昨今のエンドで欠かすことのできない存在がNiTiファイルである。ここ10年の間に一気にプレゼンス増してきた感がある。NiTiファイルは、道具であるから、術者が使いこなすことが必要となる。そのためにはエンドモーターが必要となるわけであるから、どのようなエンドモーターを採用するかは、徒や疎かにはできない。
本記事は、エンドモーター『E-CONNECT S』について紹介するものである。
結論:中庸な値段のコードレス式エンドモーターが欲しい先生にオススメ
コードレスのエンドモーターといえば『トライオートZX(モリタ)』が先駆者であったが私が初めてNiTiファイルに触れたのは、歯科医師になって5年目頃に東海林芳朗先生のエンドセミナーに参加した時であった。NiTiファイルはデンツプライの『プロテーパー』で、エンドモーターは白水の『エンドミニ』であったと記憶している。
このセミナーで学んだ主たる事項は、歯牙と根管の解剖学的形態に習熟すること、根管に突っ込んだ最初のファイルはとかく回したくなるものだが決して回さずネゴシエーションをまず達成すること、ネゴシエーションした後にはファイルの道筋を確実にするためにグライドパスを形成すること、であったかに思う。作業長の決定と根尖孔の保護を重視することも学んだ。
NiTiファイルは、手用ファイルに代わって根管の拡大形成を行ってくれる道具であるだけで、『プロテーパー』の細かな使用法については教わらなかった。根管治療の重要な基礎の部分を学ぶことこそが眼目であったわけで、NiTiファイルどう使っていくかは、その上にあったのである。セミナー後、私のエンドには変化が始まっていったが、NiTiファイルを積極的に使用し始めることはなかった。当時の勤務先には『トライオートZX』が埃を被って鎮座していたが、NiTiファイルは用意されていなかった。抜去歯牙で練習しようと松風の『Mtwoファイル』を購入したのはいいが、『トライオートZX』は連動作動式であり、抜去歯牙での練習が満足にできず失望させられた(抜去歯牙で満足に練習できないのだから、臨床で使用することができなかった。ブッツケ本番は怖すぎるからである)。
結局のところ、NiTiファイルを臨床で積極的に使い始めるのは実家の歯科医院に戻ってからであり、その際のエンドモーターは白水の『エンドミニ』を使用していた。このエンドモーターは操作法がわかりやすく、堅牢で取り回しもフレンドリーな優れた製品であった(当時のベストセラー機だった気がする)。その後、NiTiファイル界隈ではレシプロケーティングの波が押し寄せ始め、色々と検討した結果、NiTiファイルは『プログライダー』と『ウェーブワンゴールド』、エンドモーターには『Xスマートプラス』という、一連のデンツプライ製品を採用することになった。NiTiファイルのコスト面から、その内容に細かな変更は加わっていったものの、大筋では今もこの通りである。
先日、Xスマートプラスのコントラヘッドの不調で、インサートしたNiTiファイルがすっぽ抜けて来る事態となった。コントラヘッドの新品購入で危機を乗り切ったものの、新たなエンドモーターの購入を検討する運びとなった。その候補は『
E-CONNECT S(Eighteeth)』である。国内では取り扱いがないことから知名度が低いものの、海外では名が売れているエンドモーターのようだ。歯科材ディーラーからは『トライオートZX2』や『Xスマート IQ』の購入を勧められたが、パンフレットを読んでも製品コンセプトが理解不能だったのでやめた。
E-CONNECT S簡単に特徴を述べると、内臓EMRと連動が可能なコードレス式の新型エンドモーターである。ユニークなのは、レシプロケーションの角度設定ができることであろう。一般的なレシプロケーション用NiTiファイルは『レシプロック』に倣ってCW:30-CCW:150となっているが、カスタマイズでCW:90-CCW:30に設定することが可能となっている。
もっとも、レシプロケーションの角度変更はメーカーの推奨使用法からは外れることが大半であるから、果たしてこの機能がどこまでの効力を発揮するものかは未知数である。純粋なロータリー用NiTiファイルを、その破折防止のためにアングル・カスタマイズで使用できる余地が生じることは確かであるから、積極的に利用することはなくとも、「今後の発展性」のために備えておいて損はない、というところだ。有益な「レシピ」が発表されたり、角度指定された新型NiTiファイルが発売される可能性があるからである。
内臓EMRを利用しない場合は、ほぼコードレスのエンドモーターとなる。利用する場合は、付属のリップフックとファイルクリップを備えたコードを本体と接続して連動させることになる。
この状態でファイルクリップに手用ファイルを把持して、根管に挿入すれば、『E-CONNECT S』をEMRとして利用できる。NiTiファイルを装着して根管に挿入すれば、根管内でのNiTiファイル先端の位置をロケートさせた状態で使用することができる。この場合、エンドモーターに設定してある「アピカルの位置」にファイルが達した際に、ファイルの動作を「ストップさせる」「逆回転させる」「ゆっくり動作させる」などの設定が可能となっている。また、NiTiファイルを根管に挿入した時点で自動で動作を開始するかしないか、根管よりNiTiファイルを抜き出した時点で動作を停止するかしないかも設定できる。これらは『トライオートZX(およびZX2)』にも備わる機能だったかに思うが、これを有益と判断するか、条件付きで作動させたいと考えるか、全く不要と判断するかは術者次第であるからカスタマイズさせることができる。
私はこの内蔵EMRとNiTiファイルとの連動に対して、さしたる有り難みを感じない。メーター表示されるディスプレイ画面が小さすぎるのも気になる。折角のコードレスをスポイルされたくない気持ちもある。目下、スタンドアローンの、純粋なコードレス式エンドモーターとして使用している。
エンドモーターに装着したNiTiファイルとEMRとの連動は、過去にも記載してきた通り、モリタの『ROOT ZX』と延長ファイルクリップである『ミニエンド』を組み合わせている。ミニエンドをNiTiファイルに把持する手間はかかるし手技上の煩雑さはあるのだが、もう体がこの方法に慣れてしまった。そのため、内蔵EMRと連動させると動作に強い違和感を覚えた。普段の自分の術式は、想像以上に習慣化されているものだと実感させられた次第である。頭の柔軟な先生なら、全く問題にならないだろう。
購入時のパッケージの中には、
・本体
・コントラアングル
・充電器兼スタンド
・本機充電用アダプタ
・EMRと連動させるために本体と接続するコード(リップホック+ファイルクリップ)
・ラバースリーブ
・スプレーノズル
・保証書
・説明書
が収まっている。
説明書は英語表記である。
NiTiファイルの操作については、基本的にはプリセットされた設定が「メモリー」として10パターン(M01〜10)備わっている。例えば、『レシプロック/ウェーブワンゴールド』はM3にプリセットされているので、購入してすぐに使うことができる(「M3」の表記を、分かりやすく「Reciproc」や「Wave one」に切り替えることも可:おおよそ一般的なNiTiファイルの名称が用意されている)。これらプリセットの設定は、カスタマイズによって回転数やトルク、正回転/レシプロ/逆回転の設定、先述の連動時のアピカル付近でのファイルの動きなどの設定ができる。
このカスタマイズ機能は概ね融通が利くようになっているので、たいていのNiTiファイルは問題なく使用することができるだろう。
残念なのは回転数の上限が1000rpmであるところで、これ以上の回転数を求めるなら『エレメントモーター(SybronEndo)』が必要となる。
ラバースリーブは、コントラアングルに被せて使用する。ラバーダムをしない場合にコントラアングルが口腔粘膜に触れるとEMRが不正確に触れるから、その防止には有効だ(勿論、エンドに際してラバーダムは必須という前提はいうまでもない)。
使用感Xスマートプラスから乗り換える身分での感想となるが、いまのところ違和感なく使用できている。取り回しが極端に悪くなった/良くなったという、感覚の違いは起きていない。従前、使用してきたXスマートプラスは二軍落ちとなった。
『E-CONNECT S』はコードレスのエンドモーターの値段としては(おそらく)良いものであろう。実際に使用していないので断言はできないが、『XスマートIQ』『トライオートZX2』と十分に競合する器機ではなかろうか。デモ機に触れてから購入できない点は残念だ。
これから長期的に使用していく中で欠点や欠陥が生じる可能性も否定しきれないが、
買っちゃったものは仕方がない。使用し続けていくだけである。