を注入したら、しばらく時間をおいて、液が付着歯肉あたりに浸潤するのを待った後に歯間乳頭部より、口蓋方向へ麻酔液を注入しながら徐々に針を深く挿入しておりますが、1歯の麻酔に15分くらいは十分にかかってしまいますが、口蓋への麻酔で疼痛を与えず、かつ効果的な麻酔の方法はありませんでしょうか?
・エンドについての質問です
1.ガッタパーチャを効率的に除去する方法があれば教えていただけませんでしょうか?
2.無髄歯でも根管内にファイルを挿入あるいは、GP材を除去する際に疼痛を訴えることがありますが、その際、麻酔下で行ってしまうことが多いのですが、いかがなものでしょうか?

ご教示宜しくお願い致します。
Posted by akichan at 2014年07月27日 23:51
追加の質問です。
上顎は重力の原理で齦頬移行部から辺縁歯肉まで麻酔が浸潤してゆくかと思いますが、下顎はいかがでしょうか?
また、付着歯肉幅が著しくある場合の辺縁歯肉までの麻酔の浸潤はいかがなものでしょうか?
何度も申し訳ありませんが、宜しくお願い致します。
Posted by akichan at 2014年07月27日 23:56
akichan 先生
コメントありがとうございます。

「齦頬移行部に平行」とあるのは、先生のおっしゃる通りの意味です。歯軸方向から刺入するよりも痛みを感じにくいようです。刺入際しては、バッチリ表麻を効かせた粘膜をテントを張るようにピンと緊張させておくのがコツです。ロールワッテを指で押して粘膜を外側に引っ張るようにすると上手くいくと思います。

口蓋側歯肉への刺入は、如何に表麻を効かせていても痛みを訴える部位です。私もakichan先生の記述にあるように、まずは齦頬移行部に浸麻して上体を起こし、重力を利用して頬側付着歯肉に浸潤させています。それから、頬側の歯間乳頭部から僅かに根尖側付着歯肉に浸麻して、例えば右上6であれば、患者さんに顔を左に向けてもらって、少しでも口蓋側に流れるようにします。それから、口蓋側から歯間乳頭部付近に浸麻して、上体を起こして浸潤を待ちます。15分かければ十分に効くと思いますが、せっかちな私は6分ほどで治療に移っています。抜髄であれば、最後の口蓋側からの浸麻を歯根膜注射にしても良いでしょう。


ガッタパーチャの効率的な除去というと、おそらく初回の感染根管治療の際を想定していると思います。様々な方法があると思いますが、私は、まずゲイツの#2で、根管口からガッタパーチャに食い込ませて、それから無注水のGPX(マニーのGPRガッタパーチャリムーバー等)でからめ取るようにして除去しています。これで大部分を除去したあとに、#15のKファイルでネゴシエーションを狙っていきます。溶解剤はあまり使ったことがありません。

いわゆる失活歯であっても、ファイルの挿入で痛みを訴えることはしばしばあります。根尖に圧力がいくのか、何かが根尖に溢出しているのか、神経が残っているのか、いずれにせよ、根治は生活歯失活歯問わずに痛みを伴う処置と考えて良いと思います。海外では根治は浸麻して行うのが普通だそうです。根治の浸麻に点数はありませんし、あまり痛みを訴えない(我慢している)患者さんが多いことに甘えて麻酔をしないで処置しているのが現状です。いつ痛みが出るかビクビクしながら治療を受けられる患者さんは多いですから、安全に治療を遂行するためにも、ルーチンに浸麻を使用して差し支えないと思います。私は1.0のオーラ注で浸麻して根治することが多いです。


少しでも参考になれば嬉しいです。
ガッタパーチャの効率的な除去は、私もまだまだ試行錯誤なところがあります。
Posted by ぎゅんた at 2014年07月28日 17:22
ぎゅんた先生御机下
お忙し中、早速のご教示ありがとうございました。
今後共宜しくお願い致します。
Posted by akichan at 2014年07月29日 23:58
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