2016年12月29日

クイックエンドSIT(ヨシダ)

qkmk.jpg

Q.なにがクイックなの?
A.根管の乾燥が速やかに得られるよ。debrisも同時に吸っちゃうよ


あるとき、懇意にさせていただいている先生が「ヨシダのクイックエンドがゴイス」と唐突に発言なされた。クイックエンドとは、ヨシダが取り扱っているエンド用専門器具のひとつである。販売されてからそれなりの年数が経っている。ヨシダの営業マンすら存在を忘れているような地味〜な器具でもある(違ったらゴメンナサイ)。そりゃ「根管内を吸引して手早く乾燥できます11万8千円!」という器具が歯科医の関心を引くかといえばそうではあるまい。地味であるもむべなるかな。
日の当たらない存在であることは確かだが、このクイックエンドは縁の下の力持ちとしてエンド臨床を支えてくれるポテンシャルを秘めていることも確かである。


クイックエンドちゃん_01.jpg

クイックエンドSIT
タービン回路を利用して根管内吸引乾燥を可能ならしめるもので、外観はエアタービン様を呈する。ヘッド部に注水口と吸引物排出口とインサートチューブの挿入口がある。注水は、タービンホースから供給される水がインサートチューブを伝って根尖方向に流れる設計。インサートチューブは吸引口であり、液体やdebrisを吸い上げる。吸い上げられたこれらはヘッドの排出口から飛び出ていくので、バキュームで受け止めることになる。吸引力はダイヤル式に調整が可能。注水量は変更できない(ユニット側に依存)。

吸引力はかなりのもので、根管口付近から髄腔あたりの液体を瞬間的に吸い上げる。同時に、乾燥状態を作り出す。これを可能にしているのがインサートチューブであるが、プラの円柱でお世辞にも丈夫とは言えない。確実な吸引目詰まり防止の観点から決定されたであろう、80号相当の太さのチューブは根尖部に到達しえるものではない。クイックエンドだけで根管内を完全に乾燥できると考えてはいけない。

根管を乾燥させることは重要なステップであるが、吸引を利用したdebrisの積極的な排出もまた重要である。これは、インサートチューブが根尖部に達しなくてもかなり達成できるようだ。というのは、イリゲーションニードルと根管洗浄液(Irrigants)で根管内を洗浄したり、エンドチップによる超音波洗浄撹拌を行えばdebrisが根管壁より剥離し溶液中に浮遊することになる。それを片端から吸引して根管の外へ排出するからである。溶液に浮遊したdebrisは沈降していくので、この作業を繰り返あうことでdebrisの絶対量を減らしていくことになる。


濡れる.jpg

注水下で使うと
インサートチューブを伝った水が根管内に流れる側から吸引する使い方になる。水が飛散しまくる。見た目的にも水による物理的洗浄をいかにも実現できている様を呈するが、注水による撹拌効果は期待されないので、まあ、それなりというか、やはりクイックエンドは非注水での吸引効果を追求した使い方で良いと思う。なお、注水口は細いせいかやたらと詰まりやすい。


クイックエンドちゃん_02.jpg

わしはもっと根尖側まで吸いたいんじゃあ!
さあ、カスタマイズの時間ダ。
もっとも簡単なのが、イリゲーション・ニードルをインサートチューブの中に入れて装着させる方法である(ニードル基部のプラ部分を加熱して軟化させてニードルを引き抜いて得る)。

インサートチューブを装着時のチューブの作業的な長さは約17mmであるが、これによって長さを延長できる。そして、少なくともインサートチューブよりは根尖部に吸引口を位置させられる。ただ、固定がイマイチなのとその長さから極端に操作性が悪化するため、前歯ぐらいにしか使えない。取り回しを考えると、ニードルを径を潰さぬよう切断して短くするなり加工が必要となる。

写真 2016-12-28 15 47 36.jpg
ビタペックスのチップを切断したものにフラットエンド処理の30Gニードルを瞬着で固定したもの。使えない


吸引口の径が小さくなればなるほど吸引力が上がりそうな印象があるが、別にそのような望ましい変化は感じられない。むしろ単位時間当たりの吸引量が減るだけっぽい。そして、径が小さくなればdebrisで目詰まりを起こしやすくなる。実際、30Gのもので試したら直ぐに詰まってしまった。また、吸引力が乏しくなり、乾燥効果が得られにくくなった。根尖まで吸引させたい気持ちがあったとして小細工をしても、必ずしも良好な結果につながるわけではない。クイックエンドのインサートチューブの径は、開発者の試行錯誤の末に決定されたものであろう。あとわずかに細く、丈夫な材質で、fixが強ければ言うことなしなのだが。

クイックエンドちゃん_03.jpg


とりあえず色々と試作した限り、25Gのイリゲーションニードルを切断して短くしたものを瞬着を利用してインサートチューブに固定したものが使い勝手の点で及第点。27G、30Gだと細すぎる。ニードルの先端はラウンドエンド処理されたものが根管内に挿入しやすい面で優れる。なんだかんだでインサートチューブは悪くない。値段には目を瞑ろう。もっと安くして…(魂の叫び)



ヨシダなのでモリタのユニットとは相性が悪く、例えば当院で使用しているスペースラインで使用するとなるとカップリングハブが別途必要になる。2万円ぐらいする。ぐぬぬ…

 

2016年12月28日

吸引によって根管内が乾燥され清掃され

掃除機をかけるとき.jpg

根管に吸引作用を与することは、元来、根管の乾燥のみを目的に行われてきたようだ。
世には排唾管に吸引チップを装着することで根管の乾燥を狙う器具(ネオ製薬の「マルチサクション」※1)が存在するが、この器具の目的は「根管の乾燥」あってdebrisを吸引で積極的に排出させることは意図していなかったのではないか。

根管の乾燥はブローチ綿栓で行うものと思考停止的に慣行していた私には、とくに食指が動く器具ではなかった。暴露すれば、根管内を乾燥させることに無頓着であった。仮封材が充填できる程度に水分が徐々されていればそれでよかったのだ。根管内の水分?いんだよ細けぇことはってなもんである。この意識の根底には、「感染源の除去こそがエンドの主目的なんだから貼薬仮封時に水分があってもへーきへーき」が存在する。間違っているのはいうまでもない。根管内を乾燥させることは重要なステップなのである。


吸引でdebrisをできる限り除去したい
さて、吸引によってdebrisを排出する概念を本邦で打ち立てたのは小林千尋先生ではないかと思う。先生が「根尖部の清掃は全くできていない。どうしたらよいのだろう?」と思惟懊悩されていた末の閃きなのか、「吸引で根尖部を清掃してみたらことのほか成績が良くてワロタ」と、トライアル魂と経過を見逃さない慧眼を持っておられたのか。どちらも考えられるけれども、いずれにせよ、根管内の(ことに根尖部の)debrisを除去することこそが、エンドの良好な成績求める上で欠くべからざる秘訣なのである。私はそう信じている。

根尖部のdebrisを吸引して排出するには、根尖部に存在するdebrisを根管壁から浮かせなくてはならない。洗浄液を併用して、洗浄液の中に浮かせ漂うdebrisを、吸引によって根管外に排出するわけである。理想的には、根尖部を超音波で撹拌させた側から吸引していくことであろう。しかし、現実的にそれは難しい。細いイリゲーション・ニードルを用いたポジティブプレッシャーイリゲーションなりエンドチップによるパッシブウルトラソニックイリゲーションなり、根管洗浄したそばから間髪入れず吸引するのである。根尖よりdebrisを押し出さないよう注意しながら、頻繁に洗浄して吸引することになる。超音波で撹拌する側から吸引する超音波吸引洗浄が理論的に最も優れた根管洗浄法であろう。

目下、私が用いている吸引用器具はヨシダのクイックエンドである。エアタービン回路を用いて、注水洗浄と吸引を同時に行う器具である。撹拌効果は期待されない。注水をカットすると吸引効果だけを得ることができる設計になっている。注水させて用いても悪くないが、排膿や出血を吸引チューブ越しに確認できなくなる。私がこの器具を使用する目的はdebrisの吸引なので、殆どの場面で非注水で用いている。

クイックエンド(の非注水使用)によって、根管の乾燥だけでなく根管内debrisの排出効果も得られているようだ。個人的な感想の域を出ないし客観的なデータを立証できるものではないが、術後疼痛の出現と程度が、使用する前に比べて明らかに目立たなくなったからである。


吸引で根管内をできる限り乾燥させたい
根充前にしろ根貼にしろ、根管内は徹底的に乾燥させるべきと考える。
根充は、通常、疎水性であるシーラーを併用するものだから、当然のことながら期待される物性の発揮のために根尖部までの水分を除去しなくてはならない。そして、根充により、得られた根管の乾燥状態がガッタパーチャ(とシーラー)によって維持されることになる。

根貼は、次の治療までの期間、治療途中の状態が悪化せぬよう(細菌の繁殖を抑えるよう)仮封する行為と考えられるが、やはり乾燥が不可欠である。水分があれば仮封材による封鎖が不十分でリーケージの原因になるだけでなく、湿潤環境では細菌の繁殖を抑えることができないからである。根管という閉鎖的な空間は、清掃されて乾燥された状態に整えなくてはならない※2。これは、歯科医師にしかできない。

根貼時の根管の乾燥に関しては、手持ちの成書を渉猟するに、さしたる記述がない。火で炙ったブローチ綿栓に貼薬剤をつけて根管に挿入て仮封する、とか貼薬剤を染み込ませた綿球を髄腔に位置させた状態で仮封する、とか、根管を乾燥するステップは記述が省略されている例ばかりである。行われることがあまりに当然過ぎることが理由で記述が省略されているのだろうか。

強調しておきたいが、仮封と根充前の根管の乾燥こそが良好な結果に結びつく鍵である。
貼薬剤が根尖部を治すことがないのと同様、水分まみれの根管で根尖の治癒が促されることはあるまい。
クイックエンドで手早く髄腔と根管口〜根管中央あたりまでを吸引乾燥し、根尖部をアピカルサイズ以上の滅菌ペーパーポイントで吸湿すると手早く終えられる。その後は長さをカットした滅菌ペーパーポイントを根管に挿入して仮封(ドライコットン仮封)するか、綿球にFGやクレオドンなどを少し湿らせた髄腔貼薬を行えば良いだろう。ポイントに貼薬剤をつける場合は、ポイントの先端にはつけないほうが良い。根尖歯周組織から浸出液や出血があった際にそれを受け入れる空間を確保するためと、貼薬剤の根尖への漏れを防ぐためである。

debrisの根尖への押し出しをできる限り防ぐことを目的に、根管洗浄のステップに「吸引」を採り入れると良い治療成績が得られるだろう。「吸引」は乾燥も同時に行うので、根貼や根充前の根管の乾燥にも有益である。



※1.この記事を書くにあたって購入してみたが、想像以上に吸引しない様に愕然涙目。バキュームの吸引力が強いユニットであれば及第点が下りるかもしれないが、少なくとも当院では使用に相応する吸引力を発揮してくれない。おのれネオ製薬。欲しい人いたらあげます…

※2.しばしば「根管治療の途中で来院が長期間途絶えていた患者の患歯を際来院時に確認したところ、存在していた根尖病変が縮小してほぼ消失していた(=「根管内の感染源を除去すれば、根尖歯周組織は素直に治癒に向かう」」という報告を耳にする。著名なエンドドンティストなら誰でも有している症例であろう。この報告の真意は、感染源の除去だけにあるのではない。綺麗に清掃された根管を充分に根管乾燥された状態で緊密に仮封してしまえば根尖歯周組織は速やかに治癒に向かうことにある。
 
ラベル:根管洗浄
posted by ぎゅんた at 22:34| Comment(6) | TrackBack(0) | 根治(考察) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年12月18日

根管洗浄と術後疼痛〜その予防について考える

押すなよ絶対に押すなよ.jpg

根管の機械的拡大では、水平的な拡大を徹底したとしてもアンタッチ箇所が生じる。また、発生した牙粉やdebrisで目詰まりを起こすリスクも発生する。根管壁に形成されるスメア層も無視できない。この克服のために、根管内に洗浄液(Irrigants)を作用させることになる。化学的清掃である。

根管洗浄剤には様々あるが、現在のゴールドスタンダードはEDTAとNaOClである。この2つを基本に根管の化学的清掃を行う。EDTAはともかく、ヒポクロが根尖歯周組織に漏れると重大な事故を引き起こすので取り扱いには注意を要する。物理的な洗浄のみを期待する簡易な根管洗浄を行うのであれば水や生理食塩水を用いると安全だ。

根貼にしろ根管充填にしろ、根管洗浄後は乾燥した根管内環境を維持することを目的に、根管内に存在する水分を除去することに努める。従前、ブローチ綿栓がこれを担っていたが、昨今では滅菌ペーパーポイントが用いられる。汚れた指先でワッテを巻いたものが清潔なわけがないという懸念からである。

滅菌ペーパーポイントを用いる上での課題はコストと、根尖への押し出しリスクである。

コストはさておき、根尖への押し出しリスクとはなにか。
根尖部のdebrisをポイント先端に付着させて根尖孔から飛び出せば、それが術後疼痛の原因となるという意味である。これを防止するには、根尖孔の径の把握と根尖孔を破壊しないことが重要となる。感染根管で既に大きく破壊されていたり根尖部の吸収が起きていたり意図的に拡大した場合などはペーパーポイントの突き出しリスクが高まることになる。根尖部のdebrisが除去され尽くされていれば、ペーパーポイントを押し出してもさしたる心配はないだろう。しかし、ご存知の通り根尖部のdebrisの除去は想像以上に困難なタスクであるから油断ならない。

私は根管洗浄をディスポシリンジとイリゲーションニードル(ラウンドエンド処理・側方ホールタイプ)を用いている。これを使い始めた当初は、根尖まで到達させてゆっくり洗浄液を出すことでdebrisと思しき削片が液体内にフワッと浮いてくる様が観察できて悦に浸っていたものだった。ただ、その状態で吸引しないと、debrisと思しき削片は根管内に沈降していくのである。そしてまた、漫然とイリゲーションニードルを操作していと根尖にこれらを押し出すことになる。実際、この方法で根管洗浄をすることで、術後疼痛が有位に減少することはなかった。フレアアップに遭遇することもあった。丁寧な根管洗浄をしていると術者は信じているものの、皮肉にも、その実態はdebrisの根尖への押し出しに他ならなければ、術後疼痛やフレアアップを引き起こす。

術後疼痛を訴えないケースももちろんあるが、根尖の拡大がまだ及ばずイリゲーションニードルが根尖部まで到達しえないようなケースばかりである。

術後疼痛といえば、根尖歯周組織への機械的損傷もその一因に考えられるが、これはたいした痛みにはならないようだ。ネゴシエーションやリカピチュレーションといった、根管の交通性の確保と引き換えに根尖歯周組織に機械的損傷を与えてしまうわけだが、debrisを押し出さなければ術後疼痛を引き起こすことはない。現実的に、微量ながらdebrisを根尖に出してしまう事態は避けられえないので、いかにも「根尖を突くと痛みを生じる」ように感じているだけだ。ファイルの先端のようなチンケな突起がちょいと生体を突いた程度の傷が痛みを訴えはしない。

要するに根尖にdebrisを押し出しさえしなければ術後疼痛に怯えなくてすむ。

debrisを押し出すぐらいならと、多少の残存は止むを得ぬことを承知で根管洗浄をホドホドにとどめても達成できるし、吸引によってdebrisを積極的に根管から排出する洗浄を行っても達成できよう。

吸引することでdebrisの積極的な排出と根管の乾燥が得られるが、これについては別に記事にしたいと思う。
 

iPadから転送
ラベル:根管洗浄
posted by ぎゅんた at 23:33| Comment(8) | TrackBack(0) | 根治(考察) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年12月09日

「根貼」どうでしょう

写真 2013-04-21 14 25 36.jpg

根管貼薬剤に何を用いるかを考えるとき、頭の中にたくさんの選択肢が登場する。学生時代のころは、FC、FG、JG、クレオドン、メトコール、ペリオドン、クロラムフェニコール、テラ・コートリル軟膏、カルシペックスらが使用されているのをよく目にしたので、印象深く頭に染み込んでいる。根管貼薬剤についてのレポートや口述試験、筆記試験にてそれぞれの特徴などを求められた記憶も強くあるので、少なくとも当時は、根貼に何を使用すべきかは臨床医が当然のように具備すべき知識として重きがあったのだろうと思う。今は水酸化カルシウムを用いることが殆どで、根管貼薬剤の使い分けはあまり重きを置かれていないかもしれない。それよりは根管内の感染源の徹底除去が重要で、根尖孔外=生体に薬剤のみならず異物を押し出すべきではないことを強く教育されているのだろう。

目下のところ、私は根管貼薬に薬効を期待していない。昔は色々と使い分けたり専門書や講演で言われていた通りの真似をしたが、とくに手応えはなかった。やはり感染源の除去が全てなのだと思い至った(気持ちだけで、感染源の除去ができていたわけではない)。そのうち、根貼は、形式的な、仮封の前の儀式程度の存在に落ち着いていった。

薬効を期待していない、とはいえ空っぽで仮封というのも乱暴である。根管に仮封材料が落ち込む可能性があるからである。

使用するのはカットした滅菌ペーパーポイント(ドライコットン代わり)のみか、それにグアヤコール(クレオドン)を僅かに染み込ませて用いる。グアヤコールを選択する理由は、個人的な好みの域を出ない。根管口直上にキャナルクリーナーをちょいとつけた滅菌綿球を置いて仮封することもある。

過去、水酸化カルシウムとプロピレングリコールを混和して根貼に用いていたものだが、現在は長期の仮根充でもなければ使用しなくなった(仮根充を行う場面もさしてないので本当に影の薄い子になってしまった)。除去が面倒なのと、根尖外に押し出すと危険だからである。

根尖性歯周炎の治療と予防がエンドであるが、その眼目は感染源の除去にある。結局は機械的拡大と化学的清掃(根管洗浄)が第一であって、根貼がそれに代わるわけがないのである。根貼に頭を悩ますより先に、軟化象牙質除去が完全に達成されているかどうか、防湿のための隔壁ができているか、根管の見落としがないかの確認、根管の走行を損なわないよう拡大形成を達成できるかどうかなど、もっと大切な事項を確認するべきであろう。

posted by ぎゅんた at 13:03| Comment(3) | TrackBack(0) | 根治(実践的) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年12月07日

アポイント制にお悩み?

写真 2016-07-03 13 57 15.jpg

今回は愚痴というか生産性のない話。

忙しい時に限って来院されることが多いのがアポなし患者さんです。目の前の事態にあっちゃこっちゃヒーとなっているところに「おかわりもいいぞ!」よろしくコンニチワするのであります。アポなし患者さんの来院と対応に懊悩される先生は少なくありません(ぎゅんたの脳内調べ=ポジション・トーク)。主訴は様々でありますが、いきなり窓口に来て「診て欲しい」となる点は共通しております。

この中には、当然ながら目下治療中の患者さんも含まれる。「仮封が外れた」とか「治療した歯に急な痛みが出て」とかであります。患者さんには申し訳ないことですが、しかし、これは心情的に納得の範囲(自分の治療内容に猛省と改善点があることを教えてくれるありがたい存在であるから)なので、要するに自業自得。可及的に速やかにアポの隙間に入ってもらい、その原因がどこにあったか考察しながら対応にあたることになります。

これ以外は、全くの初対面の患者さん(新患)か過去に通院されていた患者さん(初診)が相当します。たいてい「痛いシリーズ」と「外れたシリーズ」であって、メンテナンスや口腔クリーニング希望希望してこられる方は少ない。痛みと不都合でもなければ、やはり歯医者になんて行きたくないと誰もが思っている現実を知ることができます。

キャンセルや空白時間の来院であれば即応できるものの、不思議とそういう時間はやはり空白時間のまま。マーフィーの法則:「忙しいときに限ってアポなし患者さんの来院が起こる」が成立しそうです。が、この現象の真意は、アポイントが埋まりやすい時間がその歯科医院のおかれた環境にあって患者さんが来院しやすい時間だから、ということにありましょう。

そんなことはどうでもよくて、アポなし患者さんをどう扱うか?は開業医にとって決して疎かにできないことが問題なのです。特に保険医は、診療時間で報酬が上がり続けるものではありませんから、効率よく患者さんを捌いていく診療システムを構築することが必須になります。とにかく処置をこなせば報酬が得られるとばかりに超絶流れ作業的診療スタイルをとる医院もありますし、最小限のスタッフで人件費をおさえ、患者さん一人あたりの処置時間に余裕を持たせる医院もあります。当院は後者寄りながら、最近は来院数が増えて処置時間に余裕がなくなってきています(もっとテキパキと処置をこなす技術が必要…なのだけれど、1hにエンド患者さん四人のアポは眩暈がします)。

来院患者さんが増えるのは歯科医院にとっては当院、嬉しいことなのですけれども、キャパシティを超えての来院はいかに応召の義務があれど医院の対応能力を超えることをして、早急な対応はお断りせざるをえなくなることがあります。当院を選んでくださったご縁ある患者さんでありますから診療したい気持ちは当然ある。けれども、過密なアポイント+既に来院済みのアポなし患者さんの存在が不幸にもそれを難しくする。なぜこの時間に限って来られるのか!と天を呪い、せめて電話をかけてきてくれれば…と思うことがしばしばです。「アポなしできたのはコッチ、待ちますからいいですヨ」と言ってくださる患者さんであっても、流石に2時間も待たせられますまい。

この悲劇を避けるために、どうするか。
・アポイント制をやめるか?
・自院の処理能力を高める方向を模索・実践すべきか?
・アポなし患者さんの来院を前提とした「余裕」もたせた予約にするか?
・アポイント患者さんに割く時間をわずかに削って隙間時間を用意して対応すべきか?
・アポイント制をとっている以上、アポイント来院患者さんが優先されるので、飛び込みは原則、受け付けかねると説明するか?

医療は有限のマンパワー。患者さん一人に割く時間が長くなれば、他の患者さんに本来、割かれていたべき時間をもらっていることになります。アポイントに余裕があれば緩衝されて気にならない現象ではありますが、キツキツな場面ではやはり無理が生ずる。患者さんVS医療従事者という極めてアナログな関係においては、全てがアポイント通り、予定通りにこなせるとは限りません。アポイント制をとりながら、誠に申し訳ないことですが、待っていただくことになります。個人的には、アポイント通りに粛々と治療こなしていくことに快感を見い出すタイプなので、リズムを乱されるのは好みません。


電話なしのアポなし飛び込み患者さんが少なくない気がしますが、それはなぜか。
子どもが風邪をひいて小児科やら耳鼻科にかかっているときに気づいたのですが、「病院」というのは、厳密なアポイントを取らないことが多いのですね。「数日たったら、また来て下さい」とか、「この日の外来受付時間にまた来て下さい」とか。わりとフレキシブル。歯科と違って予約の取りようのない感じですから当然なのですが、アポイントでガチガチな歯科が例外的なのかもしれません。これに慣れていると、歯科も、飛び込みで診てもらえると思って当然のような気がします。歯科が独特で非常識なのかも。

研修医時代に、駅から協力型施設に向かう途中、看板に赤字で「当院は完全予約制です」と表記している歯科医院がありました。「いや予約制って当たり前なんじゃ…」と鼻を垂らしながら横目に歩いていたものですが、これの真意は、「アポなし飛び込み患者さんは対応できません」ということだったのですね。今頃気づくのが私。患者さんが来てくださって忙しいのは嬉しいけれど、時間に追われて診療が荒くなるのは勘弁して欲しいと泣き言をいう私。保険医は、数をこなさないと器具・機器・感染対策費・勉強代を捻出できません。

シンプルな解答は、切羽詰まった状況でもテキパキ対応できるよう、己のメンタルと腕を磨き上げるべく邁進することです。…優等生解答かな、これは。ホンネにところでは「なんとかならんかこれは」と自分に甘い。がっくし。

posted by ぎゅんた at 13:59| Comment(4) | TrackBack(0) | 歯科医院について | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする