2023年12月29日

なんじゃらほいなPEEK冠、の巻

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こっちはピークちゃん


12月迎えて数日が経過したある日、私はPEEK冠と出会った。歯科技工所の営業の人に、「このたび保険導入されて7番にも金属アレルギーに限定されず白い冠が入ることになりましたが〜」とあたかも周知の事実のように話を振られたのだ。

知らねえよしゃぶれよ

と言いそうになりましたが、歯科医師は専門職として貴賓ある振る舞いが求められる厄介な人種でありますから「詳しくは理解していないので教えて下さい」と述べるにとどめた。


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PEEK冠は、要は「保険で大臼歯に入る白い冠」である。白い冠といえど、我々が慣れ親しんでいるセラミックやCAD/CAMのそれとは見た目が異なり「見た目的に死んだようなアイボリー」なのだという。いやそれどんな冠なんだよ?と興味が湧いた次第。研修医の時分、研修先の協力型施設のチェアサイドで散々に作りまくった即重TEKみたいな外観なのだろうか?丁寧に研磨してレジンポリを走らせる案外に綺麗な見た目に仕上がった覚えがある。

訊けば「それより酷いかも」というから、いよいよ凄そうであります。古びて黄ばんだファミコンみてーな色なのでしょうか?私の気は昂った。

しかし年内は供給が不可能だという。初期オーダーが多すぎてガス欠起こしたらしい。いまんとこ松風のPEEK冠用ブロックしかないそうな。

代わりに、でもないが接着時の注意として松風の接着性レジンセメントとPEEK冠内面専用プライマーの使用遵守に説明を受けた。松風製品の囲い込みだあっと思わないでもないが、こと接着に関しては同社の製品で揃えるというのは暗黙の了解なところもあるので当然の説明ではある。松風も商売が上手になったものである(褒)。


さてこのPEEK冠の存在に興奮した私は矢も盾もたまらず知り合いや友人の先生に「聞いて聞いて〜7番の歯に新しく保険で白い冠が入れられるんだって〜」というようなメッセージを送信した。とまれ反応は冷めた感じであった。期待も歓迎もしていない心理が読み取れた。そもそもCAD/CAM冠の適応を7番まで伸ばせばいいだけの話ではないのか?言われてみればそうである。

とまれ、歯科の新技術を保険導入してみるというのは悪いことではない。抗破折性が高いとか、なんらかの歯科理工的な理由もあるのだろう。ノンメタル修復は国民からの希望もあるし、価格が不安定で高騰している金パラの使用比率を下げていきたいのだろうという保険者側の狙いもありそうだ。臨床成績が良いのなら、全歯でPEEK冠OKという保険でノンメタルな路線に踏み切ることだってできよう。

今のところ、PEEK冠についての評価は仄聞もないし私も判断のしようがない。
チタン冠のように保険導入されたはいいが臨床医からの評価が芳しくない(?)という結末になるかもしれないし、脱離も破折も有意に少ない優れた性能を発揮するかもしれない。

ひとまず、急に保険から外されることはないだろう。少なくとも「選択肢の一つとして」存在が残るのは悪いことではない。

チーズはどこへ消えた?』でもないが、冒険を十分に味わって新しいチーズの味を楽しむべきであろう。PEEK冠が、あなたに発見されるのを待っている新しいチーズかもしれない。


とりあえず適応症例の機会に恵まれたのなら試してみたいところだ。



※大臼歯に硬質レジンブロックをデジタルに削り出して拵えた冠が、果たして口腔内の咬合関係を長期的に安定保持してくれるのだろうか?という、導入時に私が抱いた一抹の不安は、いまだに払拭されてはいない。咬合の要である大臼歯の歯冠補綴は、やはり金属に適うものはなく、わけてもゴールド冠が最良の選択ではないか、と私は考えている。キャストクラウンは「出涸らしの技術」であれ、なんだかんだこれからも通用する信頼性があったりするものだ。
ラベル:PEEK冠
posted by ぎゅんた at 22:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 根治以外の臨床 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年12月23日

今度はオーラスター1.8Sをデモ機で借りる

アネジェクトUの修理期間(いつまでかかるんだ?)に使用する電動注射器の確保もかねて、デンタペン返却と入れ替えるようにオーラスター1.8Sのデモ機を借りる流れになった。ありがたいこってす。

オーラスターは、私の記憶違いでなければ古参株の電動注射器のはずである。見た目にも「ちと古いデザインやな」という印象を受ける。目立ったバージョンアップもないまま、いまだに市場に存在し続けているということになる。日常臨床で現役で使用されている先生も多いのではないか。

これはつまり、オーラスターが小手先の改良を必要としない完成されたプロダクトであること意味するのではないか。
まさか「メーカーがこの商品の存在を忘れている(放置されている)」なんてことはあるまい。


歯科材料業界は、歯医者が新しい物好きなのでとかく新商品ずくめになりがちである。
厳密に言えば、核となるプロダクトができるとその派生や改良版が発生し続けるのだ。

特に接着系にセメントやCRまわりは材料ありすぎてもうわけわかんない。材料オタクでもなければ把握しきれるものではない。
いつも使ってる「アレ」がいつのまにか名前・姿・形を変えていたりする。臨床の長期評価に支障をきたしかねない。特に接着系材料は数年単位での評価が必要になるので、処置後の追跡、予後評価は欠かせないから由々しき問題かもやしれぬ。

歯科材メーカーが「歯科材料も日進月歩、マーケットは国内だけではない。1日の遅れは即ち日本の遅れにもつながる!」との認識のもとでビジネスの荒波を懸命に泳いでいることは承知なので文句をつけるのは野暮な話だし、オーラスターを見習え!とも言えないけれど、もう少しシンプルな製品展開をしてくれてもいい気がしている。


話が脱線したのでオーラスターに戻ろう。


感想としては、まず古臭い。
器具はデカくて存在感がある。手に保持した際の取り回しが悪いとは言えないが、重量感が気になる。丸みのあるデザインで、横にして置くと場所をとるし安定しない。使用場面以外は常にスタンド兼充電台に置いておくというスタイル。迂遠して考えれば、これは余計な事故を減らす工夫とも言える。こういう、設計に見えてくる「割り切り感」は好みである。

電動注射器を使うにしろ、注射針の刺入時の痛みの軽減をはかることに変わりはない。

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このオーラスターは、通常の持ち方(説明書にある「一般的な把持方法」)だと、粘膜刺入時に針先のブレが生じやすい気がしている。せっかく無痛で刺入できるチャンスを得ておきながら、刺入時に針先のブレで台無しにされることほど腹立たしいものはない。防止策や解決策はないものか。

自分が取り扱う器具の細かな振動を取り除くには、狙った瞬間の直前に息を止めるという手法がある。しかしスナイパーの狙撃じゃあるまいし、大仰だ。私は持ち方を工夫して針先にブレが生じやすい、というか、いつものアネジェクトUを扱うような感じに近づけて解決した。

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中指をカートリッジホルダーに添え、人差し指の第二関節の腹あたりでスイッチを押す


電動注射器には、注入速度を決定することができる機能が備わる。
このオーラスターも同様で、Low⇔Mid⇔High の3段階が選択できる。
こうした速度の「High」は、せっかちな歯医者に合わせた速度になりがちで、概ね注入時に痛みを訴えられることが多いのだが、本オーラスターのHighはちょうど良い塩梅の速度であるように思う。Midの速度なら、注入を終えたら処置に移ってもいいほどの速度であるのも都合がよい。
注入圧も頼もしい根性があり、注入時に勝手に動作を中断することもない。歯根膜注射もなんのその。こういうので良いんだよ。


日常臨床でルーチンに用いる医療器具に求められるものは、故障知らずでメンテナンス負担が小さいものである。YDMのインストツルメント類などはまさしくこれで、値段は張るが納得の性能を示す。大切に使えば子の代、孫の代まで使用できそうな信頼感さえある。

オーラスターが子の代まで使えるとは思えないが、しかし、頑健な筐体に充電式バッテリーを備えているので日々の繰り返し利用には安定して耐えてくれそうだ。こういうのが良いんだ

もしアネジェクトUの修理が不可能だったり、修理費がアホらしい値段だったらこのオーラスターを購入しようと考えている。
というか修理の見積もりはいつ届くんだよえ──っ



オーラスター1.8S公式サイト

2023年12月02日

デモ機で借りたよ『デンタペン』

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NISHIKAの電動注射器には、私が愛用している『アネジェクトU』があったのだが、既に終売しているようだ。その後継のようにラインナップされているのが『デンタペン』である。超小型、軽量、スイス製がウリだという。

臨床家にとって使い慣れた器具は、際立って不満や問題がないのなら使い続けて習熟を上げていくものである。私は、アネジェクトUを数年に渡って使い続けてきてさしたる不満はなかった。充電式なので、繰り返しの使用でバッテリーがヘタってくることに目を瞑るくらいである。デザインや取り回しに不満を覚えたこともない。握力がない非力な私は付着歯肉の局所麻酔注入で楽ができるのは本当にありがたいことである。

さてある時、当院のDHが誤ってアネジェクトUを床に落下させてしまい、液晶部とその周囲のプラ部を破損させてしまっのでさあ大変。一応、作動するのだが液晶部が潰れているので注入速度や音楽番号や薬液量の残りなどが皆目わからない。これは困った。電子部品というのは、壊れた状態で使い続けると危ないのだ。私は修理の依頼をだした。その代替のようにして、デンタペンがデモ機として届いたのだった。

結論からいうと、購入に値しないと判断した。

届いたデンタペンは確かに小型で軽量である。驚きのサイズだ。海外製というのもあって、精密な器具の香りもする。2種類のフィンガーグリップと術者の持ち方次第で、注射器を思いの外自在に保持できるのは優れているように思えた。ただし、注入を開始するためにはフィンガーグリップ越しにボタンを押さねばならず、この時に本体に避けきれない振動が生じる。注射針を粘膜に刺入させた後にいざ注入とボタンを押すさいに望まない振動が注射器に生じたら針先がブレてしまうというものだ。

アネジェクトUでは、ボタン部はセンサータッチであり、このような心配は無用だった。緊張させた粘膜に注射針を滑り込ませるように刺入したことを確認して麻酔液を注入させることが楽にできた。

従って、粘膜に刺入する直前にボタンを押して注入動作を開始してから即座に針先を粘膜に刺入せねば道理に合わない。慣れればどうということもないが、アネジェクトUならこのような配慮は無用だったと不満に思える。

セルフアスピレーション機能があって、伝達麻酔にも使用可能!らしいが、伝達麻酔は伝達麻酔用の手用注射器を用いれば良いだけである。私は日々の臨床で下顎孔伝達麻酔、眼窩下孔伝達麻酔(口内法)、上顎結節伝達麻酔をルーチンに行うが、その際に電動麻酔器を必要とする場面はない。

次に、自動停止機能のマージンを取りすぎているのか、注入時にすぐとまるのが不満だ。付着歯肉に注射した際は顕著で、本当にすぐ止まる。気合が足らんぞ。高い圧力を発揮する歯根膜注射モードもあるが、これはバッテリー消費が激しい。至れり尽くせりである…

しつこいがまだ不満があって、それはバッテリーである。別売りの専用バッテリー(使い捨て)を必要とするのだ。そんなんなら充電式にするか、時代に逆行してでも有線コード式でもいいから動作させるようにデザインして欲しかった。海外はなんでも使い捨てスタイルが尊ばれるのかもしれないが、日本の保険医はこの辺は厳しい。この記事を読んでいる先生方の大半が「えっ充電式じゃねえの⁉︎」と思われたに違いない。

そんなわけで既に100症例以上に使ってきたが、私は本製品を気に入っていない。聞いた話だが、本デンタペンが故障の際は、修理ではなく新品を購入することになるそうだ。SDGsはどうした。ここには書かないが、値段も強気設定なのでなおさらだ。スイスで売れてないから日本市場で売り捌こうとしてるんじゃなかろうか?


はやくアネジェクトUが修理から帰ってきてくれるのを祈るばかりだ。
仮に「ごめん、これもう修理だめぽ」と言われたら昭和薬品の『オーラスター』を買うつもりだ。




追記
業者からのタレコミで、本製品にはコピー品が存在するようだ。
BSAサクライで買える。→スマートミニ
値段が安くなって充電式になってるぞ!設計図が流出したのだろうか?謎