2016年07月30日

(所感)「最悪」の医療の歴史


診療のスキマ時間にでも、と手にした本。

医療が、およそ素人の思い付きを出ないようなデタラメやインチキ、非科学的なオカルトのごった煮に過ぎなかった歴史を有することは広く知られているところです。私が始めてことを意識したのは、高校生のころに読んだ、なだいなだ「お医者さん」に記述されていた「戦場で負傷した兵士の傷口には煮えたぎったサムバック油をかけたりヤキゴテを当て続けるのが当時の医療だった(当然、患者は死ぬ)」という箇所。印象深かったので記憶に残っております。中世ヨーロッパとか最悪やな

人類における医療の歴史を考えると、どうしてもヒポクラテスの印象が強くあります。ヒポクラテス自身は、患者の生命力を尊重した医療(患者自身が治ろうとしている生命力を手助けすること)をベースにおいた医療行為をしていたらしく、これは現代の目から見てもフツーに納得できてしまう。この本に記載されている『「最悪」の医療の歴史』は、それ以降から近代までの間の、暗黒時代に行われた医療についてが殆どであります。もうトンデモの嵐。気分が悪くなるエピソードが洒落も諧謔もなく真顔スタイルで淡々と延々と続くので標本を見続けているような心境になることは必定。ぎゅんたはコレを訳した伊藤はるみさんを尊敬します

歯科に関する記述もありますが、お察しの通り、歯痛と抜歯に関してがメイン。しかし先生方の診療の一助となるような知恵や知識の記述はございません。今その瞬間に役に立たない知識=雑学にはなりますが。例えば、「古代エジプトでは、歯痛に苦しむ患者の喉の奥にはネズミの死体が押しこまれた」とかは活躍できそうです。

当時の歯痛の原因の大部分は齲蝕に継発した歯髄炎であったでしょうが、「虫歯」の名のとおり、歯に虫が喰うと考えちゃうのは人間として自然な考えのようです。歯の中に虫や悪魔がいて暴れているイラストが現代に残っていたりしますものね。虫歯の虫に関しては、本書中にちょこちょこ登場します。患者の口の中に火のついた蝋燭を入れたり薔薇を燃やした煙で燻して追い出すらしいぞ。

 何世紀もの間、医師も患者も煙や火で虫歯の虫をあぶりだそうとしてきた。ほとんどの場合、その小さな虫は謎のままだったが、いくつか注目すべき例外もある。コペンハーゲン大学のコベンス博士は患者の口から虫が飛び出すのを目撃し、貴重な試料をボウルの水の中で育てた。一方サムルート博士の虫は長さ約四センチで―博士によればチーズにわくウジ虫のようだった。シュルツ博士は豚の胃液をエサに一匹捕まえた。
 一七三三年、科学的歯科学の父といわれるフランス人のピエール・フォルシャールが虫歯の虫は存在しないと宣言し、それ以後二度と目撃されることはなかった。(P.109から抜粋)


まとめ
もう笑うしかねえ.jpg
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2016年07月27日

Dr-Kim Head Lamp 再び

Arctic Survival Suit.jpg
装着するとこうなります(画像はイメージ)

まとめ
手軽に明るい術野を確保したいなら実に便利なヘッドランプ


過去にも記事にしたドクターキムヘッドランプ。
こないだ行われたコスモデンタルサージのセミナー会場で展示されていたのを気に、やっぱこれは欲しいかもと思い至った次第。お世話になっている和田精密(金沢営業所)がデモ機を持っていたなと問い合わせると、「ありますよ。使ったってや」とのことでデモ機を拝借。昔に1日だけ借りたときのと全く同じ。元カノに会う気分(嘘)。大人気デモ機として北陸三県を股をかけた八面六臂の活躍をしていた身分のくせに機器の故障やバッテリーのヘタリも見られないあたりに、この器具の信頼性が窺い知れる。

私の頭の形が変なのか、やはり装着して一時間ぐらい経つと軽い装着痛がでるものの、視界の明るさが容易に得られるハンドリングの良さも変わらず。

よく見るとライトキャップが薄オレンジ色で、カンファキノンに反応する色調をカットしているように見える。なるほど、光重合レジンを操作しているときに硬化されてしまってはかなわないための、当然の配慮というわけだ。
ぼく「お、遮光板かこれ」
へっどらんぷ「せやで」
こんぽじっとれじん「かもんかもーん」

このような脳内劇場を想像しながらDr.キムヘッドランプを装着してCR修復をしたところ、ペーストレジンが硬化してしまった。チンタラやってるからユニットのライトで硬化したのかもしれない。そう思ってCRに光を当てたらすぐに硬化していた。下手な照射器顔負けだ!

少なくともこのデモ機では光重合型レジンとは相性が悪いことが判明した。最新型でこの問題が改善解決されているかは不明だが、光重合の影響は避けられないものと考えたほうがよさそうだ。また、両眼の間に垂直にランプが2つ位置する設計であるため、どうしても視界内に縦の影が入ることも避けられない。装着してしまえば意外に気にならないものだが、気になるといえば気になる(どっちやねん)。車のルームミラーにアクセサリーを吊り下げると視界に入って気になってしまうものだが、あんな感じかも。

LEDの明るさはかなりのもの。光源を直視してしまうとフラッシュバンよろしく目がしばらく痛くなのダメージを負うので、患者さんの目に光を絶対に当てないようにしなくてはならない。明るさの調整はチャチなダイヤルスイッチで行える。

その他、マスクをしてこのヘッドランプを装着してメガネルーペ等を装着すると異様な風貌になるので子どもには怖がられそうである。虫歯菌やっつける光線を出すライトやで、とウケを狙うのはあり。

お値段は105000円(税別)でどこのディーラーで買おうが一律とのこと。値引き不可(多分)。強気な韓国製。
 

2016年07月25日

ドライソケット窩にサージカルパック

サージカルパック.jpg

この埋伏智歯はウチではリスクが高すぎて抜けませんわ…となった時、開業医は患者に説明の上、しかるべき口腔外科に紹介することになる。そうでない場合は、自院で抜歯する。いかなる智歯も全て自院で抜歯するという先生は、おそらく口腔外科を標榜しておられる。うちはそうではない。手に余る難易度の智歯抜歯は紹介している。本当は抜けた方が格好がいいのだが、私の腕とマンパワー、なによりいざという時のバックアップに不安がある。

不幸なことに、紹介して抜歯された患者さんの中にドライソケットに苛まれる方がいる。成書で中年女性に多いとあるが、中年の男性の方が多い気がする。他院で智歯抜歯を受けてドライソケットになって…という方も稀におられる。その都度、抜歯が怖くなる。

ドライソケットの症状で特徴的なのが、鎮痛剤を服用しても効果がの薄い強い自発痛である。自分自身で経験したことがないから、その痛みは想像することしかできない。夜も眠れないほどの痛み(しかも鎮痛剤が効かない)となれば、痛風発作で夜間に痛みに泣いた経験のある自分としては、ある程度の想像もつくのだが、それが口の中の痛みとあれば、煩悶苦悶であろう。他人の痛みは自分の痛みには決してなれないけれども、患者の痛みに身体で共感できる能力は歯科医に求められる能力に違いない。

いずれにせよ、ドライソケットに苛まれる患者の願いは速やかな除痛である。
現時点で私が知り得る有効打は、わずかに緩く練り上げた酸化亜鉛ユージノールセメントを生食洗浄した抜歯窩に蓋をするように置く(充填するわけではない)というもので、これは即効性がある。ユージノール成分が除痛に効くのであろう。ドラソケットを治癒するわけではなく、あくまで除痛処置でしかないことには注意が必要だが、ドラソケットは痛みが消えるまでじっと治癒を待たざるをえない(嵐が過ぎ去るのを待つ)側面が強いため、この手法が対症療法に過ぎないとはいえ無価値な手法とはいえまい。

なお、酸化亜鉛ユージノールセメントではなく、サージカルパック(昭和薬品)を用いても同様の効果が得られる。歯周外科後の創傷の繃帯剤である性格的に、サージカルパックの方が望ましいだろう。使い方は同じである。


過去記事
↪︎煩悶苦悶のドラソケット
コメントを下さったK先生に感謝いたします。

 
posted by ぎゅんた at 22:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 根治以外の臨床 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする