2017年01月27日

初回の感染根管治療で抗菌薬を処方するべきか?


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根管治後には抗菌薬を処方するもの?
 感染根管治療後に、臨床医がちょっとばかり恐れる存在がフレアアップである。この恐れの感覚は、抜歯後のドライソケットを恐れるそれに似ている。ドライソケットは、血餅が脱落することによる抜歯窩歯槽骨の露出(創面湿潤状態の喪失)が原因にあり、これは血餅を確保すれば良いわけで術者と患者の注意次第でかなり予防できる。一方フレアアップは、これは患者の免疫力や根尖病変の悪性度(こんな表現は普通はしませんが、ニュアンスでご理解下さい)に影響される側面よりも、はるかに術者側に影響される。フレアアップは、術後疼痛の問題も含め、まず違いなく、その原因は、根管から根尖歯周組織へのdebris(根管内の好ましくない感染有機質残渣)の押し出しや漏れにあるからである。

 根管治療にあたっては、閉鎖根管でもなければ、ネゴシエーションを通じて、根管は根尖まで穿通され交通が確保されなくてはならない。その際、器具の先端は少なくとも1度は根尖孔外に出るはずであるから、根管内を移動してきたファイル先端に付着したdebrisの根尖孔への押し出しはゼロにできないと考えられる。しかし、このときに押し出されるdebrisを最小限に抑えられれば、生体の免疫力による庇護の元、臨床上、問題なく経過する。従って、エンドドンティストは、感染が疑われる根管を攻略する際は、まずタッチャブルな歯冠側ー根管口部の食渣・プラーク、軟化象牙質などを徹底的に除去するところから始める。肝心のネゴシエーション直後まで、とにかく根管内の走行を逸脱しない範囲で清掃することを怠らない。ネゴシエーションはこの後に行い、根尖歯周組織に押し出してしまう、避けられ得ぬdebrisの押し出し(コラテラル・ダメージ)を最小限にする。これにより、フレアアップはもとより術後疼痛を可及的に予防するのである※1

 こうした中にあって、初回の感染根管治療を終えた患者に抗菌薬を処方すべきかどうかを考えてみたい。
ルーチンに「感根処後には鎮痛剤と抗菌薬はセットで出す」と考えておられる先生は少なくないのではないかと私は邪推するのだが、これは、感染根管治療後の術後疼痛対策とフレアアップの予防を考慮した姿勢だと考察する。もしかしたら、根管治療後に抗菌薬を投与することに厳然としたルールがあるのかもしれないが、私はその教育を受けた記憶がない※2し、知らない。

 意地悪く考えると、ここには「感根処したら痛みや腫れは出るものだし、不幸にしてそうなっても鎮痛剤と抗菌薬を処方しているから患者さんは納得するだろう」という見地と、「医者にかかってクスリが処方されると患者に評価される(特に年配の患者さん)」日本医療の歪な側面も顔を出している。処方しなかった場合に腫れと痛みが起きて、患者にヤブ医者扱いされたくない心理が働いているのは事実であろう。と、偉そうにこのような記述をする私は、感染根管治療後に抗菌薬をあまり処方しない。鎮痛剤は出す。

 昔は感染根管治療後に抗菌薬をルーチンに処方していたが、それは先輩ドクターの真似であったし、勤務先の医院の方針に従っていただけであった。感染根管治療後に痛みや腫れが出るのは、真面目に根治をやった証拠だとすら考えていたように思う。いずれにせよ、自分の頭で「感染根管治療に抗菌薬を処方すること」について真摯に向き合っていなかった。術後疼痛とフレアアップを予防するための効果あるものと信じて、処方していたに過ぎない。繰り返すが、術後疼痛もフレアアップも、根管治療時のdebrisの根尖歯周組織への押し出しが原因である。

 抗菌薬は、ことに乱用される趨勢にあることを常に批判されてきた。術者は、「この場合は必要ないから処方しない」と判断できる目を持たなくてはならないし、自信ある判断基準を有しておらねばならない。


薬は根尖病変を治せない。人の手によって、宿主の治癒力が発揮されることで治っていく
 根尖病変があるからといって、抗菌薬を服用させて病変が消失することはない。これは周知の事実である。歯が感染源として存在しているなら、感染除去療法として根管治療が必要となる。根管内は生体の免疫力が及ばない隔離された閉鎖空間であるからだ。歯科医師の手によるデブライドメントが必要なのである。抗菌薬の処方は、例えば、初回の感染根管治療後に処方する抗菌薬が、根管治療による感染源除去との相乗効果によって根尖歯周組織の治癒を促進する可能性は考えられる。しかし、処方しなくてもこの治癒機転は根管治療により導くことができる。導けない場合は、感染源の除去不足であるか、根管を見落としているか、攻略不能なほどに根管系が破壊されているか、根尖孔外バイオフィルムによる難治性根管か、なんらかの原因を示唆することになる。根管内からのアプローチで解決できない場合は、外科処置に踏み切るか抜歯になる。これも感染源除去を目的とした処置である。

 この論文では、術前症状を訴えていた場合では術後疼痛やフレアアップが生じやすかったとしている。だからと言って、術後に抗菌薬を投与する判断材料にはならない。

 投与を考えるのは、粗雑な器具操作によって根管内debrisを根尖孔外に多量に押し出してしまったことを確信したケースであろう。この場合は、術後に患歯根尖部が急性炎症をきたす可能性が高いこと、その場合に起こりうることを説明しておかなくてはならない。高い確率でフレアアップを起こすことになるからである。

 こうした場合で、術前症状があった患者さんで、翌日来院ができない患者さんに限って、私は抗菌薬を投与することを決める。正直なところ、それでも抗菌薬が必要ないものか、フレアアップを防ぐか軽減する上で意味があるのかないのものか、明確に答えることができない。抗菌薬はフレアアップを起こしたことを確認した上で、処方するべきなのかもしれない。また、フレアアップを起こしたら抗菌薬ではなくステロイド剤を処方して腫脹と炎症を抑えるべきと聞いたこともある。


歯科薬理学の講義を受けなおしたい…
 ここまで述べてきた内容は、あまり成書で述べられないはずで、私は知識が疎いままである。だから、こんな好き勝手な文章を書いている。世の臨床医たちが(根管治療後の)抗菌薬の処方をどのように考えているものか、興味のあるところだ。

 なお、私が処方する抗菌薬の第一選択はアモキシシリン水和物250mg(サワシリンカプセル)である。鎮痛剤はキョーリンAP2、カロナール、ソランタール、ロキソニンを、治療の程度と患者の既往、全身状態から総合判断して処方する。
 

※1
根尖孔外に出たファイルの先端が根尖歯周組織にスタンプのように押し付けた機械的損傷自体は、これは術後疼痛にはつながらない。術後疼痛につながるのは、debrisの押し出しにあるのであって、細菌による修飾が必ずある。

※2
根管治貼薬剤に抗菌薬を使用する話ならうるさく耳にしたものだが、明確に覚えてるのは「クロラムフェニコールの副作用が再生不良貧血」ぐらいのものだ。3-mix療法が流行っていたのも思い出す。そういえば3-mixはいまはどうなった? 
posted by ぎゅんた at 19:43| Comment(2) | TrackBack(0) | 根治(考察) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年01月25日

タグバックと根充

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エンドは好きだが根充はあまり好きでない気持ちは昔とあまり変わりがない。
難易度の高い一発勝負のところと、生来の不器用さから細いポイントを狭い口腔内にて取り回す作業に迎合できぬ精神的緊張感を常に感じるからである。言い訳であるのはいうまでもない。

手用ファイルを用いていたころは、アピカルシートを形成した最終拡大号数の1号上のファイルをwatch-windingでアピカルシートまで一度到達させてから、最終拡大号数のマスターポイントで側方加圧充填していたものであった。分かりにくい文章だが、ISO規格を信じて最終拡大号数のマスターポイントで根充しようとするとアピカルシートにまで達することなくアンダーになっていたからであった。最終的にアピカルシートに触れた号数の1号下の号数のマスターポイントで根充していたのである。この方法だと、マスターポイントは概ねアピカルシートに達する感じに落ち着き、弱いながらタグバックも得られるのである。当時の勤務先の同僚に教えてもらった方法である。


Tag-back
学部4年の歯内療法学生実習『根管充填』の日のこと。ライターに「患者が、歯を引っ張られているぐらいに感じるタグバックがないとダメ」なんて言われて、そんなもんさっぱり得られず、「おれ、歯医者になったら根っこの治療できんわ…」と青ざめ不安と焦燥感に嘔吐したものであったが、今となっては懐かしい思い出のひとつである。あ、この抵抗感はタグバックだなやったぜとドヤ顔で根充したらどアンダーだった(ポイントが途中で引っかかっていたのをタグバック感じただけ)おマヌケ失敗もあわせて思い出す。

タグバックが、「歯が引っ張られる」ほどの強さがあれば、それは確かに心強いものだ。作業長どおりで、タグバックがあれば良好な側方加圧充填が約束されるからである。ただ、実際には的に刺さったダーツを引き抜くときに感じる感触ぐらいのものだろう。そんなタグバックは、アピカルカラーに起因するものであるはずで、程度の様々な湾曲にまみれた根尖部にあって、手用ファイルで適切なアピカルカラーの形成は易しくはないはずである。

手用ファイルは号数が上がれば回転運動で容易にレッジやトランスポーテーションを起こすのだから、バランスドフォースを取り入れないとならないだろう。
うーん難しそう。学生には無理やで!

いまの歯学生や若い先生方は、学部教育や臨床現場に出た時点でNiTiファイルに出会っているだろう。私が学生時代のころは、NiTiファイルといえばライトスピードが登場していた時代である。が、見たことも触ったこともない。歯内療法教室(講座)があれば触れられる機会もあっただろうが、我が母校には無かったのだ(歯内療法は歯周病教室が兼任していた)。

とりあえずNiTiファイルは、「あんなもん使わなくてよろしい」「手用ファイルも使いこなせないくせに道具に頼るな」「高いし折れるし結局は手痛い代償を支払う器具」等々のコメントを異口同音にいただいたものであった。当時のエンドは精神論が横行していた最後の時代だったのではと今になって思う。

そんな環境でエンドに足を踏み入れた私だったが、いまではレシプロケーション型のNiTiを用いているし、最低限のエンド治療ならできる準備が整ってきたように思えるところにある。遠い頂にいたる麓の登山口に到着したばかりだ。

根充は、目下、レシプロック専用ガッタパーチャポイントを用いるCWCTを採用する場面が多い。
これについては機会があれば(偉そうに語りたい気持ちが湧いたら)思うところを書き殴ってみたいところだ。
 
ラベル:根充
posted by ぎゅんた at 13:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 根治(回想) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年01月22日

講話も学校歯科医の仕事のひとつ


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受け持ちの中学校の養護教諭より「うちの生徒たちは見事なまでに歯を磨かんから、先生、いっちょ叱ってやって下さい」と講話を依頼された。保健授業のコマを使って、歯の大切さの啓蒙をする予定らしい。思い起こせば、歯科検診ではプラークべっとりや歯石・着色、歯肉炎の子が目立っていた記憶がある。確かにこれは啓蒙が必要である。というか、私の責任問題である。

ここで冷静に考えてみて欲しいのだが、ブラッシングをしない子どもをブラッシングするよう指導することほど難しいことはない。なにか有効なテクニックや魔法の言葉があればいいのだが、寡聞にして私は知らない。この前提は私の偏見混じりの認識に他ならないであろうが、さりとて、中学生にどう話してよいものか戸惑いを覚えた。養護教諭もこのへんは心得ていていたが、学校外の大人からも説明や指導されることが生徒たちにとって大きい意味があるとのことである。これはつまり、ガチガチの保健教育路線ではなく、もう少し別の角度から攻める内容でOKということだ。「保健の先生」がいつも言っていることを繰り返して述べられても、子どもたちの関心を引くことはないのである。

学校歯科医の仕事というのはボランティアに近いものがある。最大の仕事である学校歯科検診では報酬が発生するが、それ以外の活動では報酬は発生しない(ハズだ)。うちの親父は名誉職みたいなもん、と言っていたが、確かにそんなところがある。


私は人前で話をするのは苦手である。足が震えたり声がうわずったり失禁したりするからである。
とはいえ「話するの苦手なんでイヤデス」と断ることはできない。依頼された日の木曜日は休診日で仕事がないからである。断ったら「あ、めんどくせーから断ったな」と思われることは必定。これは沽券に関わる。

アドリブで乗り越えられるスピーチではあるまいが、これもまた試練なりと引き受けることにした。瞬間的に困難さを感じる仕事は、頑張ってこれを達成できると学びのリターンが大きいからである。俺は偉い!ガハハ崇め讚えよ!ではなく、そうした自分への見返りが欲しいだけの俗物なのだ。



アドリブで乗り越えられるスピーチではないとすると、戦略的に行くべきである。
テーマを決め、伝えたい内容を抽出し、締めに向かってのカスケードを作成すると自分の考えがまとまりやすい。マインドマップと一緒で、まずはとにかく手を動かして書き出すことだ。

テーマはキャッチーなものにする。お堅いテーマにすると、意識的なシャットダウンが起こり、意識を向けてもらえなくなるからである。誰だって、授業じゃないちょっと特別な時間にお堅い内容を受け入れられるほど素直ではない。舟漕ぎ大会が始まってしまうことだけは避けたい。

伝えたい内容は、成長期にある中学生であるから、絶対に欠かせないのが鼻呼吸と仰向けで寝ることである。砂糖含有飲食物の摂取回数をできる限り下げ、ブラッシングを行うことは口腔衛生管理の基本要件であり、当然ながらこれも外すことはできないが、あまり強調しすぎると「うるせーな型どおりの話をしやがって」と反発を受ける恐れがある。内容から外すことはできないが強調しすぎることはできない。患者さんとして来院された時にガッツリ指導すればいい。

聴衆は中学生だけでなく、教諭たちも加わる。
彼らは、常に子どもたちの学習意欲を刺激して学力向上に腐心しているであろうから、その援護射撃もしておきたい。学びの大切さを、なるべく子どもにとって理解の範囲の及ぶところで語る。要するに「学校の先生でない大人」による勉強のススメである。

こうしたことを述べつつ、「歯磨きをするんだぞ」と締めに運ぶのである。

思いつくままに書き出したメモが以下である。
Theme:格好いい大人になって欲しい
(ここでいう)格好いい大人=自分の人生を活き活きと過ごす大人
何が大切?:若いうちから良い習慣を身につけてしまうこと。努力して結果を出す経験(成功体験)を積み重ねること

格言「はじめは人が習慣をつくり、それから習慣が人をつくる」
⇒習慣は、その人のパッシブ・スキル
⇒良い習慣を身につければ百人力
⇒若いうちに身に付けた習慣は一生モノの財産となる
⇒歯科医師の立場から強調したいのは、「鼻呼吸」と「仰向け寝」
⇒「甘いものを食べ過ぎない」は食生活の範疇
⇒「歯磨き」は、基本的生活習慣(食事・睡眠・排泄・着衣着脱・清潔)の清潔の範疇。うがい、手洗い、洗顔、入浴と同じ。出来ていないとおかしい。

妖怪「勉強シロー」の正体と倒し方。なぜ、倒す必要があるのか?
正体 倒し方 倒す必要

口腔を清潔に管理することは、自分の人生を大切にするということ


時間が余ったときの与太話
・「賢い人間」に近づく手っ取り早い方法
・お金をかけずにシンプルに英語の成績を上げる方法

書き出したこのメモをじっと眺め、頭に浮かび上がってきた内容を抽出しまとめあげ原稿にし、それを話せば良いのである。

話す内容が出来あがったら、一人芝居でよいので実際に口に出して予行演習をするとよい。おおよそ何分話すかが分かる。背筋を伸ばし、口を大きく開けてゆっくり発声する。本番では早口になりやすいことに注意したい。

パワーポイントは用いず、ホワイトボードで文字や図を交えながら話すと集中して聞いてもらえる傾向にある(会場の照明が落ちないのが利く)。ホワイトボードは質疑応答時にも使えるので便利。イラストを描いて場を笑わせたりとっさの時間稼ぎなどに応用が利く便利なアイテム。


…しかし何度やっても、人前でしゃべるのは慣れることができない。教師や講師業、政治家たちは心臓が鉄でできているんじゃないか。僕の心臓はせいぜい牛乳パックみたいなもんです。昔は紙風船だったんで少しは硬くなりました。
 
posted by ぎゅんた at 01:13| Comment(7) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年01月21日

失活歯髄根管の攻め方


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79歳の男性。左上奥歯に歯茎におできが出来て歯医者に行ったが「問題ない」と言われて放置していたが、変わらず消えないままだと来院された。

サイナストラクトが#26頬側歯肉に存在している。デンタル写真で、MB根尖とDB根尖とにかけて不穏な透過像がある。#27が感染根管であるのは間違いないが、サイナストラクトの原因歯と断定はできない。サイナストラクトからアクセサリポイントを挿入して撮影したところ#26のDB根尖付近を指した。打診痛はないが、打診時の違和感は訴える。電気歯髄診で陰性を示す。遠心充填部からの微弱なリーケージで緩慢な歯髄死が続いていたのだろうと思われる。原因歯と診断し、患者に説明する。

ここからは、浸麻の有無をどうするかを考える。
「サイナストラクトを形成するような感染根管だから歯髄は完全に死んでいるだろう」&「電気歯髄診で陰性だった」ことから無麻酔で始めることはできる。しかし歯科医師は、しぶとく生き残るあのC繊維の存在も知っている。余計なタイミングで鈍い痛みを訴えるアレだ。

即ち、歯髄死に至った根管=浸麻不要と考えるのはいささか早計である。同様に、前医が抜髄処置を施した根管に手を出す時も、残髄の存在を否定してはいけない。したがって、最初から決め打ちで浸麻をして根管治療を始めてもおかしくない。海外では、根治は常に浸麻下で行うと聞いたことがある。

私はまず、浸麻をしないで髄腔に向けて切削を始める方法をとった。歯髄が死んでいる診断に自信があったというよりは、髄腔開拡で髄腔に向けて切削をしていくのだから、知覚があれば切削してすぐに痛みを訴えるだろうと考えたからでもあるし、「ホラ、神経が死んでいるから、痛みを感じないのですよ(エヘン)」と患歯の病態と診断の正しさを誇示したい小賢しさがあったからである。

注意しておきたいのは、「失活歯で歯髄は痛みを感じないはずだから浸麻しないで処置しよう」と短絡的に考えはならないことだ。電気歯髄診で陰性であっても、ファイルを根尖付近に到達させた時に痛みを訴えられることはしばしばある。歯科麻酔学的にも、疼痛を感じた後は閾値が低下して局所麻酔が奏功しにくくなることから、「後出しじゃんけん」は良くない。良くないけれども、浸麻なしでできちゃうことも多い。

このような場合は、患者さんに「根っこの治療は、不意の痛みを伴うことがありますので、不安でしたら麻酔をした状態で治療しますよ」とあらかじめ伝えるとよい。浸麻を希望する人は経験的に30%ぐらいである。

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この人は麻酔しなくていいよとのことだったので、ひとまず髄腔穿孔させていった。予想通り、なにも痛みは訴えずないまま露髄点が3つでた(上写真)。先端が鈍なバーでつなげば天蓋が取れるので髄腔を整理する。頬側はMBもDBもともに完全に失活していた。P根の根尖部ではわずかに痛みを訴えたが、そのままネゴシエーションして#15のPatencyを確保する頃には痛みを訴えなくなった。

サイナストラクトの原因が頬側2根と睨んだので、MB(MB2はなかった)とDBをまず攻略。バージンキャナルなので、根管の走行を逸脱させたくないのでNiTiで根管の形成をする。Patencyとグライドパスを確保してからウェーブワンゴールドで拡大。狭窄根管でもあるのでスモール:20/.07から開始し、プライマリ:25/.07まで拡大を終える。歯髄壊死の感染根管だが、この時点でファイルに付着してくる削片が既に白い。根管洗浄してペーパーポイント:30/.02を挿入するとMBは水分のみだが、DBからは汚染が付着しきた。根管洗浄不足と考え、更に洗浄を行ったところ、汚染の付着がなくなった。P根の拡大形成は次回に回して仮封。目論見通りなら、頬側歯肉のサイナストラクトは縮小や消失に向かうはずで、それを確認したい気持ちがあった(保険診療エンドでこれ以上の時間はかけられなかった泣き言事情もここに加わる)。

一週間後の治療時に確認したところ、歯肉のサイナストラクトは赤黒い外観から、歯肉に同化するように溶け込んだ縮小状態で確認された。術後疼痛もなかったとのことで、患者さんは喜んでおられた。この瞬間はエンド診療の醍醐味のひとつである。ただ余計なものを取っ払って生体の治癒力が発揮されるように手伝いしただけに過ぎないが、これは歯科医師にしかできない仕事だからだ。

サイナストラクトを、診断と治療でもって速やかに消失させることができると、患者さんから大きな信頼を得ることができる。小さいことだが、こうしたものの積み重ねが後になって利いてくる。積立投信みたいなもんである。

最近の私のNiTi事情や根管洗浄の詳細はまた別の機会に紹介できればと思う。



※sinus tract とは、いわゆる「フィステル」のこと。AAEが2003年に取り決めたらしい。臨床上、フィステルの方が名前の通りがいいが、言葉の定義からもサイナストラクトと呼ぶべきである。このへんは寺内吉継先生のビジュアライズド イラストレーションズ How to Endodontics(P20)に詳しい。
posted by ぎゅんた at 22:37| Comment(8) | TrackBack(0) | 根治(実践的) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年01月15日

大臼歯の髄腔開拡はいまだこの方法です


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intactに準ずる大臼歯の髄腔開拡は、私は未だにこの記事で書いた方法で行っている。
少なくとも大臼歯では「髄腔穿孔は、最も深い根管の存在する方向にバーを穿ち…」は忘れてしまった。バーの先端が髄腔に達して抵抗が消えた瞬間を触知してバーを止め、髄床底を傷つけることなくアウトラインを綺麗に仕上げるのはエンド治療の隠れた快感♡ポイントに違いない(自己満足を超えた本質的な達成感があるから)。

しかしこれは、ヘボな私には難しいのだ。とくに、髄腔が狭窄し始めた根管ではなおさらだ。
とにかくパフォや致命的なエラーを犯すことなく髄腔拡大をしたいと願う私は、無難で慣れ親しんだ方法から離れることができない。

車の駐車にしても、私は混みがちな入り口付近は避け、空いている離れに停めることを私は第一にしている。多少歩こうが雨に濡れようが、接触事故を起こしそうなリスクが高いであろう場所で駐車したくないのである(嫁は「なんでそんな遠くに停めるんだ!この玉無しが!」と猛り狂い、最近では運転させてもらえなくなった。リスク管理だといっても聞く耳を持たない姿勢は困ったものだ)。要するに私は気が小さく、安全策をとるのである。

エクストラシェイプ(大)を用いて、咬合面から髄床底に中央に相当する場所に向けて大きな掘削を始める。狭窄していようと髄角の鋭さは保存されているものだから、点状に露髄してくる。それがおおよそ3つ出てこれば良い。その段階で、先端が鈍のバー(先端が切れなくなったシャンファーバーで良い)で繋いで天蓋を除去する(快感♡ポイント)。フリーになった天蓋は接収され、私のコレクションに加わる。gff

この方法の最大の欠点は、削らなくても良い箇所を巻き込むように切削してしまうところにある。慣れればそれも最小限にできるはずと信じて行っているが、少しでもヘマをすればなし崩し的に無用な切削をしてしまう。

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この本にあるような流麗な髄腔開拡が出たらなァ…(うっとり)
 
posted by ぎゅんた at 00:42| Comment(5) | TrackBack(0) | 根治(実践的) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする