かつて保存修復では2級充填にマトリクスバンドやトッフルマイヤー・リテーナーなどを使用してきた、というのは私が学生時代に保存修復学で習った内容である。学生実習でトッフルマイヤーに触れたことはあるが臨床で使用したことはなかった。歯科医師になって臨床現場で使用することもなかった。
2級修復といえば間接修復であり、金属性修復から接着システムを応用したCRインレーへと変遷し、その間に自分なりに使用しやすい2級充填用のマトリクスを発見したりしたのだった。即日充填は喜ばれたが、症例稼働を誤ったり術式がヘボだったりすると隣接面部の形態回復やコンタクト接触が疎かになり容易に食片圧入から歯間乳頭歯肉の急性発作になって返ってくるのであった。
さて、今回紹介したいのは2級充填に使用できる『フリーアングルマトリックス』というトッフルマイヤーライクな器具である。Ciメディカルで買える。ディスポ。
当該製品を私が知ったのはどこかに掲載されていた小コラムで、アジアの僻地医療の際にこの製品があったおかげで充填処置がすこぶる助かった、というものである。現場の先生が、人を含む医療資源に欠けた場面で役立ったアイテムというのは、必ず卓越した長所があると私は考える。小コラムでこのアイテムを紹介した先生が嘘をつくとも思えないし、その素晴らしい活動と報告に高い敬意を覚えるのである。
小コラムを読んだ私は矢も盾もたまらず、Ciのカタログを開いて、バンドの厚みの最も薄いオレンジのそれを注文した。トッフルマイヤー型のリテーナーは、私には使い慣れたものではなかったが、果たして、実物を手にしてすぐに使い方は理解できたし、臨床で使用することができた。驚くべきは歯冠形態への優れたフィッティングとバンドを締めた際の十分な把持力である。また、口腔内で固定されるので口唇排除と簡易防湿も勝手に兼ねてくれる。最後方臼歯の遠心充填に満足のいく結果を出した際は、このアイテムのありがたさに震えた。
もちろん、すべての2級窩洞に適応することもないし、既製品ゆえの応用限界もある。とはいえ、診療所にコイツを備えておくのはいざという時の充填の場面で必ずや有益でることは確かである。
2級充填は作業的にストレスがあるとか苦手意識がある先生は、ひとまず一度は手に取って試していただきたい。