2016年03月12日
目下のところのウェーブワンゴールドさん
ウェーブワンゴールドを使い始めてしばらくになるので、実際の使い勝手や思うところを述べてみたい。
レシプロケーティング・モーション
逆回転時に切削するので、正回転時には根管壁を切削しない。従って、エンドモーターの設定を間違ってロータリー・ムーブメントのまま使用してしまったとしても、ファイルが根管壁に食い込んで破折したりはしない。ある意味でフェイルセーフになっている。
ファイルはかなり柔軟で、根管に挿入していくと根管に沿って根尖まで到達しようとする。全てのNiTiファイルと同様に、手用ファイルでネゴシエーションして根尖への道筋を作ってから拡大形成を行う。この道筋がしっかりしていればいるほど、ファイルの交通性が安定確保されるので、ネゴシエーションしたファイルをすぐには根管から抜かず、上下運動でグライドパスを形成するべきである。ウェーブワンゴールドでは、そのプロトコールで、ネゴシエーション後にプログライダーを用いてグライドパスを形成することを推奨している。
NiTiファイルはその破折防止のために、拡大ではなく形成に用いるべきと考えられるが、レシプロケーティング・モーションは破折防止に有利に働くので、拡大と形成を同時に行う設計になっている。グライドパス形成後は、基本的にプライマリのファイルで拡大形成を終える。これにより、アペックスが25号で7度のテーパーがついた根管に仕上がる。
拡大と形成
クラウンダウンの様式で根管の拡大と形成が行われる。
キチキチキチ…と動作させたファイルを根管に挿入し、数回、ペッキングさせたらファイルに付着した削片を拭い、根管洗浄で削片を出し、ネゴシエーションした手に用ファイルでリカピチュレーションする。これを繰り返すうちに、次第に根尖方向にファイルが到達するようになる。最初は感触もキツくて根尖までまったく届かないので不安になるが、ファイルを信じて作業を繰り返すほかにない。それなりに時間と手前がかかるが、根尖部に湾曲があっても走行から逸脱せずに拡大形成してくれるのは流石である。絶対にレッジを作りたくない湾曲が見られる根管の拡大形成に向いている。一方、ストレートに近い単根管であれば、プロテーパーネクストで一気に仕上げる方が楽で早いので使い分けをしてもよさそうだ。
破折はする
ファイル自体の物性とレシプロケーティング・モーションによって破折に対する抵抗性を有するが、あくまで「しにくい」だけであって、破折に対するリスクマネジメントは当然ながら必要である。メーカーは1F-1P(ワンペーシェント-ワンファイル)を前提に設計しており、繰り返しの使用は慎むべきとしている。が、そんなことはどのファイルでも同じことだったりする。
なお、ウェーブワンゴールドは滅菌(オートクレーブ/ケミクレーブ)にかけると、ファイル基部のカラーバンド部が膨張してエンドコントラに装着できなくなる。超音波洗浄と薬液消毒で繰り返し使用することを考えるなら、同一患者に限定しなくてはならない。
流石に一回こっきりの使い捨てはコスト的に許容できないので、膨張したカラーバンドを除去して複数回は使用したいところだ。抜去歯牙で繰り返し使用し続けたところ、最終的には破折の結末を迎えたが、予想以上に「粘ってくれる」印象を受けている。新品使用▶滅菌▶使用 程度なら折れることはあるまい。
カラーバンドは、ワイヤカッターで切れ目を入れてホウのプライヤーで潰せば簡単に除去できる。
根管内で破折したら
破折させてしまったとしても、意外にも#10程度の細いファイルを根尖まで通すことができることがある。偏位させることなく根管の中央にファイルが位置しようとするバランスドフォースの動きがあるためか、破折片が根管の中央に留まることで、根管壁に沿って挿入されてきたファイルが隙間から通過できるのかもしれない。
なお、根管内でファイルが破折したら、そのことは絶対にX-ray写真で確認・記録をとり、患者に説明せねばならない。破折ファイルにアクセスできるなら除去を狙うが、マイクロスコープが無いと厳しい。
形成と根管洗浄
「これ一本で」のプライマリで形成すると25号テーパー7度の根管が出来あがるが、この太さでは根尖部の綺麗な洗浄は困難である。更にミディアムで拡大形成して35号テーパー6度の根管にすると根尖部の洗浄が容易で確実になる。しかし、根尖部は可及的に拡大を避けたい考えもある。特に抜髄根管のような根尖部が無菌的である場合は最小限の形成に抑えたい向きがある。その場合は、プライマリ一本で終えても問題はなさそうな気がする。この辺りについてはいまも考えに整理がついていない。25号の根尖部に到達できる31Gのイリゲーションニードルがあれば良いのだが、今のところ入手できていない。
2016年03月03日
根管洗浄とパフの関係
パフを得るための肝要は根管洗浄にある。
根尖部に debris が残っていれば、シーラーの動態を阻害することになる(この時点で緊密な根尖部の封鎖が不完全にもなる)。根尖部の debris は、乾燥が得られにくい環境から泥のようになっているはずで、シーラーが入り込む程度の太さの側枝があれば、栓のように封鎖することになる。
この debris の蓋は機械的な洗浄だけでは除去しにくい。EDTAとヒポクロを組み合わせた根管洗浄がいまもゴールドスタンダードであることには、それなりに理由がある。このとき用いる溶液の濃度は、EDTAが17%でヒポクロが6%が主流のようである。
とにもかくにも、根尖部を綺麗に洗浄しなくては根充してはいけないのである。
およそ考えられる臨床的に理想的な根管洗浄は、超音波吸引洗浄であろう。根尖部の debris を超音波で攪拌・浮かせたところを吸引することで効率的に洗浄できるからだ。根尖部に遺してしまった debris は、長期予後の不安因子になるし、根充による根尖部封鎖を不安定にするし、根尖歯周組織への押し出しを防きたいので可及的に除去せねばならない。
根尖部を緊密に封鎖して根管内と根尖外との交通の遮断を目的に根管充填を行わけだが、そのとき、根充時の加圧によって debris を根尖孔外に押し出してしまえば根尖歯周組織で炎症を惹起することになる。「根尖歯周組織は生体内だから、たとえ押し出してしまっても生体が処理してくれる」と述べたのはシルダー先生だったかと思うが、根尖のような摩訶不思議なフィールドで生体の治癒力が全て発揮されるとは思えないし、生体の治癒力をそこまで信頼するのもどうかと思う。根尖歯周組織は根管のゴミ処理場ではないからである。「最悪、根尖外に押し出してしまっても、何とかしてくれるかもしれない」ぐらいの、最低限の保険と考えておくのが関の山であろう。いずれにせよ、根尖部の洗浄は極めて重要である。
一般的な根管洗浄の手法といえば、ミニウムシリンジやルートキャナルシリンジで洗浄液を根管に、とい
認識であろう。ここで注意したいのは、根尖部にシリンジ先端が届いているかどうかだ。シリンジの先端が届かなければ洗えないのである。細く狭い空間である根尖部を洗浄するのは、意外に大変なのだ。
私は、ルアーロック式のディスポシリンジにラウンドエンド処理されたダブルホールタイプのイリゲーションニードルを組み合わせて用いている。30Gは水・生理食塩水・機能水・EDTAで、ヒポクロのみ27Gを用いている。イリゲーションニードルはCiメディカルで購入していたが、最近、同等品がFEEDで扱われるようになり、そちらに切り替えた。使用感は同じである。
抜去歯牙で確認できるが、30Gというのは、30号のファイル先端におよそ一致する太さである。従って、アペックスを30号で拡大すれば30Gのイリゲーションニードルを到達させることができる。これで根尖部の洗浄を、最低限のレベルで行えるようになる。とはいえこの太さではキツキツなので、実際に過不足なく洗浄するには、アペックスは最低35号の拡大が必要で、なおかつテーパーが6度以上必要と思われる。これにより、イリゲーションニードルの根管壁との衝突を予防できる(細いニードルがへしゃげて折れることだけは避けたい)し、上下運動させながら洗浄させることが容易になる。理想的には、アペックス25号に対応する31Gのイリゲーションニードルが欲しいところだが、目下のところ入手先が分からない。あってもコスト的に高そうだが…
なお「根管-根尖部の乾燥」もエンドでは重要なステップ。機会があれば記事にしたいところだ。
ラベル:根管洗浄
2016年03月01日
シーラーが溢出しちゃっての根充後の痛み
根充によってシーラーが根尖孔から溢出すると、根充後に疼痛を訴えられることがある。特にユージノール系シーラーは強い痛みになる。最近のシーラーはレジン築造の普及に伴って非ユージノール系が主流になっているので、拘りでもなければ非ユージノール系のシーラーを選択すべきだろう。とはいえ、そんな非ユージノール系のシーラーであっても、根尖部から溢出すれば痛みが起きる点では変わりはない。
根尖孔をガッタパーチャで緊密に封鎖するためにはシーラーを併用する方法が一般的である。どのシーラー(製品)を用いるべきかは、なんとも言えないが、垂直加圧充填を行うことがある私はAHプラスを使用している。これは古典的なシーラーだが、いまだに世界中で使用されている点で実績がある。
シーラーが根充によって根尖から溢出すると確認デンタル写真上でパフとして写る。パフの規模が小さければ、根充の瞬間(シーラーが根尖孔からでた瞬間)に一瞬の痛み程度で術後疼痛はないまま経過することが殆どだが、パフの規模が大きくなると術後疼痛が大きくなりやすい。
拡大した(術者が機械的に触れた)部分までをシーラーとガッタパーチャが、それから先の、生理学的根尖孔から解剖学的根尖孔あたりの空隙にシーラー少し漏れて、小さなパフとして確認デンタルに写るぐらいの規模が望ましい気がしている。シーラーは異物なのだから、根尖から溢出させる量は少ないほうが良いに決まっている。決してオーバーさせてはいけないという考えもある。そのなかで私は、小さなパフが得られる根充が好きである。実際に優れた根管充填の証拠になるかどうかは別として、上手く根充が出来た達成感があるからだ。側枝までシーラーが入り込んでいる像が得られると本当に嬉しい気持ちになる。多分に術者の恣意的な感情である。
パフは大きくて目立っていれば良いものではないから、これぐらいの規模のものが理想的かなと思う。この程度のパフであれば、痛みは全くないか、ごく軽微な一過性で済む。
※ラテラル根充。形成があまり連続的でなく、根管口付近の充填が甘いのがイマイチ
拡大した(術者が機械的に触れた)部分までをシーラーとガッタパーチャが、それから先の、生理学的根尖孔から解剖学的根尖孔あたりの空隙にシーラー少し漏れて、小さなパフとして確認デンタルに写るぐらいがよさそうだ。無用な根充後の痛みも殆ど無くてすむ。
流れ出たガッタパーチャによるパフはよろしくはあるまい。溢出したガッタパーチャ表面にアスペルギルスがバイオフィルムを形成する可能性についての報告があるからである。溢出したガッタパーチャも、長期的にみれば吸収されていくのだろうが、存在感の大きな異物であるから、決して根尖からは出してはならないと考えておくべきだろう。
なお、根尖部の洗浄が不完全な場合に根尖からシーラーやガッタパーチャが溢出する根充をすると、感染源を根尖孔外に押し出すことによる術後疼痛がでることが多い。場合によっては根尖病変を形成させる医原性行為になりうる。根尖部から出してしまった「異物」を除去するためには、多くの場合、外科的アプローチを要することになる。そういう意味では、アンダーであれば根管からのリトリートメントが利く余地が残されている面で安全といえる。しかし、アンダーであるとすると、格好の良いエンドからは遠ざかる気がしてならない。拡大したところまで根充されておらず死腔があれば、将来の感染根管治療の予約チケットを渡すようなものだ。