2017年07月22日

サニチップ〜3wayシリンジのチップを透明なディスポのものに


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勤務医時代の医院のユニットの3wayシリンジには透明なディスポチップが使用されていた。どことなく長さが不揃いなプラチューブであったから、「ハハー、さては院長の自作か?」と推察したものである。怖かったので聞けずじまいだったが、ある時、勇を鼓して「透明なディスポチップ」の正体について尋ねてみた。名前は忘れたが、普通にディーラーから購入しているとの返答であった。そして、3wayシリンジは意外に汚染されたままになりがちな、感染対策上の盲点であるから、ディスポのやつでいいので患者ごとに必ず交換するシステムしておくべきだと教わったものである。けだし慧眼である。そして、このチップこそがモリタ扱いのサニチップである。

時が経って私も実家の歯科医院に帰り父親と二人三脚で診療を始めたわけだが、これを真似して3wayシリンジのチップをサニチップに変えたものであった。このチップを使用するには、専用のアダプターが必要になるが、この交換は簡単だ。最近ではFEEDで扱っているので購入すら容易。例えば、当院で使用しているスペースラインイムシアなら、モリタ(WS12)のアダプターを購入すれば良いのである。アダプターを購入した時点でサニチップが数本、オマケ(?)で付属してくるのですぐに実践導入できる。チップの交換も容易。アダプター先端はナットになっているから、回して緩め、サニチップを挿入して締めて固定して用いることになる。


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チップはサニチップだけにあらず
アダプターを購入できるFEEDで格安のディスポチップ(FEEDスリーウェイシリンジチップ)を取り扱っている。サニチップに比べて長く、安価である(約6円/本)。気兼ねなく使用できる素晴らしさに満ちている。外来環を算定している医院なら許容できるコストだ。

しかし不満点もある。
それは、完全透明でないことだ。

3wayシリンジは、ユニットにも拠るだろうが、エアーの中に水滴が混じることがある。セット前の補綴物の内面にエアーを吹きかけた時に水滴で湿らせてしまった経験は、誰しもあるだろう。これは恐ろしいことである。例えば、水分の忌避を求められるレジン接着操作時に水が吹きかけられる危険性があるからである。水と油(レジン)は犬猿の仲であるからエア乾燥の操作が重要であるのに、水が混じってしまっては元も子もない。思いもがけないレジン接着の失敗の原因は、こんなところにあるのではないか。水分を確実に除外したエアーブローのために、我々はエアダスター缶を用意するべきかもしれない。

仮にシリンジチップが透明であれば、混入した水分はエアに押されてチップ内部を移動してくるのが目視できる。重要なエアーブロー操作の前に、チップ内への水分の混入がないことを確認することができる。デフォルトの金属チップやFEEDスリーウェイシリンジチップでは、これは確認できない。しばらくエアを出しっぱなしにして予防するのがせいぜいであろう。

そんなわけで当院では、レジン接着操作(CR、直接法コア、接着性レジンセメントなど)時にはサニチップ、それ以外の場面ではFEEDスリーウェイシリンジチップを用いている。サニチップがもう少し安くなってくれるか、FEEDスリーウェイシリンジが完全透明になってくれることを祈るばかりだ。
 

2017年07月13日

Q.歯科医師という職業ってどう?


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A.儲かりません!

半分冗談で、まずこう答えておかなくてはならないのが礼儀です。

過去に散々バブリーな様を世間に見せつけた職業でありますから、いまだに「歯科医=金持ち・成金」という図式と偏見が、ことに地方社会で根強かったりします。「儲かるか儲からないか」で言えば、儲からない職業です。院長だぞエヘンと威張ったところで、せいぜい中小企業の社長さんですし、年収もそれ以下でしょう。自費診療メインであればともかく、保険診療を主体とする歯科医業の収入は、平均ちょっと上あたりのサラリーマンクラスです。開業医は、給料とボーナスを支給する側で、年金は国民年金オンリー(老後の設計が不可欠)の「ガチ自営業」です。歯科医師会に所属しても金銭的・社会的に生活が保証されるわけでも保護されることもありません。「勤め人」と違って仕事形態に自由が大きいことは魅力的ですが、医院経営の責任が常に肩にズシリとのしかかります。勤務医の方が楽だったと愚痴をこぼす先生や、従業員に給料を支払うためだけに(雇用のために)歯科医院を開いている先生も少なくありません。

ゴタゴタと言い訳がましい否定をするってことは、実は儲かる職業だな?と早合点するオメデタイ人はともかく、世間様が羨むほどお金を稼げる職業ではないことは旗幟を鮮明にしなくてはなりません。嘘をついてはいけないからです。そもそも、歯医者の経済的実体がマスコミなんぞに面白おかしく報じられたものですから、異業種、ことに経済界の面々からは「歯医者さん、いま大変なんですね」と同情される始末であります。歯医者になったもん勝ちの時代は遠い過去のことでありまして、進路指導の先生だけでなく、保護者の皆さんも、生徒やご子息に歯医者さんになるよう勧めることはないと聞きます。しかし、これでいいと思います。「話が違うやないか」と言われても困りますし、歯医者は、歯科医師免許を取った後の自由が乏しい(要するに「潰しが利かない」)からです。

「歯医者は、やり方次第でいまでも稼げる仕事」と口にするのは鼻息の荒いコンサルか業界通を装う輩ぐらいのもので、大多数の歯科医師はさして興味がありません。やり方次第で稼げるのは歯科医業に限りませんし、「悪い奴もいるけどいい奴もいる理論」と同じで、だから何ってなもんです。身体を犠牲に、身を粉にして忙しく診療に励めば、実入りは大きくなりますが、ストレスとして跳ね返ってきますし納税額も大きくなります。

稼ぐというのは、月の手取りが最低でも1000万を割らないような、およそ世間離れした話になるわけで、その世界を謳歌している歯科医師はほとんどいないはずです。今の時代、稼ごうと思ったら金融か悪徳政治家か芸能界でひと旗あげるか裏稼業に身を投じることになるでしょう。稼ごうと思って歯医者になった人はいないのであります。平均以上に裕福であれば嬉しいな、ぐらいの気持ちです。悲劇的なことは、この望みすら最近では実現が難しくなってきていることです。

歯科医師に限った話ではありませんが、社会的地位の高さと金銭収入はリンクしなくなりました。高い社会的地位を維持するには弛まぬ自己研鑽が不可欠であって、高い金銭収入はその約束であったわけです。これがないと、自己研鑽への資金を生活費から捻出することになっていきます。自己研鑽より己の生活を優先するのは当然のことです。貧しいとは学べないことですから、金銭収入が約束されない職業は、社会的地位も意義も凋落していくことになります。少なくとも私は自費診療の報酬から自己研鑽の費用を得ています。



歯科医師になっていいことあるのか?
数字は残酷なので、金銭面でみると歯科医師は決して魅力的な職業ではありません。むしろマゾヒズムに満ちています。それでいて一方的に責任や社会通念を押し付けられるところがありますから、窮屈さを感じることすらあります。歯科医師を目指すことは容易ですが、学費と国家試験の突破、その後の下済み時代の生活のことなどを考えると高いハードルがあることも自明です。

歯科医師の魅力は、その専門性を活かした社会貢献にこそ全てがあると思います。「たかが歯。されど歯」は、私の師匠の言葉ですが、本当に、歯の一本が痛いだけでも人は気分が沈みこんでしまう。生活に暗い陰がおちるのです。歯を病むと、独特の緊張感(生存活動を維持していく上での危機感)に見舞われます。自然界に生きる動物たちにとって歯の喪失は死を意味するように、歯を失うことへの根源的な恐怖心が人間にも残っているからでしょう。

学生時代、医療倫理学で「患者とは、心に串が刺さった人のことである」と教えられたことを覚えています。「歯」に悩む患者の心理状態を理解し、推察し、配慮し、救いの手を差し出せるのは歯科医師だけです。人間を治せるのは人間だけであり、医療というのは感情の塊である人間同士のぶつかり合いの中で癒しを見つけ出す技術です。 歯科医業は、老若男女とわず全ての人の口腔内の健康に寄与できる機会を与えられた医療職といえます。

仕事のメインは保険診療になります。自費診療も加わりますが、自費をメインに据えた先生は少数派です。診療室から飛び出して、検診業務や啓蒙活動を行う機会も少なくありません。また、訪問診療のニーズに答え、来院の難しい患者さんに寄り添うこともできます。歯科医師の社会的地位の高さから、なんらかの形で地域行政の仕事を依頼されることもあります(NPOの理事や民生委員や町会議員・市会議員など)。

少なくとも私は歯科医師という職業に就けてよかったと思っています。やりがいを覚えます。

歯科医療に関する知識やテクニックは一生かかってもマスターしきれないほどありますし、患者さんとのコミュニケーションは患者さん数と出会いだけあります。歯科医師としての練度を高めようと思ったとき、深淵のような奥深さを覚えますし、なにより歯科の仕事が好きだからです。

無論、私も感情的な人間なので、相性が悪いと感じて接触を避けたい種の患者さんも抱えてはいますし、食指の動かない内容の仕事もあります。けれども、起床して「よっしゃ仕事いくぞ!」と抵抗なく考えている自分がいることは幸福なことだと思います。

金銭的にゆとりのある生活とは無縁ですし、嫁に稼ぎの悪さで甲斐性なしと罵られることもある点では苦痛を覚えますが、食べていけないほどの貧窮はありません。なにより開業医というのは、結局のところ地域住民に貢献し、健康に寄与し、信頼と支持を得られることに尊さがありますから、言ってみれば名誉職のようなところがあります。あの人は名医だとか地元の名士だと言われることほど開業医として嬉しいことはないものですし、絶対の評価もないものです。これは、歯科医師国家資格と同様、お金で得られるものではありません。どうです、魅力的な仕事に思えませんか?



※ 「手に職」と言えば医療職で、その信仰はいまも根強いですが、今後も手堅いままであろうと考えられるのは看護師だと思われます。ペーペーの歯科医師よりも衛生士の方が待遇がいいのと同様に、看護師さんの地位が相対的に高まっていく一方になるのではと思います。お医者さんは病魔を克服して患者を救う一方で、高騰する医療費などの社会的制約を理由に患者の延命を制限しなくてはならない場面が出てくる非常に厳しく辛い立場に置かれる場面が出てくることになるのではないかと思います。しかし、歯医者ほど冷遇されることはないでしょうから、医学部人気は今後もずっと続くことでしょう。
posted by ぎゅんた at 15:16| Comment(0) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年07月02日

下顎前歯の二根管症例(Weine3型)

下顎前歯の根管治療に遭遇する頻度はさほど高くはない。
全ての歯科医師が周知しているように、下顎前歯部は唾液腺の開口部領域にあることからう蝕になりにくく、寿命が長い歯だからである。

と思いきや、昨今の高齢化社会では老人の根面う蝕の発生に伴って、下顎前歯もその猛威に晒され、歯髄炎や歯髄死に継発する感染根管、また歯冠破折による露髄残根に陥っている場面に遭遇することがある。統計がとられているかは知らないが、増えているのではないか。虫歯の治療の経験がなく歯に自信をもつ高齢者の歯が根面う蝕に刈り取られている姿が眼に浮かぶ。

う蝕になりにくい下顎前歯部根面う蝕をきたすのは、咀嚼能力が落ちてくることで食べやすい加工食品(ことに菓子パン)を食べるようになることのプラーク付着や、唾液分泌量低下の影響があるものと思われる。不思議と菓子パンを好む高齢者は多い。彼らにとって甘いものは「蜜」であり、贅沢品であり、耽溺したい対象になっているのか。油と糖質の塊は、確かにパンチの効いた美味を提供してくれるものであることは分かるのだが。こうしたものは嗜好品の範疇なので常食すべきではあるまい。


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そんなかんだで、下顎前歯部の根管治療の依頼を受けたケース。術前写真で2根管性であることは明らか。

下顎前歯がいかなる場合であれ単根管であると考えるのは軽率で、実のところ、低い確率ながら複根管であることを忘れてはならない。下顎前歯の歯の解剖に関しては、その昔に先人たちが報告した通りである。下顎前歯では、歯根が唇舌的に広く近遠心的に狭いが、約半分の根で2根管性である。その場合の大半は根尖1/3で融合して根尖部で単根管となる(Weine分類1 でいう2型)。根尖部で合流しない、純粋な2根管性(Weine分類でいう3型)は1.3%程度の出現率とされている2.3

上顎大臼歯の根管治療でMB2の存在を常に意識するように、下顎前歯の根管治療に際して我々は、複根管の存在を意識しなくてはならない。根尖部で合流するタイプのものが多いとはいえ、根管の見落としは除去すべき有機質を見逃すことに他ならないからである。2根管性の場合、舌側が発見しづらいことが多いため、アクセス窩洞のアウトラインを唇舌方向に大きくとらざるを得ない。不必要な歯質削除は常に慎まなくてはならないが、発見すべき根管を見落とす可能性が高いのであれば、拡大的切削は許容されるだろう。どのみち複根管が発見された場合、円滑な根管治療のために更に窩洞が削除されることになる。レアなケースと思われるが、Tzvetelina G. Gueorgieva4 ら は3根管の下顎側切歯の症例を報告している。しかしこれすらも、アクセス窩洞を大きく確保することで解決されるものである。

術前写真でお分かりのように、根面う蝕を除去していけば残根に近い状態となり、結果として根管口はモロ見えとなるわけであるから根管は簡単に発見できた。スタート地点が恵まれていただけで、もしインタクトなケースであったら労を要することだろう。

10Kでネゴシエーションし、プログライダーでグライドパス形成を行ってからNEX20/.04⇨ウェーブワンゴールド:プライマリで拡大形成を行なった。根管洗浄は17%EDTAとヒポクロをクイックエンドを用いて頻繁に行なっている。クイックエンドと滅菌ペーパーポイントで根管の乾燥を得てレシプロックガッタパーチャR25をAHプラスを用いてCWCTで根管充填を終えた。

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下顎前歯部の根管治療をする際は、術前のレントゲン写真を正放線に加えて偏心投影でも撮影するべきだろう。髄腔開拡に際しては、見落としを防ぐために唇舌方向に大きくとることも必要となる。マイクロを所有されている先生であれば、複根管を目で確認できる面でいよいよ有利である(羨望)



1.Franklin S. Weine. Endodontic Therapy, 5e 5th Edition,1996:243-244
2.Vertucci FJ. Root canal anatomy of the human permanent teeth. Oral Surgery 1984;58:589-599
3.Benjamin KA, Dowson J. Incidence of two root canals in human mandibular incisor teeth.
Oral Surgery 197438:122-126
4.Tzvetelina G. Gueorgieva , Rahaf A. Mohamed ENDODONTIC TREATMENT OF LOWER LATERAL INCISOR WITH THREE ROOT CANALS – CASE REPORT. Journal of IMAB - Annual Proceeding (Scientific Papers) 2013, vol. 19, book 2
posted by ぎゅんた at 22:55| Comment(3) | TrackBack(0) | 根治(実践的) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする