2017年04月27日

HJC慕情


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#14にHJC試適時。シェードはA4 ヘボマージン


昨今の小臼歯の補綴は、CAD/CAM冠が導入されたことで金パラ冠の呪いから逸脱の流れができているようで嬉しい限り。「おかげで自費冠が減ったじゃねーか!」との怨嗟の声も一部に聞かるものの、削り出しのハイブリッドレジン冠ですから、金パラFMC同様にプラークの吸着を招く面でイマイチなのは「所詮、保険クオリティ」と言わざるを得ません。私の愛するゴールド冠も、プラークの付着の面では金パラ冠と同様にイマイチなようです。無念。


さてそんなCAD/CAM冠、ブロックから削り出しての歯冠色補綴といいながら、どうにも単色で生気のない無表情な外観が気にかかる。使用するブロックにも拠りましょうが、最安値グレードなジルコニア冠同様、どうにもプロビジョナル然としている。小臼歯は案外にシェードグラデーションが目立ちますから、咬頭〜歯頚部にかけてシェードの濃淡がないと人工物感が強くでます。そして、歯面の細かな隆線などまったく考慮されないノッペラボウであるところが無表情さに直結します。

「とりあえず金属でない白い冠を保険で」なら許容されるレベルでありましょうが、セットする立場からだと「白い冠が入ってよかったね」と手放しで患者と喜べないところがあります。


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#24にミルドクラウン(和田精密)試適時 シェードはA3.5


同じ保険で選べる「金属でない白い冠」であれば、HJCが存在します。総点数的に不利なのですが、私はこちらを選択することが多いです。

HJCを選択すると保険点数の面で大きな差が生じますが、なに、CAD/CAM冠を作ってもらう諸経費は意外に大きい(注:技工所による)ですから、HJCを選択してもさしたる差はないのであります。なによりHJCは「手作り」で、シェードグラデーションや歯面の流線を天然歯に似せて作ってくださることから技工士さんの顔が見えるのが嬉しいのです。タコな形成と印象・ヘボ模型だと、如実にセット時の術者にストレスとして跳ね返ってくるあたりも実に正直でよろしい。

プロの手にかかって仕上げれたHJCは、少なくともセット時の見た目はE-MAX冠とそれほど遜色がなかったりする(よく見ればもちろん違いますが、傍目からすれば)わけで、こうしちたとき、患者さんは喜んでくれます。 さしてなにも喜ばない人もいますが…


そんなわけで当院ではCAD/CAMをまったくしていません。
CAD/CAMは脱離しまくるとまことしやかな噂を耳にするし、支台歯形成がHJCに比べシビアさを増すし、レセプトの平均点数の上昇は抑えたいし…と、二流歯科医院特有の消極的理由も含まれます。でも外来環は算定してます。えへん。

ああ… つぎはカカリツケだ(その前に往診だ)


※松風のS-PRGフィラー配合のコンポジットレジン(ビューティフィルシリーズ)の表面にはプラークの付着を防ぐ効果があるとの報告があったの思い出す。あまりそのことは「売り」にされていないような気がする。
 
posted by ぎゅんた at 00:46| Comment(4) | TrackBack(0) | 根治以外の臨床 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年04月25日

し、仕事で iPad mini 4 使うもん!


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もう5年以上使用していた相棒であるiPad mini(初代)が、故障して死んだ。
というより私が引導を渡した(始末してしまった)のが正しいのであるが。

死因はゴーストタッチの嵐で操作不能になったからである。勝手にアプリを起動しまくってフリーズしたり画面の縮小拡大を繰り返してフリーズしている有様。そもそもこちらの入力を全て無視するのでメモで文章も打てなければメッセージの送信もできない。それどころか勝手に余計なことをするわけで、アプリは起動し続けるわデータは消すわ誤送信はするわの迷惑極まりない振る舞いしかしない。制御不能天衣無縫。起動したが最後、危害しか産まないのである。

メモに書きためた記事を消しまくっていく姿にブチ切れた私に引導を渡されこうなった。

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膝蹴りを一発かましただけでこうなるとは、iPadは虚弱体質に過ぎるぞ。


ゴーストタッチの主因は、画面ガラスの亀裂の長期放置のようである。購入して一年目のときに落下させた際にディスプレイガラスを割ってしまい、修理せず使い続けていたのだ。

これまでも稀にゴーストタッチと誤動作の片鱗はみせていたのだが、のび太ママに教えられた方法で窮地をしのいできたのである。それを4年間続けてきた。しかし、流石に今回の症状は終わりの始まりであった。ダメになるときはもう修理もなにも受け付けないのが機械というものか。パソコンと同じで電子デバイスの寿命はせいぜい5年だとか聞くが、概ね、間違いではありますまい。私のようなゴーストタッチ・ストームといった致命的状態には至らないまでも、レスポンスの著しい低下やボタン類の故障、ハードディスク容量の枯渇など、パフォーマンスが使用者の現実世界に追従しきれなくなったら、もう替え時のようだ。

ものは大切に、古いものも大切に、道具は良いものを末長く…、といった、人間が生きる上で大切にしなくてはならない理念は電子デバイスには通用しないようだ。ちょっと寂しい。やっぱアナログのが好きだわと行き過ぎたデジタル化と距離を置く人種がいても当然である。俺は地球最後の日までガラケーを使うぜ。


使い心地夢心地
さてiPad mini4であるが、すこぶる良好である。画質の著しい向上とハイ・レスポンスが心地よい。文章を打つときのキーボードの切り替えや変換時にモタつきが皆無になったのが嬉しい。文章を作成する作業の効率が300%増しである(良い文章が生み出されるわけではない)。
思えば、愛用していた初代iPad miniは動作がトロ過ぎたし画面が汚かった。進化を前にすると、過去の技術は残酷な評価を下される。

ブラウジングも素早いし、JavaスクリプトをOFFにしなくともサクサク観覧できる。容量も16GBから128GBに増えたのだから、一生涯かけても使いきれない安心感に包まれる。野外にて日照下にあっても画面がちゃんと見えるのも地味ながら驚きだ。カメラの画質も満足のいくレベルに向上している。こんなことならさっさと乗り換えておけばよかった。新しい畳と女房と電子デバイスは最高である。涙をのんで大枚を叩いたが、その価値はあった。



仕事への応用
モリタのデジタルエックス線システムである「i-VIEW」はiPadに画像の転送ができるので、iPadは院内の仕事で活用する余地がある。iPad上ではi-VIEWの機能も最低限で、パノラマやデンタル写真の一枚表示をする場面がほとんどであるが、チェアサイドで写真説明が簡単に行えるのは嬉しいところだ。当院では、私がむかし使っていたiPad2が使用されている。この程度の用途に限定すれば、古いiPad2といえど十分に活躍してくれるのである。
 
posted by ぎゅんた at 23:54| Comment(0) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年04月09日

前歯が欠けたのでCRで象牙質を保護して見た目を回復させましょう(上顎前歯部の直接法コンポジットレジン充填)


歯質にレジンを接着させられる技術が、どれほど人類に貢献しているものか正確な評価を下すことができない。私自身は、口の中のような水分まみれのところで、歯という無機質と有機質と水分とからなる複合生体組織に「油」であるレジンを接着させられる技術は、とんでもないことだと感じる。

接着歯学とコンポジットレジンの物性向上、充填テクニックの進歩により、信頼のできる接着はもとより審美的な充填すら可能になっている。とくに前歯が部分的に歯が欠けてしまったことによる審美不良を即日的に回復させることができるようになったことが大きい。ひと昔前は補綴に頼らざるをえなかったことに比べれば吉報である。接着歯学は、地味ながら着実に進歩してきた分野なのである。

保険診療のCRは使用する材料に一部制限があるものの、ソコソコの見た目を回復させられることはできる。健保適応で自分と相性のいい材料を揃えたら、あとは器具とテクニックと気合でなんとかするわけである。



卑近な例を紹介する。
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硬式野球の練習中にボールがぶつかって欠けた#21.23(#22は先欠)と来院した高校生。
外傷のアポなし来院であるから緊張が走ったが、患歯に動揺は認めず、打診痛もなく、EPTで正常反応をしめした。主訴は、歯が欠けたことによる審美障害に加えて風や冷たいものが歯にしみて痛いことであった。

固定を必要としない外傷とは運がいい。
外傷に継発する突然の歯髄死が心配なので経過を追う必要があるものの、形態の回復と誘発痛除去が応急処置で必要となる。露髄もしていないのでは素直にCR修復で対応すればよろしかろう。

保険で使用できるCRでソコソコの見た目を回復させるなら、透過性の異なるCRでレイヤリングすることになろう。例外的なのは咬合面1級や5級でこれは単一ペースト充填でも案外にイケる。しかし、光の透過を受ける3級や4級、切端のCR修復では透過性を考慮しないとどうしてもイマイチな仕上がりにならなりがちだ。

こうした修復時に私が愛用するCRは3Mのフィルティックシュープリームウルトラ(A2E、A3B・A3.5B・A4B、A4D)と松風のビューティフィル(BW)である。シュープリームウルトラは、ボディシェードをメインに充填し、表層をA2Eで仕上げるだけでなんとなく美しく仕上がってくれる。BWは「中に仕込む」ことで白斑や白帯を表現するために用いる。切端エナメル特有の表情を作り出すためのトランスルーセントや黄色ティント等は保険で使える材料がない(あるのかな?)し、そこまで拘って充填に時間をかけられないことから採用していない。これを組み込むのは、ダイレクトボンディング(自費)のできる'職人芸'ドクターに限られてこよう。私にはムリデス

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充填と当日研磨直後。犬歯尖頭にBWを仕込んである。水色の点は、艶出し目的で使用したジフィーハイシャイン(ウルトラデント)の欠片である。

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2w後
外傷-受傷後の歯髄失活などがないことの経過確認のため来院。EPT正常、自発痛、打診痛、歯牙動揺なし。充填が上手くいったかなと思ったら写真撮影するとよい。肉眼観察と違って不備なところが面白いように分かるからである。近心隅角に形態不良があるので修正する必要があることが分かる。



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たまにあるのが、レジン前装部の破折や脱落

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レジン前装はどうしても無表情な見た目になりがち(A4D+A3B+A2E使用)

応用的に硬質レジン前装冠のレジン剥離修理がある。バッキングメタル金属色を遮蔽させた上で接着と嵌合でCRを築成していかなくてはならない。これは難易度と点数的に手間暇に見合うものではないから、修理などせず冠を新製するのが一般的だ。ただ、規模の小さな部分破折程度なら修理の方がよかろう。即日修理ができた方が喜ばれるし、浸麻も要らず短時間で仕上げられることから点数的にペイできるからである。

オペークレジンが用意できない場面での裏技があるので紹介しよう。
それは、レジン練板に採ったCRペーストをプラスチックスパチュラで織り込むように練り込みまくり、気泡を混ぜることでオペーク性を付与するテクニックである。ペースト性状が水飴のように変化して操作性は低下するが、明度が上昇して不透過性が得られる。A4Dあたりを練りこんで使うと良いだろう。これにより、オペーク性の強くなったA3Dを得ることが出来る。

これは私のアイデアではなく、愛知学院大の冨士谷先生に教わったものである。ありがとうございます。
 
posted by ぎゅんた at 16:44| Comment(5) | TrackBack(0) | 根治以外の臨床 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年04月05日

エアスケーラーとスケーラーブラシでプラーク除去をしよう


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パワー調整が出来ないのでエンドチップをシャーペンの芯のごとくバキバキ折りまくった初期型のソニックフレックス(Kavo)。エンドチップが使えないなら、スケーリングチップで除石に使うほかないわけですが、その加減知らずのパワーは使用を躊躇させるレベル。絶対に歯面にダメージを与えるからであります。怖くて使えません。脳筋パワー系じゃあるまいし、なぜにこんなハイパワーなのか。せめて出力調整ができれば文句もないというのに。ドイツ人の考えることはわからん。

そんな初期型ソニックフレックス、目視できる縁下歯石の除去か微細な超音波切削ぐらいしか出番がない。このうち縁下歯石の除去はキャビトロンで事足りる。歯質の超音波切削にしても、最近ではカーバイドのラウンドバーの方がコントロールが容易で馴染んでしまった。使わなくなるとサッパリ使わないのが歯科機器の常でありまして、畢竟、最近は埃をかぶっていたのであります。


ちょっと話が横道にそれますが、当院では歯石除去やSRPの前にP-MAX:イリゲーションチップを用いて全顎ポケットイリゲーションを行っていました。これは予めプラークを除去しておくことで、歯肉出血時の菌血症の程度を抑えたいと考えたからです。

どれほどの効果があるかもうひとつ不明ですが、殺菌力を有する機能水を用いてポケットイリゲーションをすると、ポケット内の細菌叢を静的なものに変えることができます(位相差顕微鏡で確認できる)。その静的な細菌叢も時間が経つとまた元の状態に戻っていくので、ただ「リセットボタンを押す」ような感じではあるのですが、短期間でこれを繰り返すと、トレポネーマ・デンチコーラの数が明らかに減った菌叢程度には変化させられます。減ったから歯周病が治るほどバカ単純な世界ではないことは自明ですが、多いよりは減ってる方がマシであることは確かです。なぜなら、ブラッシングや歯周治療に伴って歯肉出血をきたした際に血管内になだれ込む細菌、とくにトレポネーマ・デンチコーラの数を抑えられるからです。

イリゲーションチップを用いた全顎ポケットイリゲーションを行う主目的はプラーク除去です。しかしこの処置は出血をきたしやすいのが欠点です。そりゃ炎症をきたしているのだから、チップの物理的な接触のみならず水圧でも出血してしまうことが考えられます。このときに殺菌力を有する機能水を使っているから菌血症は予防されているヘーキヘーキと考えるのは早計で、やはり、出血はさせないに越したことはない。そうすると、毛の柔らかい歯ブラシでプラーク除去を行うべきかもしれない。けれどもそれは、たいそうな労力と時間を要する。自費ならいざ知らず保険のP処置でこれは厳しい。加えて、イリゲーションチップを用いた全顎ポケット洗浄は、予想していたほどプラークを除去しやすいわけでもないし、できていない(プラークが洗い流されていくのを期待するのだが、流石はバイオフィルムで、水流で洗い流せるほどヤワでないのだ)。いきおい、時間がかかっているばかりでなく、歯肉出血を招いているだけの行為かもやしれないとの疑念もわく。なんだかわけがわからなくなってくるのは、結局は、自分自身が物事を正確に把握した治療をしていない証拠です。


ひとまず、出血をさせることなくプラーク除去を手早く終えられる手段が求められることになりました。徹底したプラーク除去で遊離歯肉部の炎症を消退させることを第一に考えても悪くないのではないかと考えたからであります。「あれだけ説明と指導をしたのに、ベットリ(プラークを)つけてきてやがる!」は日本全国どこの歯科医院でも毎日起こっているのが現実です。患者さんは、こっちが期待するほど口腔内に意識を割いてくれません。これは「歯科医院側の手ぬかり」と言えばそれまでですが、やってくれない人は本当にやってくれない。行動に移してもらうのは、いうほど優しくはない。だからいまでも、歯周病の教科書には、患者さんモチベーションについて頁が割かれているのです。

医患共同で二人三脚のように歯周病治療を進められるのが望ましいのは言うまでもないのですが、現実的には医療者側が患者さんを牽引・鼓舞する役回りが多いものです。なれば、来院の都度、その患者さんに必要な事項や当座の留意点を説明しつつ、手早く出血のないプラーク除去をルーチンに行えば良いものと考えます。

そんなかんだで、器具を探し求めたところ、ヨシダのユリーがハンディで良さそうに思われました。

デモ機を貸してくれないものかと、材料屋を通じて交渉したものの、デモ機が存在しないの一言で断られました。デモ機がないから貸せないとか、果たして売る気があるものかと企業姿勢を疑ってしまう。

歯科材料にせよ機材にせよ、決して安いものではありません。少なくともユリーは、10万円越えの器具だし、なによりこれをメインで使用するのは当院の衛生士たちです。そして、彼女らには彼女らの道具の扱い方やペースが確立されているわけで、いかに上の立場からとはいえ「これを使え(その方がいいと俺が思うから)!」と導入するわけにはいかないのです。結局使われない結果になるからであります。実際に使ってみて、当院の診療スタイルにストレスなく組み込めるかどうかは、実物を使用してみないことには決してわからないのです。

困ったときは代替案を考えて打開を図ります。
埃をかぶっていたソニックフレックスに着用できるソニックブラシがあることが分かりました。Ciのカタログに廉価品(「クリーンアップブラシ ブラシホルダー」と「スケーラーブラシ」)があったのでいざ購入。

結論を述べると、痛みなくて早くプラーク除去ができると衛生士たちに好評で、処置前や歯清や合着前の被着面清掃と八面六臂の活躍ぶり。染め出しした後に使うとその男らしい除去っぷりに惚れ惚れします。パワー調整のできない脳筋エアスケーラーですから、痛みや出血を心配していましたが、派手な作動音とは裏腹にその心配は杞憂でした。埃をかぶっている暇もない人気者っぷりで、閑職に追いやられていたおっさんが第一線に復帰したかのごとくであります。

当面はこれで食いつないで、余裕がでたらユリーかなと考えましたが、エンドチップを装着できるパワー調整のできるエアスケーラーを購入することが先決の気がします。クリーンアップブラシを装着できるやつが購入できればユリーの代替品になるからです。あと、ユリーはヨシダなんで、当院のモリタのユニットとジョイント部での相性が悪いのもマイナス。いえ、クイックエンドでジョイント代が余計にかかったことに対する恨み節ではありませんよ。


※いまだに自分の中でプラークを位相差顕微鏡でみたところの細菌叢の扱いの定礎がないのですが、減らせられる機会があるなら積極的に減らすべきであろうと考えています。