2017年05月27日

SEC1-0でネゴシエーションした症例

感根即充AHプラス+35.06.jpg


「フィステル(サイナストラクト)があるから根治してくれ」との依頼をされた#34。高齢者。基礎疾患に糖尿病があるが血糖コントロールは良好。

根尖に病変を疑わせる透過像が認められる。EPTは陰性。歯髄死をきたした感染根管であろう。

ひとまずFEEDのDAダイヤモンドバーを出してチャンバーオープンを狙う。失活しているので痛みを訴えない。C繊維が生きていれば露髄した瞬間に痛みを感じることがあるが、それはなかった。#08Kを根管内に挿入したところ、失活歯髄の感触があった。これまた痛みを訴えない。

このタイミングでSEC1-0に#08Kを装着し、RC-Prepを付け、エンドミニを用いてEMRと連動させてネゴシエーションを狙った。果たしてガガガと上下運動するKファイルは根尖を目指して沈むように根管内に入っていき、予想していたよりもあっさりとネゴシエーションを達成した。

手用ファイル#10Kを根管内を挿入すると、スムースに根尖までの交通が確保されていることがわかった。ネゴシエーションのステップが理想的な形で手早く終えられたのである。グライドパス形成用NiTiファイル⇨NEXの20/.04⇨ウェーブワンゴールド:プライマリ(25/.07)⇨Mtwoファイル35/.04の流れで根管の拡大形成を終え、ガッタゲージで先端を35号に調整したレシプロックR25用GPとAHプラスにて根充。ダウンパックを加えて仮封。

根管治療は、治療回数が多ければいいものでもない。短期決戦を心がけると良好な予後につながる側面がある。今回の患歯は、根管内の汚染もさしたるものでもないし、根管内を手早く十分に綺麗にできた手応えがあったため感根即充を行なっている。
 
ラベル:SEC1-0
posted by ぎゅんた at 17:18| Comment(16) | TrackBack(0) | 根治(実践的) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

Smile(洋書:ペーパーバック)



まとめ
10代の女の子が前歯に振り回されながら成長するドラマ。米国の歯科が(子どもの視点から)描写されている点で珍しい内容では。


英語が苦手な日本人のために「英語市場」には様々なアイテムがあふれている。昔からも、これからも。それでもなお、英語が使えるようにならない日本人は、よほど英語と相性が悪いか真剣に勉強に取り組まないか、バカなのか。不思議なのは、英語自体への興味はだれしも強く有していることである。英語圏へのコンプレックスなのか憧憬なのか、学生時代に英語に苦労させられたことへの復讐心-征服欲があるのか。敵性外国語に触れるなどけしからん!と声をあげる人は時代錯誤である。小学校から英語教育が始まるのは英語偏重が過ぎるし意味がなかろうと思うので私は反対なのだが、いずれにせよ、日本人のなかで英語が堪能な人は少ないままである。できる人が羨ましい。うむ。

英語ができない私が何を論じても羊羹のビッカース硬さ試験みたいなものだが、英語ができなくても全く支障なく人生を歩んでいける恵まれた環境にあることが日本人の英語音痴の主原因であるように思う。英語はコミュニケーションのひとつの道具にすぎず、道具とは、使わねば腕が錆び付くし、使う機会がなければいつまでたっても使いこなせないままだからである。


私が昔から好きな英語初心者向けの読本に「ビッグ・ファット・キャット」シリーズがある。ヒタヒタと売れ続けるベストセラーであるから、どこの図書館の英語の一角にもあるのではないだろうか。

英語達人列伝」にもあったが、英語上達の秘訣は多読にこそあるとする考えは重要である。ただし、これを真似をしようにも、まずは英語が読めなくてはならない。そこにあって、多くの人にとって「英語を読む」といえば、学校教育が脳裏をかすめるだろう。中学高校のリーダーの時間や試験の長文問題が、頭に浮かぶ・萎える・やめるの三段活用が発動することになる(ならない人は英語ができる人だ)。

「ビッグ・ファット・キャット」シリーズは、とにかく英語の文章を楽しんで読んでいく(その結果として、英語に慣れていく)ことだけに特化させた作りになっており、読むと物語に引き込まれる面白さがある。学校教育の無味乾燥に近い英文とは一線を画し、「とにかくまず英語を読んでみる経験」を積む上で極めて良質的である。そして、英語に慣れ始めたら、是非とも児童書を手にしてほしいとの指南がある。英語圏の児童書は極めてクオリティが高く、大人が読んでも面白く、難易度調整が容易だからだという。特にペーパーバックが入手と価格の面でオススメされる。

ペーパーバックに代表される洋書は、不思議な質量感と魅力に満ちている。読めなくても、手元にあると特別な嬉しさを感じる質量がある。本と英語が好きな人であれば、この感情が理解できるだろう。本棚に置くと雰囲気が締まるのである。


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エンドドンティストも登場するぞ!

そのなかで紹介されていた「低難易度の児童書」が、この『Smile』である。

漫画だこれ!という驚きと、これなら読めそうだわいという安堵感、歯科が登場することへの興味が入り混じるステキ具青。米国の歯科事情が、その医療費の面はなんら語れてはいないものの、子ども視点で描かれるのは珍しいものかもしれない。

教科書な英語からちょっと離れた会話中心のテキストであり、文章量と英文解釈の難易度はそこまで高くない。直訳して意味を取っていくというより、英語の会話のリズムやテンポを楽しむ感じで読んでいくと良さそうだ。ああ、こういう会話をするのね、みたいな。

表面的ではあるが歯科の内容がふんだんに含まれているので、医院の待合室に置くとサマになりそうである。矯正専門の歯科医院とかは独自の瀟洒な雰囲気があるものだから、とくにマッチしそうだ。患者さんに「先生、ここのコレどういう意味?」と訊かれるリスクは織り込み済みでなくてはならないが、なんとなるだろう。それぐらいの難易度の本。普段から論文を読まれている先生なら楽勝だろう。私はそうではない。ガハハ がっでむ。

posted by ぎゅんた at 13:56| Comment(2) | TrackBack(0) | 書籍など | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

(短評)SEC1-0

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「生まれきてよかった。」は、『崖の上のポニョ』のキャッチコピーであるが、「買ってよかった。」は、このSEC1-0のキャッチコピーである。

SEC1-0は東海林芳朗先生がご考案なされた由緒ある機器であり、手用ファイルを上下往復(ストローク幅 0.4mm)させるものである。世界に冠たる清水藤太先生ご推薦器具でもある。知っている人は絶対に知っている(所有している)、そんな器具。

手用ファイルはヘッド部にチャック式で固定するが、マニーのファイルと相性が良い。私は手用ファイルにマニーのものを愛用しているので、ことさら都合が良い。本来は注水機能がつくはずだが、それを望むとKAVO製となり、ブランドと耐久性に期待はもてるもののゴイスな値段となる。私は値段を考慮し、注水機能は諦めてナカニシの方を選択した次第。

購入に用するのはヘッドと等速コントラのVM-YとEC-30である。合わせて22000円也。ナカニシ最高や!と快哉を 叫ばざるを得ない。


どの場面で用いるのか?
・イニシャルトリートメント根管の、ネゴシエーションで
・開かない根管を開けたいとき
・ファイリングで機械的拡大したいとき
・閉鎖根管の機械的拡大

この器具の隠された長所は、ファイルを上下運動させることであり、パワーを上げた状態で動作させると、ファイルに自然な回転力が生じることである。この回転力にはさしたるトルクはない。あくまで、上下運動によって生ずる振動によって向きを変えていく感じのものにすぎない。しかし、この余計なトルクのない自然な回転こそが重要なのである。

ファイルが根管壁と接触して規制されないフリーの状態でこのSEC1-0を用いると、ファイルは根管内を自然回転することになる。開かない根管は、プレカーブを付与して根尖を攻めると、本来の根管にファイル先端が落ち込むことで根管を発見し、ネゴシエーションできることがある。つまりは、SEC1-0にプレカーブを付与したファイルを装着して「開かない根管」を開けることが期待できる。

根尖までファイルが壁と干渉せず到達できるような根管で、プレカーブを付与したファイルを挿入し、根尖部で動作させると、本来の根管にファイル先端が落ち込んだ瞬間に根尖まで クカッ とネゴシエーションすることがあるのである。

閉鎖根管と判断していた根管の機械的拡大を目的に#15のHファイル(微妙にプレカーブが付いていた)を装着してガガガとやっていたとき、わずかに「もっていかれる感じ」がコントラ越しに伝わってきて、患者の眉間に皺が寄った。え、あいたの?と#10Kを挿入すると、開いているのが確認できたのだった。その後、同じ患歯の他の根管も同様の手法で開けることができた。なんの嫌味もない上下運動だけで開けてくれるので、ファイルが破折することも余計なジップを形成することも予防される。

開けられたのは、購入直後のビギナーズラックであっただけかもしれないし、更なる検証が必要である。
だが、SEC1-0によって開かない根管を開けられる確率が高まるなら、これほどありがたいことはない。閉鎖根管を開けられるかもしれない希望を手元に所有できることは心強いことだからだ。
 
ラベル:SEC1-0

2017年05月24日

検診後の「再診」


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母校の中学校で学校歯科医をやってます


検診業務で、自分自身が対応した人が患者さんとして来院された場合、保険診療では「初診」ではなく「再診(検診後)」扱いとなります。当然点数は下がる(234⇨45)ので、巷で耳にするに不人気なルールのようですが、私はこの「再診(検診後)」が好きです。算定できることが栄誉あることと思うからです。検診後のシームレスな受診が歯科への無言の信頼に思えますし、当院に来院してくれたご縁を感じるからです。

学校検診を終えて、歯科受診にきてくれる子どもたちの姿が目立ち始める今日この頃。

学校検診そのほかで感じるのですが、中学生の口の中は、ハテこんなに汚れているものだろうか?と不安になることがしばしばです。単に学校歯科医が不甲斐ないからというだけの気がしますが、それだけでもないような。

ガサツなのか不衛生でいることが硬派と勘違いしとるのかしらんが、男子で目立ちます。
異性が気になる思春期だというのに、これではいかんぞ。前歯に食渣とプラークがべっとり。口呼吸もやめておくれ。これでは女子と会話なぞできんし、キスもできんぞ。もっと歯を大事にせい馬鹿タレ!
…こんなことは口腔内診中に声にだせませんから、ポーカーフェイスで淡々と作業をこなします。

たまに前歯に破折やその治療痕跡がみられる子がいますが、確認すると、ほとんどが球技系の部活に所属しています。球技系は歯の外傷が際立って多いのです。練習中に歯の外傷予防のためのマウスガードの着用が推奨されていますが、まだまだ教育現場ではその意識が希薄なようです。学校歯科医が教員や生徒たちに啓蒙しなくてはならないでしょう。困ったちん。
 
posted by ぎゅんた at 15:14| Comment(0) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年05月20日

ガルバニー電流

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子どもの頃、アルミホイルを奥歯で噛む遊びが流行った。噛むと「ヴぃヴヴ」と変な味がするという。試してみたが、私はならなかった。あれはなんだったのだろう?それは歯学生になって、歯科理工学で「ガルバニー電流」を習うことで氷解した。当時の子どもたちの臼歯にはアマルガムやインレー修復がなされていたのである。幸いなことに私の奥歯には金属修復物がなかったのでなにも感じなかったのである。


ガルバニー電流
組成の異なる金属が接触すると電流が派生する。アルミホイルを噛んだときに金パラや銀合金が接触すると唾液の存在もあって接触部に電流がほとばしるのでそれが分かる。ジョークアイテムで、ノックしたときに微弱電流が流れてビックリさせるボールペンもどきがあるが、ああいう電流が口の中で発生するのである。

我々は金属を食べないからさして気にもとめないが、組成の異なる金属が咬合する関係にあった場合、咬合のたびに微弱電流を発生することになる。「電気が発生しても、なにも感じないならそれでいいじゃないか」と竹を割ったような解釈はしにくい。ただでさえ電磁波まみれの現代社会に生きる我々の口の中に、電気が発生する仕組みまで設けることはあるまい。

銀合金コアと金パラ冠が合着されることになる現行の保険診療の補綴は歯科医師を不安な気持ちにさせてくれる。昨今のメタルフリーへの転換への機運は、口腔内へのこうしたパッシブな悪影響を排除させたい気持ちが含まれているのである。


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除去冠を観察すると見られるススのような着色や鯖のような青い模様がみられるものだが、これこそがガルバニー電流による焦げ付きである(松本勝利先生に教わりました)。見つけようと思えば、結構、発見できるのである。

実際に実物を前にすると、金属冠なんて口の中に入れたくねえなあ(しかし、いままで数限りなく俺は入れてきた…)と暗澹たる気持ちになるのである。私の愛する金合金もガルバニックからは逃れられない。やっぱ天然歯が一番やで。

posted by ぎゅんた at 23:57| Comment(2) | TrackBack(0) | 根治以外の臨床 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする