Q.なにがクイックなの?
A.根管の乾燥が速やかに得られるよ。debrisも同時に吸っちゃうよ
あるとき、懇意にさせていただいている先生が「ヨシダのクイックエンドがゴイス」と唐突に発言なされた。クイックエンドとは、ヨシダが取り扱っているエンド用専門器具のひとつである。販売されてからそれなりの年数が経っている。ヨシダの営業マンすら存在を忘れているような地味〜な器具でもある(違ったらゴメンナサイ)。そりゃ「根管内を吸引して手早く乾燥できます11万8千円!※」という器具が歯科医の関心を引くかといえばそうではあるまい。地味であるもむべなるかな。
日の当たらない存在であることは確かだが、このクイックエンドは縁の下の力持ちとしてエンド臨床を支えてくれるポテンシャルを秘めていることも確かである。
クイックエンドSIT
タービン回路を利用して根管内吸引乾燥を可能ならしめるもので、外観はエアタービン様を呈する。ヘッド部に注水口と吸引物排出口とインサートチューブの挿入口がある。注水は、タービンホースから供給される水がインサートチューブを伝って根尖方向に流れる設計。インサートチューブは吸引口であり、液体やdebrisを吸い上げる。吸い上げられたこれらはヘッドの排出口から飛び出ていくので、バキュームで受け止めることになる。吸引力はダイヤル式に調整が可能。注水量は変更できない(ユニット側に依存)。
吸引力はかなりのもので、根管口付近から髄腔あたりの液体を瞬間的に吸い上げる。同時に、乾燥状態を作り出す。これを可能にしているのがインサートチューブであるが、プラの円柱でお世辞にも丈夫とは言えない。確実な吸引目詰まり防止の観点から決定されたであろう、80号相当の太さのチューブは根尖部に到達しえるものではない。クイックエンドだけで根管内を完全に乾燥できると考えてはいけない。
根管を乾燥させることは重要なステップであるが、吸引を利用したdebrisの積極的な排出もまた重要である。これは、インサートチューブが根尖部に達しなくてもかなり達成できるようだ。というのは、イリゲーションニードルと根管洗浄液(Irrigants)で根管内を洗浄したり、エンドチップによる超音波洗浄撹拌を行えばdebrisが根管壁より剥離し溶液中に浮遊することになる。それを片端から吸引して根管の外へ排出するからである。溶液に浮遊したdebrisは沈降していくので、この作業を繰り返あうことでdebrisの絶対量を減らしていくことになる。
注水下で使うと
インサートチューブを伝った水が根管内に流れる側から吸引する使い方になる。水が飛散しまくる。見た目的にも水による物理的洗浄をいかにも実現できている様を呈するが、注水による撹拌効果は期待されないので、まあ、それなりというか、やはりクイックエンドは非注水での吸引効果を追求した使い方で良いと思う。なお、注水口は細いせいかやたらと詰まりやすい。
わしはもっと根尖側まで吸いたいんじゃあ!
さあ、カスタマイズの時間ダ。
もっとも簡単なのが、イリゲーション・ニードルをインサートチューブの中に入れて装着させる方法である(ニードル基部のプラ部分を加熱して軟化させてニードルを引き抜いて得る)。
インサートチューブを装着時のチューブの作業的な長さは約17mmであるが、これによって長さを延長できる。そして、少なくともインサートチューブよりは根尖部に吸引口を位置させられる。ただ、固定がイマイチなのとその長さから極端に操作性が悪化するため、前歯ぐらいにしか使えない。取り回しを考えると、ニードルを径を潰さぬよう切断して短くするなり加工が必要となる。
吸引口の径が小さくなればなるほど吸引力が上がりそうな印象があるが、別にそのような望ましい変化は感じられない。むしろ単位時間当たりの吸引量が減るだけっぽい。そして、径が小さくなればdebrisで目詰まりを起こしやすくなる。実際、30Gのもので試したら直ぐに詰まってしまった。また、吸引力が乏しくなり、乾燥効果が得られにくくなった。根尖まで吸引させたい気持ちがあったとして小細工をしても、必ずしも良好な結果につながるわけではない。クイックエンドのインサートチューブの径は、開発者の試行錯誤の末に決定されたものであろう。あとわずかに細く、丈夫な材質で、fixが強ければ言うことなしなのだが。
とりあえず色々と試作した限り、25Gのイリゲーションニードルを切断して短くしたものを瞬着を利用してインサートチューブに固定したものが使い勝手の点で及第点。27G、30Gだと細すぎる。ニードルの先端はラウンドエンド処理されたものが根管内に挿入しやすい面で優れる。なんだかんだでインサートチューブは悪くない。値段には目を瞑ろう。もっと安くして…(魂の叫び)
※ヨシダなのでモリタのユニットとは相性が悪く、例えば当院で使用しているスペースラインで使用するとなるとカップリングハブが別途必要になる。2万円ぐらいする。ぐぬぬ…