2017年08月29日

レシプロケーティング系NiTiファイルを用いた拡大形成では、根尖に debris を有意に押し出すのか?


W_Primary.jpg

A.「押し出しやすいもの」と考えて使いましょう


根管治療後の術後疼痛に関する論文を適当に渉猟すると、概ね結論は一致している。
それは、根管の拡大形成時に生じる debris が根尖外へ逸出すると術後疼痛が生じるということである。機械的操作である根管の拡大形成の操作によって、少なからずdebris は根尖から押し出しているようだが、術後疼痛出現の有無と出現した場合の程度は、その debris の量と debris 中に含有される細菌の種(炎症を惹起しやすいタイプかそうでないか)に影響される。

根管の拡大形成は、手用ファイルで行うか、ロータリー系NiTiか、レシプロケーション系NiTiかのいずれか、もしくはそれらのハイブリッドで達成されるが、いずれにせよ、いかなる手法においても根尖からの debris の押し出しを避けることはできない。NiTiファイル用いた場合であれば、押し出す量を有意に少なくできることが分かっているが、ロータリー・モーションとレシプロケーション・モーションでの場合に有意差があるかどうかも検証されてきた。

Sebastian らは、in vitro の実験から、レシプロケーション系NiTi(レシプロックとウェーブワン)は、ロータリー系NiTi(プロテーパーとMtwoファイル)に比べて根尖から押し出しす debris の量が多かったと報告している【1】。一方、Gustavo らはレシプロケーション系NiTi(レシプロックとウェーブワン)とロータリー系NiTi(プロテーパー)との間では、ロータリー系NiTiの方がdebrisの量が多かったと報告している【2】。Gambariniらはクラウンダウンで用いるTFファイルとTFアダプティブは、ウェーブワンと比べて術後疼痛の面で優秀な成績を見せたことを報告している【3】。

個人的な感覚では、ロータリー系NiTiとレシプロケーション系NiTiを用いた拡大形成後の術後疼痛は、レシプロケーション系NiTiの方で目立つ印象がある。推測から断定しても仕方がないが、ロータリー系NiTiの方が根尖部に debris を押し出しにくいのではないか。根尖部方向に debris を移動させるのは、ファイルに反時計回りの動きを与えた場合に認められるからである。根尖部の debris のマネジメントの面で、レシプロケーション系NiTiは不安定さがあると考えて良さそうだ。

ロータリー系NiTiの中でもプロテーパー・ネクストは、debris を歯冠側に吐き出すように排出してくる点で際立った存在だ(高価なだけのことはある)。TFファイルやTFアダプティブは使用したことがない。TFアダプティブが高い評価を得ていることは知っている。



私は現在、ウェーブワン・ゴールドを主体に拡大形成をしている。術後疼痛の発現については、生じたにしても鎮痛剤を一回服用したかしないの痛みがせいぜいで、フレアアップは今のところ経験していない。

フレアアップはどんなに注意していたとしても数パーセントの確率で生じるとされる【4】が、データの蓄積と器材の進歩とテクニックにより根尖部のマネジメント手法が確立されてきた現在では、より確率は下がっていることであろう。根尖部に触れる前にいかに上部を清掃しておくか。そして、根尖部からいかに debris を押し出さないように根管の形成を終えて化学的洗浄を達成できるかが肝要である。私個人に限っては、いま述べたことに加えて、ラウンドエンド処理がなされたダブルホールのイリゲーション・ニードルを用いた根管洗浄とヨシダのクイックエンドを用いた吸引洗浄を取り入れるようになってからフレアアップは縁遠いものになったことを実感している。

いずれにせよ、NiTiを用いた機械的拡大形成によって少なからず根尖から debris を押し出してしまうのであれば、可能な限り debris を押し出さない配慮が求められることになる。

Gambarinirらは、TFアダプティブを用いた報告から、NiTiファイルを用いる際に推奨されるテクニック「MIMERACI」を提案している【5】。もうひとつピンとこない頭字語であるが、その内容には着目すべきものがある。

簡単に述べると、根管にNiTiファイルを挿入して1mm根尖側に進んだら根管より取り出してファイルに付着する削片をよく除去し、根管洗浄を行うこと。

である。

根管壁と接触して生じる削片(要するにdebris)は、根管壁とファイルのフルート(刃部の存在するピッチのところ)に挟まれることで、ファイルのフルートに押し込まれるように付着することになる。この状態で拡大形成を続ければ、溢れこぼれた debris が根管内に落とし込むであろうし、フルートに付着した debris を清拭等で除去しなければ、debris の排出能力が低下するだけでなく、根管内への debris の落とし込みにつながる。論文中では、取り出したファイルをスポンジで除去するよう記載されている。デンタルショーなどでレシプロックやウェーブワンのデモで、根管模型より取り出したファイルに付着する削片をスポンジに抜き差しをして除去した覚えのある先生も多いだろう。スポンジを用いる方がアルコールで清拭するよりも除去能力が高いのかどうかは分からないが、いずれにせよ、ファイルに付着してくる削片の除去のステップを安易に考えない方が良さそうである。



【1】Sebastian Bürklein,Edgar Schäfer. Apically extruded debris with reciprocating single-file and full-sequence rotary instrumentation system
【2】Gustavo De-DeusEmail authorAline NevesEmmanuel João SilvaThais Accorsi MendonçaCaroline LourençoCamila CalixtoEdson Jorge Moreira Lima. Apically extruded dentin debris by reciprocating single-file and multi-file rotary system
【3】Gambarini G,Testarelli L,De Luca M,Milana V,Plotino G,Grande NM,Rubini AG,Al Sudani D,Sannino G. The influence of three different instrumentation techniques on the incidence of postoperative pain after endodontic treatment
【4】Siqueira JF Jr,Rôças IN,Favieri A,Machado AG,Gahyva SM,Oliveira JC,Abad EC. Incidence of postoperative pain after intracranial procedures based on an antimicrobial strategy
【5】Gambarini G,Di Nardo D,Miccoli G,Guerra F,Di Giorgio R,Di Giorgio G,Glassman G,Piasecki L, Testarelli L. The influence of a new clinical motion for endodontic instruments on the incidence of postoperative pain
 
posted by ぎゅんた at 08:41| Comment(2) | ニッケルチタンファイル | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年08月27日

グライドパス形成用NiTiファイルをどうするか


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「プログライダー」と「HyFlexEDM Glidepath File」は、グライドパス形成用NiTiファイルである。私は手用マニー10Kでネゴシエーションした後に、このふたつのどちらかのファイルを用いてグライドパスを形成してきたが、ふたつの不満を漫然と抱いていた。

1.コストが高くつく
2.破折が怖い

ことである。



コストはともかく、破折が怖いとはどういうことか?
手用10Kをマニピュレーションでネゴシエーションさせた程度では根管はまだ狭く細い。元々が太い根管であれば別だが、テーパーのついたグライドパス用NiTiファイルを用いると、抵抗が強いために一発で根尖まで達しないことがある。グライドパス用ファイルはなるべくスムースに、一発で根尖まで運びたいところだ。湾曲根管で根尖部付近でモタつくとレッジを作ってしまいそうで不安だからである。

そもそもNiTiファイルは、その最大の弱点である破折を防止するために、用いる際は拡大ではなく形成で用いるべきものである。キツキツな根管を削りまくって使用するのは、そりゃ最近のNiTiは破折防止を第一に謳うほど破折しにくい設計にはなってきているし、実際に、シングルユースで使う分にはまず破折はすまい。この場合のNiTiファイルは新品なのだから切れ味も抜群で、拡大+形成を破折しないまま同時に達成できる設計通りの働きをみせるだろう。しかし、破折しにくい材質になったのなら、滅菌して再び使用しようと考えるのは当然のことである。NiTiファイルは刃物だが、刃を研ぐことはできず、切れ味が鈍くなったら破棄するほかないが、それでも、数回の繰り返し使用はできるものだ(再根管治療用に「2軍落ち」させてもよい)。

また、NiTiファイルはグライドパスが形成された後に使用することが原則となっているので、グライドパス形成用NiTiファイルが適応された根管であれば、おおよその拡大がすでに確保された誘導路が用意されていることもあって、ファイルにかかる負荷が小さくて済む。セーフティメモディスクを用いて厳密な使用回数を遵守することは、破折防止により有効である。

グライドパス用NiTiファイルも同様であるはずだが、狭く細い根管に使用せざるを得ない立場上、破折防止を見越して早期破棄せざるをえない。



10KのネゴシエーションをSEC1-0で行うように切り替えてから
手でネゴシエーションを達成させていた頃に比べて余裕をもったPatencyが得られるようになった。従前、手用10Kでネゴシエーションしたあとに根尖より10Kを1mmほど出した状態でファイルを上下運動させてPatencyを確保していた。これと同様の操作を機械(SEC1-0)で行うようにしただけなのであるが、実に手早く楽に確実に達成してくれるようになった。場合によっては良好なグライドパスの目安である、「15Kが根尖までスーッと到達する」がほぼ達成される寸前までの状態になっている。ここまでくれば、グライドパス用NiTiファイルのサイズとテーパーにもよるが、一発で根尖まで到達させる理想的なグライドパス形成が容易になる。

プログライダーやHyFlexEDM_GlidepathFileの他に代替となるNiTiファイル候補は様々あるが、ひとまずGCのNEX 10/.04を用いている。これをROOT ZXと連動させて、メーター値0のところを超えて到達させ、クイックエンドで注水吸引洗浄し、センシアスフレクソファイル10Kでリカピチュレーションしてグライドパス形成を終える。そして15Kがスムースに根尖まで達するかをチェックする。



先端径(D0)とテーパー
プログライダーは16/02-08.5であり、HyFlexEDM_GlidepathFileは10/.05である。狭窄根管の場合、プログライダーの方がスムースに根尖に到達する感じがするが、これはテーパーの関係と思われる。プログライダーは可変テーパーで先端付近は細くしなやかである。GCのNEX10/.04は折衷案といえなくもない。

プログライダーのD0は16号であるから、根尖から通過させると、根尖孔を15号以上に拡大することになる。Patencyの号数はどうあるべきかについて定まった統一見解はないようだが、15号が根尖を通過する程度の侵襲は根管治療にさしたる影響を与えるものではないとPatencyやGlidepathに関する論文で述べられている。別に問題はないとしても根尖孔はなるべく触らないようにしようと考えることもできるわけであるから、D0が15号以上のグライドパス形成用ファイルを用いる場合は根尖から出さない方が良いだろう。根尖の拡大号数が大きなグライドパスである方がその後の拡大形成に用いられるNiTiファイルが根管の走行から逸脱しにくいメリットが得られるようだが、さりとて20号以上のPatencyはやりすぎの感がある。15号のグライドパス形成でさしたる不都合がないなら15号にとどめるべきであろう。根尖部を大きく拡大した場合、根尖部のdebrisの目詰まり防止や根尖部の洗浄効率の向上のメリットが得られるにせよ、形成用NiTiファイルを根尖から突き出してしまう不慮の事故が起こりやすくなる。こうなると根管の拡大修正が追加で必要となってくる。仮に25号以上のPatencyがあったとしても根管治療が失敗に終わるわけではないが、根尖付近のマネジメントがセンシティブさを増すだけなので、根尖部のバイオフィルムを感染象牙質の意図的拡大除去を必要とする場面を除いて、根尖孔を15号以上に大きくしない方が良いであろう。



拡大形成のステップへ
グライドパスが形成できれば、この後の拡大形成シークエンスはそう難しいものではない。やることは決まっており、やるだけの準備が整ったからである。慣れてくるとグライドパスの形成が終わったタイミングで気持ちが楽になり、緊張感から少し解放されて楽になることに気づくようになる。

拡大形成時に特に気を配るべきであろうことは、

根尖からNiTiファイルを押し出す誤操作を起こさないこと、
根尖部のdebrisを吸引を加味した根管洗浄積極的に排出根管より排出させること、
ファイルの交換の合間には10Kでリカピチュレーションをすること、
根管形成はヒポクロを満たすための器作りの側面があるが、そのヒポクロを十分に作用させる時間を確保すること、

ぐらいのものである。



※個人的な好みでリカピチュレーション用ファイルとして使用しているだけで特別な意味はない。センシアスフレクソファイルのヘッドのハンドルは大きめのシリコン製であり、SEC1-0に使用するころはできない。COOLな外見、シリコンハンドルのさわり心地の良さ、ファイルで煩雑になりがな作業スペース域で発見しやすい点がお気に入り。グライドパス確認用としての15Kを購入しようか思案中。


【参考文献】
Luciana Silva,Rodrigo Vance,Carlos Santos,Felipe Anacleto. Effect of apical expansion in decreasing micro organisms:a literature review.
I Cassim,P J van der Vyver. The importance of glide path preparation in endodontics:a consideration of instruments and literature.
Clifford J. Ruddle, Pierre Machtou,John D. West. Endodontic canal preparation:innovations in glide path management and shaping canals.
ラベル:HyFlex
posted by ぎゅんた at 22:07| Comment(4) | ニッケルチタンファイル | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年08月25日

(書籍紹介)内科医から伝えたい 歯科医院に知ってほしい糖尿病のこと



糖尿病とその予備軍の患者さんは想像以上に多いものです。日本は糖尿病列島だからです。

誤嚥性肺炎がトピックとなったことをきっかけに、口腔ケアの重要性が認知され始めつつある一方で、糖尿病もまた歯科との関連性が認知され始めつつあるようです。たいへんに喜ばしいことです。

歯科医が歯周病の治療をすることで糖尿病が治るわけではありませんが、糖尿病治療のパッシブ・サポートに寄与することは確実にできます。糖尿病の患者さんが来院されたとき、歯周病との関連性を説明される先生は、多いでしょう。ただし、糖尿病とはこういう病気であって云々と正確な説明ができる自信をお持ちの先生は(私を含めて)少ないはずです。糖尿病は、それこそ分厚い本が一冊出来上がるほど専門的で情報量の多い病気だからです。学生時代に基礎医学で糖尿病について習ってはいれど、歯科医師になってから糖尿病と向き合った仕事をしているわけではないので、どうしても知識に穴や不確かさがあることは否めません。分厚い専門書を紐解いても、内科医ではありませんし、歯科の現場に即した情報とも言えません。最新の知見が盛り込まれた、歯科医師のハンドブックとなるような手引書的専門書が求められるところです。本書は専門書というには薄すぎますが、歯科的見地に立った視点で糖尿病の解説がコンパクトになされています。糖尿病列島の歯科医師はどうあるべきか、考えることができるでしょう。

なお、著者である西田亙先生は松風歯科クラブ発刊の「口の中はふしぎがいっぱい エピソードU」にも登場されています(それで知りました)。


簡易血糖測定きっと.jpg
とりあえず診療室に簡易血糖測定器を用意しました。
隠れ糖尿病の人を発見できるかもしれないからです。問診や臨床初見から糖尿病の存在が疑われる人に説明して簡易測定をしています。測定結果がどうであれ、歯周病と全身状態との関係について関心を抱いてくれるきっかけになってくれています。一回の検査コストは約100円かかる(ディスポのセンサーがお高い)のはご愛嬌。

posted by ぎゅんた at 17:21| Comment(3) | 書籍など | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年08月10日

ウェーブワンゴールドGP


うぇーぶわんごーるどがったぱーちゃ.jpg
ケースのパッケージに漂うバタ臭いお洒落感はご愛嬌


まとめ
レシプロックGPから乗り換えました。1000円安くなるぞ!


根管の拡大・形成にNiTiファイルを用いるようになって数年が経った。ネゴシエーションして、根管口明示をして、グライドパスを確保して、根管の走行を逸脱せぬよう器を作り上げる。器は、理想的な根管洗浄と根管充填を実現するために必要だと理解している。最近では、根充に際してどれだけ根管内を「根管洗浄」のステップで清掃できるかどうかが、基本的な根管治療における要諦でないかと考えている。「ヒポクロが効かせられる根管」にできるかどうか、というところか。

ウェーブワンゴールドGPには スモール/プライマリ/ミディアム/ラージ のラインナップがあり、これが各ファイルのテーパーとサイズに一致させたものになっている。ひとまず私が購入したのはプライマリとラージの2種類である。これは、いままで用いていたレシプロックGPのR25とR40の代わりを兼ねるためである。プライマリのそれをガッタパーチャゲージで先端を調整すれば25-45までを(おおよそ)カバーすることができる。45号以上はラージのGP先端をガッタパーチャゲージで調整すれば間に合うだろうと考えている。レシプロックGPはウェーブワンゴールドやレシプロックで拡大形成後に満足のいくジャストフィットを示して以来、比肩するものが他にないため愛用し続けてきた。我慢がならなかったのはコストがバリ高であることだ。幾ら何でも60本で4800円は高すぎる。ウェーブワンゴールドGPはそれに比べれば60本3800円であるから、決して安くはないが歓迎できる値段だ。レシプロックのは60本4800円である。



レシプロックGPと比べてどうか?
使用感はまったく同様なので互換性が高い。造影性も似ている。弾性は、わずかにウェーブワンゴールドGPの方が柔らかめか。

違うところで述べることがあるとすれば、ポイント頭部のカラーコード処理である。レシプロックGPのそれはペンキみたいなカラーが塗抹された感じだが、ウェーブワンゴールドGPだとカラーが薄く染み込んだようになっている。レシプロックGPにしろ、テーパーのついたマスターポイントはGP用ピンセットで把持しにくいきらいがあると過去に述べた。これはウェーブワンゴールドGPでも同様なのであるが、気になるのは、レシプロックGPのカラーコードの部分の塗装が、ピンセットでの把持操作に伴う機械的接触で剥がれえることである。剥がれた破片が根管内に落ち込んでしまうリスクが常々、気になっていた。ウェーブワンゴールドGPではカラーがポイントに染み込んだかのようになっているから、この問題は生じない点で安堵できる。



【チンケな根充例】
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ウェーブワンゴールドラージで拡大後に、ウェーブワンゴールドGP(ラージ)で根充。シーラーにAHプラスを使用。アペックスの位置はROOT ZXの〔1.0〕の値点。

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抜髄即根充。アペックスの位置はROOT ZXの〔1.0〕の値点。 #31のシーラーが線状なのが気になる…SEC1-0で穿通して組織間に隙間が生じた?GPのオーバーはないにせよ、あまりよろしくあるまい。



そんなわけで根充に使用するテーパードGPはウェーブワンゴールドGPに変更を決定。
あともう一声、安くなってくれれば言うことなしなのだが天下のデンツプライ様なんで値下げは期待できないだろう。ぐぬぬ。ディーラーに泣いてもらえば値下げ可

posted by ぎゅんた at 18:36| Comment(24) | 歯科材料・機器(紹介・レビュー) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年08月01日

(所感)コミック版 はじめの一歩を踏み出そう 成功する人たちの起業術



欲しいと思った本はすぐに買おう
世界中を席巻した、起業に関するベストセラーである「はじめの一歩を踏み出そう」のコミカライズ版。この本のタイトルを目にすると、私は悔恨の念に駆られる。

それというのも、私が大学院生だったとき、中古の本屋でこの本の原著である「はじめの一歩を踏み出そう」が100円で売られていたのだが、「来週に来た時に売れ残っているだろうから、そのときに買おう」と棚に戻したことがあった。こんないい本が破格のプライスタグであって売れないわけがない。案の定、翌週には売れてなくなっていたのだった。本を買うとき、私はいつもこの出来事を思い出す。それは「良い本だと思ったら買わなくてはならないのに、買わなかった」ことを後悔しているのではない。「破格のプライスで売られていたのに、それを見逃した」ことを悔いているのである。正確に分析すれば、私は「なるべく安く買いたい/損をしたくない」気持ちがやたらに強いことが分かるのである。女々しい吝嗇家といったところだ。ただし、必要だと思った本は、予算に余裕があれば即座に購入する人間には育った。本というのは、買おうと思ったら買わなくてはならない。そして、縁があるものだ。

さてこのコミック版はじめの一歩を踏み出そうは、世界の佐久間利喜先生がご紹介なさっていて存在を知ったもの。この本とはやはり縁があるのだと脊髄反射で注文した次第である。



読んで思ったことをタラタラ
開業歯科医というのは、院長だぞと威張ったところで所詮は中小企業の社長のようなものであり、基本的にブルーワーカーである。歯科医師は職人気質が強く、経営の勉強など習っていない。勤務先/修業先/バイト先の運営スタイルを真似するのがせいぜいだ。そして、個人開業医院というのは、結局は院長が存在しないと立ち行かないところがある。これは、あたりまえのようでいて重要なところだ。いつまでも第一線で働き続けられる喜びが保証されている一方、隠居することが難しいのである。そして、患者の数は先細りになる。患者も、老医よりは若手中堅を求めるからである。畢竟、後継者がいない医院はひっそりと閉院することになるのが普通である。第三者への医院の売却は、あまり聞かない。居抜き開業は、多いようでまだ少ない。嫁と畳と新車みたいなもので、新規開業のスタンスを選ぶ歯科医師が多いためか。やるなら、自分のカラーを前面に打ち出した医院にしたいのである。

開業歯科医は起業家でもあるが、起業した末に自院を第三者に売却することを念頭に置く歯科医師は少数派であろう。「自分が現場で働かなくても医院が回る」ことを実現する歯科医師もいるが、これはより少数である。できなくはないが、歯科医師という職業を考慮すると難しい話に違いない。実現できたとしても、完全引退する先生ももまた、少数であろう。もう働きたくねーなんて言いながら、本音のところでは歯科治療という仕事が好きな先生が多いからである。そうでないとしても、政治家になったり別の分野での起業をはじめるものである。仕事をしなくなることはないのである。

この本に書かれているのは、「正しい起業」術である。仕事するのが好きなのだと熱意と情熱があふれんばかりの逸材であっても、起業したとなれば経営からは逃れられない。スタッフを雇うにしても、自分ほど仕事に熱意を持っているわけではない。ただ目の前の仕事に没頭していればうまくいく現場ではない。資金繰りも予想以上に大変だ。理想と現実との間の大きなギャップが目の前に立ちはだかる。自分さえ頑張れば、現状を打破できると信じて懸命に仕事をし続けるも一向に改善の兆しはない。そのうち、仕事のことを考えると精神と肉体が硬直して事業を継続できなくなる……。

起業するからには、事業を継続させられるシステムを作らなくてはならない。それがないと、仕事の遂行上のアナログエラーが出やすくなる。ひいては、仕事に従事する人間のストレスになる。

フランチャイズのなにが優れているかを考えるのは良い課題だ。従業員にとって、いかに考え尽くされた優れたパッケージングであるかが分かるはずだ。自分の医院をフランチャイズ展開することまで考える先生は少ないだろうが、従業員がとにかく働きやすい仕組みを設けることは導入すべきだ。

同僚の些細な行動が生理的に我慢がならず仕事自体が嫌になることがあるように、人間というのは極めてアナログで感情に左右される生き物だ。パフォーマンスも当然、大きな影響を受ける。業務内容をマニュアル化したりシステム的に整理していくことは、言葉尻を捉えると衆人管理的でつまらない印象を覚えるものだが、なんらかの目的を持たせるために作成されたマニュアル化には従業員に心地よさと成長性を与える。少なくとも、確固としたマニュアルがなく、「各自のやり方にお任せ(しかし、責任はとってもらう)」な、自己判断に困る場面に頻繁に遭遇するストレスから従業員を解放させられる。なにかあった場合は、マニュアルに基づいた問題点の抽出もできる。業務内容を常に一定的に安定させることが第一である。

この本は歯科医師が読んでも参考になるところが多いだろう。歯科開業医もまた起業家だからである。開業していなくとも、経営上でなにが重要であるかを常に意識して診療に従事することは勉強として有意義だ。どんなに準備していたとしても、いざ開業してからは「経営」に悩まされることは必定であるにせよ、できる限りの予習と備えをしておくべきであることはいうまでもない。

偉そうなことを述べている私はいま現在、「経営」に四苦八苦していたりする。実家の医院に帰って跡を継ぐだけだからとあまりに思慮浅薄で準備不足だったことが露呈した。今更ながら恨めしい。若い先生の反面教師になることを願うばかりだ。準備はしすぎてもしすぎることはない。



It is very important that
表紙の萌え絵風味の漫画を期待すると裏切られる。
本編はちょっと古いタッチの少女漫画風味である。表紙詐欺。

 
posted by ぎゅんた at 08:50| Comment(2) | 書籍など | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする