私が初めて触れたラバーダムシートの色はライト(肌色みたいな色調)であった。学生実習の時のラバーダムシートは、いつもこの色なのであった。つまり、当時を思い出してゲロを吐きそうになるので、金輪際、私はもちいることはない。
研修医であった時分に、ロエコ社の蛍光パープルな、やたら大きくて進展性のある「洋モノ」なラバーダムシートを愛用していた記憶がある。あるときフロアを取り仕切る歯科衛生士長に「先生、そのシートすごく高価なんですよ」と耳打ちされたことはあるが「誰もラバーダムしてねえじゃねえか」というようなことを、もうちょっと紳士的な表現で返答した記憶がある。今となって、私は彼女の気持ちが理解できる。当時のペーペーな私のような「張り切ってラバーダムしている以前の状態」な歯医者には過ぎた代物だったことが明らかだからだ。ラバーダムをかける行為に満足して、肝心の、術野-患歯における軟化象牙質除去を等閑にして「治療」したいたのだから……。「ラバーダムをかければ意識が患歯に集中するのだから、軟化象牙質を取り残すなんてとんでもない!」と甘く考えていた私がとんでもないのである。
目下、私が愛用しているのは昔からFEEDで取り扱っているデントレックス・デンタルダムの中厚5インチ(青色)である。もうちょっと安いサンクチュアリのラテックスデンタルダムの中厚5インチ(緑色)も購入してみたが、なんとなくシートが硬い感じがで、デントレックスのシートの方が好みである。意外と操作感に差があるのだ。
いつもお世話になっているFEEDで「黒色ラバーダムシート(サンクチュアリ)」の存在を知った。
ラバーダムシートの色に求められるのは、患歯への集中のためにコントラストをつけることである。薄い色のラバーダムシート用いるとコントラストが弱いのがわかる。なるほど黒色のシートであれば、白色基調の歯牙と対をなすコントラストではあるだろう。ダイレクトボンディングにおける修復後の「美術品」的写真を撮影するときには、黒色の背景を用意してブラックフォトにするものであるが、黒色のラバーダムシートには、そのような「魅せる」要素も込められているのだろう。
ラバーダムシートといえば、ライト(肌色)か青色か緑色が普通のように考えていただけに、黒色のラバーダムシートはユニークさを覚える。黄色のスイカがあるんだから黒色のラバーダムシートがあってもいいじゃないかと、ユニークな人が考案したのかもしれぬ。しばらくしたらコントラストを捨てて透明に近いクリアなラバーダムシートが登場するかもしれない。サランラップでやれという無慈悲なツッコミは不可。
取り寄せたサンプル品が届いたので早速、使ってみよう。
シートの厚みは0.2mmであり、気持ちの良い進展性がある。6インチのシートはGAIJIN規格っぽい大きさであるが、シートをフレームに張る作業に余裕が出る面で楽である。
「黒は女を美しく見せるのよ」は、『魔女の宅急便』に登場するオソノさんの有名なセリフだが、黒色ラバーダムシートは歯を美しく見せはしない。コントラストがハッキリして、存在感の増した患歯が真顔で佇んでいるだけである。つまりは黒色のラバーダムシートによるコントラスト効果は抜群なのであって、患歯に意識をこれ以上なく集中させることができる。
作業野が黒色の世界になるから、あたかもゴミ袋の中で探し物をしているような妙な心境になるが、自分の治療の足を引っ張る因子ではない。患歯を綺麗に仕上げたい気持ちを後押ししてくれるアシスト効果が期待できる上に25円/枚程度のコストなので、臨床をより楽しくするためのアイテムのひとつに加えて良さそうだ。6インチのものしか選べないのはやむなし。
ラベル:ラバーダム