2018年06月28日

CRの形態修正にコメットカーバイドバー(と5倍速コントラ)


コメットさん.Jpg


CRの形態修正や研磨には、昔からホワイトポイントやファイン(ダイヤモンド)バーが用いられてきた。その中にあって「5倍速コントラ+フィニッシングバー(CR専用カーバイトバー)」がクオリティの高い方法として、言ってみれば自費CR時の手法として唱えられていたように思う。今でも、そうかもしれない。なぜならホワイトポイント用いた研磨では傷が、ファインバーではタービンを上手に動かさないと縦皺のような模様をつけてしまいがちだからである。

充填後、術者が狙った通りの形態に修正(整形)するためには、なんだかんだで5倍速+フィニッシングバーが安定だろうと思われる。理論的には説明できないが、実際に使用してみるとそう思う。そしてまた、形態修正など必要ないほどのクオリティの充填ができることこそが正解なのであろうとも思う。

そんな腕はないので、私のCR充填臨床にとって形態修正は欠くべからざるステップである。ラウンドバー(MIステンレスバー)で充填部辺縁のボンドバリの除去および簡易な修正を行い、5倍速+フィニッシングバーで咬合調整と形態修正を達成するのがルーチンワークである。



いろんなかたち
CR充填の形態修正用バーおよびポイントは形態様々であり、色々と揃えてみたくなるものの、実際に術者が高頻度で使用する形態のものは決まってくるように思う。私は、昔はそれこそ色々とポイントを使い分けていたものだが、その熱意に結果がついてくることはなかった。

そのうち、なるべく形態修正を要しないよう、充填操作を慎重にするようになっていった。自分は切削器具を用いた形態修正が苦手だと分かったので、形態修正のステップをサボりたい気持ちが湧いたからである。そののち、形態修正に用いるバーの選択に明らかな好みがではじめた。アポ○チョコ型というか、小型の三角錐タイプを好んで選択していることに気づいたのだ。

H390Q-018.Jpg

現在は、奈良の変態紳士先生にオススメされたコメットのQシリーズのH390Q-018を用いている。個人的な好みの問題だが、これが最も手に馴染む。ちょいと高価なので、その消耗を避ける意味で全ての場面で使いまくっているわけではないが、形態修正の要所で必ず用いている。形態修正のステップ規模が小さければ小さいほど消耗を減らし長持ちさせることができる意味で、やはり充填のステップで理想的な形態に仕上げておくことが至上ではなかろうか。勿論、形態修正にも細かな優れた部外秘なテクニックがあるはずで、それも重要なのだが。



まとめ
CR充填は、卓越した術者であれば本当にトンデモナイクオリティを発揮できる、歯科の中でも最も王道的な処置の中の芸術的要素に溢れた魅力的で奥深い処置である。ひとかどの歯科医師であるなら、自費でチャージできるレベルの腕前を有しておきたいものである。

憧れるなあ……
 
posted by ぎゅんた at 23:49| Comment(1) | 歯科材料・機器(紹介・レビュー) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年06月16日

歯根破折で困っちゃうのは人類みな平等


解決策.Jpg
え、マジで?

知人より、週刊ポストで歯科バッシングに近い記事が掲載されているとの報告があった。早速、当該記事を読んでみたところ、なるほどと思い至るところのある内容。

歯根破折に悩まされるのは患者さんだけでなく、歯科医もである。保険でファイバーポストコアが導入されたのも、従前のメタルコア・ポスト合着後につきまとっていた歯根破折のリスクを少しでも下げたいからに他ならない(補綴学会が声をあげてくれたハズ)。メタルコア・ポストがファイバーポストに置き換わった材料の変更だけで歯根破折がなくなったわけではないが、メタルコア・ポストに比べれば、歯根破折は予防できているようだ。もっとも、歯根破折に至る原因は複合的であるはずで、金属→レジンの置換は歯根破折防止のために配慮されるいくつかの要素の1つに過ぎないと考える。

さて本記事は「歯医者のタブー追求キャンペーン 第一回」とあるので、シリーズ連載されるもののようだ。古くは「歯の110番」に始まり、最近では讀賣新聞の「タービン使い回し」記事が記憶に新しい。特定の業界に対する第三者の指摘は、定期的に起こるイベントみたいな感じである。

近年は週刊現代が医科を、週刊ポストが歯科を熱心に取り扱っている印象を受ける。新聞が社会の木鐸なら、週刊誌は庶民の木鐸といったところあろうか。無論、それはタテマエであり、殊勝さのない「売れればいい(部数が伸びればいい)」ことこそがホンネである。ボランティアで雑誌を刊行するわけなどないからである。そんな中にあって、記者は商業的なバイアスと制約の中、己の信条を絡み連ねて記事を書いているのだろう。

日本の歯科業界には特殊なところがあるのであろう、昔からこうした内部に切り込んだ指摘や糾弾はなされてきた。火のないところに煙は立たずで、全てが正しい訳ではないにせよ、完全否定もできないようなところで落ち着いていくのが常である。世間は熱しやすく冷めやすい。そんな中、自戒の念を忘れずに「指摘されたこと」の改善のために行動に移す歯科医も出てくる(褒められることではないので、声に出さないだけだ)。

そういう意味では、第三者からの歯科への指摘というのは、良いことであると思うし、なくなるべきではないし、耳を傾けるべきである。偏向的で悪意に満ちたデタラメ記事でもなければ、目を通した歯科医の中から、自己反省や内省・考察により良い方向に動く者が現れるからである。

歯科に限らない話であろうが、どんな業界であれ、第三者のチェックがないと悪い方向に向かうものだ。株式会社に監査役が配置されるのも、名目上、それを懸念してのことだ。



さて本記事
普通の読者が通読すれば「歯医者は保存できる歯を安易に抜歯しすぎ。抜歯してインプラント治療に誘導しすぎ」という印象を受けるのではないかと思える。もっとも、「安易に抜歯しすぎ」に関しては、昔から言われていることである。「外科医はすぐに盲腸(虫垂)を切りたがる」と同じで、永遠に言われ続けるかもしれない。

ひとまず、抜歯以外に策がない場合は別として、まだ歯を残せる手立てがあるのであれば、それを無視することなく患者に提案する姿勢が歯科医師に望まれる、というメッセージを読み取ることができる。けだし正論であるし、歯を残すために尽力することは、歯科医師に求められる姿勢であると思う。

とはいえ、抜歯に至る原因が歯根破折である場合は例外的なのだ。

歯根破折=抜歯というのは、昔からの教科書的な不文律であり、歯科医師はそう教育を受けて育つ。歯根破折に伴う歯周組織を巻き込む急性炎症の惹起に数多く遭遇しているし、自らが手がけ治療した患歯が歯根破折によってスポイルされる経験もしているものだ。「破折、コノヤロー!」と思っていない歯科医師もまた、世界中のどこを探してもいないのである。

生活歯/失活歯を問わず、歯根に亀裂や破折が生ずると生体はどデカイ声をあげてパニックに陥り、生体より追い出そうとし始める。口腔内は最高のヘヴン・オブ・バクテリアなので、亀裂や破折に沿った炎症に細菌の修飾が加わって化膿性炎となる。こうなると歯茎は腫れるし痛くて噛めないし、患者さんは泣きっ面に蜂で歯科医院に駆け込むことになるのが常である。

こうした場面においては歯科医師、ことに開業医は「確実な結果」として除痛と解決策を提示しなくてはならない。沽券と評判に関わるからである。歯根破折に伴う苦痛の禍根は「その歯」なので、原因除去として抜歯を提案するのは自然なことである。ただ、抜歯は急性炎症時には局所麻酔が奏功しづらいことから、まず消炎後に行うことになるのが普通である。抜歯後、症状は原因除去によって消失し、欠損だけが残る。

歯根破折を前にして、抜歯に踏み切るか保存を狙うかは歯科医師の考え次第で左右される。繰り返すが、抜歯を選択するのが普通である。歯根破折をきたした歯は、基本的に炎症から休まることは考えられないからである。たとえ保存したところで慢性炎症を抱えた歯として口腔内-顎骨に存在し続けると考えられるし、そもそも歯としての機能を発揮できるものか不確かにすぎる。「しょっちゅうトラブルを起こすけれども口の中にいる」状態と「現在歯として口腔内で過不足なく機能している」のは、口の中に在ることは同じでも、意義として大きく異なる。

インプラント技術の台頭は、その黎明期は確かにミゼラブルなものであったが、弛まぬ研究の積み重ねによって、今では欠損補綴に対する余地性の高い治療法になっている。歯根破折や根尖病変によって保存が叶わない歯を抜歯した後の欠損補綴の第一選択かもしれない。たとえフィクスチャー埋入のための骨がなくとも、骨補填や人工骨を用いて応用する手法も確立され、歯周炎で歯槽骨のロスを伴う欠損部にも利用できるようにもなった。隔世の感がある。私は、このインプラントの急速な発展の軌跡の中に、歯根破折に懊悩する歯科医師がいかに多かったかを感じ取ることができるのである。

記事中には、「複数あるはずの治療の選択肢を提示しないのは、医療人として誠実とは言えない」とある。これには誤解があると思う。どんな歯科医師であれ、破折歯接着療法ついてはまず知っている。知っているけれども、信頼の置ける治療法として捉えていないので選択肢にあげていないだけである。歯科医師の大部分にとって破折歯接着療法は、例えは悪いが、がん治療の説明の際に主治医に「民間療法で治療する方法」を提示するような感覚に違いない。保険診療で対応できるならいざ知らず、自費治療で予後や結果が不安定な処置というのは、開業医であれば提示できないのが普通である。

実際のところ、破折歯接着療法も今ではインプラント治療と同じく信頼の置ける治療法として確立されているのかもしれない(推量系なのは、私自身がまだ破折歯接着療法を確実な治療のオプションとして身につけていないからである)。それでも、歯根破折があった時に、それを接着療法で治すことを提示しない歯医者の不誠実だと断定されるいわれはない。先述したように、欠損補綴には、いまやインプラントが予知性の高い方法として地位を確立しているからである。そしてまた、歯根破折で抜歯と診断した症例でインプラント補綴を成功させられる先生は、間違いなく基本手技が丁寧であり、信頼の置ける腕を有している。破折歯接着療法が自費診療で15-30万円のチャージなら、生着後の歯冠修復もまた自費診療となり5-10万の追加費用を要するだろう。インプラント治療に比べて格別に安いわけでも高いわけでもない。私自身なら、インプラント治療を選択する。自分自身の左下の奥歯に埋入されたインプラントが7年が経過したいまもストレスなく機能しているし、予知性が高いからである。


The success to preserve.
患者さんによっては、たとえトラブルを起こしやすい状態であっても、抜かずに残しておいて欲しいと願う人もいる。たとえ一本の歯にすぎなくとも、両親より授かった身体の一部であり長年を共にしてきた臓器だからである。そうした患者さんは、抜歯を回避する術を提示することに大きな意義があるし、また、破折歯接着療法は福音となるだろう。智歯の抜歯移植はなぜか人気がない。

当院にも、そういう患者さんはおられるため、意図的再植や外科的挺出などで保存を図る場面がある。案外に予後が良い。今では「次の一手」としての地位を確立しつつあるし、患歯保存のための次のオプションに臨床的歯冠長延長術も習得したいと考えているところだ。

破折歯に関しては、過去に「状態が悪いことは分かりましたが、抜歯はちょっと……延命ははかれませんか」と頼まれて色々とチャレンジしてきた(同様の先生も、多いはずだ)。

破折歯接着療法に関して稚拙な私の経験から言えそうなことがあるとすれば、破折に伴って生じた感染が重篤で歯槽骨の破壊が大きい場合は厳しいし、咬合圧が大きく加わる大臼歯絶望的なまでに厳しい。前歯部は比較的助けやすいが、やはり予後は不安定である(もっとも、私の経験症例数が少なく熟練度が低いことは無視できない)。

年齢や性別はそこまで予後を左右する因子ではない。非喫煙者であり、抜歯窩と破折部を含む歯根の感染の徹底除去と、再植後の固定をシッカリ確保して咬合圧から解放させることが重要のように思える。これは、意図的再植や外科的挺出でも同じことが言える。

総合的に述べるなら、破折歯接着療法は適応が難しいテクニックである。大臼歯に限っては、無理に接着療法に拘泥せずにインプラントを選択した方が安定した結果が約束されるだろう。


まとめ
破折歯接着療法は、その手技に熟達した先生であれば予知性が高い有効なテクニックかもしれない、としか今の私にはいえない。臼歯部での適応は、どうやるんだ?

歯根に生じた垂直性破折(VRF)に対して接着性レジンを用いた再植に関する論文を適当にWEB検索して読んでみても「前歯部に限ってなら、抜歯の前に考慮されるべき手法」みたいな、及び腰的な論調のものが数件ヒットする。海外では根管治療にせよインプラントにせよ、その治療費は(日本の治療費に比べて)高額であり、予知性の高い治療法こそが患者-術者にとって絶対とする土壌があるから、おそらくこれ以上の実践的な報告は出てこないだろう。

接着歯学、ことに象牙質へのレジン接着には日本人が大きく関わってきた経緯がある。海外の歯科医師たちの報告はさておき、日本から有効なデータと手法が発表されることで破折歯接着療法が予知性の高い手法として確立されることを祈るばかりだ。




余談
私が懸念するのは、歯根に破折があると嘯き「通常は抜歯になるが、こういう最新の治療法がある」と当該記事を患者に読ませ、偽の破折歯接着療法を行なって自費料金をチャージする小悪党の出現である。破折歯接着療法も外科的挺出も意図的再植もそうだが、歯槽骨が豊富に残っており歯根の感染が軽度であれば、たとえ抜歯後に再植しても良好に生着する。歯根に亀裂がある、と偽って抜歯して再植して固定すれば、なんら難しくないし予後も悪くない。加えてこれは自費診療であるから、その後の修復処置も自費で行える。「記事には15-30万てあるけど、ウチは10万でやるヨ(ニコニコ)」と説明したら、患者さんは喜んで承諾するのではないか。不幸にして失敗しても、それは神の思し召しということにすれば良い。

どこかの記事にも書いたが、専門家が素人を騙すことなど朝飯前のことだ。悪い心を働かせれば、小銭を素人から巻き上げることなど造作もないことなのである。だからこそ、プロフェッショナルには高い倫理観と人格が求められるのであり、高い社会的地位が約束されている。裏切りの代償は、まことに大きいのである。
 
posted by ぎゅんた at 21:04| Comment(4) | 根治(考察) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年06月05日

(論文紹介)The efficacy of XP-endo SHAPER (XPS) in cleaning the apical third of the root canal

(著者ら)Slavoljub Živković1, Jelena Nešković1, Milica Jovanović-Medojević1, Marijana Popović-Bajić1, Marija Živković-Sandić2
1University of Belgrade, Faculty of dental medicine, Department of Restorative Dentistry and Endodontics, Belgrade, Serbia;
2University of Belgrade, Faculty of dental medicine, Department of Orthodontics, Belgrade, Serbia



どんな論文?
XP-Endoシェイパー(XPS)用いた根管形成の有効性を評価したもので、形成時の根管洗浄には(保守的な)2%ヒポクロを用いている。XPSの有効性を根尖部の根管壁象牙質を2000倍の電子顕微鏡観察してスメア層の存在の有無と程度を統計・解析することから評価している。

単純に結論付けると、NiTiファイルで根管形成後に、XP-エンドフィニッシャー(XPF)を用いるとスメア層が除去されて少なくなり、XPSとXPFの組み合わせが最もスメア層が少なかった、としている。

平易で読みやすい印象を受けるセルビッシュ・ペーパー。



所感
スメア層の除去がXPFで達成できるとするのは、私は懐疑的である。メカニズムがはっきりしないからである。読み間違えや読み飛ばしているのかもしれないが、なぜXPFを用いてスメア層が有意に除去できるのかについての言及がない。私は、その昔スメア層も除去できるという触れ込みで上市された(はずの)『エンドアクティベーター』が、その後の研究でEDTAを併用しなくてはスメア層を除去することができない報告されたことを思い出す。

フィニッシャーのファイルはシェイパーに比べてフニャ○ンで、まるでしなるムチのように動作するから、なるほど、根管壁をペチペチ高速で叩くことで、あたかも箒が床の埃や塵芥を捲き上げるように、スメア層を根管壁より剥離しているのかもしれない。とはいうものの、如何にムチのようなファイルでも所詮はメタル・マテリアルであり、象牙質に機械的な接触をしてしまえば、やはりそれはスメア層を発生されてしまうと思うのである。この点について筆頭著者にメールで質問を飛ばしてみたが、1週間経っても返事はない。

いかなるNiTiファイルやファイル・シークエンスでの拡大形成であれ、最後の「フィニッシュ」にXPFを用いることは根尖部の清掃の面では有利に働くと言えるだろうが、スメア層の除去も行ってくれるとは考えない方が良さそうだ。

多少なりともスメア層が存在しても、根管充填後の永続的な封鎖が達成できると考えるのであればXPFで仕上げて終わって良いと思う。

いや根管洗浄は重要なステップだ、象牙質削片やdebrisも含めてスメア層は可及的に除去しておきたい、と考える先生はEDTAを用いれば良いのだろう。

ひとまず私はXPSを用いているし、EDTAやヒポクロをエンドアクティベーター併用で根管洗浄している毎日である。

いずれにせよ、XPSとXPFは多くのエンドドンティストにとって関心を引くNiTiファイルであろう。


ラベル:XP-endo 論文
posted by ぎゅんた at 16:06| Comment(2) | ニッケルチタンファイル | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする