診療のスキマ時間にでも、と手にした本。
医療が、およそ素人の思い付きを出ないようなデタラメやインチキ、非科学的なオカルトのごった煮に過ぎなかった歴史を有することは広く知られているところです。私が始めてことを意識したのは、高校生のころに読んだ、なだいなだ「お医者さん
人類における医療の歴史を考えると、どうしてもヒポクラテスの印象が強くあります。ヒポクラテス自身は、患者の生命力を尊重した医療(患者自身が治ろうとしている生命力を手助けすること)をベースにおいた医療行為をしていたらしく、これは現代の目から見てもフツーに納得できてしまう。この本に記載されている『「最悪」の医療の歴史』は、それ以降から近代までの間の、暗黒時代に行われた医療についてが殆どであります。もうトンデモの嵐。気分が悪くなるエピソードが洒落も諧謔もなく真顔スタイルで淡々と延々と続くので標本を見続けているような心境になることは必定。ぎゅんたはコレを訳した伊藤はるみさんを尊敬します。
歯科に関する記述もありますが、お察しの通り、歯痛と抜歯に関してがメイン。しかし先生方の診療の一助となるような知恵や知識の記述はございません。今その瞬間に役に立たない知識=雑学にはなりますが。例えば、「古代エジプトでは、歯痛に苦しむ患者の喉の奥にはネズミの死体が押しこまれた」とかは活躍できそうです。
当時の歯痛の原因の大部分は齲蝕に継発した歯髄炎であったでしょうが、「虫歯」の名のとおり、歯に虫が喰うと考えちゃうのは人間として自然な考えのようです。歯の中に虫や悪魔がいて暴れているイラストが現代に残っていたりしますものね。虫歯の虫に関しては、本書中にちょこちょこ登場します。患者の口の中に火のついた蝋燭を入れたり薔薇を燃やした煙で燻して追い出すらしいぞ。
何世紀もの間、医師も患者も煙や火で虫歯の虫をあぶりだそうとしてきた。ほとんどの場合、その小さな虫は謎のままだったが、いくつか注目すべき例外もある。コペンハーゲン大学のコベンス博士は患者の口から虫が飛び出すのを目撃し、貴重な試料をボウルの水の中で育てた。一方サムルート博士の虫は長さ約四センチで―博士によればチーズにわくウジ虫のようだった。シュルツ博士は豚の胃液をエサに一匹捕まえた。
一七三三年、科学的歯科学の父といわれるフランス人のピエール・フォルシャールが虫歯の虫は存在しないと宣言し、それ以後二度と目撃されることはなかった。(P.109から抜粋)
まとめ
