2021年10月29日

根管洗浄 最近はコレばっかり

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根管洗浄という、エンドの中のひとつのステップは今も私の関心を引いている。
ペットボトルの蓋に抜去歯牙を石膏で固定植立させてエンド実習をした学生時代、次亜塩素酸ナトリウム水溶液とオキシドールをピペットとミニウムシリンジ用いて歯の中に満たして発泡させて「なにやってんのコレ?」と思ったあの時から、ずっと私の心の中に印象深いステップとして在り続けている。子どもの頃から洗面所やトイレといった水回りの掃除が好きだったことが影響しているのかもしれない。


今の職場で働き始めてから、根管洗浄で用いる器具にはアップデートが繰り返されてきた。
最初こそ金属製エンドチップを超音波洗浄で用いていたが、30G洗浄針+ディスポシリンジの陽圧洗浄に切り替えたのを皮切りにヨシダのクイックエンド、エンドアクティベーター、Er:Yagレーザー、EDDY、とバリエーションが豊富になっていった。

自分のエンドのスタイルが確立されていくに従って、根管洗浄で用いられる器具には一定の傾向が出始めた。クイックエンドは根管洗浄ではなく吸引乾燥に、根充直前に根管をヒポクロで満たしたらエンドアクティベーターで攪拌、Er:YAGは準備が手間なので殆ど使わない(馬鹿にできない要因)、etc.

根管洗浄といえば、17%EDTAでスメア層を除去して次亜塩素酸ナトリウム水溶液で有機質溶解と殺菌を行うイメージが強いだろう。もちろん、これは間違いではないし極めて重要なメソッドだ。

ただし、根管洗浄のステップ全てでこの手順を踏むと手間と労働力が高すぎる気がする。毎回の根管洗浄でスメア層の除去を行うまではしなくとも、根管壁に付着したdebrisを剥離させて根管洗浄液中に遊離させて洗い流していけば良いと考えている。これとて、オーソドックスなシリンジ洗浄(陽圧洗浄)では案外に達成できていない。根管壁にへばりついた泥のようなdebrisは少々の液体の流れには動じないからである。

ブローチ綿栓で根管壁を雑巾掛けのように拭えば強い物理的除去作用があると思うが、唾液なりで汚染されているであろうグローブ手指で形成したブローチ綿栓を根管内に挿入するのは抵抗がある。場面場面で色々な手法を都度、自己判断で適応させれば良いのであろうが、私のような楽をしたがる凡人は、ハンディでオールマイティな手法を望むことになる。


最近まで私はエンドアクティベーターを愛用してきた。これは、根管内を満たした洗浄液をプラスチックチップをソニック振動させて攪拌することで根管壁のdebrisを浮遊させて洗い流すことできると考えたからである。使おうと思ったらすぐに使える取り回しの良さも見逃せない長所だ。

あるとき、既に大きく拡大されていた根管の再根管治療時に思うところあってEDDYでの根管洗浄を試みた。根管が太ければ、根管洗浄時に洗浄液の根管内での動態が肉眼で観察しやすいからである。蒸留水でシリンジ洗浄した際に、EDDYのチップを挿入して動作させると、洗浄液中に埃が毛羽立ったかのような様相が見えた。私の心は踊った。根管壁にへばりついていたdebrisをEDDYがあっという間に浮かび上がらせたのではないか?と考えたからである。また、エンドアクティベーターよりも遥かにその効果は高いように思えたからでもある。

シリンジでの陽圧洗浄は洗浄液を根管内に効率よく輸送するだけで、さしたる「洗浄」効果はないのだろうと漠然と思っていた。ニードルの物理的な接触や先端から排出される洗浄液に接しただけで浮かび上がるような微弱なdebris程度なら洗浄時の除去は期待できるけれども、根管内、ことに根尖部のdebrisを浮かび上がらせて洗浄できるわけはないと思っていたからである。それを克服するために、エンドアクティベーターを用いていたのだ。もしEDDYがエンドアクティベーターよりも早く効率的に根管-根尖部の洗浄を達成できる器具なのであれば実に心強い武器になる。


浅薄な私は、簡単な実験を思いついた。
マイクロチューブ内にリン酸エッチングのジェルを入れて水を満たす。その状態だち、リン酸ジェルは水に溶けないので壁にへばりついている。それを根管とdebrisに見立てて、自分が用いている根管洗浄を適応し、ジェルがどうなるかを確認することにしたのである。

結果、ジェルの攪拌除去にはEDDYが圧倒的なパフォーマンスが期待できるのではないかと思った。ジェルとdebrisが同じ動態を示すと考えるのは安直に過ぎるが、EDDYはあっと間にジェルを洗浄液中に溶かしてしまった。エンドアクティベーターは、EDDYに比べると時間が必要であった。EDDYはエンドアクティベーターに比べてキャビテーション作用が期待できるからだろうか。クイックエンド、シリンジ洗浄、Er:YAGではジェルの攪拌は期待できなかった。実際のdebrisは、このジェルよりは除去は容易であろうが、それにしてはEDDYのパフォーマンスは頼もしく驚異的に思える。


そんなわけで今の私は、根管洗浄時にはEDDYをルーチンに使用する様になった。
好意的な解釈ではあろうが、EDDYを使用した根管洗浄を行うことで術後疼痛の発現が減った気がする。

また、根充前にはEDTAとヒポクロを用いているが、その際もEDDYを使用する。このことで根尖部の三次元的な清掃消毒が達成されるのであろう、根充後の確認デンタルで側枝へのシーラーの入り込みが観察されることが増えた。シーラーパフや側枝へのシーラーの入り込みは、少なくとも根尖部の清掃が達成されて加圧が加わったことを意味するので、自己満足なところもあるけれども、確認できると嬉しいものだ。


あとはEDDYの価格がもっと下がってくれることを願うばかりだ。
円安だから厳しいだろうな……
 
ラベル:根管洗浄 EDDY
posted by ぎゅんた at 23:37| Comment(9) | 根治(実践的) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年10月20日

Injex50 インジェクターPLUS

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針を用いない局所麻酔用注射器であるInjex50に関しては以前に記事にしたが、ちょっとしたマイナーチェンジがあったことを知った。

今回もデモ機を拝借する幸運に恵まれたので、どこがどう変わったものか確することができた。
実地を経て得た個人的な感想を紹介できればと思う。

なにが変わったか?
・名称がInjex50インジェクターPLUSになった
・麻酔液の注入量を、0.1-0.5mlの間で調整できる
・消耗品のアダプターとシリトップが、121°のオートクレーブ可になった
・(使い方次第で)以前よりショット時の痛みと衝撃を小さくできる

こんなところである。
あまりたいした変更じゃなさそう、と思わせておきながら、実のところは素晴らしい改良なのであった。私は購入を決めた。

Injex50を導入する大きなメリットは、無痛的な予備麻酔を手早く達成できることにある。

私の局所麻酔の基本的なスタイルは以下の手順である。

1.最初に求める刺入点である歯肉境移行粘膜をエアでキンキンに乾燥させる
2.表面麻酔を30秒ほど施す(エステル型ゼリーでもペンレスR︎のようなテープ型でもよい)
3.表面麻酔部位をエアでキンキンに乾燥させる
4.粘膜にテンションをかけて解放する動きで針を刺入する
※針の方を粘膜に刺すのではなく、針は粘膜上に置いたままで移動させた粘膜が針に刺さるようにする
5.局所麻酔液を0.2mlほど注入(予備麻酔)
6.うがいをしてもらって30秒ほど待つ
※この時、重力を利用して付着歯肉の方に局所麻酔の奏功が広がるようにする
7.付着歯肉に「本命に注射」として次の刺入を求め局所麻酔を完了させる

これは手技に習熟すればかなり無痛的な局所麻酔ができると自負している。私のような不器用な人間ですら「痛くなかったわ」と患者さんに喜ばれることがあるくらいなのだ。人体に針を刺すのだから無痛というのは絵空事かもしれないし、患者さんだって痛みは覚悟されている。とはいえ局所麻酔のたびに痛がられるのは(やむを得ないことだとは思うけれど)歯科医師にとっては地味にストレスなので、患者さんの予想を裏切る程度の痛みで局所麻酔を完遂できる意義は大きい。痛くない局所麻酔は楽しい歯科診療の一里塚だと思うので、参考にしてくれる先生方いたら欣快の至りである。

一方で欠点もある。最初の予備麻酔で0.2mlの麻酔液を消費すること、表面麻酔のコストが掛かること、刺入点が増えがちなこと、少なからず時間と手間が掛かること、などである。また、弄舌壁や体動、唾液量が多く粘膜の乾燥状態が保ちにくい患者や智歯のような操作性が悪くなりがちな箇所では適応が難しいことも挙げられる。


さて、Injex50を用いた場合に大きいのは「無痛的な予備麻酔を手早く達成できる」ことである、と述べた。表面麻酔30秒とうがい後の30秒の待機時間をスキップできるのである。

これは、Injex50インジェクターPLUSを用いれば容易に達成できる。
0.1-0.2mlの局所麻酔を、最初から付着歯肉にショットすれば達成できるからである。やってみればわかるが、あっという間である。局所麻酔はショット部位から少なからず漏れるので含嗽は必要であろうが、その後にチェアを倒せば、すぐに本命の局所麻酔を付着歯肉に求めることができる。どれだけ時間を節約できるか、分かるだろうか

肝心の痛みはどうなのだろう?
まず私はマヌケな姿だが自分で鏡を見ながらショットを試行した。その結果、歯肉境移行部に打つよりも歯間乳頭部や付着歯肉に打つ方が痛みがないのでは?という事実が得られた。これが事実なら、この器機のメリットは極めて大きいではないか。

いや、所詮は自分自身で適当に試した結果に過ぎないから間違いがあるかもしれない。私がそうでも患者は違うかもしれない。だから、実際の患者さんでも試してみなくてはならないだろう。

ちょうど友人が歯周治療で来院したので、ワケを話してトライさせてもらうことにした。
結果として、歯肉境移行部も歯冠乳頭歯肉や付着にショットするのも痛みに目立った差はなかった。痛みの程度は、ゼロではないが患者さん側が予想されるよりも確実に小さい。ただし、ショット時の衝撃はそれなりで、そちらが気になった、みたいなフィードバックが多い。だから、予めそのことだけは伝えておく必要がある。

私は「今からデコピンするみたいに麻酔をかけますよ」と伝え、せーのでショットしている。打たれた患者さんは衝撃には少しビックリするようだが、痛みは特に訴えられないのである。これは、老若男女全てに応用できる。小児の場合、デコピンを知らないことがあるが、その場合は「これがデコピンだよ」と一緒に遊ぶように教えるとよい。こういうコミュニケーションを取ること自体が、麻酔に伴う余計な緊張の緩和にも寄与するというものである。一例、ご年配の方でデコピンをご存じない方がおられたが、説明すればすぐに理解してくれるので心配には及ばない。「しっぺ」とかありましたね、と話題を膨らませてもよい。ちょっとした小話をしながらテンポ良く診療を進めるとよい。

ショット時の衝撃を小さくするためのコツは、調整棒とプランジャーロッドが接した状態にしておくことが第一である。これは、アンプルをセット後に調整棒を時計回りにした際にアンプル先端から麻酔液が漏れる状態にしておけばよい。

欠点があるとすれば、準備が手間かもしれないこと、初期導入の費用がかかること、ショット後の液漏れが多いと苦いことである。

アンプルへの麻酔薬の注入とインジェクターの準備は、慣れないうちは戸惑うかもしれない。が、すぐに慣れる程度のものである。

初期導入は、ひとかどの医療用機器を購入するのだからそれなりの費用だが、過去のシリジェットの半額以下の値段であるから、痛くない局所麻酔に寄与する器具に投資する費用としては安いだろう。

液漏れは、0.1-0.2mlの液量で行うことで被害を減らすことができる。そもそも予備麻酔なのでこの程度の量で充分である。液漏れが多いということは、粘膜内に局所麻酔液を打ち込めなかったことを意味するので、操作に習熟してできる限り減らしていきたいところだ。

posted by ぎゅんた at 20:56| Comment(0) | 歯科材料・機器(紹介・レビュー) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年10月06日

口腔外科の知識は潰しが利きます

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今でも読んでるお気に入りの本はこれ


もし、この記事を現役の若い歯学部生が読んでおられるなら、私は口腔外科系列の知識を網羅・整理・知悉させておくことを強く推しておきたいと思う。

くだらん思い出話であるが、私は歯学部の4年生になったときに、購買で麻生デンタルアカデミーの「実践 口腔外科」を購入して、電車で移動する際は常にそれを読んでいた(この「実践」シリーズは、要は国家試験過去問と解説集である。DESのANSWERシリーズと並んで「定番」だと思うので懐かしく思う先生が多いのではないか)。口腔外科を選んだのは、値段の割に分厚かったのと、当時は病理学が好きだったので、口腔外科は病理と関連性が強そうだと漠然と考えたからに過ぎない。しかし、結果としては良かったのである。

読んでいた、というのは、問題を「解く」ための知識はその時は有していなかったからである。要するに、チンプンカンプン満足に解けなかった。
国家試験では、どのようなことを訊かれるのか?正解を選ぶために必要とされる知識はなにか?を整理するところから始まったわけである。問題を解くための勘所や要領を掴んでいくところから始まったのである。

口腔外科の問題が良かったのは、解くために必要とされるバックグラウンドの知識が、特に基礎科目とつながっているからであった。解剖学の知識から生理学、生化学、内科、病理、となにかしら紐付けされている所があるので復習のようにそちらの勉強をし直すのである。関連性が見えてくると、理解進みが早くなるし、なにより記憶するのが楽になる。これを愚直に繰り返していくと、習ってきた内容の意味が私にも理解できるようになってくるし、バラバラだった知識が有機的につながりはじめ、問題を解くためにちょっと複雑な思考もこなせるようになって行った。こうなると国家試験の問題と向き合うのが楽しくなり始めた。教科書を目繰り返して調べることも苦にならない。分からない箇所のなにが分からないかが分かると、先生に堂々と質問にだって行ける。口腔外科を中心に知識を整理すると、いわゆる医学系の知識が優先されて整理されてくるので、なんとも勉強して賢くなっていく気分が昂揚してくれるのも励みになる。

勉強がつまならいことほどの苦行はない。学問に向き合う姿勢が多少は浅薄であれなんであれ、勉強することに楽しさを見出せることを優先させるべきである。国家試験の勉強に関しては様々なアプローチがあるだろうけれど、少なくとも私にとっては、4年生になりたてのころに実践の口腔外科の過去問(と解説)から始めたアプローチは正しかったように思う。

学生の頃に学んだ印象深いことは、記憶に深く紐付けされるようだ。

私は歯科医師になってからも、口腔外科に関する知識だけは人並み以上にはあったと思う。その全てが、臨床の現場で目の前の患者さんに役立つ「知恵」になってくれたことは少ないけれども、知らないことで(歯科臨床上での)考えが及ばずに恥ずかしい思いをしたこともまた少なかった。もっとも、たとえ恥ずかしい思いをしたら、そのことを素直に受け入れて勉強しなおせば良いのだが。

口腔外科に関する知識があってよかったと思うのは、医療面接や患者さんとの会話のなかで、ふとした拍子に歯科医学からまた少し医学的に寄った専門知識を口にすることで患者さんから信頼される機会があることだ。「眼医者歯医者も医者ならば蝶々蜻蛉も鳥のうち」なんて言葉があるように、歯科医師は医師の範疇にはあれども医者と同格ではないし、医師が知っているべき知識が要求されることはない(というより、歯医者が医者ヅラすると軽蔑されるのがオチであろう)。

このへんの機微は患者さんも心得ているわけで、歯科医師になんらかの医学的知識の乏しさがあったり、チョッピリ痴鈍なところがあったとしても、怒ったり不信感を抱くことはそうないのである(患者さん側からすると、歯科医師に求めるのは自分との相性であったり、優しくて怒らない人柄であったり、恐怖や痛みのない治療を心がけてくれる姿勢だったり、診療期間がなるべく短くしてくれる仕事内容などが遥かに優先される)。

とは言っても、単純な比較論としては頭脳が明晰であって医学的な知識が豊富な歯科医のほうが望ましいのはいうまでもない。しかし、それを笠に着てもいけない。専門用語を口から滔々と流して自分の立場を権威づけするのではなく、自身が専門的な知識を有していることはあなた(患者さん)のためにある、ということを理解してもらい、安心してもらうだけでよいのである。

posted by ぎゅんた at 08:53| Comment(0) | 書籍など | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする