2018年11月29日
Oral Galvanic Currents
口腔領域におけるガルバニー電流(ガルバニック電流)は、口腔内で異種合金どうしが唾液を介在して接触した際に生じるものと言われる。
子どもの頃、アルミホイルを奥歯で噛むと痺れるという遊びが流行ったのを覚えているが、私は痺れを感じなかった。全てにおいて私は愚鈍だったからである。
というのは冗談で、単に私の奥歯にインレーなりアマルガムなりの修復物が入っていなかったからである。昔は小児は齲蝕が多くて、アマルガムや銀合金インレーが子どもたちの奥歯に少なくない数で存在していたからである。なので、アルミホイルを噛んで接触すればガルバニー電気が生じたことを知覚できた子どもが多かった、というカラクリであろうと思われる。
予断はさておき、このガルバニー電流は、脳に近い部位で「検知できうるレベルの発電」であり身体に悪影響を及ぼす危険なものであるとする報告が昔からあった。最近は続報を聞かない。私が気づいていないか、だれも調査していないのか。
もっとも、最近の口腔内では金属修復物の数自体は昔に比べて減っているはずである。銀合金と金パラ、コバルトクロム合金、陶材焼き付け用合金がほとんどではなかろうか。アマルガム充填や金箔充填なんてナニソレな先生がほとんどに違いない。私もである。
ガルバニー電流の身体への悪影響は、私自身は自覚したことがないのでなんとも言えないところがあるのであるが、健康であろうとする状態の足を引っ張る存在には違いない。とはいえ、ガルバニー電流で現在進行形で健康を害している人に遭遇したことがないので仮説の域をでない。
しかし、ガルバニー電流の発生で金パラ冠に電気灼け(?)が生じたと思われるケースに出会ったことはある。
化学劣等生の私でも、この初見は金属の腐食とは異なる「お焦げ」だと思うので、ガルバニー電流が存在していたと判断した次第。
支台歯はレジンコアであったので異種合金との接触は対合歯にあろう、と確認したところ
(分かりにくい写真で申し訳ないが)#17咬合面にアマルガム充填が存在した。
咬合咀嚼時に接触するたびにガルバニー電流が発生して灼いていた、と考えられる。患者は、自覚症状は無かったそうである(このFMCの除冠経緯は、頬側遠心歯肉の急性歯周膿瘍を主訴に来院されたためである)。
ここまでの焦げを作るということは、それなりの規模の電気が発生していたと思われる。自覚症状がないとはいえ、良いものではあるまい。
もし支台歯が銀合金コアであった場合は、金パラ冠を被せた後にマージン部よりリーケージが生じればそこからガルバニー電流が発生し続けることになるのだろうか。合着時に支台歯や冠内面に唾液が付着していて、それがセメントスペースに残存したまま合着したとすれば打ち出の小槌みたいに電流が生じ続けるのだろうか。うおォン
そんなわけで金属修復物を計画する際は、異種金属の接触について一考したほうが良さそうである。
なお金パラといえど、その組成は規格内でバラつきがあるはずなので、「金パラ修復物同士」の接触は異種金属の接触と考えたほうが良さそうだ。
あれも駄目これも駄目、ってのは閉塞感がのしかかってくる言葉で嫌いなんですけどね……
2018年11月27日
ネゴシエーションを達成するためにSEC1-0を用いる
前置き
SEC1-0に関する細かな出自と正式名称を私は知らないのであるが、「手用SSファイルをコントラヘッドに装着して上下0.4mm幅の上下運動をさせる器具のこと」と考えれば間違いではないはずである。台東区でご開業の東海林芳朗先生がご考案された器具であり、既に登場から30年以上経過する歴史ある器具である。
SEC1-0は、本家本元はKAVO製のはずであるが、NSK(ナカニシ)からも同様の動作を実現するコントラが出されている。私が使用しているのはNSK版であるが、Kavo版と異なり注水機能がつかないことに注意が必要である。一方のKavo版には注水機能が付くものの、NSK版に比べて本体価格が極めて高い。
注水機能はあった方が望ましいと考えられるが、SEC1-0をネゴシエーション用に使用する限り、無くても問題ないと思う(RC-Prep等の清掃拡大補助の潤滑剤を併用すれば事足りるようである)。
なにより、NSK版は3万円少しの価格で購入できる点で極めてありがたい。日本製品応援キャンペーンではないが、入手のしやすさの面で有利なので、所有お考えの先生はまずNSK版を購入されると良いと思う(SEC1-0 = EC-30 + VM-Y)。
How to use
過去にも記事にしてきた通り、私はSEC1-0をネゴシエーション時に用いている。そのため、本記事はSEC1-0でどのようにネゴシエーションを達成するかについて述べたものにしたい。
Initial treatment canal
抜髄や壊死をきたした根管などを治療する際は、根管に初めてファイルが挿入されることになる。こうした根管はVirgin Canalと呼ぶこともある。ネゴシエーションは基本的に一発勝負の側面がある。ネゴシエーションを目的に根管にファイルを挿入したら、確実に根尖まで到達させなくてはならない、と考えるのである。
ネゴシエーションの手技についての細かな具体例については、世間でもあまり熱心に語られている印象はない。術者各自がそれぞれの方法で適当に行なっていると解釈されているのではないか。おそらく手用SSの#10Kで「指で」達成しているのであろう、と推測することしかできない。
目下、私はこの作業をSEC1-0で達成している。昔は指で達成していたが、ファイルを回さずに上下運動だけで穿通させるのをマニュアルで行うと疲労が著しく時間を要することからSEC1-0を用いる手法に切り替えた経緯がある。今ではネゴシエーションの成功率はかなり高く、よほど気難しい根管でなければ数秒以内の達成を成功させている。
う蝕の除去や髄腔の整理、隔壁の形成など根管治療に際する術野の環境整備が終わったらネゴシエーションのステップに入る。その前に根管口とその直下までの漏斗状拡大を行なっておくべきなのであるが、私はファイル挿入からネゴシエーションを達成する上で「走行」が乱れて失敗するのではないかと不安になるので、あまりしない。漏斗状拡大は、ネゴシエーション後に行うのがルーチン。
マニーの#10K(新品)を第一選択にしてSEC1-0に装着したら、ファイルに根管拡大清掃補助剤を少量コーティングして根管口に挿入する。ある程度の深さまで沈めて行ったら、ペダルを踏んで動作させる。
コントラのユニット側のパワー設定はMAXであるが、ペダルの踏み込み量で動作の強弱をつける必要はあると思う。動作=MAXではなく、弱→強へ変化させる。強からスタートしても大丈夫だと思うが、突然の不快な振動と音が患者を襲うので、声かけとともに弱からスタートした方が良い。
パワーを強くしていきながら根尖を目指し、そのままネゴシエーションを達成するような感じになるはずだ。穿通したら、ファイルの飛び出し量はせいぜい1mmに止める。無遠慮に進めて根尖孔を太く拡大させることもできるが、根尖歯周組織にボーリングで垂直的な穴を穿つ機械的損傷でしかなく、臨床的な意味はない。
根尖孔を穿通したファイルの号数以上に意図的に大きくしたいのであれば、12Kや15Kを穿通させれば達成できる。私は根尖孔をあまり大きく拡大したくないので、せいぜい15Kが僅かに通る程度の拡大に止める(その後のNiTiファイルの操作をエラーなく安定させたい場合は、ここの拡大号数が大きい方が有利なようだ。理想的には10-12号程度拡大に止めることであろう)。
ネゴシエーションができたら、Patencyを確認する。私はストレートの12Kファイルを挿入して、そのまま根尖に達するかどうかを確認する(そして、このファイルがリカピチュレーション用ファイルとなる)。それから、プログライダーでグライドパスを形成する。ここまでが滞りなくできれば、ひとまず勝利は確信されたようなものである。
Retreatment canal
再根管治療では、基本的に前医の治療痕を乗り越えての処理となり、難易度が上がる。根管系全体に及ぶ感染が存在すると考えるので、感染象牙質の除去のみならず根管充填材の除去を達成していかねばならない。この場合もやはり、根管に沿った拡大が基本となってくるからネゴシエーションが必要になると考える。人工根管があったり、硬質セメントで封鎖されていると、根管からのアプローチで治癒に導くことは絶望的になる。再根管治療の成績が優位に低いには理由がある。私自身、再根管治療に苦手意識がある。
日本ではできる限り歯の保存や延命が望まれる風潮があるために、保険でいう「感染根管治療」は算定数が多く出るのであるが、海外では再根管治療はあまり行われないようだ。おそらく成功率が低いことから要根管治療歯は抜歯→インプラントになるようだ。思うところはあるが、それもまた宜なるかな、というものである。
再根管治療のネゴシエーションでは、まず充填済のガッタパーチャを除去するところから始まるのが基本であろう。径の小さいスチールラウンドバーやゲイツバー、ピーソーリーマー、エンジンリーマー、GPX、リトリートメント用NiTiファイル、ハンドインスツルメントなどを駆使して根管口〜根管1/2-2/3のガッタパーチャを大まかに除去する。その後、ネゴシエーションを狙うが、まず手用#10K(新品)を挿入して、根管壁とガッタパーチャの隙間にファイル先端が入るかを確認すると丁寧である。スティッキーな感触があったら指を話して、そのままSEC1-0に装着してネゴシエーションを狙いに行けば良い。面倒なら、最初からSEC1-0で攻めても良い。
この場合、ファイルは根尖に向かってガッタパーチャを押しのけるようにして隙間を這っていく感じになる。緊密な根充がなされていると容易く根尖には向かわない。ガッタパーチャと根管壁とのリーケージの存在が間違いない場合は、案外にルースで、ファイルが根尖に向かって進んでいくのが分かる。一発でネゴシエーションが達成できることは少なく、またSEC1-0は動作時間が長いと機械的発熱を生じてくる。そのため、数回に分けて攻略することになる思う
SEC1-0はファイルを上下運動させるだけで、基本的にはファイルの破折とは無遠であると考えられるが、再根管治療時に無茶な使い方をすればファイル先端はすぐに破折する。ファイルが折れるようにへしゃげたタイミングで上下運動が追加されるためであろう。根尖方向に沈んだ!と思ったらファイル先端が破折していた、とあっては悲劇でしかない。
再根管治療時のネゴシエーションは、そういう意味でも難易度が高く神経質な戦いにならざるを得ない。
ラベル:SEC1-0
2018年11月20日
小児〜乳歯のう蝕と治療
乳歯の齲蝕の好発部位が乳臼歯咬合面と隣接面であることは、古今東西、変わっていないようである。次に上顎前歯部の隣接面や上顎前歯部の歯頚部であろうか。
国民への歯科教育が浸透したことで小児の齲蝕が激減し(裕福な社会となり、少子化になって子供に手がかけられるようになっただけ、という冷徹な意見もあるが)、大仰な話、複数の齲蝕があればすわネグレクトかと歯科医が疑心暗鬼での目で保護者を睨め付けかねない事態にまでなっている。
私個人の見解で言えば「う蝕の激減」は数字上のもので、実際には、歯垢の取り残しが目立ち、歯面がCo白濁まみれで、歯肉は浮腫性腫脹をきたしている不衛生な口腔の子は多いと感じているし、口呼吸初見を認める子の数(大雑把に捉えて不正咬合の切符を手にしている子)も減っていないと感じている。
齲蝕予防や歯周病予防は ー古臭い考えだとは思うがー 人類が加工食品を手にした時点で不可避であった。我々は加工食品を一切口にしない野生動物ではないので、口腔内に堆積する歯垢は機械的に取り除かなくてはならない。
ワクチンで齲蝕や歯周炎が根絶できるのに歯医者が隠している、などとネット上で一般人の意見を目にする機会もあるが、そんなモンあったら既に人類に適応されているし、歯医者なら誰でも喉から手が出るほど欲しいアイテムである。未だに存在しない、というのには科学的論拠がある。風邪の特効薬が21世紀になっても登場しないのと同じようなものだ。
陰謀論は、色々と考える分には知的好奇心が刺激されて楽しいものだが、暴走してあたかも真実であるように確信し始めると手に負えない面で注意しなくてはならない毒物でもある。
そんなことはどうでもよくて、市井の開業医にとっては、目の前の可愛い子どもたちの口の中の憎たらしい齲蝕とどう立ち向かうが全てである。
乳歯のう蝕の多くは急性であるので、手をこまねいていると颯爽と歯髄に到達するものである。これは乳歯の解剖学的特徴として乳酸に弱いことが挙げられる。乳酸に倒するヘルメット防具よろしく頼り甲斐のあるエナメル質が薄く、象牙質は水分と有機質がリッチで、髄質が大きいばかりか髄角が張っているからである。象牙細管を通じた歯髄内圧の存在が、歯髄方向に侵入してくるバクテリア側への防御反応になっているかどうかは期待しない方が良い。
歯髄に感染をきたすと、その歯は一気に負け戦モードになる側面が強い。根管治療に至った乳歯は、やはり予後成績が悪いことは否定できない。結局のところ、後続永久歯との理想的な交換を実現させるための延命処置となる。
X線写真上で齲蝕と歯髄に距離があっても、実際には既に歯髄に接していることも珍しくない。X線写真上のう蝕病巣は、実際の大きさの70%である、という報告もあるので、乳歯のう蝕病巣の大きさは、いよいよ歯科医師にとって緊張をもたらす厭な存在だ。ベテランの歯科医師になると、歯髄と距離があるう蝕であっても既に歯髄感染をきたしていると判断し、初回エントリー時に断髄処置および抜髄を選択したりするが、それは「乳歯のう蝕」に対する経験に裏打ちされた確信に拠る。下手に歯髄保存を狙うと根尖性歯周炎になって帰ってくる辛酸を舐めてきたからである。
乳歯の齲蝕治療の王道は充填である。サホライドを塗布して光照射して放置することも行われるが、どちらかといえば時間稼ぎあり、サホライドに拘泥するのは良心的ではない。サホライドは確かに齲蝕進行予防作用を有するが、深在性齲蝕のケースには歯髄に対して炎症を惹起するので使えないからである。結局は、ある程度の小規模の齲蝕にサホ塗布で時間稼ぎをするためのものであり、最終的には感染歯質の除去と充填処置が不可欠である。
小児の治療へのコンプライアンスにも左右されてしまうが、齲蝕の治療であれば、感染歯質の除去と充填をメインに考え、いかにしてそれを達成するかを考えるべきであろう。偉そうなこと言っている私にしても、どうしても手に余る患児の場合は「サホ塗布+テンポラリセメントソフトの簡易充填」で対応している場面もある。それでも、最終的にはその仮封を除去して最終充填に持っていくよう考える。たとえ時間稼ぎの処置であれ、それを行うことで治療慣れするととても協力的になってくれることがある。感動を覚える瞬間であったりする。ただ、全ての場合に期待できるものではない。
結局のところ、小児の歯科医治療で苦労するのは患児が協力的であるかどうかに尽きる。私も感情的未熟な人間なので、いつまでグズって治療ができない子どもがいたとしたら、その治療は代替案的なものしかできない。責任転換するわけにもいかないが、保護者が砂糖含有飲食品および加工食品漬けの食生活をさせていたら、救える手立てがなくなるほど厳しい口腔内に成り果てたりもする。そして歯科医師は、半ば諦観的にお定まりの結論「虫歯にならないようにしましょう」に行き着くのである。
典型的な乳臼歯隣接面齲蝕と咬合面齲蝕
6歳。う蝕病巣の規模は厳しいが、楽勝パターン。なぜなら協力的な患児で、浸麻もラバーダムもかけられるからである。左下Dの遠心隣接面と左下Eの咬合面遠心小窩からのう蝕(ED境で側方に拡大するう蝕円錐を呈している)。
Eに乳臼歯用クランプをかけて、Dはパンチ穴から被せてフロス固定で対応可。エアタービンで齲蝕にエントリーして滅菌スチールラウンドバー軟化象牙質の除去、窩洞底部をEr:YAGレーザー(10PPS/30mj)で蒸散。Dは僅かに点状露髄したが、レーザーの照射生食洗浄で止血したので断髄にはいかず充填対応。接着システムにメガボンドFAを採用し、ビューティフィルキッズローフローで充填している。EはともかくDの経過が怖いので要経過。
満足な写真がないのは、小児の歯科治療はスピード勝負で撮影しているヒマがないからである。
ラベル:ラバーダム
2018年11月14日
ラバーダムシートのサイズやカラーその他について
日常的に使用するラバーダムであるが、クランプやフレームはさておき、シートのサイズやカラーについては、案外に適当な扱いを受けている気がする。拘っている先生は、拘りがあるのでしょうけれども、あんまりそういう話も聞かない。
術者の好みで良いのです、というオチで完結していそうな気がする。
シートのサイズは、5インチ(12.7p x 12.7p)のものと6インチ(15.2p x 15.2p)が主流っぽい。私は5インチのものを好んで用いる。6インチだとデカすぎて持て余す場面が多いからである。厚みを選べる場合もあるが、普通か薄めのもので十分であろう。ラテックスアレルギーの患者さんに備えてノンラテックスのシートも備えておきたい。香料が付いている/いない 話もあまり気にしたことがないが、ついていた方がゴム臭の軽減の面で良さそうに思える。
カラーは、なんだかんだで緑色が目に優しそうで気に入って使用している。銀色のクラスプとのマッチングも派手さとは無縁でありながら渋さを感じさせるコンビである。
学生実習の頃はアイボリー色のシートであり、それに倣って卒後も使っていたが、ご存知の通り歯牙と近似した色であるから、目に優しい落ち着いた暖色であるのは良いにしてもコントラストの面で不満があった。ロエコの、パープルカラーの厚みのあるシートも愛用していたことがあるが、コストが高く、使い捨てに使用するにはあまりに不利であったため使用しなくなった。
青色は、言葉は悪いが「ポリバケツブルー」みたいで単純に私の好みではない。黒色のシートも、言葉は悪いが「Garbage-Bag black」で好みではない。青色と黒色はコントラストはつくから、とっておきの写真撮影症例の場合に向いているような気がする。
ラバーダムフレームは、ヤングのフレームを愛用。これは学生実習の時から変わらず使用し続けているので手に馴染んでいる。滅菌対応の、プラスチック製のフォールディングタイプも所有しているが、どうもフレームのゴツさが気になってしまうので、処置中にデンタルX線撮影でも予定していなければ選択されることはない。
そんなかんだで、今の所はオーソドックスなクランプと緑色の安価なラバーダムシートで頑張っているところ。ラバーダムが不可欠な場面であ
るのにも関わらずコストが頭をよぎって(ケチって)ラバーを掛けない不幸を回避するのが先決です。
ラベル:ラバーダム
2018年11月12日
再根管治療における、根尖付近のガッタパーチャの除去をNiTiファイルにお任せする
再根管治療でガッタパーチャの除去を伴う症例は、少なからず緊張を覚えます。その根充をした先生以上の技量を持ち合わせなくては治癒に導けないでばかりか、その根充が行われた時点よりも根管のコンディションが悪化しているであろうこと、加えて、ガッタパーチャの完全除去は望外に困難であることが挙げられるからです。ラバーダムを掛けるために一手間を要することも珍しくありません。
まず根充されたガッタパーチャを乗り越えて本来の根管をネゴシエーションできるかが課題であり、その後のガッタパーチャ除去の時点で、如何に根尖に削片を溢出させずに除去しきれるかが本命の作業となります。汚れは目に見えても、その有機質汚染の程度までは目では判断しきれるものではなく、不幸にして強い術後疼痛を起こしてしまうこともあります。抜髄よりも術者に要求される難易度が高いくせに保険点数の評価が抜髄よりも低いあたりに憎しみも覚えます。
そんなかんだで、根管治療が好きな先生は再根管治療に対して色々な思いを抱いているものだと思います。
こんな前置きはどうでもよくて、本ケースはロータリーNiTiで、デファクトスタンダードとなっている「25/.06」の形成でGP除去がどれほど達成できるかを試した程度のものです。私の中では答えは既にあって、XP-EndoShaper(FKG)を使えば良い、との認識です。とはいえアレは高価なので、オーソドックスなロータリーNiTiでも除去ができればエエんやけど、とは考えている。そんな中、最近のマイブームであるAF F-oneならどんなもんかとトライした次第。除去の効率は決して悪くはないが、絶対ではない。塊のままスッポ抜くように除去してくれれば言うことなしだが、そう上手くはいかないようだ。完全除去のためには、根管内にクロロホルムを満たしてXP-Endoで攻めるのが、現状で頼りになる方法かなと思われます。私はクロロホルムを所持していないので、代替案としてGPソルベントとエンドアクティベーターでヴィイィィっとやるのがせいぜいです。
根管充填済の残根状の感染根管治療
クランプが掛かることを確認して、感染象牙質を大まかに除去して根管口を確認。スチールラウンドバーで髄床底と根管口付近の感染象牙質とガッタパーチャを除去。根管内にドーンと存在するGPは引っこ抜ければ気持ちがいいが、そうもいかないのでゲイツバーやらGPXやらで根管口〜根管中央あたりまでをザッと除去します。ここで無理すると直線的な人工根管やら器具破折を招くので
逸る気持ちは抑えて作業せねばなりません。
ネゴシエーションは、SEC1-0に新品のマニー10Kで行います。GPと根管壁にファイルがネチっと食い込めばしめたもので、SEC1-0であればそのまま根管壁に沿って根尖までファイルが到達してくれるようです。穿通後は根管内を蒸留水やら生食やらでひとまず洗浄し、根管壁やGP片などを可及的に根管に外に排出させます。その後、12KでPatencyがあることを確認したら「いつもの」シークエンス、
プログライダー〉EdgeTaperEncore※のX1(17/.04)〉AF F-One(25/.06)
の流れになります。AF F-Oneのパワフルな切削にGP除去の淡い期待をのせています。
ここまで終えてから仮封して、確認デンタルを撮影しています。やはり取り残しがあります。
が、予想していたよりは除去ができている感じです。これ以上のサイズのNiTiファイルかXPエンドシェイパーを使えば除去できそうです。GP除去能に定評のあるレシプロックも相応しいかもしれません。
まとめ
ガッタパーチャの除去を要する再根管治療では、グライドパスを形成したらXPエンドシェイパーをブチ込むのが一番良さそう
【11/13追加】
XPSを作業長まで到達させて引き抜いたら取り残しが出てきました。やはりXPSは優秀……
と思いきや、この後に確認デンタルを撮影したら取り残しがまだ認められたのでウェーブワン・ゴールドのラージまで拡大して根充にいきました。再根管治療は拡大号数が大きくなりがちです。
ちなみに前回治療後に術後疼痛はまったく無かったそうです。GP除去を要する再根管治療は術後に痛みが出がちなので安堵。
※EdgeTaperEncore:エッジエンドという、アメリカの会社のゾロファイル(モロパクりファイル)のひとつ。スマイルUSで購入可。プロテーパーネクストの互換品をうたっていますが、似ているのは規格だけ。ファイルの材質は柔軟で破折しにくい別物のファイルになっています。
エッジエンド社のファイルは、ラインナップがやたら多いのですが、「これはいい!」と思えるのは個人的には少ないです。グライドパスと予備拡大のための、このEdgeTaperEncoreのx1か、WaveoneGoldのゾロファイルであるEdgeOneFireがせいぜいです。破折しにくく、割合に安価であること長所ですが、たまに通電しにくいファイルが混じってたりするあたりが油断なりません。どういうことなの……