2024年12月10日
なにはともあれフロッシング
誰の発言なのかアメリカの歯周病学会?かどうかも忘れたが、”floss or die” なる文言が存在する。
フロッシングの重要さを説く訓示のようである。たしかに、歯間にフロスを通すとブラッシングで取り残した歯垢が存外に取れてきたりするから、取り残したままでいると死が近づいてきそうな気にはなる。隣接面う蝕も多発しそうである。
私は、歯学生になる前もなってからもフロッシングを習慣づけていたことはない。今も、フロッシングは真面目ではない。しかし、隣接面う蝕は生じたことがない。歯間乳頭歯肉の局所的な歯肉炎は生じるが(P急発経験)、アタッチメントロスを生じる歯周炎に移行してもいない。
結論:フロッシングは不要!
な、ワケはない。それは極論というものじゃ。
フロッシングはフロッシングで、口腔内のプラークバイオフィルムという、あのまことに厄介なバクテリアコロニーを物理的に除去するのであるから、口腔内の衛生的な環境を鑑みれば実に有益な行為である。
フロッシングの習慣は特にないが隣接面う蝕も歯周炎も生じていない、というのは、元来の運の良さも加わって安定した口腔内環境が成立しているにすぎないのだと思う。この辺は、どうにも個人差がある。ひょっとしたら、ブラッシングが極めて上手ならフロッシングを無視できるのだろうか。実のところ、私自身は己のブラッシングが上手だとは思っていない。でも、大丈夫なままだ。面倒なので「個人差がある」ということにしておこう。
なにはともあれフロッシング
とはいえフロッシングは無益なものではないのだから、ブラッシングの折に適切に行えば良い処置であることには疑いようがない。ただし、不用意乱雑に行えば歯間乳頭歯肉にデンタルフロスのダイレクト・アタックを決めて出血きたすから、フロスは歯面に沿わせて移動させるよう、慎重に操作したい。え、面倒くさい?実は俺もそう思うんだよね。ブラッシングと毒だしうがいで良くない?
私は思う。歯科医師の使命は国民の健康に寄与することであるので、テメエのことは二の次で患者さんに適切なフロッシングを提供すれば良いのである。診療中のわずかな隙間時間があれば、患者さんにフロッシングを施す歯科医師であれば良いのである。私は昔からこれを意識的ルーチンにしていて、余裕がある限り、全額全歯にフロスを通してからその日の処置に取り掛かることにしている。1分ほどで済む内容だが、このことが患者/術者にとって程よいウォーミングアップになる。風フロッシングは、それだけでも口腔内がスッキリする感じが得られるので、患者ウケも決して悪くない。術者は少なからず清掃を達成した口腔内で処置を開始できる。良いことずくめではなかろうか。
そもそもフロッシングは、最愛の彼女はおろか女房だってやってくれない(いないよな…?)。耳掃除ぐらいはしてもらうことはあろうとも、フロッシングもしてもらってるなんて、聞いたことがない。お相手さんが歯科衛生士さんなら話は別かもしれないが、その場合は「やり方を教えるから自分でやってね♡」と言われているに違いない。
話が変な方向に向かったが、要するに第三者にフロッシングをしてもらうと言うのは存外に貴重な体験なのだ。歯科医院に足を向けない限り、第三者にされる機会などないのではないか。
歯科医療従事者にとってフロッシングなど、さしたる行為にあたらないとは思う。さりとて、患者さんにとっては非日常的なサービスにあたる位置付けのものでもある。
フロッシングは、ちょっとした時間があればできる。派手ではない。地味な処置だ。でも、患者さんには有益な一手である。医療従事者の手洗いと一緒で、迷ったらやればいい。
そのうち、フロッシング操作に習熟して迅速正確にできる腕が身につく。
その一方、フロスがほつれたり通過しなかったりスッカスカで食片圧入をきたす部位が見えてきて対処を見出していけるようにもなる。