根管が大きく拡大されているだけでなく、根尖部が大きく破壊されているRetreatment根管の根管充填をどうするか。ゴムの棘みたいな太いマスターポイントを用いた側方加圧充填か、FP-コアキャリア法か、MTA根充かのいずれかを選択せざるを得ないのではないか。
根管が過度に拡大されていたり、根尖が大きく破壊されている根管は、エンドによる感染源除去と消毒が功をなし保存が叶ったとしても、歯根破折から逃れられるかどうかの不安から逃れることはできない。エンドで保存した歯を補綴せず根面板のかたちで保存していく方が安全かどうかについて私は確たる意見を持たないけれども、最終拡大号数が大きい根管や根尖部が大きく壊れた根管の根充にMTAセメント用いるのは具合が良いであろうことは知っている。
FP-コアキャリア法は、簡易サーマフィルのような根充法である。根尖部が太い根管もオブチュレーションガッタソフトをコーティングしたフレックスポイントネオを作業長に合わせて根管に挿入する方法であり、材料さえあれば簡便に行える。ただし、個人的な臨床成績は芳しくない(悪いと断ずることはできないが、良いと太鼓判も押せない)。根尖病巣が消えなかったり、シーラーとオブチュレーションガッタを根尖から押し出しすぎるきらいがあるのである。「そんなもん、根充法が悪いのではなくお前の(根管からの)感染源除去と消毒が不十分だからじゃね?」と指摘されればハイそうです……と言わざるをえないものの、目下、私はFP-コアキャリア法を行なっていない。
「差し歯がとれた」と来院された患者さん。隣の中切歯もやられてまんがな……というツッコミは「この歯だけの治療を希望」を前に雲散霧消。ひとまず前歯がないわけですから、その審美性の回復こそが喫緊の課題であり主訴でもある。「症状もなにもない歯の治療の必要性なんて知らん」が患者さんの実情であります。
さてこの#12、写真で見るとワケが悪いが自発痛も打診痛も訴えない。
写真をパッと見て予想されることは、何回も根管治療を受け、アマルガムを用いた逆根管充填の既往がありそうであること。根尖部は慢性的に病変が存在することで吸収を受けたかで大きく壊れていること。歯根に亀裂はなさそうであること、の3つであります。
初回はガッタパーチャの徹底除去を行なったが、果たして、術後にその確認写真をみると根尖部のデルタ地帯に亀裂があるように見える。根管内から逆根管充填材が除去できれば胸を張れる実績となるがそれは叶いそうもなかった。となると、再び外科的歯内療法で……となるが、患者さんは「いや、アレは嫌です」という。過去になにかあったのか。
根尖のアマルガム(多分)ごと、外科的に除去するべきであろうとは思うが、仕方がない。そもそも、このような場合の根切と逆根充を上手くやり遂げられるものかどうか、私に確たる自信がない。
畢竟、お定まりの「根管からのアプローチのみ」での対応となったわけだが、根尖は120-130号の、ホームセンターで売ってる細ネジみたいなファイルが素通りで通過するかしないかぐらいに壊れきっている。経過が良ければ根充していくことになるが、破折のリスクもあるし、これ以上の拡大形成は実質的に自殺行為でもある。崖っぷち根管である。さすれば、根充はMTAセメントを用いても差し支えあるまい。
ヒポクロが根尖から漏れないよう注意しながらクイックエンドで吸引乾燥を交えた根管洗浄を行ってから、MTA根充を行なった。MTA根充の手順やその手法は、寺内先生の『ビジュアライズド イラストレーションズ How to Endodontics(p.158-)』に記載されている内容をそっくり真似ている。使用したMTAセメントは、YAMAKINのTMR-MTAセメント(アイボリー)である。初症例にしては致命的な「やらかし」はないはず(と信じたい)。
今のところ違和感や自発通など訴えてはいない。
それは良いのだが、さてどこまで歯根破折せず長持ちしてくれるだろうか懸念は尽きない。