2015年04月30日

パフってハニー

 根充用シーラーをAHプラスからMTAフィラペックスへ移行しようかなと考えている今日この頃だが、MTAフィラペックスを用いると確認デンタルでパフを得にくい気がしている。

 パフとは聞きなれない言葉かもしれない。小林千尋 先生の名著「楽しくわかるクリニカルエンドドントロジー」を紐解くと、

垂直加圧充填で根尖狭窄部付近を緊密に充填しようとすると(根尖狭窄部付近が適切に加圧されていると)、少量のガッタパーチャあるいはシーラーは必ず根尖孔外に溢出する。これをパフ(puff)という。少量のパフの存在は、@根尖狭窄部付近の根管に削片が詰められてなく、根管のpatency(穿通性)が確保されているという証拠であり、A適切に加圧されている(根尖狭窄部付近に死腔が存在しない)ことの証拠であるので、少量のパフが存在するほうが、垂直加圧充填では正しく根管充填されたと評価される。

との記載がある(P.190)。垂直加圧充填の確認デンタル写真で馴染み深い、あの根尖部のキノコみたいな不透過像がパフである。

 根尖部の解剖学的形態にもよるし、垂直加圧充填で必ずしも生じる存在ではないようだ。そして、パフがある=優れた根充と断ずるのは乱暴だ。根充で大切なのは根尖部の封鎖にあり、根管内と根尖歯周組織の交通を遮断することである。それこそコルク栓でギュッと詰めるような根充を実現したいところ。それが実現できる根充法であればパフが無くてもよいからである。

 しかし根尖部に適切な圧が加わったかどうかをエックス線写真上で判定するのは難しい。根尖ギリギリまでガッタパーチャが充填されていると、見かけ上、緊密な根管充填がなされたように見えるだけで、根尖部への適切な圧が加わったことを意味しているとはいえまい。

 とはいえ、確認デンタルにパフが写ると上手な根充ができたようでどこか気持ち良いのは事実である。実際に、そう感じておられる先生方も多いのではないか。


 MTAフィラペックスで根充するようになって、どうもパフが得にくいと実感するようになってきたので、シーラーをAHプラスに戻してみることにした。ペーパーポイントとNTコンデンサーでシーラーを根管内に塗布したあと、オブチュレーションガッタソフトをNTコンデンサーで充填している(Thermomechanical Compaction)。

結果
IntraOral_20150425142850.jpg

 ペーパーポイントにシーラーを取るとき、AHプラスは「そのまま」の状態で取れるし、稠度も高く扱いやすい。比べて、MTAフィラペックスは稠度が低く垂れやすい。加えて、ペーパーポイントに吸収されるためか、塗布が上手くいかない。私の気のせいではないと思う。ペーパーポイントで塗布するのではなく、マスターポイントを用いて塗布するか、NTコンデンサーやレンツロなどのコンパクターでシーラーを根管内に塗布すべきなのか。根管模型や抜去歯牙でシーラーの動態を確認せねばならないところだ。

 ひとまずMTAフィラペックスは、マスターコーンに塗布してのCWCT(Continuous Wave Compaction Technique)や側方加圧充填に使いやすい設計のシーラーと言えるのではないだろうか。
 
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2015年04月27日

コイルスプリングで押しちゃうMTM

 MTMは小規模な矯正を指す言葉だが、矯正、と聞くとフツーの臨床医は身構える(よね?)。矯正歯科とその仕事は、どうも一般歯科よりも高度というか別次元の分野に感じてならない。学生時代から、矯正歯科は雲の上みたいな存在だった。矯正に行ったら、矯正に首ったけになる未来しか見えなかったからだろう。実際に、矯正専門医は矯正の仕事に首ったけであるのが常である。私の姉が、そうだ。

 そんなこんだで、一般開業医は矯正となると専門医に紹介するか、簡単な症例なら自分でこなすかのタイプに分かれる。目下、私は前者に近い後者になりたいと考えている。全く歯を動かせない歯科医でいるわけにはいかない。

 様々な口腔内に接するうち、挺出とアップライトの高い必要性に気づかされるの。著しい縁下カリエスでコアを建てることに不安をおぼえる前歯・犬歯に遭遇することはしばしばで、歯軸の傾斜不良ブリッジなんて山ほどある(特に第一大臼歯欠損長期放置による第二大臼歯の近心傾斜)。

 意図的再殖による挺出や歯軸を是正する道もあるが、非外科的手法が取れるならそちらの道をまず選択するべきであることは自明である。そしてまた、GPは治療に対する「引き出し」を多く有するべきである(使い物にならない引き出しは壊れているが、それは別の話)。


 つい先日。Brの支台歯の傾斜不良のケースに遭遇した。アップライトして補綴すべし!というやつである。顔見知りの近所のおっちゃんなので、アップライトの必要性とその方法について説明したところ快諾が得られた。

 典型的なブラケットとワイヤーによる手法ではなく、TECとコイルスプリングを利用した方法を選択。アップライトの初ケースにしては簡単で、というか手持ちの技量と材料ではこれぐらいしかできない。知り合いの上、ダメもと初体験であることは了承済みなので、いい意味で緊張せずに適応できた。

 7」はどうみても根治が必要だが、「どうせあと数年で死ぬしそのままでええよ」と本人。どうみても死にそうにない矍鑠さであるし根治すべきだが、TECを利用したMTMですから問題が生じればすぐに根治に踏み切れる。

Camera_20150422101724.jpg

 こんな感じの酷い日曜大工的TECにコイルスプリングを組み合わせて仮着してみる。アップライトが成功したら対合歯と干渉し始めるのでクリアランスをとっておく。

 最初に仮着した時はスプリングの圧縮が強すぎてすぐに脱離してしまったので、スプリングを切断して圧縮力を弱めて再仮着。それから10日後の写真がこれ。

DSC00610.JPG

 凄いぞ本当に動くんだ!


 あんまり動かすのも、なにぶん加減が分からず怖いし、おっちゃんも喜んでくれたので、コイルスプリングを抜いてリテーナーにして仮着。しばらく使用してもらって、問題なければBr補綴に移ることにしよう。
 
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2015年04月23日

おっさんは母校の中学校に歯科検診に

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ご馳走になっておいてなんですが、この献立で牛乳はミスマッチすぎ...

思えば、歯科医師になりたての頃はよく歯科検診のアルバイトに出かけていたものです。

学校歯科検診は学校歯科医(開業医)のお仕事のひとつですが、生徒数が多いと一日で終わるには肉体疲労の面で困難なのです。一日で終わらないのなら、数を増やして一日で終わらせる方が楽だし、学校側が喜ぶ事情もあります。結果、私のような雑魚キャラでも重宝されたのでした。バイト代を出すにせよ、二人掛かりなら午前で終わらせられるからです。

研修医あがりの若い先生方は、歯科検診に駆り出される機会が多いかもしれません。私の初歯科検診は、小学校でした。混合歯列期なので難易度が高そうだなとビクビクしていました(前日は緊張して寝付けなかった)が、案外にこなすことができました。ちょっとした成功体験と言えるかもしれません。これが私を大きく勇気づけてくれたのは間違いありません。以降は検診バイトとあればできる限り参加しました。半日の拘束で、少なくないお小遣いがもらえる実りのいいバイトでしたから、本当にありがたかった。しかし、不思議と参加したがる先生は少ないようでした。私は日程さえ都合がつけばどこでも出かけていきました。そこで知り合った先生方のことは今でも鮮明に覚えています。色々な意味で個性豊かな先生だらけでしたが、私には、そうした出会いがとにかく新鮮で嬉しかったのです。

ところで、最近の子どもたちは虫歯(実質欠損)が少ないですね。反面、Coと口臭と歯肉炎、叢生が目立っています。顎関節の不調を訴える子も、また少なからず。

「虫歯の洪水」時代が酷すぎただけにしろ、やはり子どもたちには虫歯ができるものです。誰もが、健康で、規則正しく良質な食事を摂り、悪習癖を持たないはずがないからです。間食を摂り過ぎたり、口呼吸だったり、慢性的な睡眠不足であったり、姿勢が悪かったり。究極的には歯磨きだけで虫歯も歯周病も予防できると思いますが、人は歯磨きにのみ生きているにあらずです。

流れ作業的な検診では、個別に指導することなどできやしません。なので、検診後の保健教諭と校長先生とのディスカッションは貴重な時間です。子どもたちが勉学に励み真っ直ぐに成長して行くのを支えるうえで、歯科には確かな役割があるのです。



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posted by ぎゅんた at 20:04| Comment(0) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年04月17日

馥郁たるその香の正体は口臭なり

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口臭の原因であるVSC(Volatile Sulfide Compounds:揮発性硫黄化合物)の存在下で、化学的反応で芳香が生じる技術はないものか。そう考えて、大学に在籍していた頃に某歯科材料メーカーの技術者に頼んだことがある。「たいへん興味深いご意見をありがとうございます。(ウチとしては)できない、とは言えませんので、お待ちいただけると嬉しいです」とのことであった。そして5年以上経った。

臭いの科学について、私は明るくない。用を足す場所の、悪臭をマスキングするスプレー商品が売られているのをみると、歯科〜口腔内にも応用できないものかと、いつも思う。臭いの成分を分解したり、嗅覚を騙すなり、別の匂いに変換したり。

口臭の原因となるVSCの存在下で、悪くない匂い(大多数の人が、嗅覚で不快と感じないレベル)が出るようなマテリアルはないものか。少なくとも、激Pで悪臭培養器さながらの口腔に適応すれば、いい匂いが漂うようになってくれればと思う

想像するとかなりシュールな光景だが、これは本人のみならず本人以外も喜ぶ結果にはならないか。


メリットは大きく三つ考えられる。

まず、口臭対策もエチケットのひとつと認知されつつある現代社会で、インスタントであろうと、口臭をなくすことを望む人はたくさんいるからである。

次に、歯科医師や歯科衛生士が治療する際に、口臭がない方が集中して診療する上でありがたいこと。また、病院・介護施設の独特の臭いの正体のひとつは口臭であるようだが、それの軽減が期待できることである。

最後に、いい匂いがたくさん出れば出るほど、歯周病治療の必要性を当人に知らせてくれるユニークさである。

デメリットはVSCの関与しない臭いには無効となることだ。

だれか作ってくれんかな。



※不快な臭いの軽減がまずあるだけで、その本体は歯周病治療にある。歯科医師過剰といわれながらも、現状は潜在的な患者だらけであるとも言われる。いよいよ手遅かと観念して来院されても、多くは、その患者さんが望む治療成果は得られない。なにより、医療費がかかる。まず自分の口のなかに関心をもち、その健康性を獲得、維持しようと願う人が増えることを祈るばかりだ。そうでないと、誰だって、歯科医院に足を運びはしないだろう。口臭ひとつにしても、歯科は市販のガムやミントタブレットに負けているのが現状だ。歯科は国民から頼りにされていないのだろうなと寂しく思うのである。

posted by ぎゅんた at 21:01| Comment(0) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年04月14日

歯科通販会社の人とお話をする機会

 歯科医師なら、だれでも歯科用品通販会社を利用しているものであります。通販ですから、出入りのディーラーさんと異なり、顔の見える相手との取引ではありません。その代わり、相当に安く購入できる場面が与えられている面がメリットです。
 
 そんな通販会社、まったく利用しない先生もいれば、消耗品に限って利用する先生も、とにかく値段優先で最も安いところに注文をかける先生もおられまして、その利用形態は様々ありましょう。私は、顔の見える相手から購入したい寂しがりやタイプ(それと、長年の付き合い)なので消耗品を除けば、殆どをディーラーさんから購入しています。案外に値引いてくれるので、場合によっては通販よりも安く購入できます。総じて、気持ちのよい取引で考えればディーラーさんの方が上です。ただしこれは、今回の記事の論旨に絡みますが、担当の方の人柄によるところが大きい。この人から買いたいと思えなければ、気持ちがノらないからです。

 歯科通販会社のなかの大手に、FEED株式会社があります。本社は神奈川県横浜市なのですが、なんとこんなド田舎北陸の一地方にある当院に挨拶にこられました。現場の先生の声を聞きたい、意見をラインナップに反映させたい、より身近な業者になりたい、など。いってみれば、今後のFEEDは現場の声をエフェクティブに反映させる会社になりますよという姿勢の現れのようです。挨拶がてら…とのことでしたが、担当者の方が実に魅力的でつい話し込んでしまいました。お昼ご飯を摂る時間がなくなってしまったようで恐縮です。

 この時も自分勝手な意見を担当者の方にアレコレぶつけたのですが、その場では口にしづらいことや後出しジャンケン的意見もあるわけでして、僭越ながらこの場でそれを記述してみようと考えた次第。


・FEEDに関して、一般歯科医はどう考えているか?
 「高い」イメージが混在しているのでは。何と比べて値段が高いのかといえば、Ciメディカルに他なりません。

 歯科医同士が、通販会社について俎上に載せることはあまりないと思います。あっても、「最近、購入した〜が良かったよ」とか「〜だと安く買える」とか、とかく製品ないし値段ありきです。利用した会社に対する意見が挙がることは稀です。これが、海外の会社を利用した時は入金から商品到着まで一抹の不安がつきまとう冒険の側面がありますから、商品が到着するだけで「信頼できる会社」認定になったりする。結局のところ、国内の通販会社のサービスの質が高いことが原因で、ユーザーが会社に関心を抱く意識が薄れている。悪い意味で慣れてしまっているのです。結果、その高いサービスを提供している割に、会社はユーザーから感謝もされなければ愛着をもたれることも乏しくなっている。根本には、歯科医院の台所事情の苦しさがあることがでしょうが…

 FEEDがシェアの拡大を目論むなら、Ciを圧倒する低価格を実現することが特効薬になるでしょう。しかし、低価格実現の末に社員への給料の削減やサービス体制の劣化があっても、あるまじきことです。私はコンサルのコも知らないので無責任発言を続けますが、値段でかなわないなら、扱う製品の品質や独自製品をはじめとした品揃えで差別化を図ることになるでしょう。サービス体制の強化というのでしょうか。


・先生方がFEEDに望むことは?どのような製品を扱って欲しいか?
 もう少し安く…と言いたいですが、それも度を越せば消費者側の一方的な我儘です。適正な価格であれば(ボッタクリでなければ)文句は出ません。強いて言うなら、信頼感が形成されれば愛着に変わり、「ご愛顧」にクラスアップします。昔ながらの商売ライクな考えですが、私自身は、顔の見える相手からモノを買いたいと考えています。金銭のやり取りがある以上、そこには一種の契約があるわけですから、「カネ払ってモノ買った。終わり」は淋しく感じる。面倒くさい人間ですね。
こうした理由から、私は出入りのディーラーさんを通じて購入することが多いのです。紙コップや紙エプロン、グローブなどの消耗品は別ですけれども。FEEDに取り扱って欲しい材料があるとすれば、「One patient-One file」を気楽に行えるほど安い、使い捨て前提のニッケルチタンファイルですかね。

 挨拶にこられた担当者の方とお話していてハッとさせられたのは、歯科業界に属していながらにして、歯科の専門知識に長けた人材は少ないのではないかということです。デンタルショー等で、企業ブースの担当者と製品について質問や談義することがあると思いますが、こちらの質問が的外れで素っ頓狂なものだったためか、相手が不勉強なためなのか、会話が成立しない場面にあわないでしょうか。逆に専門知識や業界知識に長けている人物だと、こちらの質問の意図も汲み取ってくれるし、裏技的な使い方や、(真偽はともかく)業界裏話を耳打ちしてくれたり、感心することしきりであったりする。このダイナミックなやりとりは、デンタルショーに足を運ばせる魅力のひとつではないでしょうか。

 ふと私は、当院に出入りされているディーラーさんが誠実で勉強熱心であることを思い出しました。製品カタログの説明に必要な知識のみならず、「売り」にしている特徴のバックグラウンドにある専門知識まで知っている。そして、分からない点は素直に認め調べ直してくる。質問してくる。私も、分からないことを彼に質問したりする。診療の合間に、こうした人物とお話ができるのは、とかく閉鎖的な歯科医院という空間における清涼剤のようなものです。私が話好きなことに加えて患者がいなくてヒマという事情もありますが、それを差し引いても開業医は案外に孤独なものところがあるもので、屈託無くお話のできる相手を求めている先生は多いのではないでしょうか。純粋に話好きの先生もいれば、自身の有する知識を披露できる相手を求めている先生も、ただ愚痴をこぼせる相手を求めている先生も様々におられるはずです。無論、なんら会話を望まない先生もおられることでしょう。


 ひとまず、私は今回の件でFEED株式会社に対して好感を抱きました。ありがたいことに知見も得られました。全国の歯科医院への挨拶まわりにより、現場の歯科医師の声を集め、それを反映し、より魅力と特色ある歯科通販会社となることを祈っております。
 
posted by ぎゅんた at 06:12| Comment(0) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする