2016年10月21日

ユニットさんいらっしゃい

新しいユニットが導入された。その正体はスペースラインイムシア タイプVUPを名乗る、あまりにも馴染み深い機種の新型ユニットだった!…というのは、当院のユニットは昔からモリタのスペースラインであり、母校の診療室でもスペースラインを使っていたのであり、以前の勤務先でもスペースラインだったからであります。そりゃ馴染み深い。同一メーカーのクルマに乗り続けてるようなもんです。

世の中の歯科用ユニットはモリタのスペースラインだけにあらず。様々な、メーカーごとの個性や思想が反映されたユニットがたくさん存在します。デンタルショーに足を運ぶとそこ家具屋のベッドコーナーよろしくユニットがずらりあって目移りしちゃうのは私だけではありますまい。でもたいていは、保守点検と慣れ・相性の面でいずれかのメーカーのユニットに揃えている医院が多いはず。それがモリタのスペースラインであるのが当院、というだけの話。

スペースライン(シリーズ)の特徴としては、PD診療を基軸とした設計ということでタービンやマイクロ、3wayシリンジ、バキューム等がヘッドレストのすぐそばにあります。この配置は昔のユニットでは一般的だったらしいのですが、いまではスペースラインぐらいにしか見られない様子。スペースラインに慣れていると麻痺しちゃって気づきにくいが、この配置、個人的にはあまり良くないように思う。ホースを戻すときに患者さんの髪を挟み込みかねないし、バキュームチップと接触してもおかしくない。一番恐ろしいのは、バーをつけた状態のタービンヘッドやコントラに術者の太ももが接触する事故のリスクが高いことである。ふとももあたりの服の生地は薄いのが普通だから、バーの種類にもよるが、平然と貫通する器具刺し事故は起こりうる。刺さらないにしても、軽く接触しちゃうことはたまにある。この接触事故、なぜかたいていゲーツドリルが犠牲になるのであります。

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ゴボウ男シャンクの細いゲーツドリルは外力に弱いので、軽い接触でこうなっちゃう。ゲーツドリルは僅かでもストレート性に変形をきたすと、回転時にヘッドが部が暴れ馬となりて使い物にならない。畢竟、決して変形をきたす外力を加えぬよう繊細に扱わなくてはなりません。っていうかゲイツバーの単価は馬鹿にできないほど高いのもまた事実。マニーさんちのゲーツドリルでも250円/本 ぐらいのはず。抜髄時のコロナルフレア形成のために新品のゲーツドリルを使用したときに「事故」ってお釈迦にしたときは悲しみにくれた顔で天を仰ぐことになります。

一度デンタルショーでモリタの人にこのことを伝えたところ、「先生、それはPD診療がなっとらんのです。スペースラインをさらに効率良く診療にお役立ていただくために、PD診療セミナーにご参加になられては如何でしょう?」と。まあそうかもしれんけど、なんだかなあ。合う人にはドンピシャなユニットなのでしょう、きっと。気に入ってますけどね。

ところで、この新ユニットのお値段は決して安くはない。数字だけで判断すれば、やや高くは感じる。さりとて、謎の100万円代ユニットに手を出す勇気はない。故障することなく、劣化せず、長期的に安定して使っていけるならランニングコストの面で高い評価ができよう。さて、どうなることやら。モリタのユニットはトヨタ車みたいなもんで堅牢故障知らずといわれるが、これもどうなのだろう。ユニット選びは悩ましいですね。

2016年10月16日

エンドミニで挟めるはファイルのみにあらず

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FEEDで購入できます

ROOT ZXのお供にエンドミニを購入して数年が経った。あまり使用せず埃をかぶっていたアイテムではあったが、ここにきていま、私のエンド診療の中でホット(死語)な存在になっている。

目下、私の根管形成はNiTiが主になりつつあるのだが、使用するNiTiファイルは主にウェーブワンゴールドとレシプロックといた、レシプロケーション系に限定されている(ロータリー系NiTiファイル群のひとつであるプロテーパーネクストは、理想的なストレート形態の前歯単根の場合に限定した使用になり、頻度が激減した)。

ウェーブワンゴールドとレシプロックは、本来的には決定した作業長にラバーストッパーを合わせて使用するハズだが、私はいつまでたってもこの手順に慣れることができない。ラバーストッパーを信頼していないことを見透かされているように、ラバーストッパーが私を裏切ることがしばしばである。トモダチになれそうにないのである。

こうなってくるとラバーストッパーはただの目安に過ぎず、根尖部でのシビアな位置決めに信頼たる役目をなさない。最終的にアペックスは手用ファイルで仕上げればいいだけの話かもしれないし、基準点の形成を真面目にやってないだけかもしれない。エンド畑に足を踏み入れたころから、ファイルを操作する際には常にEMRと接続してきた私にとって、ファイルの位置を電気的に知らせてくれるEMRこそトモダチに相応しいと漠然と思う。手用ファイルをEMRを頼りに操作しているのであるから、NiTiもEMRを頼りに操作してよいと思う。



エンドミニは、要はEMRのファイルクリップの変形型である。エンドミニのお尻をEMRのクリップに挟み、先端でファイルを挟んで使用する(延長コードのような感じになる)。NiTiファイルに挟むことでEMRと連動した操作を可能ならしめるところが、このエンドミニのハイライトである。NiTiファイルだけでなく手用ファイルも挟めるし、イリゲーションニードルだって挟める。

作業長にラバーストッパーを合わせた(おおよその目安の長さとして)NiTiファイルをエンドミニで挟み、根管内に挿入すれば、ファイルの位置はいつも通りにEMRにナビゲートされる。アペックス付近をNiTiで形成するときに頼りになり、最近はこれを用いて形成することが常である。

根管形成後に重要なのは、根尖部を含む根管内のクリーニングである。根管洗浄のステップがこれを担う。しかし、漫然とした根管洗浄は、ただ根管口付近に液体を満たすだけで、肝心の根尖部にはなんら到達しない。根管内と根尖部を綺麗に洗い流すというのは、想像以上に難しいことがわかっている。EndoVACやクイックエンドといった魅力的な根管洗浄器具もあるが、私は所有していない。根管拡大・形成のステップでファイル交換毎にルーチンに#08or#10Kでリカピチュレーションして目詰まりを防止しつつ、わずかな削片を根尖から出している。アペックスを#25の太さまで確保できれば、30Gのイリゲーションニードルが1mm手前までは到達できるので、生食、EDTA&ヒポクロでシリンジ洗浄する。これだけでは不十分なので、EDTAやヒポクロを満たしてから#25GPを上下させることも行う。

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イリゲーションニードルが根管内のどこに位置しているかをナビゲートしたければ、イリゲーションニードルをエンドミニで挟んだ状態で操作すれば実現する。アペックスが#30以上に拡大されていなければイリゲーションニードルが根尖に突き出ることはない。根尖部が大きく破壊されている場合にニードルの突き出しを防止する上でも割合に有効。EMRの純正クリップで挟んでも実現できるのだが、操作性が悪いのである。
 

2016年10月08日

歯髄炎の応急処置には

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「右下奥歯の歯がズキズキと痛いです」 すわ抜髄だ! しかしこのケースにペリオドンはダメだ!

印象深い国家試験の問題の禁忌肢が、「急性化膿性歯髄炎に歯髄失活剤」である。

歯髄失活剤といえば、アルゼンブラック、な感じであるが、これは現在では販売していないので入手できない。私が学生の頃はまだギリギリ、臨床で歯髄失活のために使用されていたようだが、研修医になる頃には販売中止になっていて、実際に使用している場面はおろか実物を見たこともなかったりする。

なぜ急性化膿性歯髄炎に歯髄失活剤禁忌であるのか。その理由は、(確か)「歯髄が失活するほど強力な作用を有する薬剤であるから、歯髄が化膿して急性炎症をきたしている時にアルゼンブラックを使用するととんでもない事態にことになるから」のような説明であった記憶がある。しかし抜髄をするのは、普通、歯髄が不可逆性の化膿性炎症を越している状態なのだから、それが理由ならほとんどのケースで使用できへんやないかと思ったものだ。そんなわけで先生にその疑問をぶつけると、国家試験的には禁忌だが、臨床じゃ普通に使うヨとのことであった。うーん本音と建前。

さてそんなアルゼンブラックは入手できなくなった。とはいえ、歯髄を失活させる薬効を求める声が臨床から消失したわけでない。アルゼンブラックほど強力無比ではないはずだが、似たような歯髄失活作用を有する薬剤としてペリオドンが存在する。アルゼンブラックは使わないけれども、このペリオドンは使うという先生は多いようだ。ペリオドンには塩酸ジブカインが含有されているから、残髄の痛みある場合にこれを貼薬するとかファイルに付けて使用するとか、そうした使い方をされていた場面を思い出す。そしてまた、急性化膿性根尖性歯周炎の初回時の感染根管治療にペリオドンを貼薬して重篤な医原性疼痛を患者さんに与えてしまって顔面蒼白、大目玉をもらって茫然自失となった苦い経験がある。これをして、エンドの本質が根管内感染源の機械的除去であることと本気で向かい合うことになったのだった。

使い方を誤った道具が人を殺す凶器に化けるように、材料というのは使い方が重要である。このペリオドンに関して言えば、根管治療のほとんどの場面で選択されることはない薬剤であるが、歯髄炎初期の除痛を優先した応急処置には有効だ。露出させた歯髄にペリオドンを塗布するだけでよい。

う窩へのアクセス、軟化象牙質除去からアクセスキャビティを終え、根管口に存在する歯髄組織にペリオドンを貼薬(ファイル先端に採ったペリオドンを根管口の歯髄に接触させ、ファイルを逆回転させて塗布する)して仮封(脱落を避けたいのでベースセメントが良い)するのである。歯髄組織は基本的に「虐めなければ」痛みは訴えないから、余計な感染をさせることなくペリオドンを根管口の歯髄断面にそっと貼薬すれば、ペリオドンの緩徐な麻酔作用と失活作用で自発痛を消失させることができる。浸麻の奏功が切れた後には患歯の自発痛は消えている。

もっとも、これはあくまで応急処置であるから利用には慎重になるべきだ。次回来院時には全部抜髄をすることになるわけだが、歯髄の完全失活活が得られず浸麻が必要になることも多いし、歯髄失活作用のある薬剤を使用すること自体が術者にとってストレスだからだ。

結局、浸麻をして全部抜髄をするなら、いっそのことペリオドンは貼薬せず、冠部歯髄だけを除去してヒポクロで消毒後にそのまま仮封するだけの方が安全である。歯髄炎をきたした歯髄は硬組織内で膨張することで苛烈な痛みを生じている側面もあるから、う蝕を除去して冠部歯髄を除去して仮封するだけでも歯髄内圧が抜けて楽になるものである。

冒頭の写真のような場合で、応急処置を行うならペリオドンは使用してはいけない。生活反応が残っていれば抜髄の適応なのでペリオドンを使用しても…と思わないでもない。しかしそれ以上に、根尖病変の存在が不穏で怖い。こうした場合、たいてい髄腔拡大して露見した歯髄は感染融解した状態であり、とめどない出血を伴う末期状態であったりする。当然ながら根尖性歯周炎にバトンタッチしているわけで、こんな状況でペリオドンを使うと著しい疼痛と腫張をきたすリスクがある。よしんば応急処置の除痛が達成できても、結局のところ、根管内感染有機質の除去はなんら達成されていないわけで、治癒が遠ざかっていく結果になる。

急性化膿性歯髄炎の応急処置にペリオドンは確かに有効であるが、除痛だけを優先した、姑息的な対応に過ぎないことには注意する必要がある。テクニックのひとつとして身につけておくべきではあるが、頼らない方がよい。目下、私はペリオドンを使用していない。
 
posted by ぎゅんた at 20:29| Comment(14) | TrackBack(0) | 根治(実践的) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする