2016年02月20日

高齢の患者さんに生活歯髄切断

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生切、というと、乳歯におけるFC断髄法とか水酸化カルシウム法とか、歯科医師国家試験的断片知識が頭をよぎるのは私だけではないはずである。

乳歯ではこの生切(断髄)、しばしば行われるが、永久歯ではあまり行われないようだ。もっぱら、全部歯髄切断=抜髄が選択される。しかしこの生切、永久歯でも症例を選べば有用なテクニックだと私は捉えている。

というのは、臨床的に

1.歯髄は、虐めさえしなければ痛みを訴えない
2.歯冠部〜根管口部までの歯髄除去ができればよい(抜髄に比べれば、術者の技術的なストレスはかなり小さくて済む)
3.知覚過敏症状からの解放に有効
4.これでダメなら、全部歯髄切断に移行できる

こうした事情が考慮できるからである。

私が永久歯の生切を考慮するのは、強い知覚過敏症状を訴える高齢者の場合がほとんどである。高齢の患者さんは痛みに対して我慢強い傾向があるけれども、頬を抑えながら「口をゆすぐ常温の水でも、飛び上がるほど痛いんです」と痛切に訴える方も少なからずおられる。ここで、「たかが知覚過敏程度の痛みで大げさな…」と断じてはならない。この患者さんにとって、知覚過敏の痛みは、日常生活を苛むほどの痛みなのだ。他人の痛みは想像することしかできないことを忘れてはならない。

知覚過敏が認められる場合、食生活の急な変化やTCHを含むブラキシズムの有無をチェックし、患歯に早期接触やバランシング・コンタクトがあればその除去を検討し、歯磨剤を用いない丁寧なブラッシングを励行してもらうことで軽快を期待するのが一般的であろう。しかし不思議とこれは高齢者には効果が得られにくい。通り一遍の知覚過敏処置を行っても、もう一つ効果が乏しいのだ。唾液の働きが弱っているのか、慢性的な刺激で不可逆的な歯髄充血に至っているのか定かではない。若年者の知覚過敏で抜髄を選択することになるケースはまずない。

知覚過敏の対処に抜髄を選択するのは、歯科医師としては歯を明確に殺しにかかることだから避けようとする。私も、そうだ。しかし、高齢者の強い知覚過敏には、その除痛を目的に抜髄を考慮する場面があってもよいと思う。沁みなくなるなら、歯を抜いてくれて構わないと訴えられることだってある。

強い知覚過敏を認めるけれども打診痛を認めない場合に、私は生切を考慮する。高齢者の歯髄腔は狭窄していることが多く、単純に抜髄の難易度が高くなりやすい。そして、体力的に長時間の開口や治療が苦手である。先述の通り、歯髄は虐めなければ痛みを訴えない。根管口までの冠部歯髄を除去し、感染させることなく封鎖してしまえばよいのである。経過不良だった場合は、本来的な全部歯髄切断に移行する余地も残しておける。なにより、抜髄に比べて難易度も下がるし(術者の心理的ストレスも下がる)、術後の一過性の疼痛も生じないし、確実な除痛が得られる点で優れている。最も嬉しいのは、知覚過敏から解放されて喜ぶ患者さんの反応であるのは言うまでもない。

術式にさほど難しい点はない。抜髄処置に感染が厳禁であるのと同様、徐々すべき感染源の徹底除去と防湿が鍵である。ラウンドバーで冠部歯髄を根管口まで切断除去し、根管口の歯髄の上に水酸化カルシウム製剤を無圧的に載せてベースセメントで仮封すれば終わりである(私は水酸化カルシウム製剤にカルビタール、その上に一層、オブチュレーションガッタを敷いてベースセメント仮封している)。次回来院時に知覚過敏の消退と自発痛・打診痛のないことを確認しよう。
 
posted by ぎゅんた at 00:46| Comment(4) | TrackBack(0) | 根治(実践的) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年02月10日

患者さんからのいただきもの

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慌てて写真を撮ったの図


バレンタイン前ではありますが、治療がひと段落し、メンテナンスに移行された患者さんよりチョコレートをいただいた。ちなみにおばちゃん。

漫画やドラマでは、手術前に担当医に「心づけ」で現金を渡したりする場面がみられる。これは、過去によくみられた風習のようである。歯科では、これはない。お菓子や野菜や果物を「差し入れ」としていただいたりすることはあっても、金品的な「心づけ」を受け取る風習はないのである。

最近では、こうした「心づけ」は頑として受け取らない決まりになったようで、病院の壁に「貰いものお断り」な張り紙がしてあったりする。ちなみに当院の壁にはそんな張り紙はない。畑でとれた野菜やら果物やらお菓子などの差し入れははありがたく頂戴し、スタッフで分配して食べている。昔からずっとそうしている。金品の心づけは一度たりとてない。

野菜や果物では難しいが、お菓子を受け取った時は、その場で封を開けて食べるとよい。想像以上に喜んでもらえる。後日に「美味しかったですよ」とお礼を述べた場合とは比べものにならない。

これは「偽善の医療」(里見清一 著)p211にも述べられている。

回診のときに、時々患者さん(中高年の女性が多い)から、「先生もどうですか」などとお菓子や果物を勧められることがある。その時には、決して断ってはならず、礼をいってもらった上で、その場で食べなければならない。ここが重要である。(中略)大袈裟に言えば、これは私の会得した、臨床医の極意の一つだと、本気で思っている。私はこれを心理学の用語で説明することはできないが、しかし、これが「極意」であることに欠片も疑いをもっていない。

「貰ったその場で封を開けて食べるなど、品性なき行為である」などと正論を考えず、是非とも実行していただきたい。
 
posted by ぎゅんた at 22:21| Comment(3) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年02月02日

アーマーバイト マウスウェア

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14才の野球少年に作ったアーマーバイト。第二の松井秀喜に育っておくれ

 このアーマーバイト、基本的にはスポーツをする人が装着すべきアイテムという位置づけです。人間、緊張した場面や力を込める場面(インパクトの瞬間)には上下の歯を強くかみ合わせるきらいがあります。重いものを持ち上げる時、くいしばると力を発揮できそうな感じがするには、誰しもが考えるでしょう。しかし、上下の歯を強くかみ合わせることは、皮肉にも、身体パフォーマンス向上には結びついてはいないようです。そればかりか、歯や顎関節へのダメージといったマイナスの影響がバカにならない。食いしばりは顎関節とそれに関わる筋肉の余計な緊張でしかないと考えられます。いい仕事をする職人や名人は、余計な力を抜いて自然体で結果を出します。スポーツといえど同じで、本来の身体パフォーマンスを発揮させるのであれば、余計な力はない方がいい。アーマーバイトの狙いはここにあります。

 製作はオーダーメイドで、上下歯列の模型とバイトをADIテクノロジーセンターに送ると作ってくれます。どのように製作しているのか不明。バイト、といっても、中心咬合時のシリコンバイトでOKなので、フェイスボウトランスファーやGoA、チェックバイトを用いて咬合器にマウントしているわけではない。出来上がってきたアーマーバイトを患者さんの歯列に試適して、フィッティング良好で顎位が安定していればそれで終わり。たとえ、どう見ても左右均等に接触していなくても、調整は不要だという(サポセンに訊いた)。自分用に作ったアーマーバイトが、どうも装着時に不安定で気になったので、適当に咬合調整で左右均等にしてみたところ、装着感が明らかに向上したので、サポセンは「咬合調整不要」といっても、頭から信じ込むことができない。

 …ところでこのアーマーバイト、納期が4週間もかかります。舐めてんのかってレベル。値段はさておき、納期を聞いて辞める人が少なくない。もうちょっと顧客のことを考えて欲しいものです。

posted by ぎゅんた at 19:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 根治以外の臨床 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする