補綴物は金属ぐらいの頑丈さがないと、結局のところ不安を抱くものである。
ほとんど水の中みたいな環境で、様々な化学物質が入ってきて、咀嚼咬合にさらされる口腔内においては、やはり耐久性が、いってみれば不変性を備えた丈夫さが求められる。なんだかんだで、金属修復物は丈夫である。銀合金や金パラは金属アレルギーという生体安全性の面から、最近では不人気街道をひた走っているものの保険診療でいまだに使用され続けている(金合金もタイプによってパラジウムを含有するが、その比率は小さい)。
いい加減、金パラなんぞパラジウムの投機的高騰に付き合わされる馬鹿馬鹿しさがあるから代替金属に切り替えて欲しいところだ(が、そうすると新しい金属修復物と既に口腔内に合着されていた金パラ修復物との間でガルバニック電流が生じるハメになる。面倒すぎて切り替えられないのが実情かも)。
金パラについてあれこれ述べられるほど歯科理工の知識があるわけでなし、このへんでやめておこう。とりあえず私は、保険診療で使えないものの、ゴールドこそが理想的な修復金属材料でないかと思っている。
なにを言う、ジルコニアなんかは硬いぞ、といったところで、摩耗で普通に穴が開くし、硬すぎて対合の天然歯がダメージを受けるとか受けないとか物騒な話も聞く。ジルコニア冠は技工料金が安いのが売りのようだが、安いやつはちっとも美しくない。美しいジルコニア冠を求めると、結局は陶材を組み合わせたりして技工料金も青天井というハメに。それならハイブリッド冠に、となると美しさと強度の面で拭えない不安が。いまだ自費冠の主力(ですよね?)のメタボンは、実に程よいポジションにいるものだと気づかされる(合着用セメントで良いのも歯科医にとってはフレンドリー)。
最近は忘れ去られた感のあるゴールド冠(ゴールドインレー)だが、なんだかんだで良い材料でないかと思う。前歯に使うのは獅子舞じゃあるまいしご法度だが、(過去、前歯に金冠を入れて裕福さを誇示した時代があったが、外国人から奇異と嘲笑の目で見られた。その時代に海外留学をしていた人が、「日本の歯医者は美的センスの欠片どころか良識すらない」と非難されて悔しかったと述懐を残している)、咬合負担のかかる臼歯部に用いるのは良かろう。何しろ化学的変化に強く程よい硬さで、温かみがある。「銀歯」と違って、明るい印象を受けるのだ。これを利用したのが(マイナーなようだが)電鋳クラウンである。
いまでもご年配の方でゴールドインレーやゴールド冠を入れていらっしゃる方にお会いする。古いはずなのに、古さを感じさせない佇まいをしている。そして、温かな印象を受ける。良いものだと思う。
金箔充填は過去の技法として今は失われたテクニックだが、ゴールド修復はまだ残っている。
積極的に口腔内にゴールドを入れる姿勢は今の時代にはアンマッチであるが、自費の選択肢の1つとして当面は残り続けていくだろう。