2016年06月23日

院内無線の導入

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アリンコアルインコ製。本文で述べるがこのイヤホンは罠であるから選択してはならない

以前に勤務していた先で導入されていたのが院内無線である。スタッフ全員がトランシーバーを装備して、誰かがマイクで発言した内容は、すべての人で共有する仕組み。そんなもんいらんやろ大袈裟なと思ったものだったが、いざ使ってみるとこれはたいそう、便利なのであった。掌返しここに極まれり。


院内無線に対する個人的な感想は、

・なくてもいいが、あった方がスマート
・医院の規模が大きければ大きいほど、効力を発揮するアイテム

といったところ。
ここ10年ぐらいの間に、かなり普及が進んだアイテムなのではないかと思う。効率的な診療を目指すうえでは欠くべからざるアイテムであろう。


実家の医院に帰ったら即導入じゃあと計画していたが、「そんなもんいらん」の反対の憂き目に遭い頓挫。このたび、数年越しに、導入にこぎつける悲願を達成した次第。事あるたびに導入のメリットを訴え続けたこともあるが、業者任せの場合の見積書をまず見せてから「自前で用意したらこれだけ」の見積書を見せたのが決め手だったようだ。


自前で用意する、とは
単純に、以前の勤務先の院長に紹介してもらった店舗に足を運んで揃えただけである。

必要なものはシンプル極まりなく、

・無線機本体
・イヤホンマイク(耳かけタイプ)
・単三電池

の3つで、これを使用する人数分、用意すれば良いだけだ。
無線機も本格的なレベルのものは必要ない。なぜなら、その使用は屋内の広くない空間内で完結する極めて限定的なものだからだ。シンプルで安価で堅牢なものであればあるほど良いのである。

私が購入したのはALINCOのDJ-P221で、純正マイク付きイヤホン、単三電池にエネループProである。無線機本体が9412円、イヤホンマイクが2700円であったから、消費税込み適当計算で約1万3千円ぐらい。エネループProは、口腔内カメラその他で使用しているストックがあったので新規に用意せずに済んだ。

いまのところ、故障やジャミングはなく、快適に使用できている。最初はその使用に戸惑いを隠せなかったスタッフもすぐに順応した。使えば分かる便利さと簡単さがダンチ(死語)だからである。


同タイプの無線を考える方に私からのアドバイス
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イヤホンマイクは耳掛け式(写真左側)を選択すべき。
メガネをかけるから耳掛け式は…という方は、いわゆるウォークマンタイプの、平丸型のタイプがよい(写真右側)。なお、メガネをかけていても耳掛け式は使用できる。
耳栓みたいな、カナル式は絶対にアウトである。カナル式はフ☺️ックであるといわざるをえない。人数分のカナル式イヤホンマイクを買って無駄金を使い悔恨に生きる私からの痛切なアドバイスである。


購入
無線機を扱う店ならどこでも購入できると思うが、オープン価格なので値段には差があるようだ。
私が購入した店は以下のとおりである。

マルツ金沢西インター店
石川県金沢市明町2-267
☎︎076-291-0202
📠076-291-3737
 
posted by ぎゅんた at 21:27| Comment(6) | TrackBack(0) | 歯科医院について | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年06月21日

感染根管治療のオプションに外科的挺出

根管治療における外科的挺出は、歯肉縁下が過ぎて、根管治療のみならずその後の処置が極めて困難であるか不可能である場合に検討する手法のひとつである。意図的再植と「一度抜歯して、抜歯窩に戻す」という点で似ているが、大きく異なる点は、抜去後に患歯を挺出させた位置で固定することと逆根管充填をしないことである(ケースバイケースで逆根充しても良いと思う。してはいけない決まりはないハズ)。


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(51歳 女性)
生着後の動揺の消失が早かった症例。軟象を取り残してるぞコノヤロー。根尖合流タイプだった。


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(57歳 男性)
歯冠歯根比不良で、ダウエルコアのポストが存在している。外科的挺出を行ってからポストを除去し、感染根管治療を行った症例。ダメ元で…とやってみたが良好な結果が得られて患者さんと喜んだ症例。


※写真なし(74歳 男性)C型肝炎
高齢にもかかわらず、なんとか生着が得られた。現在治療中。


今後の経過や新症例のフィードバックが不可欠だが、成功の秘訣は以下のように感じている。

成功の秘訣(?)
・年齢が若い方が成功しやすい
・患歯の歯根が短すぎると厳しい
・歯槽骨が少ないと絶望的なので無理(歯槽骨がリッチであると生着後の動揺の消失が早い)
・挺出後の固定がシッカリできれば生着の期待大
・固定後は感染との戦いなので、プラークコントロールが不良な人は厳しい
・「うまくいったらラッキーな処置」と説明しておく必要がある
・固定のためにどうしても審美不良になる期間が生じることは予め説明する(特に前歯〜小臼歯部)
・案外、喜ばれない(処置・治療期間が長くなるからやむなし)

実際に行う上での注意点
・脱臼させた患歯根面に縁下歯石や肉芽があれば除去する
・抜歯窩に肉芽や嚢胞があれば徹底掻爬する
・挺出させて縫合糸で固定するが、その固定が不安定なら接着性レジンを併用する
・中心咬合や側方運動で患歯との接触がないようにする
・生着して治療に移れるようになっても、歯のわずかな移動が常に心配なので支台築造後はプロビジョナルで経過を追うと安全では
・保険による評価がない

生着しなかった場合は、生体の異物除去反応によって自然脱落の経過をとる。縫合糸で固定してあると、歯根周囲から排膿や腐敗臭が観察されるのでダメならすぐにわかる(縫合糸を解けば脱落する)。患歯の固定と安静、感染からの隔離が生着に重要なようだ。

対象となる歯は、前歯〜小臼歯が主である。抜歯操作は残根抜歯と同じである。ヘーベルで脱臼させたら、静かに引きずりだし、挺出具合のシミュレーションを行う。縫合糸で固定するために、挺出後のおさまりどころの良い場所を探す。患歯を180度回転させることもある。縫合糸による固定はややテクニックが必要(これは月星先生の「自家歯牙移植」をご参照されたい)。縫合糸による固定は、縫合糸の緩みと清潔性確保の観点から、せいぜい2週間ほどで、その後は固定用ワイヤーと接着性レジンによる固定に置き換えると良いと思う。

偉そうに語れるほどの症例を持っているわけではないが、外科的挺出といった治療の引き出しを増やしたいと考えているために記事にさせていただいた次第である。
というか資料どりは真面目に規格的に計画的にやれ。
 

posted by ぎゅんた at 07:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 根治(考察) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年06月15日

FPツイーザー(エンド用ピンセット ロック付)とファイバーポスト

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ファイバーポストを用いる直接法支台築造では、レジンポストと築造用レジンコアの接着が鍵になる。
レジンポストは、最初はGCのファイバーポストがメインだったが、いまでは他社からも上市されるようになり、選択の幅が増えた。中には、シラン売り処理済のものもある。

接着操作に最も必要なのは、すぐれた製品を選択することではなく、接着のメカニズムを理解して材料を使いこなすことである、歯科理工学の見地からすると、水気にまみれた口腔内で歯質にレジンを接着させるなど無謀行為に他ならないらしいが、なんだかんだで日本が産み育てただ接着歯学は、臨床上、問題のないレベルで口腔内で歯質とレジンの接着を実現している。しかし、材料を正しく使いこなさなくてはならない原則は変わらない。

ファイバーポストを用いた直接法の支台築造において重要なことは、ポストを汚染しないで扱うことであろう。被着面の汚染は著しい接着不良を招くからである。水、唾液、血液はレジン(油)にとって最強最悪の分離剤であるから、接着操作の時点でこれらは除去され清浄であらねばばならない。イボクラールのIvocleanなど、専用の材料もあるが、保険診療ではコストが気になるかもしれない。古典的ながら、私は

水洗⇨リン酸エッチング⇨水洗⇨乾燥⇨シランカップリング処理⇨乾燥(できれば温熱乾燥)

を採用している。リン酸エッチングは、フィラーが含まれていないものが良いが、含有されているなら水洗を念入りに。シランカップリング剤は気に入ったものを用いればよいが、処理時間は1分以上かけることが肝要である。

これを汚染させないよう注意して、ポストホールへ移送するわけだが、なにせファイバーポストは円柱状だから滑りやすい。床に落としたら一発アウトのゲームセット。強力な把持をかけたまま一連の被着処理行い、そのままポストホールへ移送させる必要がある。

ここで便利なのがエンド用ピンセットで、ロック付ものである。各種様々あるが、私はFEEDで購入できるFPツイーザー(エンド用)を用いている。ファイバーポストの頭の部分(形成で除去される部分)を把持してロックすれば良好な取り回しが実現する。最近、値段が下がって483円になったばかりなのも嬉しいところだ。

ファイバーポストと支台築造用材料の一式の中にこのピンセットを2本ほど用意しておくと良い。根治時に用いるエンド用ピンセットと区別がつき辛いところがあるが、このFPツイーザーは灰色のケース付きなので、それを利用すれば区別も容易である。
 

2016年06月14日

【乳臼歯の抜髄】さて、どう攻める?

乳歯のう蝕の好発部位が乳臼歯隣接面にあることは、小児の歯科治療を行うようになってすぐに悟る事実である。そしてまた、乳歯のう蝕は進行がとてつもなく早いので、X線写真を撮影したタイミングですでに歯髄感染に至っている場合がしばしばである。厄介なのは仮性露髄で自発痛を訴えない場合である。この場合に歯髄処置を忌避してCRやGIC充填を行って、後日、痛みを訴えて来院されたり、根尖性歯周炎に至って歯肉に膿瘍を形成されたりすると目も当てられない(患児はどうとも思わないようだが、保護者が誤診だと訝しんだり、治療ミスだと怒るからである)。X線写真写真上でう蝕病巣と歯髄にわずかに距離があっても、既に感染していたりすることが多いようだ。乳歯の根管治療の頼みの綱である断髄法にしても、根尖歯髄までの炎症の波及が早すぎて適応時期を過ぎてしまっているケースが少なくない。

経験上、このことを承知しているドクターは、抜髄に素直に踏み切る姿勢にある。一方、歯髄保存を優先したいドクターは間接覆髄や充填で対応する。私は後者よりの考えだが、打診痛があれば脊髄反射で抜髄に踏み切る(打診痛さえなければ、歯髄保存の方針をとる。う蝕除去時に露髄したら断髄法を採る)。

浸麻したら、タービンでエナメル開拡してう蝕病巣をスプーンエキスカでゴリゴリとる(スチールのラウンドバーで除去する方が楽で速いのだが、音と振動を嫌がる小児が多い。「スプーンで虫歯さん取るわ」とエキスカを見せるとわりあい協力的になってくれる)。それで露髄したら「それまで」と歯髄処置に踏み切る決心がつくからである。

充填材料を接着させづらい乳歯では軟化象牙質の取り残しは致命打となる。唾液の洪水である小児の口の中で、最善の治療を目指すなら軟化象牙質の徹底除去は絶対である。古典的な考えだとは思うが、保険診療で最善を尽くすならこうするほかあるまい。


本記事のトピックは、乳臼歯の抜髄である。

これについて、成書で真面目に答えられている例は少ない(と感じる)。なぜだろう。乳歯は永久歯による歯根吸収を受けるので、体系だった手法を確立できない側面があるからと思われる。また、生命力が旺盛なため、う蝕の除去と大まかな歯髄除去が達成できさえすれば「なんとか(交換時期まで)もってくれる」側面も考えられる。このことに甘えると「テキトーにやっても大丈夫だから。へーきへーき」という処置になるが、それでもなんとかなっているのが現実だろう。しかし、いくらなんでも小児の高い生命力に依存しすぎではないか。やはり「こうあればこう」な、確かな、気持ちのよい術式を有したいものだ。


小児の治療を担当した研修医時代から、小児の根管治療は苦手で避けたい処置であった。小児は治療に協力的とはいえず、口腔内は常に唾液の洪水で、患歯を舐めまわそうと舌を走らせる。できる限り感染源を除去したらビタペックスを注入してベースセメントで封をすることだけを、見かけ上、なんとか達成するのがせいぜいだった。そして、しばしばPerって歯肉膿瘍を継発してきた。

乳歯の根尖性歯周炎は後続永久歯の歯胚回避を招き歯列不正の原因となる。「なんとかなってくれる」とはいえ、自分の治療が患歯にとって役に立っていないことに焦燥と苛立ちをおぼえていた(いまでも、ある)。

ミゼラブルな結果になったのは、明確な原因がある。

1.感染源を取りきれていない
2.感染源を取った後の患歯の内部が死腔だらけ
3.不十分な封鎖によるコロナルリーケージ

乳臼歯の根管が髄床底からなにまで隙間だらけとか、水分含有率の高い歯質によるリーケージ・リスクといった要因もあるが、それでも、多くは1~3.が原因である。

感染源が取りきれていないのは、術者が感染源の徹底除去に対してやる気がないか、器具を使いこなせていないかである。小児の歯科治療は痛みと不安の払拭とスピード勝負なので術者は焦燥感に駆られるものだが、感染源の除去だけは疎かにできない。これを達成するためには、ひとえに小児を(目の前の治療に対し)従順にさせることである。痛みのない浸麻ができれば多くの小児は治療中に寝てしまう程おとなしくなるので、痛みなく浸麻することが成功への近道でもある。寝てしまった時の治療のためにバイトブロックや開口器は用意しておこう。

抜髄は全部歯髄除去をいうから、根管内へのアプローチが必要になる。乳歯の場合、どのように抜髄するか?私はゲイツバー#2,3,4 を用いた機械的な抜髄を教わった。作業長もくそもなく、根管口からゲイツバーで歯髄を除去するのである。おおよそ除去できたら、ビタペックスをシリンジ注入(糊剤根充)してリン酸亜鉛セメントやベースセメントで築造するように封鎖する。ビタペックスをシリンジで注入した後に、滅菌綿球で圧接するわけだが、その時に出血があってはいけない。出血の存在は築造後のリーケージになるからである。そして、止血がしっかりできていれば、予後は悪くない。

この方法は確かに手早いのだが、歯髄除去の確実性の面で劣っているように思える。根管内の歯髄の除去がうまくいかないといつまでも出血してくるので、これは看過できないところだ。

知り合いの先生に意見を仰いだところ、歯根の吸収がまださしてない乳歯なら、EMRと#25以上の手用ファイルを併用するとのことであった。根尖部が太く開いている乳歯の根管であっても、EMRは使用できるのである。この方法は、ゲイツバーだけの除去に比べて一手間かかるが、歯髄除去と止血の面でより有利になる。

ものぐさな私は、抜髄時にNiTiファイルを根管に挿入するとファイルに絡まってくることを思い出してプロテーパーネクストやウェーブワンゴールドで効率的な歯髄除去を狙ってみたが、さしたる効果は得らえなかった。もう少し追試が必要である。

乳歯の根充は、後続永久歯が存在しないケースを除けば、歯根吸収を考慮してガッタパーチャ用いず(東洋のオブチュレーションガッタは吸収されるので使ってもよいとされるが、通常のポイント状のそれは使わない)、糊剤根充として水酸化カルシウム製剤を用いるのが一般的だ。私はビタペックスを使っている。歯髄を除去し、止血が得られていることを確認した根管に注入して、滅菌綿球で圧接して出血がないことを確認してセメント築造しよう。


posted by ぎゅんた at 16:39| Comment(2) | TrackBack(0) | 根治(実践的) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする