こんなナリでも、トヨタ・ランドクルーザーが買えるお値段です 歯科用レーザーが臨床現場に台頭してきた時、その用途や対象は、歯牙硬組織の無痛的切削と歯周処置であり、根管内への照射は特に意識されていなかったように思う。穿孔部の処置の際の一手がせいぜいだったはずである。
歯学生当時、根管治療の実習でのストレスで胃を痛くしていた私は、なにかにすがる気持ちで丸善の売店で『エンドに強くなる本(増補改訂版)』を購入した。ときを経ていま本書を紐解いてみると、エンドへの歯科用レーザーの記載は「73 レーザーの根管治療への応用」の僅か2頁しか割かれておらず、論調も「〜が期待される」と弱い。
いずれにせよ、レーザーは根管治療と疎遠な印象であったレーザ光が照射された部位にしか効果がないと考えられたことから、複雑怪奇な根管内においてそれは効果をあげにくいと思われたからであろう。
借りパクしたいけど絶対無理そうなので色々と使ってみるこの度、モリタより『アーウィン・アドベール』を拝借できることになった。エンドへの応用について担当者に訊いたところ、マイクロエクスプロージョンによる攪拌効果で極めて高い殺菌効果が期待できることが分かっているのだという。
拝借中のアーウィンアドベールには根管内を照射できる専用チップ(R135T、R200T、R300T)は付属していないものの、P400FLで代用ができると説明を受けたので実地にて確認することにした。
厳密な実験ではないので、「あー、この場合なら使ってみようか」と感じた場面で用い、使用後の根管内の変化と予後が良好であるかどうか程度で判断する極めて適当なものである。
結果・「根管内の殺菌」の意味で、効いてる気がする。
・根尖部が大きく破壊されている根管(再根管治療の根管)が対象な気がする。
・下手に使うと根尖部を壊しそう
担当者から動画つきで受けた説明を個人的解釈の元に解釈すると「ヒポクロを満たして発泡反応もない、綺麗に消毒されたと判断される根管にチップを挿入してレーザーを照射すると、ホラ、こんな濁りが発生します(汚れの取り残しがあったんです)!」とのことであった。
「濁るのはオメー、レーザーが照射された根管壁が吹っ飛んだからじゃないの」と思うのだが。
ヒポクロを満たして、照射によって汚れが除去されたなら発泡してきそうなものだ。
それか、根管内の除去されるべき debris が根管内照射による溶液に生じたマイクロエクスプロージョンによる攪拌効果で根管壁より浮き上がって生じた濁りなのであろう。根管内より debris を除去することが根管洗浄の肝であると考えるなら、もしこれが事実なら頼もしい効果であると言える。
しかしこれは、17%EDTAを満たしてエンドアクティベーターで60秒の攪拌でも達成できそうなものだ。
目下、私が使用している『エンドアクティベーター』の場合では、消毒を期待するには irrigants にヒポクロを使わなくてはならないだけだ。
根管洗浄の観点からいえばレーザーの方がクオリティが高いと思われるが、準備やコストの面で明らかに不利である。
高級車一台を購入できる価格のアーウィンアドベールを根管洗浄のために購入するのは変態を通り越して奇人の域であろう(そんな熱い先生がいらっしゃったら自分が患者だったら通院します)。
卑近な症例その1「4日前から左下の奥歯が痛む」を主訴に来院された患者さん。#37(近親傾斜)
FMCを除冠し、ダウエルモアを除去(ダブルドライバーテクニック+オートセーフリムーバー)し、ガッタパーチャ除去と根管の攻略。ネゴシエーションのためにSEC1-0とマニー10Kを使用。果たして、遠心根管はあっさりネゴシエーションができたが、近心根は達成できず(閉鎖と判断)。
根尖部が既に壊れていたのか、感染象牙質として脆くなっていたのか、いずれにせよ30号が通過してしまう状態であった。
大まかにガッタパーチャの除去を達成したと判断したタイミングで仮封後に撮影した写真。
泣く子はニッコリのXP-エンドシェーパーを用いたら根尖部のGPがモリモリ除去できた。
もうこれなしでは生きられない……なんて言ったら大げさだが、これは本当に良いNiTiファイルだ。
リカピチュレーションしたファイルの先端や根管洗浄、クイックエンド使用時にGP片が確認されなくなってきたタイミングでEr:YAGレーザーをP400FLチップで照射。どこまで挿入するのかはファジーであるが、根尖部に近づけると30号のファイルが通過するほど大きくなってしまった根尖孔といえど、レーザーによって形態が破壊されてしまうだろうからやめるべきである、と考えて控えめな挿入に留める。「本当に効いているんかコレ?」という感触だが、確かに、根管内溶液に濁りが生じてきた。
ダウンパックの痕跡が見苦しい確認デンタル(バックフィリングをしていない)。
ウェーブワンゴールドガッタパーチャ:ラージとニシカキャナルシーラーBG。
卑近な症例その2別の症例。「数日前から左下の奥歯が噛むと違和感がある」が主訴。
根尖部が#40Kが素通りするほど大きく破壊されていた根管。再根管治療。
根管口直下のガッタパーチャを大まかに除去後にネゴシエーションし、エッジグライドパスでグライドパス形成し、
泣く子はニッコリのXP−エンドシェーパーで根尖部のガッタパーチャを除去している。
その後、前述の症例と同様にP400FLで根管内照射をしたところ、軽い痛みの訴えと共に根尖部からの出血が確認された。
根尖孔を破壊したのかもしれないし、根尖歯周組織へのレーザーの到達が出血をきたしたのかもしれない。
これはまずいぞ!
しかし出血は直ぐに止まった。
根尖部が大きく破壊されている根管はMTA根充の適応であると思われるし、その予定なら出血の有無は予後不安因子にはならないはずなのでEr:YAGレーザーの使用は結果オーライ的に有益だと思われる。
とはいえ、意図的に出血させる目的でEr:YAGレーザーを根尖部に向けて照射するのは怖いし、憚られる。
意図的再植で口腔外で処置をする場合ならEr:YAGレーザーの使用に躊躇する理由はないけれども、その場合は目視下であるから、Er:YAGレーザーを絶対に使用しなくてはならない道理も引っ込んでしまう。
保険治療の希望であったので、ポイント先端をアジャストさせたウェーブワンゴールドガッタパーチャとニシカキャナルシーラーBGで根充することになった。ダウンパックの痕跡が汚らしい。根充後の予後は痛みも泣く良好に推移し、安堵している。
というわけで、もし所有しているのなら、エンドに用いられる場面は少なくなさそう。
でもまあ、Er:YAGレーザーは歯周治療が独壇場だと思います。おわり。