2016年08月29日

開業医クイズ選手権(もどき)

線維腫かしら.jpg
口腔外科の試験問題を思い出させるような写真

 粘膜病変等で病理診断および加療を必要とする症例に出会ったとき、我々は口腔外科への受診を促すために紹介状を用意するのが慣例である。そのときには疑い病名を記載するのも常である。このとき、病名の見当が皆目つかないことほど苦しい瞬間もない。すわ不確かな知識はアテにできんと口腔外科のテキストや専門書を引っ張り出してちょいと格闘することになる(「分からないから診て下さい」なんて書けるか!)。

 学生時代、口腔外科で病名を絞り込むワークグループ的講義を受けた際、診断とは、どこかクイズ的な要素があるなあと感じたものであった。そして、確定診断が病理診断で決定されるのも格好いいと焦がれたものであった。実は学生時代の私は病理が好きで、将来は歯科病理学講座に進もうと本気で考えたことがあった。歯科病理学講座に出入りしたり、夏休みに札幌医科大の病理に見学に行ったりしたものだ。しかし、病理像スケッチがあまりに下手くそで意気消沈したあまりに便所で吐いて「やっぱやめ」と断念したのも、思い出す(スケッチが下手だからと進路を変えたのは、要するに本気で病理の道を歩む覚悟がなかったのである。本気なら、スケッチが下手だろうが病理のそばに居続けたいと意に介さないものだ。そして、スケッチの数をこなしていくうちに組織像の特徴をとらえた絵を描けるように育つものだ)。そんなかんだで、開業医になったら、粘膜病変を見逃さない病理に強いドクターになろうと誓ったものである。

 定期試験や卒業試験や国家試験では、やれ悪性黒色腫だ、舌に生じた扁平上皮癌だ乳頭腫だ血管腫だ、含歯性嚢胞だ、エナメル上皮腫だ、といったメンツが手練手管、姿形を変え我々に襲いかかってきたものであった。ここまで問題に出てくるということは、実際に頻繁に遭遇するに違いない!こえーマジこえー。とそう感じ入ったものだった。しかし現場に出てみれば、そんな病変たちの姿は何処へやら。目の前の一本の根管治療に翻弄され続ける研修医生活の幕開けとともに病理は頭からすっ飛んで行った。遭遇率は、幸いにして身構えていたほど高くなかったのである。義歯の擦れで生ずるdulとはすぐにお友達になったが…

 とはいえ臨床を年を重ねて続けていれば、これはという病変に遭遇するものだ。舌癌といった絶望的な相手に遭遇したことはないが、腺様嚢胞癌、繊維腫、乳頭腫、白板症、扁平苔癬には遭遇している。

 「いつまでたってもほっぺた内側のデキモノが消えないんです」とおっしゃられた患者さんのデキモノが記事冒頭の写真。既往や自覚症状や丘疹の所見、丘疹と粘膜との移行部の所見とか各種粘膜病変の特徴との照合から病名を絞り込み、ひとまず「気のせいだから放置で治るよ。へーきへーき」の範疇でないことから口腔外科に紹介することを考え、疑い病名をつけることになる。疑い病名だから正解でなくてもいいのは気楽…なんて発言すると怒られてしまうが、そんな意識がないといえばウソになる。そんなことを思いながら、繊維種ではないかと考え「繊維種の疑い」と記載する。

 マトモな紹介先であれば必ず結果報告がくるので、自分の読みが当たったか外れたが分かる。答え合わせするような緊張が走る瞬間でもある。やはり繊維種であった。読みが当たったことに対し嬉しい気持ちになるが、良性といえど腫瘍である事実が残る。忘れてはならないのは、病変を見逃さず、しかるべき機関に患者さんを紹介し、適切な加療が受けられる手助けができるかどうかである。これは開業医の大切な仕事のひとつである。

 歯科の疾患の大部分は炎症だから、お前らとにかく炎症に強くなれい!と講義中に我々を叱咤された歯科病理学講座の先生は元気にしておられるのだろうか。すごく、炎症が大部分です…


おまけ
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学生時代に買った本(歯科なるほどボウケン学)
研修医の時に井上先生にサイン頂戴し、みごと家宝入りを果たした一冊でもある
posted by ぎゅんた at 00:43| Comment(2) | TrackBack(0) | 根治以外の臨床 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月18日

買っちゃったよ Dr-Kim Head Lamp

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デモ機で借りたものと使い勝手になんら差はなし。とくにマイナーチェンジは行われていない様子。

購入すると、中身は以下のようである。

・箱
・ヘッドランプ
・充電器
・バッテリー2個
・ライトカバー三種

バッテリーが2個あるのは地味にありがたいところ。バッテリーが切れかかってくると光量が弱くなるよりも点滅することでバッテリー切れを知らせてくるので、それがバッテリー交換のしどき。交換したら充電にかけておけばOK。

ライトカバーは、クリア・オレンジ・ブラウン の三種類が用意されているが、オレンジを使えば良いと思われる。クリアだと白色光で自然な明るい視野が得られるのはいいのだが、ライトの光量が強いため、エナメル質とのハレーションを起こす。結果、目が痛くなる。

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※画像はイメージ

光量を絞ればエエやないかと言えばそれまでだが、せっかく明るい視野を確保するならばと光量をMAXにせざるをえない。ここでオレンジのカバーにするとハレーションが緩和されるのが、目が痛くならない。

ブラウンのカバーにすると昭和のキャバレーの照明みたいになり、せっかくの明るい視野がスポイルされる。ハハーこれはカンファキノンに反応する色調をカットしているのだなと思ったが、CRは普通に硬化してしまった。存在意義がイマイチ分からない。少なくとも歯科の領域では、オレンジのカバーでいいんじゃないですかね。
 

な、なんじゃこれはーっ!!

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終了証とステッカーが届きました。

日歯の生涯研修にソコソコ参加してることを実績として評価してくれたようです。小学校5年生のときに飼育委員を少し真面目に活動したら表彰されたのを思い出す。単に無料だから(会費の)元を取ろうと参加できるもんはしていただけなのだが、まあいいか。

しかしこんな丸シールをもらってもどうしろと。
表彰状の方は額縁で武装すればサマにもなろうが、シールは使い所が難しいやね。

自動車のヒュエルリッドに貼り付けたらエエかもしれんと試してみた。
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しかしサイズと形状が不一致で断念。美しくない。
ヒュエルリッドに貼り付けた車で歯科医師会に乗り付け、先生方から羨望の眼差しをもらう野望は潰えてしまった。残念無念。
 
posted by ぎゅんた at 22:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 勉強会・セミナー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月09日

キャビトロンセレクトSPS

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こんなことがあってチクショウ以来、信頼のおけるボトル注水型超音波スケーラーを探す日々であったが、ようやく解決の日を迎えることができた。

キャビトロンセレクトSPSは、毎度おなじみデンツプライ製の超音波スケーラーである。
展示会で実機に触れてキャッキャしているところに「展示会価格ですよ。いまならオマケもつけますよ」との悪魔の囁き耳打ちされ購入を決意。サヨナラ私のお小遣い。

このキャビトロンセレクトSPSの特徴はなんだろう?売りはなんだ?
パンフに色々と書いてあるが、GPが必要とする超音波スケーラーの肝要を3つ挙げるなら、

1.痛くない
2.歯石を除去しやすい
3.取り回しが良い

といったところだろう。私はこれに加えて、給水ボトル機構を望む。欲張って、頑丈さコンパクトさも求む。

結局のところ、術者の望む特製全てを揃える機器はないものだ。このキャビトロンセレクトSPSもそうで、ハンドピース先端にLED照明は点いていなかったりするし、作動時の本体のポンプ音が煩いところがある。それでも、このキャビトロンセレクトSPSは私のお気に入りの超音波スケーラーとして不動の地位に立つことになった。

製品カタログを参照するに、このキャビトロンはチップの振動がピエゾ型ではなくマグネット型になっている。一方方向に振動するピエゾ型と違ってチップ先端が楕円を描くように振動することで、効率的な歯石除去とキャビテーション作用、歯面への余計なダメージの回避の有効なようである。また、しばらく使用しているとハンドピース内で洗浄溶液の加温が始まって温水供給ができるようになるのは嬉しい。冷水による知覚過敏誘発を少しは避けることができるし、化学的作用を期待した溶液を使用した際にー、加温によりその化学効果の増強を期待することができるからである。注水量はハンドピース基部にあるダイヤルで行える。出るか出ないかのオンオフ調整とは違って融通の利く調整が可能。
色々あるが、とりあえず患者さんは痛がったりしない。

縁上歯石がバコバコ取れるに飽き足らず、縁下歯石の除去が頼もしいところが気に入っている。チップ先端を常に細かく動かして歯面・根面に当てる操作が要求される(営業マンによる指導)が、チップを操作しながらポケットから暗褐色や黒の歯石が飛び出してくると悦に入るぐらい気持ちが良い。シンサートなる、細く長いスリムなチップも使い勝手が良い。デブライドメント+ポケット洗浄から分岐部病変まで対応してくれる。ええかんじやで。


欠点を挙げるとすれば、いまのところ

・アイドリング時と動作時の音がやや大きい
・ハンドピース先端にライトはない
・給水ボトルの容積がもう少し欲しい
・チップが独自規格
・根管洗浄のためのエンドチップはない(はず)

これぐらいである。

なかなかバランスの良い性能を誇る超音波スケーラーではなかろうか。
コンパクトでボトル注水型なんで、訪問診療でも活躍の場がありそう。

消耗品であるチップがどれだけの期間、使い物になるかを観察するのが今後の課題といったところだ。
 

2016年08月02日

またしても外科的挺出について瑣事

残根が過ぎて保存不可能な歯保存するをための外科的挺出の臨床成績が、いまのところなかなか良好である。40歳以上の人だと成功率が下がるということだが、それを理由に挑戦しないのは勿体無いと思われる。抜歯が手早くできて、歯根に亀裂がなくて、固定がうまくいけば予後が期待できる。歯槽骨に触れている歯根の長さが10mmかそれ以下でも、うまくいけば支台歯にもっていける。MTMによる挺出が難しそうな場合は外科的挺出しかあるまい。保険が利かないことには注意が必要。

なお、この外科的挺出を適応するに際しての眼目は、患者との信頼関係が構築されていることである。患者と相性が悪いとか、そこまでして患歯の保存を望んでいない場合はしないほうがよいだろう(成功しても特に感謝されないし、「いつになったら終わるのか」と不満を言われたりする。術者の独りよがり症例になるぐらいならやらないほうが良い)。
もっとも、「患者は望まなかったが俺がやりたかったからやった」という、医師の裁量を盾にした強引さもときにはGPには必要かもしれない。


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42歳の女性。開口量不足、口腔内衛生状態不良。適応が前歯だったのでなんとかなった。歯根が短い割に生着後の動揺は少なくBrの支台歯に組み込まれた。

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縦亀裂には勝てなかったよ…
50歳女性。抜歯後に亀裂の存在が確定し外科的挺出を断念した症例。ちなみに、こうした致命的な亀裂を有する歯は、消炎処置に反応を示さない歯肉膿瘍が残ったりするので抜歯前にあらかたその存在の予想がつく。
亀裂部にMTAを流し込み封鎖した上で再植して外科的挺出をさせることができるような気がしないでもないが、目下、そこまで私はチャレンジャーではない。
 
posted by ぎゅんた at 21:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 根治(実践的) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする