最近の臨床から、破折ファイルの除去について思うところがあったのでクソ記事を書くことにした。
今まで、根管内にある要除去破折片は、私はどれもを超音波チップで除去してきた。
要破折片(多くが手用ファイルやNiTiファイルの先端部分)を除去する手法は、現在とは異なりマイクロスコープがエンドで使用されてもいないような時代に、私の師匠が見せてくれたので印象深い。診療フロアの片隅に物干し台の様に埃をかぶっていたMANIの初期のマイクロスコープとオサダのENACにエンド用チップで除去していた。
さてこのMANIのマイクロスコープ、可動部が重々しいことから取り回しがも悪く、ハロゲンの明るさも昨今のLEDのそれに比べて低かった。外部モニタに映像を出力させることもできていたが、様々な機器を「挟ませる」必要があったので、大変な手間であった様に思う。チェアサイドが一気に物々しい存在感に支配されるのであった。フロアの動線に干渉が生じる始末であった。だから、特別な場面でなければマイクロスコープは単独使用することになった。
根管内に刺さる様に引っかかっている破折片に、微振動するチップを当てて緩ませればプッと飛び出してくるよ、と言って割合に苦労するまでなく除去していた様に思う。当時の私はやる気がない大学院生(歯医者になって2年目)で、根管内の破折片を除去するトピックに興味はあったものの、どの様なチップをどのようなパワーで用いるとか、チップの取り回しの勘所など、肝心の点を記憶に留めていなかった。これは、なにも知らないのと同じことである。
往時は、根管の中にファイル折れ込ませてしまうことは頻発していたように思われる。なにしろ空いてない根管を相手にするのが普通であった。手用ファイルは「回すんじゃねえぞ」と実習であれだけライターに釘を刺されて育ったのに、実際の臨床現場では誰もがファイルのネジ巻き作業員と化していたのだから。指にタコができるほどファイルをこねくり回して根尖まで開けたら褒められたりした。それはただの人工根管であるが、そんな考えすら脳裏になかったのだった。
いずれにせよ、根管に手用ファイルを挿入したらすぐに回す悪癖が常態化しているものだから、ファイル先端のピッチは伸びるし、当然ながら破折する結末を迎えることになる。もう下手に根管内をいじくり回さずにイオン導入法で根管内を消毒して終わらせた方がマシなのではないか?と考えたりした。
私の思い違いでなければ、当時のエンド臨床はこういうものだったはずだ。開かない根管を相手にしてどうやって治療を終わらせていったのかというと、ただ根尖歯周組織の炎症を慢性化させて誤魔化していただけなのだ。頑張ってネゴシエーションして根管の走行を損なわぬようstep-back praparationで拡大形成を進めて偉くなった気分になっても、患者はフレアアップを起こして戻ってきたりもする。
今にして思えば、根管洗浄の不備でdebrisを根尖から押し出しまくった結果だとわかるが、未熟な術者は自分術式が否定されたと受け止める。畢竟、エンドは真面目にやってもシンドイだけで報われないし保険点数まで低い、ということで面白くない。厭戦的になるのである。私がそうだった。歯を残す、というのは歯科医師に課せられる偉大な使命であることに疑いはもたなかったが、エンドで歯を残せる歯科医師になれる自信は持てなかった。エンドで歯は治せないから、無理に保存して根尖歯周組織の破壊が進行する前に抜歯してインプラント早急に咬合機能を回復させる、というムーブメントが醸成されていた時代だったようにも思う。
個人的な思い出話などどうでもよくて、この記事で肝心なのは、除去したい破折ファイルを具体的にどうやって除去するか?である。
ひとまず、私自身が成功させてきた破折ファイルの除去は、以下の組み合わせである。
・スプラソン P-MAX2
・E8という型番の非注水チップ
・エンドモードでパワーメモリは4
・破折片は目視で確認できる(ストレートアクセスできる)
破折片にE8チップを当てて振動を加えるとプペッと飛び出す感じで除去できる。
特に今回のような症例であれば簡単だ。
理想的にはE8よりもっと細いチップを注水下で用いるのが良い気がしている。その場合は、必要な振動の確保のためのパワーを変更する必要あるかもしれない。
除去用チップは高価で出番も少ないアイテムなので好奇心の赴くままアレコレ試しにくいが、機会があれば別のチップでの除去を検討して術式を報告してみたいところだ。