そしてX-ray写真上で、歯髄に近接ないし接するう蝕病巣が存在する。
例えば、こんな写真の右上5。この歯がズキズキ痛いです。そして、軽度の打診痛を認める。あ、生PZしたFMCの二次カリからの歯髄炎やな、と貴方はほとんど脊髄反射のノリで診断を下すハズだ(隣在歯4のperはひとまず主訴の部位と違うのでおいておいて)。
よーく写真を見ると、根管がいじられた形跡があるような不穏さがあるものの、まずやらねばならないことは除冠して根管にアクセスすることだ。浸麻して、除冠へ。きっと、冠の下はう蝕だろうと想像しながら、冠を撤去。するとそこには、セメント築造されたような支台歯が。生PZにしてはおかしくありませんかね。ZOEとおぼしきセメントを雑用エキスカでこじれば、う蝕まみれなもんだからゴボッと取れる。はたして、汚染されたセメントと軟化象牙質で満たされたような髄腔が現れた。変色した綿のような異物があるので、その端っこをピンセットで引っ張れば、汚染された綿栓が現れる。排膿や出血はなかった。前医は、綿栓根充して支台築造して、FMCを合着していた訳だ。抜髄と思いきや、感染根管治療になってしまった。誤診だ!そして綿栓根充に出会うのは久しぶりだ!
ここからは、初回時の感染根管治療で気をつけておきたいポイントを遵守して慎重に攻略を進めねばならぬ。下手をすると著しい術後疼痛をきたし、患者さんに苦痛を与えるばかりでなく信頼関係がスポイルされるからである。
今回の場合、自発痛があったことから、おおまかに考えられることは
1.残髄炎
2.根尖歯周組織の急性炎症
であろう。そして、その主原因は綿栓根充ではなく、う蝕によるコロナルリーケージにある。
根尖歯周組織に対して根管を無毒的にして生体の治癒力を発揮させる方向にもっていかねばならぬ。そのためには、根管内の感染性有機物の徹底除去が原則である。
攻略せんとする根管を前にすると、とかくファイルを突っ込みたくて堪らぬ気持ちになるものだが、その前に済ませねばならないポイントがある。ファイルで根管の攻略に入る前に、根管口から歯冠側の軟化象牙質を徹底的に除去するのである。これが不十分だと、根管内は常にリーケージに晒されるがままになってしまうし、細菌供給キャンプを根管口周囲に前線配置しているようなものだ。軟化象牙質はスプーンエキスカやラウンドバーを用いてゴリゴリゴッソリ徐々し、綺麗な象牙質に囲まれた根管口を確保しなくてはならない。この軟化象牙質除去の時点で、患歯保存の可否も決まってくる。健全歯質が多く残っている方が望ましいのはいうまでもない。苦慮するのが、軟化象牙質除去後に患歯が縁下残根に至ったケースで、この場合、抜歯するかMTMか外科的挺出をするかを検討する必要が出てくる。
軟化象牙質の除去が終わったら、いよいよ根管内部へと駒を進めていくことになる。ここでも、まだファイルを突っ込むことには慎重であった方が良い。ゲイツバーや、クラウンダウン用の号数とテーパーの大きいNiTiファイルでコロナルフレアを形成する要領で、まだ触れられる範囲の感染性有機物の除去を狙うのである。届く範囲での根管洗浄も欠かしてはならない。
根管をネゴシエーションすれば、必ず、根尖歯周組織に根管内の感染性有機物を押し出す。この時に押し出した感染性有機物が多ければ、当然、フレアアップや大きな術後疼痛につながる。ネゴシエーションの前に、できる限り根管内の感染性有機物を除去しておくことがポイントといえる。
そんなわけで、冒頭写真の患歯は、綿栓を除去後にまず徹底的に軟化象牙質の除去を行った。結果、歯冠部は殆ど失われ、ペラペラな歯質が残るだけになったものの、縁下残根とまでは至らず安堵。髄空〜根管口付近の軟化象牙質も追求・除去していくと、頬舌方向に細長い瓢箪型の跡が現れた。ファイルで根管口の存在を探ると、狭窄で分かりづらいが、2根管であることを確認できた(まだネゴシエーションはしない)。
ゲイツバー#2で根管口直下の拡大と機械的清掃を行い、30Gの洗浄針が入るところまで挿入して水で洗い流す。ネゴシエーションの前に「さわれる範囲の徹底清掃」を行うことで術後疼痛を抑えることができるので、時間をかけてもかけすぎることはない。このステップをすっ飛ばしてファイルを穿通したところで、治癒には結びつかない(それどころか、大きな術後疼痛が出たり、臨床症状が消えないままになる)。ファイルを穿通しさえすれば臨床症状が即座に消失したり、根尖を治癒に導けるほど感染根管治療は甘くない。抜髄より遥かに難しい治療なのだ(保険点数が抜髄よりの低いのは不可解)。