2021年06月21日

サヨナラ表面麻酔?予備麻酔にInjex50のススメ

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公式サイト

まとめ
・最初の刺入点を付着歯肉に求める人には不要
・局所麻酔にコダワリのある先生は欲しくなるに違いない
・ランニングコストの高さがネック

歯科における針なし注射といえば、シリジェットである。大学院生のころに、札幌デンタルショーで実物目にした記憶がある。

シリジェットは、麻酔液を強力なスプリング力で発射することで、局所麻酔液を針を介さず粘膜下に打ち込む機構であったように思う。かなり画期的な登場だったように思う。「これは爆売れなんちゃう?」と思っていたが、私の周りの診療場面で導入されたことはなかった。注射器が大きく重たかったので操作性が悪かったのかもしれないし、価格が高かったのかもしれないし、針を刺さないとはいえ無痛ではなく、減痛がせいぜいだったからかもしれない。それとも、歯科医師が局所麻酔にあまり関心がなかったのかもしれない。

いずれにせよ、シリジェットのことは、頭の片隅には存在し続けていたが実際に購入しようと思うことはないままであった。そんな折、出入りの歯科業者が、「先生、こういうの好きでしょ」と紹介してくれたのが、本記事で扱う針無し注射器Injex50である。

シリジェットに比べて小型化が達成されており操作性が良さそうである。説明を読む限り、歯肉境移行部の粘膜に0.5mlの予備注射が可能、とある。このInjex50を用いて、針を使わず無痛的に予備麻酔が達成できるなら、局所麻酔に要する時間と労力を減じることができるだろう。私は食指が動いた。

デモ機を用意してくれるとのことだったのでご好意に甘えた。
本来は営業マンがデモと説明に来てくれるらしいのだがコロナ渦なのでデモ機だけが届いた。

本体と、スプリング状態を仕込む発射台みたいなケースと、注射に用いる各種アタッチメント(ディスポ)から成る。触れてみた限り、シンプル堅牢な作りのようで取り扱いに神経質なところはなさそうである。

Injex 50を予備麻酔に使用するにあたっては、予め0.5mlの局所麻酔液を専用アンプルに注入したりインジェクターを使用直前の状態にセットさせたりとアナログな作業が必要である。慣れないうちは手間であるが、慣れてしまえば、1分以内に準備が完了する。

まず鏡を見ながら自分自身の下顎前歯部の歯肉境移行部の粘膜に試験してみた。バチンッと振動まじりに音が鳴って僅かな痛みがあり、漏れた局所麻酔液の苦い味が広がった。そして、すぐに局所麻酔の麻痺を感じ始めた。改めて鏡で確認すると、刺入点には出血があり粘膜には局所麻酔液が注入されてできる膨隆ができていた。肝心の痛みは、無痛ではなかったが、およそ想像される痛みに比べれば小さかった。薬液が漏れたのは無駄であるから、出来る限り少なくなるショットをせねばなるまい。これは、注入時にインジェクターを刺入粘膜に十分に押し当て把持を確実にし状態でショットすれば局所麻酔薬の漏れを少なくできるはずである。その際は、おそらく痛みもより少なくなるのではないか。

いずれにせよ、Injex50を用いれば予備麻酔を10秒程度で完了させられるのは確実だと思われた。これは、とてつもなくありがたいことなのだ。なにしろ、ショットを打ったらすぐに口を濯いで貰えば予備麻酔の効果が既に発現しているので、すぐに付着歯肉への「本命である」本来の局所麻酔操作にシームレスに移れるからだ。

問題はランニングコストである。
本体を除きディスポのパーツから成るのは当然として、それらのコストがどれだけのものか?は決して無視できない。診療報酬の多寡にヒイヒイ泣かされている保険医であれば尚更である。

このInjex50に用いるディスポのパーツは、アンプルとアダプターとシリトップと三つもある。
どうも、概ね各パーツの単価は100円を超えるとのことであった。私は採用を見送った。

次から次に浸麻を打っていかなくてはならないほど逼迫している繁栄医院や診療スタイルであれば、Injex50よりもたらされる速やかな予備麻酔は貴重な時間の節約として福音であろう。器具の操作に習熟していけば、「痛みのない針なし麻酔」も実現できるだろうとも思う。けれど、私の歯科医院はそこまで患者さんで繁栄していて時間に思われる診療をしてもいないし、保険診療比率が99.9%で吹けば飛ぶような脆弱な経営基盤上に成り立っているに過ぎない。

歯科局所麻酔は学生時代から関心を引かれ続けているお気に入りの分野であり続けているが、さりとて当院運営上のコスト問題を度外視して購入に踏み切れるかといえばノーと言わざるをえない。

また、多少の手間と時間はかかれども、歯肉境移行粘膜への表面麻酔から33G針の無痛的な刺入からの予備麻酔は昔からルーチンに行い続けており習熟している。歯肉境移行部への予備麻酔の際に痛みをどれほど与えるか?の点において、この従来型の手法とInjex50を用いた場合とで有意差があるとは思えない。

もしかしたら針を使用するといえども、私の従来型の手技の方が痛みが少ないのかもしれない(そうだったら、嬉しい)。

ただ、このInjex50を所持していると予備麻酔に要する時間が相当に短縮される。これは、診療上の労作ストレスを大きく緩和してくれることを約束してくれるので、その点が大いに魅力的だ。今以上に診療が忙しくなるか、各種ディスポパーツの単価が安くなってくれた時点で改めて購入を考えてみたい。
posted by ぎゅんた at 03:33| Comment(2) | 歯科材料・機器(紹介・レビュー) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする