shinshin先生よりお寄せいただいたコメントから、今一度、自分の抜髄手技を見直すことにした。昔に(書いた記事)比べて、使用する器具と材料などに変化があるからである。EMRはモリタのルートZXを使用している。
1)天蓋を除去し、髄室開拡
冠部歯髄の除去を含む。まだネゴシエーションはしない。
2)根管口明示とコロナルフレアー形成
ゲーツグリデンドリルを使用する場合は #2→#3→#4→#3→#2 の順で拡大。高齢者の大臼歯の抜髄のように狭窄が強いと#2すら入らないこともあるがそれはそれ。手っ取り早く35/.08などのロータリーファイルでフレアー形成することもある。まだネゴシエーションはしない。
3)ネゴシエーションへ
X線写真上で通常の太さの根管であれば、#10Kファイル(マニー)を、細めの根管であれば#08Kファイル(マニー)を選択する。根尖部に湾曲があっても、まだプレカーブはつけない。ファイル先端にRc-Prepを少量とり、EMRクリップで把持しながら根管に挿入して、根尖へと向かわせる。この時、回転させないことを心がける。
穿通する直前の位置でファイルを止めて、コスモデンタルサージ「歯髄焼灼」で一回、通電させる。通電させたあと、そのまま穿通する。これが理想パターン。実際には根管がキツくて、根尖部までファイルを到達させることが困難なこともある。ファイルを挿入してすぐにキツめの根管だと分かったら、無理して攻めず、直ぐに引き抜いて#08Kに切り替えてリトライする。それで根尖まで到達するなら、穿通させる直前の位置でコスモデンタルサージ「歯髄焼灼」で一回、通電させてから穿通する。
キツめでそのまま直に根尖部までファイルが進まない場合は、ファイルを押し引きの動きで到達させる。重要なのは、決して回転させないことである。
X線写真上で根尖部根管に強い湾曲が見られる場合は、ファイルがストレートだと穿通できないことがあるので、その場合はプレカーブを付与する。穿通は、ファイルの押し引きで達成させる。押し引きで頑張って、どうしても駄目そうであったときに初めて、回転させてファイルを根尖方向へ進ませる。
穿通できたら、ファイルをすぐに引き抜かず、そのまま1mmの範囲でラスピング運動させて「通路」の確保を確実にする。このとき、ファイルが根管内⇆根尖外と移動するのでEMRがピーピー鳴る。ファイルを引き抜いたら、ファイルの曲がりを確認する。緩いカーブ程度ならファイルに「印象」されるからである。
4)更に#10Hファイル(THOMAS)でもラスピング運動
#10から#15に移行する際のファイル先端径の増加率は50%もある。#10のKファイルが簡単に穿通しても、#15のKファイルだと途端に抵抗が大きくなって根尖に到達させ辛いことが多いことがしばしばある。これは、号数を上げる前のちょっとした拡大を狙った行為である。
5)#15Kファイルを根尖まで到達させる
すんなり穿通したらそれでよし。穿通しないなら、EMR0.5の位置でターンアンドプル。次の号数へ移る前に#10Kファイルでリカピチュレーションを行う。
6)#20Kファイル、#25KファイルをEMR0.5の位置でターンアンドプル
ファイルに多少の抵抗があっても構わないが、あまりに抵抗が強い場合はファイルのピッチに「延び」が観察できるのですぐに分かる。根尖に湾曲があればファイル先端にカーブが印象されてくる。キツいなら無理せず前の号数に戻りファイリング。湾曲があるなら、その方向を確認して、極力、回転運動させないように努める。リカピチュレーションは忘れずに行う。
7)NiTiによる機械的拡大形成
#25KファイルでEMR0.5の位置を作業長にして、少なくともそれを越えないように一度、プロテーパーネクストX1を到達させる。その後、リカピチュレーション。これだけでも手用ファイルの操作が格段に楽になる。
8)アペックスの仕上げへ
根管内に歯髄残渣がないことをファイルの感触で判断しつつ、#30以降でアピカルシートを作っていく。#30以降はEMR1.0の位置を中心に設定する。根尖部の根管洗浄を考慮すると、アピカルは最低でも#35の拡大が必要なので、アピカルシートは最低でも#35に仕上げたいところ。抜髄処置であれば、根未完成歯や上顎前歯部、大臼歯口蓋根でもなければ#35までの拡大で充分だと思われる。リカピチュレーションする。
9)根管洗浄、仮封
経過をおいて次回に根充できるように仕上げておく。EDTAとヒポクロのゴールデンコンビがベターな選択。EDTA洗浄、キャナルクリーナーを少量つけたブローチ綿栓で根管内を拭く(時計回し)。再度、EDTA洗浄。根貼にはキャナルクリーナーを用いることが殆どである。根管口の上あたりに適当に置いておく。厚み3mmを確保できる4壁性窩洞なら水硬性セメントで仮封。封鎖に不安を覚えるならテンポラリセメントソフト。一週間以上の期間があくならベースセメント。
(解説)
根管口を発見するとすぐにファイルを通したくなるが、抜髄根管といえど、少なくとも歯髄には細菌感染があるものと考えなくてはならない。ある程度、歯髄を機械的に除去してからネゴシエーションしないと、感染を非感染状態の根尖歯周組織に送り込む行為になってしまう。冠部に比べ感染の程度が弱い(傾向にある)根尖部歯髄であっても感染していると考えるべきで、これをギリギリまで除去してから穿通させるべきであろう。私はコスモデンタルサージを所有しているから、穿通直前に通電することで根尖部歯髄を熱で殺菌してから穿通している。と同時に、通電によりファイルで触れることのできない側枝の歯髄を熱変性を狙っている。
ファイルが根尖から穿通しているのであれば、回転運動を付与しなければ特に根管からの逸脱は起こらない(強い湾曲があれば外側を削るが)。この操作により根尖歯周組織に機械的刺激と損傷がもたらされるのは事実だが、せいぜい1mm程度のオーバーであれば大きな術後疼痛にはならない。根管内の感染を根尖歯周組織に送り込んだ方が遥かに強い痛みになるはずだ。
ネゴシエーション時にファイルを回転させないことに拘泥しているのは、尊敬する東海林芳郎先生のエンドセミナーでの教えを遵守していることもあるし、ネゴシエーション前の時点でファイルを回転させまくると、本来の根管の走行を破壊することが原因でネゴシエーションとその後のファイル操作を神経質にすると考えているからである。#10および#08のKファイルの押し引き操作でどうしても穿通できない場合に限って初めて、ファイルを回転させてネゴシエーションを狙うべきである。
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