プレパレーションからインプレッション、合着操作全てを包括した価格で、セット当日に代金をいただく明朗会計仕様でもある。
石川県の田舎で開業している舞台設定を考慮しても、間違いなく低めの価格設定なのだろうと思う。
これは単なる低価格をウリにした集患サービスでも低技工費メタボンを採用しているわけでもない。私自身がその値段での提供に納得しているだけである。
もっと重要なのは、製作してくれた歯科技工士さんに正当な対価をお渡しすることである(これは、研修医時代に自分自身が技工作業して補綴物を制作していた経験から、歯科技工士の労力がどれほど貴重でありがたいものであるか身をもって知ったからでもある。正直な話、テキトーな歯医者よりも歯科技工士さんの方が市場価値が遥かに高い)。
メタボンは、保険のFMCや硬質レジン前装冠と同様に所詮は枯れた技術であって、目新しいものでも先進性を謳えるものでもない。ただ、先人たちによる膨大な臨床症例があり、予知性が高く安定した結果を予期できる補綴物と言うだけだ。
贅沢を言えば、マージンレス仕様やかつての電鋳クラウンのような、マージン部の審美不良を克服するエッセンスを持たせたりとオプションも視野にいれたいが、歯科技工所の営業マンに尋ねても「最近はもう流行ってないすね(だから、そういう注文には応えられない)」という。
審美補綴冠は、オールセラミックやCAD/CAMにメインストリームが移行しているのである。
いまやメタボンは、とても保守的な「自費のセラミック冠」であり、あまり細かな注文は望まないものになったようだ。
しかし、このような時代の流れにあってただ不変的であるメタボンを愛しておられる市井の先生も多いだろう。私もその一人ということである。
私はまた、ゴールド冠も愛している。あの口腔内での暖かみのある外観と咬合圧に黙って追従してくれるような良妻賢母感はなんともいえない魅力を秘めている。
欠点があるとすれば、金といえども金合金であり、金相場の影響を受けること、ガルバニー電流の発生源となることが避けきれないことだ。もしあなたが、ゴールド冠を撤去する場面が来たら内面を観察して欲しい。電気による焦げ跡が存在するはずである。焦げ跡を残すような電気が口腔内で発生することが、生体生理にどのような影響を与えているのであろうか、不勉強な私は何も知らない。
メタルフリーが主流の現在においては、ゴールド冠もまた金箔充填のように消えていく技術になるのかもしれぬと一抹の不安がある。私は、ゴールド冠は無くなって欲しいと思わない。声には出さないがゴールド冠という補綴物を信頼し愛用しておられる市井の先生は多いのではないだろうか。脱離しても純然たるゴールドが含有された貴金属なので一定の価格が患者さん側に担保されるのも隠れた魅力だ。