2021年01月25日
ホケンのCAD/CAM冠セットに、ぼくは、トクヤマのエステセムUちゃん!
頭悪そうなタイトルだが、CAD/CAMのセットにトクヤマのエステセムUを使い始めてもう半年以上が経過したので記事にしようと思った次第。
最近はもう「CAD/CAMはどこのセメントで付けてる?」という挨拶のような会話は歯科医師の中で成立しなくなっているようだ。保険導入されたCAD/CAMは、初期には脱落が頻発していたことは事実だが、最近では脱落自体が少なくなったのもまた事実のようだ。それは、セメントの性能が向上したというよりは、例えば「冠内面のアルミナサンドブラスト処理が必須」というような、CAD/CAM冠の接着に関する理解が臨床医の間で広まったからであろう。とても喜ばしいことである。
私自身は、CAD/CAMが保険導入されて移行はずっと3Mのリライエックスアルティメットを用いていた。購入のタイミングにキャンペーンやセールが重なっていたという経済的な理由もあるが、3Mの化学技術に個人的な信頼を寄せている事情もあった。接着後に早期に脱落したケースは1件あったかないかだったと思う。それにしても、接着不良ではなく、単純な咬合調整不備に拠るものだ。CAD/CAM冠接着に用いることのできる接着性レジンセメントは沢山あるが、このリライエックスアルティメットは信頼できる製品だと思うし、愛用されている先生も多いと思われる。
さて、そんな折にトクヤマから発売されていたボンドマーライトレスの存在を知った。2ボトル1ステップ型で塗布後0秒で光照射しなくてOKという触れ込みである。ホンマか?としか思えなかったが、もし本当なら凄いことだ。私は食指が動いた。
とはいえ、ぶっつけ購入して使うには迷いがでた。往時の当院の接着システムには、メガボンドFAとスコッチボンドマルチパーパスが絶賛活躍中で、ここにボンドマーライトレスが加わるのは材料管理の面で足が出はじめてしまうからである。選択の幅が広がり賑やかになるのは良いのだが、材料は豊富に用意すればするほど持て余すようになる。使用期限が切れた材料を廃棄する瞬間ほど虚しいものはない。
慌てて購入する必要もあるまい。ボンドマーの接着機序について色々と調べてから改めて購入の是非を考えてみよう、ということで情報収集をはじめた。とはいっても、メーカー側の用意した資料を渉猟するぐらいしかできないのだが。
果たして、ボンドマーは中々に興味深い製品である。どのようなメカニズムで0秒光照射なしで樹脂含浸層を発現させているものか分からないし、もはや樹脂含浸層というのは死語で、接着性の機能性モノマーがマイルドに奪回したエナメル質および象牙質面に高濃度で表在させてレジン接着のためのボンド層としているのかもしれない。コンタクトキュアという概念のようだ。もっとも、市井の臨床医や患者からすれば、そのような化学的に興味深い理屈よりも、治療に必要とされる接着力と接着界面の長期安定性がテクニックセンシティブではなく発揮されれば良いのであるが。
ちょっとした疑問もあって、軽い気持ちでトクヤマにメールを送ってみたら、直ぐに返信がきて担当者を派遣して説明させて欲しいのだという。本当に説明に来てくれた。ボンドマーライトレスと組み合わせる接着性レジンセメント『エステセムU』が気に入った。こんな田舎まですみませんと頭も上がらない。
もっとも、本来こうしたメーカーと歯科医師のコミュニケーションはみんな大好きデンタルショーで侃侃諤諤と繰り広げられているものなのだし、私もそれを楽しみにしているところだったりする。新型コロナのクソったれ野郎め。
こういうことが去年の夏頃にあって、リライエックスアルティメットを使い切ると同時にエステセムUに切り替えたのだった。今のところ不満もなく、当面は使用し続ける所存。
FMCとか合着用のセメントを、10点の『フジルーティング』から(いい加減に)17点を算定できるセメントに切り替えていきたいとも考えているが、それはまた別の話。