2018年01月29日

MTA(Mineral Trioxide Aggregate)セメントで根充してみる


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根管が大きく拡大されているだけでなく、根尖部が大きく破壊されているRetreatment根管の根管充填をどうするか。ゴムの棘みたいな太いマスターポイントを用いた側方加圧充填か、FP-コアキャリア法か、MTA根充かのいずれかを選択せざるを得ないのではないか。

根管が過度に拡大されていたり、根尖が大きく破壊されている根管は、エンドによる感染源除去と消毒が功をなし保存が叶ったとしても、歯根破折から逃れられるかどうかの不安から逃れることはできない。エンドで保存した歯を補綴せず根面板のかたちで保存していく方が安全かどうかについて私は確たる意見を持たないけれども、最終拡大号数が大きい根管や根尖部が大きく壊れた根管の根充にMTAセメント用いるのは具合が良いであろうことは知っている。

FP-コアキャリア法は、簡易サーマフィルのような根充法である。根尖部が太い根管もオブチュレーションガッタソフトをコーティングしたフレックスポイントネオを作業長に合わせて根管に挿入する方法であり、材料さえあれば簡便に行える。ただし、個人的な臨床成績は芳しくない(悪いと断ずることはできないが、良いと太鼓判も押せない)。根尖病巣が消えなかったり、シーラーとオブチュレーションガッタを根尖から押し出しすぎるきらいがあるのである。「そんなもん、根充法が悪いのではなくお前の(根管からの)感染源除去と消毒が不十分だからじゃね?」と指摘されればハイそうです……と言わざるをえないものの、目下、私はFP-コアキャリア法を行なっていない。



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「差し歯がとれた」と来院された患者さん。隣の中切歯もやられてまんがな……というツッコミは「この歯だけの治療を希望」を前に雲散霧消。ひとまず前歯がないわけですから、その審美性の回復こそが喫緊の課題であり主訴でもある。「症状もなにもない歯の治療の必要性なんて知らん」が患者さんの実情であります。

さてこの#12、写真で見るとワケが悪いが自発痛も打診痛も訴えない。

写真をパッと見て予想されることは、何回も根管治療を受け、アマルガムを用いた逆根管充填の既往がありそうであること。根尖部は慢性的に病変が存在することで吸収を受けたかで大きく壊れていること。歯根に亀裂はなさそうであること、の3つであります。

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初回はガッタパーチャの徹底除去を行なったが、果たして、術後にその確認写真をみると根尖部のデルタ地帯に亀裂があるように見える。根管内から逆根管充填材が除去できれば胸を張れる実績となるがそれは叶いそうもなかった。となると、再び外科的歯内療法で……となるが、患者さんは「いや、アレは嫌です」という。過去になにかあったのか。

根尖のアマルガム(多分)ごと、外科的に除去するべきであろうとは思うが、仕方がない。そもそも、このような場合の根切と逆根充を上手くやり遂げられるものかどうか、私に確たる自信がない。

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畢竟、お定まりの「根管からのアプローチのみ」での対応となったわけだが、根尖は120-130号の、ホームセンターで売ってる細ネジみたいなファイルが素通りで通過するかしないかぐらいに壊れきっている。経過が良ければ根充していくことになるが、破折のリスクもあるし、これ以上の拡大形成は実質的に自殺行為でもある。崖っぷち根管である。さすれば、根充はMTAセメントを用いても差し支えあるまい。

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ヒポクロが根尖から漏れないよう注意しながらクイックエンドで吸引乾燥を交えた根管洗浄を行ってから、MTA根充を行なった。MTA根充の手順やその手法は、寺内先生の『ビジュアライズド イラストレーションズ How to Endodontics(p.158-)』に記載されている内容をそっくり真似ている。使用したMTAセメントは、YAMAKINのTMR-MTAセメント(アイボリー)である。初症例にしては致命的な「やらかし」はないはず(と信じたい)。

今のところ違和感や自発通など訴えてはいない。
それは良いのだが、さてどこまで歯根破折せず長持ちしてくれるだろうか懸念は尽きない。
 
posted by ぎゅんた at 18:18| Comment(4) | 根治(実践的) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年01月23日

「誰もが良い歯医者を探し求めているように〜」なんていうフレーズ


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歯医者の怖いシーンといえば『アウトレイジ』で決まり(失禁)


ヤフーニュースの記事にて。

被害女性「削り始めたのでおかしいなと」 (ホウドウキョク) - Yahoo!ニュース

記事の内容もさることながらコメント欄が熱いことに。

投稿されているコメントには「歯医者ヘイト」と「良い歯医者探し」についてが目立ちます。

ネットの記事にコメントをポストするのは、存外に熱量を要する行為ですから、それだけ「歯医者」に対し強く思うところのある人が多いことが窺い知れます。



コメント欄を読んでいると

やっぱり歯医者は好かれないよね…

とか、

これはちょっと誤解しているかな?

とか、

うーん、本当にこんなエゲツない歯医者がいるのか…

と信じがたい気持ちになったりします。

国民の皆さんの歯医者の印象ってこんなもんよねって思う一方、想像以上に信頼されていないし評価もされていない職業なのだなと寂しい気持ちになります。とはいえ、それも身から出た錆。

褒められたものとは言えない現状の禍根があるとすれば、私はひとつだなと考えます。
それは、患者さんと歯科医師との間に信頼関係が構築されていないことです。

患者さんが歯科医師を信頼しないだけでなく、歯科医師も患者さんを信頼していない不幸な構図があるように思います。同極同士の磁石のようです。

歯科医師の患者さんへの説明不足がまず挙げられますし、治療のゴールを目指す上で考えられうる選択肢の提示に始まり、メリット/デメリット等の説明不足も挙げられましょう。

これはどの業界の話でも通じることだと思いますが、専門家は専門家でない人(素人)を騙眩かすことなど朝飯前です。だからこそ、専門家には職業倫理が不可欠なのです。高い技術力と人格を備えた専門家はプロフェッショナルとして尊敬されます。社会の財産といって良いでしょう。書生論かもしれませんが、私はそう考えています。

この辺のテーマを突き詰めて考えていくと知恵熱が出たり、政治行政への色が出てきたり、評価されぬ自己献身への虚無感をして厭世的な気分になり診療のパフォーマンスが下がったりとロクなことになりません。


うーんまとまりのない記事
posted by ぎゅんた at 23:22| Comment(2) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年01月16日

歯科医が望まない日常光景シリーズAあ、穴が開いている……!


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穴を広げてオートセーフリムーバーを引っ掛けて除去しようとしたが上手くいかず、スリットを掘ってわずかに抉って緩めて除去。見栄えは悪いが仮歯としては使用できる


4年前にセットしたジルコニア冠の咬合面に磨耗原因と思われる穴が空いていました。対合歯にはインレーが入っていますが、咬合接触は舌側咬頭の歯質なので、単純に支台歯形成時の咬合面のクリアランス不足が絶対的原因です。おいこらー


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これはセットして半年後の口腔内写真


ブツは和田精密の『ジルライトクラウン』になります。

『ジルライトクラウン』はコストを優先して審美性を犠牲にした、要するに「とりあえず金属じゃなければOK」な人向きのエントリーグレード・ジルコニア冠であります。

このジルコニア冠は、当時、和田精密が取り扱いを開始したばかりだったはずで、営業マンが「ジルコニアはとても硬いですから破折も磨耗もしませんよ」なんてことを言っていた覚えがある。もっともそれは誇大広告というもので、現実にそんなわけがない。真に受けた歯科医師はいないのであります。むしろ硬すぎて、対合天然歯の磨耗を懸念する声が大きかったと記憶しております。

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根充直後の写真


当時のカルテを見ると「ネゴシエーション後にMtwoファイルで形成」とあり、ラバー下でエンドシーラーを用いたラテラル根充を行なっている。 なんとなく直線的な気がするし、今の自分から見るとずいぶんと根尖を攻めてる印象を受ける。

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除冠後の写真。幸いにも根尖病変は否定できそうで安堵


その一方、黒柳徹子さんに「随分と縁上のマージンなのね」とか言われそうな支台歯が気にかかる。こんな写真をSJCDの症例発表プレゼンで提示したら消火器などの鈍器が飛んできそうです。ジルコニア冠の支台歯形成にビビっていた術者の心理がエックス線写真で分かってしまうというもの。


さてジルコニアは物性的に硬くて頼りになりますけれども、支台歯のクリアランスが不足していれば普通に穴が開きます。なに当たり前のこと言ってんだこの豚野郎と罵られても、現実にそうなのだから述べざるを得ない。

材料の物性に過度に依存するのは厳禁で、支台歯形成は、その原理原則から逸脱せぬように達成しなくてはなりません。脱離をきたさず長持ちさせられる形成かそうでないかは、支台歯形成いかんで瞭然と分かれます。

とりあえず「かたち」にはなるだろう、と適当な支台歯形成でヘボな作業用模型になったとしても、技工士さんが黙々と上手な冠を作ってくれているからこそなんとかなっている冠がどれほど多いのだろうと自省する日々です。そんな冠がセットされたとして、どれだけ口腔内で機能し続けてくれるだろうか?

根管治療で保存と延命が叶った歯を、破折や脱離をきたすことなく長期的に機能させ続けられる確かな腕が欲しいものです。
 
posted by ぎゅんた at 17:27| Comment(0) | 根治以外の臨床 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年01月15日

(書籍紹介)『またまた ホンマ堪忍やで、歯科個別指導 PART2 〜生活保護編〜』



感想
大阪は、怖いなあ……(偏見)


ところで、生活保護の患者さんの受け入れは当院では行っていません。
父が過去に「指定医療機関」の申請を取り下げたからです。

なにが理由で取り下げたのかは黙して語ってくれませんが、なんというかまあ、推察できるところはあります。この曖昧模糊とした心理は、医療従事者側から生活保護の患者さんを一面的に捉えるところに存在する偏見と実体験が入り混じった独特のものです。

私は過去に勤務先で生活保護の患者さんの診療に幾度も携わりましたが、妙な体験もしませんでしたし、さしたる特別な印象も持っておりません。「それは、自分が住んでいる地域の住人の中の生活保護受給を患者として診なかったからだ」とさる方に指摘され、あ、それもそうだわと膝を打ったものです。地域に根ざし、逃げも隠れもできない田舎に居を構えて診療している責任ある立場ではなかったからです。

確たる真偽は確認していませんが、最近は「指定医療期機関」の申請をしないか、返上する歯科医院が多いようです。この理由も、まあ、なんとなくだが分かります。

私自身は、指定医療機関になることは開業歯科医師ができる社会貢献のひとつだろうと思っていますし、申請をしたいと考えているのですが、父が首を縦に振らないので頓挫しています。黙して語りませんが、思うところがあってのことだと理解できますし、その意思を尊重しているところです。

というと格好いいですが、実のところは、ちょっと経営や台所事情に関わってくる微妙な題材を膝を交えて懇々と話し合いをすると、手が出る足は出る棍棒で殴りかかるの様相を呈しかねないのが同業自営業親子経営スタイルの面倒臭いところでありますゆえ、余計な殺し合いは避けるための妥協にすぎません。父が完全に引退したら申請することになりそうです。つっても、なんだかんだ元気そうだし、いつになることやら。



というわけで本書では、生活保護の患者さんの個別指導についてが解説されています。

アホくさいことなんぞ笑い飛ばせばエエんや!という著者の熱い意気を感じられる意図はすぐに分かりますが、それでもちょっと下品すぎです……。婚活中の身で、意中の人との初デートの待ち合わせ場所に『すたみな太郎』を選定するぐらいの飛ばしっぷり。いや私の実体験ですけどね。来てくれなかったので一人フードファイトして帰った記憶。そんな私ですが、今は嫁と子供がいる。そういうことです。ガハハ


好き嫌いが分かれるだろうし、単純に他人に薦めにくい内容になっています。各章の最後のコラムとか真面目なんですけどね。いやはや困った。

せっかくだから俺は、この本に書いてあることを実行するし、推しておくぜ。
 
うーんグダグダ
posted by ぎゅんた at 23:30| Comment(0) | 書籍など | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年01月11日

支台歯とクリアランスと技工士さん


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ペーペーの医局員時代に師匠に教えてもらった『ビジュアル・セミナー臨床咬合学入門』から。内容はちょっと古くて時代を感じます。


クリアランスの形成の不備が原因でセット時の咬合調整で穴を開けてしまうのは、新人歯科医師が必ずや経験するお約束であります(違ったらスマヌ)。下顎臼歯の咬合面で生じやすいものです。そしてまた、支台歯形成の手引書には、必ずや「咬合面中央は削除不足に陥りやすいので注意すること」と記載があるものです。

支台歯形成時のクリアランスの確認およびバイト材の厚みの確認不足が原因でありましょうが、支台歯形成時のクリアランス確認を目で行うと誤認しがちなことも見逃せません。それを予防するためのツールが存在するほどです(⇒ナビゲージ)。

そんなかんだで、支台歯形成に慣れないうちや苦手とする先生では、クリアランスが不足しがちになる傾向にあります。正直なところ、私も、その傾向があります。

補綴物の製作を依頼される立場である技工士さんは、おしなべて優しいですから、いくら歯科医師の支台歯形成(や印象)に不備があっても、黙して補綴物を仕上げてくれます。畢竟、セット時の咬合調整で冠が極度に菲薄化するか穴が開く事態に陥ります。この時、歯科医師は自身の力量のなさやクリアランスを誤認した現実に突きつけられます。こうしたとき、「技工士が悪い」と開き直る先生もいると仄聞しますが、それは天に唾する行為に他なりません。技工士さんもミスしないわけではないでしょうが、まず疑うべきは己の形成であり、印象であり、石膏模型でしょう。

少なからず自分でワックアップや鋳造などをしてきた先生は、決して技工士さんを責めません。まず、己のステップ内容のミスを疑い、原因を追求します。技工操作は、確かなステップの積み重ねであることを理解しているものだからです。

そういう意味では、歯科医師、とくに若手の先生は己で技工作業を(全てではないにせよ)行うべきですし、自分の形成から技工操作にいたるまでを技工士さんにチェックしてもらい、忌憚のない意見をもらうべきです。耳の痛い意見をズバズバもらうものですが、このときの有り難みは後になるほど生きてきますし、なにより若いうちにしか得られないものだからです。

臨床経験が長く慣ればなるほど、歯科医師は技工から遠ざかってしまうのはやむを得ない側面が多いのですが、技工士さんに丸投げする姿勢は色々な意味で勿体無いことだと思います。技工士さん不足も相まって、これからは歯科医師が技工士さんを奪い合う時代になりそうですし、技工士さんも歯科医師を選んで仕事をすることになりそうです。偉そうなのは旧態依然として歯科医師の思い上がりがのみ……と陰口を叩かれる悲劇は終わりにしたいものです。

posted by ぎゅんた at 12:06| Comment(0) | 根治以外の臨床 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする