答え信頼に足る「あけっぷり」披露してくれます
買ってよかったSEC1-0。今となっては注水機能があるKAVO製の方を買えばよかったと思わないでもない。しかし、それは予算が許さなかった。購入したのは、等速コントラVM-YとEC-30で、ナカニシ(NSK)製である。
ここのところ色々と使ってみて「この場面で使えるなあ」と分かってきたところがある。
私見混じりではあるが記事にしてみようと思う。
根管を「あける」とは根管本来の走行から逸脱せず、手用ファイルを根尖まで到達させることと理解している。エンジンリーマーや、ウォッチワインディングで人工根管をこしらえてしまう行為は「開ける」とは言わない。根管もどきをこしらえた穿孔に過ぎないからである。一見してEMRでアピカルロケート反応を示すようになるのでネゴシエーションができたと勘違いしやすいだけだ。こうした根管は、根充の確認デンタルで、やたらストレートで不自然に根充材が充填されているので、すぐにそれと分かる。根尖を触っているにしても、無菌的なところを穿っているだけなので、本来の病変が治癒に向かうことはない。その後の再根管治療も絶望的になる。
そんなわけで、「開ける」のは、
@抜髄や歯髄死などのイニシャルトリートメントにおける、ネゴシエーション
A手用ファイルで根尖までファイルを到達させられない「閉鎖疑惑」のある根管のネゴシエーション
の場面を言う。
@は手用ファイルでも達成するのが一般的だが、その際のファイルの動かし方は、回すのではなく上下に細かく動かして(ファイルを抜き差しするような動かし方)根尖までファイルを送るものである。ネゴシエーション後にファイル先端を根尖に出した状態で、更に上下に30回以上小刻みに動かして根管の交通を確実にする操作があるから、手早く楽に終えられる意味でSEC1-0を用いた方が楽なのである。
Aは想像しただけでファイルを把持する指先が痛くなってきそうなシンドイ仕事で、エンド中の歯科医師の気力をゴリゴリと削ぐ大敵でもある。しかしこれをSEC1-0で達成できるとすればどうだろう?SEC1-0は手用ファイルに上下0.4mmの往復運動を与えるものであって、基本的に本来の根管から逸脱して「あける」ことが予防される。疲労軽軽減と併せて、ありがたいことが分かるだろう。
このふたつの「開ける操作」を、SEC1-0を用いることで高確率で達成できることを私はお伝えしたい。
解説@:マニー08Kファイルがファーストチョイス。根管内は湿潤した状態で、ファイルにRC-Prepのような潤滑剤をつけて操作することが望まれる。乾燥した状態だと、根管壁から余計な削片が生じて根尖に押し出してしまい、術後疼痛につながるからである。
抜髄時を例に具体的な使い方を述べると、根管口を発見したら、即座にマニー08KをSEC1-0に装着してネゴシエーションを狙う。パワーは小→大と適宜変化させながら用いる。最初からフルパワーだと患者さんがびっくりするので、根管口よりファイルを挿入して小さなパワーで動作させ、ファイルが食い込むような感じで「根管を捉えた」ら、徐々に強くしていくと良い。次第にファイルが根尖方向に沈んでいくようにして穿通を達成できるはずだ。
EMRと連動させたいなら、エンドミニ(FEEDで購入可)を用いると良い。感覚が鋭敏な先生であれば、EMRと連動させなくてもネゴシエーションできた「瞬間」が感触で分かる。私は感覚がどうにもdullなのでエンドミニとの併用がほとんどである。
ネゴシエーションして、ファイル先端を根尖より突き出した状態で、しばらく動作させ続けて根管の交通を確実にする。この後は、手用10Kで穿通させるもよし、SEC1-0に10Kを装着して同様の操作をするもよしである。
最近のNitiファイルを用いた根管形成のプロトコルでは、10Kでネゴシエーションできたら即座にグライドパス形成用NiTiでグライドパス形成を行うことになっているので、それに倣うのも良い。個人的には10Kでネゴシエーションした後にグライドパス形成用NiTiファイルでグライドパス形成に移るのは、根管とファイルとの干渉がまだ大きすぎると考えているため、手用15Kを根尖まで到達させた後に行うようにしている。10Kでネゴシエーションした後に、ゲイツドリルや35/.08用いて根管口を明示し、15Kを少しでも抵抗なく根尖到達できるよう整理するのである。時間はかかってしまうが、グライドパス形成用NiTiファイルの破折を予防したいことと、ロータリー運動をするグライドパス形成用NiTiファイルをレッジ防止の観点から、とにかくスムースに根尖に達して欲しいと願うからである。グライドパス形成用NiTiファイルがスムースに根尖まで達することができれば、その後の拡大形成はほとんど成功を約束されたものになる。
A:閉鎖根管とは、ファイル本来の根管に到達させられない場合や、石灰化物等で根管が閉塞してファイルを根尖に到達させられない場合をいう。
前者の場合は、基本的に根尖までファイルを到達させられないと根尖へ通じる通路内の感染源を取り残してしまうことを意味する。事実、予後を悪くする。どうしても根尖までファイルを到達させられず、根尖病変の活動を削ぐことができないなら、それは根管内からのアプローチの限界を意味するから、外科的に根尖を除去するステージに移行することになる。
後者の場合、EMRが3.0以下に触れていかないことから、ある程度の信頼性の元に診断が可能である。また、こうした閉鎖根管はたとえ開かなくても予後は悪くなかったりする(触れられる範囲の感染源を徹底除去すれば良い)。閉塞根管であったとしても、一方的なマイナスを意味しない点では安堵の余地がある。断定することはできないが、閉鎖根管を無理に開ける必要性はないのかもしれない。それでも、開けられるなら開けたいと思うのがエンドに挑戦する歯科医師の心理であろう。実際、開けられるなら、開けた方が根管の無菌性獲得の可能性の面で良いはずである。開けられる可能性があるなら、開けることに挑戦して良さそうだ。ただ、これを自分の手指で達成しようとすると手間である。シンドイ思いをして時間を要して、ようやく開いたと思ったら人工根管であったとしたら泣くに泣けない。
SEC1-0は、繰り返して述べるが、基本的に上下0.4mmの運動を手用ファイルに与えるものである。閉鎖根管を開けるために手用ファイルを根管内で回転させても、ファイルはジップ形成するのが関の山である。開けるためには、ファイルに与える運動を上下運動だけに絞り、本来の根管に落とし込まなくてはならない。落とし込んだあとなら、ファイル根尖方向に移動させる意味でファイルを回すリーミングは許容されるが、ウォッチワインディングやバランスドフォースの方が無難である。このために、我々はファイル先端にプレカーブを付与することがあるのである。これは想像するだけで気が滅入るシンドイ仕事なのであるが、SEC1-0を用いることで楽に実現できる。
本来の根管を捉えた、純然の閉鎖根管であればストレートの08Kで攻めると開けられること多い。SEC1-0でKファイルを上下運動させているうちにファイルが少しずつ根尖側に移動して行き、穿通する感じだ。穿通したら、抜髄の時と同様、穿通させた状態でしばらく動作させ続けて根管の交通を確実にすると良い。その後はさしたる労力もなく10Kで穿通させられるはずである。
本来の根管を捉えているか分からない場合は、プレカーブを付与した08Kか10Kで穿通を狙う。
SEC1-0は、ハイパワー時にファイルが上下運動振動によってトルクのない自然な回転をする。これは、手用ファイルになんら規制する力が加わっていない場合に見られる現象で、回転はラバーストッパーをみれば確認できる。プレカーブを付与したファイルを用いるのは、この自然な回転と上下運動の組み合わせで本来の根管にファイルを落とし込ませて一気に根尖まで穿通させるためである。己の手指でこの作業をしようものなら術者が発狂しかねないが、SEC1-0があれば極めて早く正確にこれを達成しようとしてくれるのである。なお、エンドミニを装着しているとファイルに把持力が加わるためか、この自然な回転が見られなくなることが多い(なので、エンドミニを外した状態で行うほうが確実だ)。
08Kや10Kを用いても開かなかったら、多少の根尖部の破壊を犠牲に、僅かにプレカーブを付与した15Hで穿通を狙ってもよい。うまくいくことがあるからである。しかし、これで開けると根尖部の破壊を伴うために根尖部からの出血を覚悟しなくてはならない。術後疼痛も大きく出やすいようだ。そこまでして開けて良い予後に繋げられるものかどうか、一考の余地が残される。
これらの一連の操作で開かなかったら、「もうこれは開けることはできない閉鎖根管である」と診断すればよい。触れる範囲までを徹底的に清掃すればよいのである。
エンドにおいては、「開かない根管を開けられるようになりたい!」と誰しもが強く願うものではなかろうか。歯医者になりたてぺーぺーの頃の私は、その念に強くとらわれていたことを思い出す。エンドは好きだけど苦手で、藁をもすがる思いで、東海林芳朗先生のエンドセミナーに参加を決意したことも昨日のように思い出す。それから更に数年を経ていま私はSEC1-0を手にするようになった。ほんとうに、感慨深いものがある。