前置きSEC1-0に関する細かな出自と正式名称を私は知らないのであるが、「手用SSファイルをコントラヘッドに装着して上下0.4mm幅の上下運動をさせる器具のこと」と考えれば間違いではないはずである。台東区でご開業の東海林芳朗先生がご考案された器具であり、既に登場から30年以上経過する歴史ある器具である。
SEC1-0は、本家本元はKAVO製のはずであるが、NSK(ナカニシ)からも同様の動作を実現するコントラが出されている。私が使用しているのはNSK版であるが、Kavo版と異なり注水機能がつかないことに注意が必要である。一方のKavo版には注水機能が付くものの、NSK版に比べて本体価格が極めて高い。
注水機能はあった方が望ましいと考えられるが、SEC1-0をネゴシエーション用に使用する限り、無くても問題ないと思う(RC-Prep等の清掃拡大補助の潤滑剤を併用すれば事足りるようである)。
なにより、NSK版は3万円少しの価格で購入できる点で極めてありがたい。
日本製品応援キャンペーンではないが、入手のしやすさの面で有利なので、所有お考えの先生はまずNSK版を購入されると良いと思う(SEC1-0 = EC-30 + VM-Y)。
How to use過去にも記事にしてきた通り、私はSEC1-0をネゴシエーション時に用いている。そのため、本記事はSEC1-0でどのようにネゴシエーションを達成するかについて述べたものにしたい。
Initial treatment canal抜髄や壊死をきたした根管などを治療する際は、根管に初めてファイルが挿入されることになる。こうした根管はVirgin Canalと呼ぶこともある。ネゴシエーションは基本的に一発勝負の側面がある。ネゴシエーションを目的に根管にファイルを挿入したら、確実に根尖まで到達させなくてはならない、と考えるのである。
ネゴシエーションの手技についての細かな具体例については、世間でもあまり熱心に語られている印象はない。術者各自がそれぞれの方法で適当に行なっていると解釈されているのではないか。おそらく手用SSの#10Kで「指で」達成しているのであろう、と推測することしかできない。
目下、私はこの作業をSEC1-0で達成している。昔は指で達成していたが、ファイルを回さずに上下運動だけで穿通させるのをマニュアルで行うと疲労が著しく時間を要することからSEC1-0を用いる手法に切り替えた経緯がある。今ではネゴシエーションの成功率はかなり高く、よほど気難しい根管でなければ数秒以内の達成を成功させている。
う蝕の除去や髄腔の整理、隔壁の形成など根管治療に際する術野の環境整備が終わったらネゴシエーションのステップに入る。その前に根管口とその直下までの漏斗状拡大を行なっておくべきなのであるが、私はファイル挿入からネゴシエーションを達成する上で「走行」が乱れて失敗するのではないかと不安になるので、あまりしない。漏斗状拡大は、ネゴシエーション後に行うのがルーチン。
マニーの#10K(新品)を第一選択にしてSEC1-0に装着したら、ファイルに根管拡大清掃補助剤を少量コーティングして根管口に挿入する。ある程度の深さまで沈めて行ったら、ペダルを踏んで動作させる。
コントラのユニット側のパワー設定はMAXであるが、ペダルの踏み込み量で動作の強弱をつける必要はあると思う。動作=MAXではなく、弱→強へ変化させる。強からスタートしても大丈夫だと思うが、突然の不快な振動と音が患者を襲うので、声かけとともに弱からスタートした方が良い。
パワーを強くしていきながら根尖を目指し、そのままネゴシエーションを達成するような感じになるはずだ。穿通したら、ファイルの飛び出し量はせいぜい1mmに止める。無遠慮に進めて根尖孔を太く拡大させることもできるが、根尖歯周組織にボーリングで垂直的な穴を穿つ機械的損傷でしかなく、臨床的な意味はない。
根尖孔を穿通したファイルの号数以上に意図的に大きくしたいのであれば、12Kや15Kを穿通させれば達成できる。私は根尖孔をあまり大きく拡大したくないので、せいぜい15Kが僅かに通る程度の拡大に止める(その後のNiTiファイルの操作をエラーなく安定させたい場合は、ここの拡大号数が大きい方が有利なようだ。理想的には10-12号程度拡大に止めることであろう)。
ネゴシエーションができたら、Patencyを確認する。私はストレートの12Kファイルを挿入して、そのまま根尖に達するかどうかを確認する(そして、このファイルがリカピチュレーション用ファイルとなる)。それから、プログライダーでグライドパスを形成する。ここまでが滞りなくできれば、ひとまず勝利は確信されたようなものである。
Retreatment canal再根管治療では、基本的に前医の治療痕を乗り越えての処理となり、難易度が上がる。根管系全体に及ぶ感染が存在すると考えるので、感染象牙質の除去のみならず根管充填材の除去を達成していかねばならない。この場合もやはり、根管に沿った拡大が基本となってくるからネゴシエーションが必要になると考える。人工根管があったり、硬質セメントで封鎖されていると、根管からのアプローチで治癒に導くことは絶望的になる。再根管治療の成績が優位に低いには理由がある。私自身、再根管治療に苦手意識がある。
日本ではできる限り歯の保存や延命が望まれる風潮があるために、保険でいう「感染根管治療」は算定数が多く出るのであるが、海外では再根管治療はあまり行われないようだ。おそらく成功率が低いことから要根管治療歯は抜歯→インプラントになるようだ。思うところはあるが、それもまた宜なるかな、というものである。
再根管治療のネゴシエーションでは、まず充填済のガッタパーチャを除去するところから始まるのが基本であろう。径の小さいスチールラウンドバーやゲイツバー、ピーソーリーマー、エンジンリーマー、GPX、リトリートメント用NiTiファイル、ハンドインスツルメントなどを駆使して根管口〜根管1/2-2/3のガッタパーチャを大まかに除去する。その後、ネゴシエーションを狙うが、まず手用#10K(新品)を挿入して、根管壁とガッタパーチャの隙間にファイル先端が入るかを確認すると丁寧である。スティッキーな感触があったら指を話して、そのままSEC1-0に装着してネゴシエーションを狙いに行けば良い。面倒なら、最初からSEC1-0で攻めても良い。
この場合、ファイルは根尖に向かってガッタパーチャを押しのけるようにして隙間を這っていく感じになる。緊密な根充がなされていると容易く根尖には向かわない。ガッタパーチャと根管壁とのリーケージの存在が間違いない場合は、案外にルースで、ファイルが根尖に向かって進んでいくのが分かる。一発でネゴシエーションが達成できることは少なく、またSEC1-0は動作時間が長いと機械的発熱を生じてくる。そのため、数回に分けて攻略することになる思う
SEC1-0はファイルを上下運動させるだけで、基本的にはファイルの破折とは無遠であると考えられるが、再根管治療時に無茶な使い方をすればファイル先端はすぐに破折する。ファイルが折れるようにへしゃげたタイミングで上下運動が追加されるためであろう。根尖方向に沈んだ!と思ったらファイル先端が破折していた、とあっては悲劇でしかない。
再根管治療時のネゴシエーションは、そういう意味でも難易度が高く神経質な戦いにならざるを得ない。
もうホント嫌