良い手法か悪い手法かでいえば、きっと悪い手法なのであろうが、私はときおり、根充後の臼歯部に間接法でモノブロックとでもいうべき「CRアンレー」を装着することがある。とある席でこの手法について話したら「そんなことしても点数にならんでしょ(馬鹿じゃないのか?)」と大不評であった。
確かに保険点数で言えば、支台築造の点数がない上に KP(複)印象のCRインレーと同義同だからである。これを聞いただけで、多くの先生はその低い点数にウンザリするだろう。私も、する。
なぜなら、ラバーダムをかけて仮封を除去して髄腔内をレジンコーティングして、咬合関係を考えた上でアンレー形成して印象採得を行なって超硬石膏を注いで86+64+18の168点。CRアンレーを接着時に196+45+17=の258点であり、費やす労力に対して微妙な評価に他ならないからである。術式が同じなら、材料を硬質レジンなどではなくセラミックスでやりたいと考えるのが自然であろう。その場合、クオリティの差も歴然としている。
しかし、これは保険で可能という点で大きいのである。少なくともレセが返戻されたことはないので、算定要件に反したものではないはずだ。メタルフリー修復の一手といえば一手である。
私が学生だった頃、接着歯学の隆盛があった。接着を利用することで旧来の方法に比べて飛躍的な保存的処置が可能であることに私は興味を持った。その中で、間接修復にレジンコーティング法を応用して歯質保存的でかつ審美的な修復方法に私は強いインパクトを覚えた。また、国家試験対策でDESとかいう予備校のビデオ講義を受けた際に、保存修復の講義の中でCRインレーの単元のところで担当講師(歯科医師)が「これは、私も臨床でやることがあります。(患者さんに)とても喜ばれます」と発言していて自分もやりたいなあと気持ちが焦がれたこともある。
もっとも、こんな理念や気持ちは、研修医になってから打ち砕かれてしまった。誰もやっていなかったからである。少なくともCRインレーなど邪道!という雰囲気で満ちていた。悪名高い「最悪の18年度診療報酬改定」の年だったから、現場の先生方がピリピリしていたのかもしれない。
とにかく削って埋めろ!隣接面う蝕はメタルインレーにしる!失活歯は360度削ってFMCを合着しろ!問答無用だ!考えてないで手を動かせ!URAAAAAA!
と、このような塩梅であった。
こっそり目を盗んでCRインレー修復をやっていたものの、厚みと大きさを確保しないとすぐに破折するから、メタルインレーの比肩なき丈夫さに舌を巻いてばかりであった。小さなCRインレーはとにかく取り回しが悪くて神経質なのである。
そんだかんだで色々あって、今はCRアンレーを「モノブロックで」選択することが年に数度ある程度になった。規模の小さいCRインレーは扱いが神経質なのでやらない(直接法で充填している)。
咬頭を含む規模の広範な実質欠損があり、太いマージンラインと修復物に可能な限りの厚みを確保できる場合に適応を考える。畢竟、根管充填後の髄腔を利用するケースが多い。
確かに点数は低いのだが、取り回しは容易で歯質保存的で、患者さんが喜んでくれる。金銀パラジウム各種金属の値段が高騰すればするほど、保険の間接修復では金パラが使えなくなるので、一見して点数が低くとも、この手法の存在が完全否定されることはないだろう。ラバーダム防湿下でセメンティングできれば、強力な接着力が発揮されることでエナメル質と象牙質とコンポジットレジンの渾然一体とした修復が可能となる。咬合圧負担の存在は予後の懸念事項だとしても、案外に信頼性のある修復方法のひとつではなかろうか。